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広島・長崎両市長、核兵器なき世界を訴える

【ベルリン/東京IPS=ラメシュ・ジャウラ】

日本の都市、広島と長崎に対して、8月6日と9日になされた残酷で軍事的には合理性に欠ける原爆投下から70年、「核兵器なき世界」への道のりは依然として遠いままだ。

平和祈念式典で広島・長崎の両市長は、被爆者の経験に耳を傾け、核兵器の完全廃絶の必要性について世界的に意識を高めていくよう熱心に訴えた。

1945年の原爆投下で両市は一瞬にして廃墟と化し20万以上の人々が、放射線や爆風、熱線により亡くなった。しかも戦争終結から今日に至るまでに、さらに40万以上の人々が原爆による後遺症のために命を落としている。

今年3月31日の時点で、日本政府は18万3519人を被爆者として認定している。その大部分が日本居住者である。日本の被爆者援護法は、被爆者を、「(原爆投下時に)爆心地から数キロ以内にいた人々、原爆投下から2週間以内に2キロ以内に入った人々、降下した放射性物質に晒された人々、これらいずれかのカテゴリーに入る妊婦の子として産まれた人々」と定義している。

"Hiroshima Aftermath - cropped Version" by U.S. Navy Public Affairs Resources Website
“Hiroshima Aftermath – cropped Version” by U.S. Navy Public Affairs Resources Website

広島・長崎の原爆記念日に関連して配信された報道の中には、原爆投下は軍事的な合理性に欠いていたとするものも見られた。

ガー・アルベロビッツ(メリーランド大学ライオネル・R・バウマン政治経済学元教授)は『ネイション』誌に寄稿した記事の中で、米国は「広島への原爆投下以前に、既に戦争に勝っていた。そして、原爆を投下した当時の将軍たちもそのことは知っていた」と述べている。

"Gar Alperovitz" by garalperovitz.com - Licensed under CC BY-SA 4.0 via Commons
“Gar Alperovitz” by garalperovitz.com – Licensed under CC BY-SA 4.0 via Commons

アルペロビッツ元教授は、ハリー・トルーマン政権で参謀長をつとめたウィリアム・リーヒー提督の1950年の回顧録『私はそこにいた』を引用している。「広島と長崎におけるこの野蛮な兵器の使用は、日本に対する我々の戦争において何ら実質的な貢献をなさなかった。日本はすでに敗れており、降伏寸前だった……。」

1953年から61年まで米国大統領職にあったドワイト・アイゼンハワー氏も同じ見解であった。アイゼンハワー氏は、第二次大戦中は五つ星の将軍で欧州連合国軍司令官を勤めた。

アイゼンハワー氏は、ヘンリー・スティムソン陸軍長官から原爆投下の決断について聞かされた時、「日本はすでに戦争に負けており、原爆を落とすことは全く不必要だという信念を基礎にして、私自身の不安を伝えた」と回顧録に書いている。

第21爆撃司令部の司令官で有名なタカ派のカーティス・ルメイ将軍ですら、原爆投下の翌月(9月20日)の記者会見で、「(対日)戦争はソ連の参戦がなくても、原爆がなくても、二週間以内に終わっていたでしょう。原爆投下は、戦争終結とはなんら関係ありません。」と述べたとアルペロビッツ氏は書いている。

“JROppenheimer-LosAlamos” by Department of Energy, Office of Public Affairs – Taken from a Los Alamos publication (Los Alamos: Beginning of an era, 1943-1945, Los Alamos Scientific Laboratory, 1986.).. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons-

「原爆の父」として知られるロバート・オッペンハイマー博士は、「世界の人々が手を取り合わなければ、我々は絶滅する」と、政治家に対してこの恐るべき原子力の国際的な管理を呼びかける書簡の中で述べている。

オッペンハイマーの呼びかけはまだ実現されていない。

広島の松井一実市長は、8月6日の平和宣言でこう述べている。「世界には、いまだに1万5千発を超える核兵器が存在し、核保有国等の為政者は、自国中心的な考えに陥ったまま、核による威嚇にこだわる言動を繰り返しています。」

「また、核戦争や核爆発に至りかねなかった数多くの事件や事故が明らかになり、テロリストによる使用も懸念されています。」

核兵器が存在する限り、いつ誰が被爆者になるか分からない、と松井市長は警告する。ひとたび核爆発が起こった場合、被害は国境を越え無差別に広がる。「世界中の皆さん、被爆者の言葉とヒロシマの心をしっかり受け止め、自らの問題として真剣に考えてください。」と松井市長は訴えた。

加盟都市が6700を超えた平和首長会議の会長でもある松井市長は、「2020年までの核兵器廃絶と核兵器禁止条約の交渉開始に向けた世界的な流れを加速させるために、強い決意を持って全力で取り組みます。」と誓った。

「これは、核兵器廃絶への第一歩です。その次のステップは、そうして得られる信頼を基礎にした、武力に依存しない幅広い安全保障の仕組みを創り出していくことです。」「その実現に忍耐強く取り組むことが重要であり、日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を世界へ広めることが求められます。」

「日本政府には、核保有国と非核保有国の橋渡し役として、議論の開始を主導するよう期待するとともに、広島を議論と発信の場とすることを提案しています。」と松井市長は主張した。

8月9日の長崎平和宣言では、田上富久市長が、日本の政府と国会に対して「未来を見据え、“核の傘”から“非核の傘”へ転換」することを求めた。

日本は核兵器を保有していないが、韓国やドイツ、NATO加盟国のほとんどと同じく、米国の核の傘によって守られている。

田上市長は日本政府に対して、核兵器に依存しない安全保障政策を追求するよう訴えた。「米国、日本、韓国、中国など多くの国の研究者が提案しているように、北東アジア非核兵器地帯の設立によって、それは可能です。」

田上市長はまた、国会が「国の安全保障のあり方を決める法案の審議」を行っていることに言及し、「70年前に心に刻んだ誓いが、日本国憲法の平和の理念が、いま揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっています。政府と国会には、この不安と懸念の声に耳を傾け、英知を結集し、慎重で真摯な審議を行うことを求めます。」と語った。

長崎平和宣言は、日本国憲法における平和の理念は、こうした辛く厳しい経験と戦争の反省のなかから生まれた、としている。「戦後、我が国は平和国家としての道を歩んできました。長崎にとっても、日本にとっても、戦争をしないという平和の理念は永久に変えてはならない原点です。」

田上市長は、今年初めに国連で開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議が、最終文書を採択しないまま閉幕したことに遺憾の意を示す一方、「最終文書案には、核兵器を禁止しようとする国々の努力により、核軍縮について一歩踏み込んだ内容も盛り込むことができました。」と述べた。

田上市長は、今回の再検討会議を「決して無駄にしないでください」とNPT加盟国に訴え、「国連総会などあらゆる機会に、核兵器禁止条約など法的枠組みを議論する努力を続けてください」と述べた。

NPT再検討会議では、被爆地である長崎・広島訪問の重要性が、多くの国々に共有されていた。

こうしたことを背景に、田上市長は、「バラク・オバマ大統領、そして核保有国をはじめ各国首脳の皆さん、世界中の皆さん、70年前、原子雲の下で何があったのか、長崎や広島を訪れて確かめてください」と長崎市長は訴えた。

1945年以来、広島原爆を記念するいかなる集まりにも米国大統領が参加したことはない。ローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)が、米国の高官として8月6日の広島の式典に参列した。彼女は、核兵器は二度と使われてはならないと発言したと伝えられる。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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批判にさらされる国連のポスト2015年開発アジェンダ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

まもなく国連で採択される予定の、野心的な「ポスト2015年開発アジェンダ」が、まだ始動する前から厳しい批判にさらされている。

SDGs logo
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国連メジャーグループ」(UNMG)という名の下に集った市民団体のグローバルなネットワークが、17の「持続可能な開発目標」(SDGs)を含む開発アジェンダは「緊迫性や明確な実行戦略、説明責任に欠いている」と警告している。

UNMGの構成団体であるアムネスティ・インターナショナルのサビオ・ガルバルホ氏は、IPSの取材に対して「ポスト2015年開発アジェンダは、履行とフォローアップに関して政府に責任を取らせる明白に独立したメカニズムに欠いたままの、単なる希望的な文章になってしまっています。」と語った。

「(このままでは)国家の所有、現実、能力といった名目の下に、各加盟国は全く何もせずに済ませることが可能です。(SDGsが期限を迎える)2030年になっても現状が変わらないということがないように、各国政府に対して、人権の原則と基準に従って国の優先順位を決めるよう求めていきたいと。」とガルバルホ氏は付け加えた。

9月の国連サミットで150以上の政治指導者によって承認される予定の17の開発目標からなるSDGsは、貧困、飢餓、ジェンダー平等、持続可能な開発、完全雇用、質の高い教育、グローバル・ガバナンス、人権、気候変動、すべての人々にとっての持続可能なエネルギーといった、経済社会面での課題を幅広く網羅している。

17の開発目標のすべて、とりわけ極度の貧困と飢餓の根絶という目標は、2030年までに達成することが期待されている。

現在提示されている案では、「国家主権や各国の状況、優先事項といった、SDGsを実行するという普遍的な誓約を蔑ろにする恐れがある内容に言及されており」、強力な説明責任のメカニズムを欠いている。」とUNMGは主張している。

「とりわけ、各々の国において社会の主流から取り残された立場にいる人々の生活に影響を及ぼすような決定に関して、各加盟国が民衆の参加をどれだけ真剣に実現しようとしているのか、私たちは疑問を持っています。」

「約束をする前にそれを破るな」と題された声明では、開発アジェンダの実際の履行における資金調達(予算配分)に関連した問題でも同じようなことが言える、としている。

「各国政府がこうした誓約を遵守するよう民衆がしっかりと監視して、目標が達成され、全ての人々にとって機能するものになるようにしなければならない。」とUNMGはいう。UNMGは、ポスト2015年プロセスを監視する多くの連合・ネットワーク団体(例えば、女性や子ども及び青年、人権、労働者及び労働組合、地方自治体、ボランティア、障害者等からなる市民団体)から成り立っている。

「障害を持つ人々の会」事務局のジェイミー・グラント氏は、UNMGの構成について、「UNMGは持続可能な開発の問題に関して民衆が国連とかかわる公的なチャンネルです。」と指摘したうえで、「これら全てのグループや利害関係者、ネットワークを横断して、私たちは非常に広い意味での立場を共有してはいますが、様々な能力を持ち、様々な立場や優先順位をもつ数多くの組織が、その立場の形成に関与しています。」と語った。

100か国以上、600以上の団体を代表する「女性メジャーグループ」は、反対派からの様々な声にさらに力を与える形で、現在の開発アジェンダを非難し、その欠陥を批判している。

国際女性保健連合」の政策提言担当であるシャノン・コワルスキー氏はIPSの取材に対して、「SDGsは女性や女児に対して重要な画期になるかもしれません。」と語った。

「経済機会の増加、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスケア、リプロダクティブ・ライツの保護、教育への機会、暴力なき生など、女性たちがSDGsによって得るものは少なくありません。」「しかし、このビジョンを現実のものにするには、ジェンダー平等がこの取り組みの中心に据えられ、それが持続可能な開発の前提条件になることを認識しなくてはなりません。」とコワルスキー氏は指摘した。

「女性メジャーグループ」には、「共通の未来を求める欧州女性の会」「子どもの公正を求める会」(メキシコ)「グローバル森林連合」「女性環境計画」「女性・法・開発に関するアジア太平洋フォーラム」「女性の環境と開発」(WEDO)「女性NGOフォーラム」(キルギスタン)などが参加している。

コワルスキー氏は、最近アジスアベバで開催された「第3回開発資金国際会議」(7月13日~16日)の成果に対して失望を表明した。

「私たちはグローバル経済の不平等の根本原因と、女性・女児の生に対する影響の問題に取り組むような進歩的で公正な最終合意を望んでいました。しかし、そのような成果は得られませんでした。」と、コワルスキー氏は語った。

「私たちは、ジェンダー平等のための資金調達や、女性が無給で担っているケアや家事労働の価値に対する認識という点で、各国の間で強力な誓約がなされること期待していました。また、国家間及び各国内の制度的な不平等の原因に対処し、公正な租税対策を打ち立て、違法な資金の流れを断ち切り、最貧国に不利な国際貿易構造の不公正を正すことを各国政府に期待していました。」

「SDGsを達成するために公共の資金を増やすための新たな誓約が何らなされなかったことは残念です。」とコワルスキー氏は語った。

アムネスティ・インターナショナルのカルバルホ氏は、「開発アジェンダの進捗状況を全てのレベルで、一般民衆の参加と透明性を確保した環境で、定期的かつ全体的に見直すことなしに、誰も置き去りにすることなく真に変革的な持続可能な開発を達成することなど不可能でしょう。」と語った。

「この開発アジェンダは、国内政策を尊重する国際金融機関の必要性を認識しているが、これらの活動が人権侵害につながらないようにするところまではいっていない。」

「全ての国が誓約と義務を果たすようにするには、開発アジェンダを普遍的なものにするような方向で議論を強化しなくてはなりません。」

「これらの問題には、政府開発援助(ODA)や租税の正義の問題も含まれます。」とカルバルホ氏は語った。

他方、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継となる強力な目標を推進する世界的な市民社会キャンペーンである「2015年を超えて」は、IPSに対して出した声明の中で、「SDGsがあらゆる場所の民衆の人生に真の影響をもつには、民衆自身が目標の実行と進展状況の再検討に参加し、自分たちに関係ある意思決定に参加する能動的な主体にならなくてはならない」と語った。

「2015年を超えて」キャンペーンは、国連で現在協議されている草案で「包摂」と「参加」に焦点があてられていることを歓迎し、「各国政府に対して、SDGsが採択されしだい速やかに、約束を実行に移すよう期待する。」と述べている。

SDGsの実行にあたっては、「誰も置き去りにしない」という誓約を各国が尊重することが重要だ。

「このことはすなわち、さまざまな情報源からのデータや、民衆自身の関与を通じた定期的な査定を基礎として、全ての社会的・経済的集団、とりわけ、最も脆弱で最も周縁化された人々にとっての進展状況を追跡することを意味する。」と声明文は述べている。

さらに、実行段階が始まれば、全てのレベルにおいて、さらに高いレベルの参加と包摂が必要とされる。

「民衆がこの新しい開発アジェンダを意識し、真に持続可能な変化が起きるようにこの目標を自らのものにしなければならない。」

「2015年を超えて」キャンペーンはまた、複数のレベルにおける民衆の参加を基礎とした、オープンで透明性のあるフォローアップの枠組みに対するコミットメントを歓迎した。

「特定の時限を設定した誓約を含め、誓約事項の再検討のためにデータを生成するうえでの市民社会の役割を是認することによって、現在の草案がさらに改善されるものと信じている。」と声明文は述べている。

「私たちは、各国政府がSDGsを国を挙げて取り組む政策に変換していく必要性を強く訴えています。それはそうすることが、諸政府が、あらゆる場所の民衆に対して真の意味で責任を負うようになるための重要なステップとなるからです。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ジュネーブIPS=グスタボ・カプデヴィラ】

広島・長崎に投下された原爆を生き延びた被爆者の証言は、核廃絶を訴える世界教会協議会WCC)加盟の教会指導者らを鼓舞することになるだろう。

ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、パキスタン、韓国、米国のWCC加盟教会の指導者からなるグループが、1945年の8月6日と9日のに米国が投下した原爆で壊滅的な被害を受けた日本の二都市を巡礼する予定である。

「原爆を生き延びた世代は既に80代となっており、生存者の数が少なくなってきています。」と、世界最大級の国際基督教組織であるWCC(本部ジュネーブ)のピーター・プルーブ国際問題委員会委員長は語った。

Bishop Mary Ann Swenson

「しかしこうした被爆者こそが、実際の核攻撃を体験し核兵器の使用がもたらす人道に対する影響について語れる生き証人なのです。私たちはこの機会をとらえ、彼らの声を多くの人々に伝えていく必要があります。」とプルーブ委員長はIPSの取材に対して語った。

代表団を率いるアメリカ合同メソジスト教会のメアリー=アン・スウェンソン監督(WCC中央委員会副議長)は、「私たちが広島と長崎を訪れるのは、原爆の恐怖を決して忘れないためです。」「私たちは、70年前に史上最悪の兵器により破壊されつくした土地に集いますが、一方で未だに40カ国の政府が核軍備の撤廃を公言しながら核兵器に依存し続けていることを知っています。そのうち9ヵ国が核兵器を保有しており、他の31か国が自らの代わりに米国が核兵器を使用することを認めているのです。」と語った。

プルーブ委員長はまた、「この巡礼に参加する代表の出身国については戦略的な配慮に努めた」と指摘したうえで、「まず核保有国から、米国のような第二次世界大戦以来の歴史的な保有国と、パキスタンのような最近核を保有し核不拡散条約(NPT)に未加盟の国を選びました。さらにその他の参加者は、スウェンソン監督が挙げた31か国の中から選出しました。…いわゆる『核の傘に依存する国々』、つまり自国は核兵器を保有していないが他の核保有国、とりわけこの場合、米国の核の傘による保護に依存している国々です。」と語った。

今回の広島・長崎巡礼の目的は、こうした7か国の教会指導者が、原爆投下70周年の機会をとらえて両市へ巡礼を行い、その生存者たちに耳を傾け、地元の教会と共に祈り、この2つの都市の苦境について他の宗教者たちと考える。さらに、広島と長崎から(核兵器廃絶に向けた)「行動のための呼び掛け」を持ち帰ること、としている。

World Council of Churches

「彼らは帰国後、各々の政府とコミュニティーに対して、(広島・長崎で学んだ)核兵器の人道的影響に関するメッセージを伝え、核兵器の法的禁止の必要性を訴えていきます。」「その際彼らは、大量破壊兵器として分類される他の全ての兵器(例:生物兵器化学兵器)が法的に禁止されている一方で、核兵器のみは依然として禁止の対象になっていないという『法的な隙間』があることを指摘しなければなりません。」とプルーブ委員長は語った。

プルーブ委員長はまた、「多くの国々において、教会は、自らのコミュニティーや自国の政府に対して、このような活動を行うのに最適なネットワークです。」と語った。

米国による核攻撃により広島では死傷者数の合計が135,000人(約66,000人が死亡、69000人が負傷)におよんだ。また長崎では原爆による死傷者数は合計で64,000人(39,000人が死亡、25,000人が負傷)にのぼった。

プルーブ委員長は、今回の日本巡礼ミッション後の次のステップ(世界各地で核兵器禁止を訴える)について、「WCCの強みは、ジュネーブにある国際事務局の活発な活動もさることながら、各地の加盟教会を繋ぐ世界的なネットワークの存在です。」「WCCに加盟している教会の信者は、世界のキリスト教徒人口のほぼ4分の1にあたる約5億人で、このネットワークは120ヵ国に及びます。従って、私たちの正念場は、これら世界各地の加盟教会の指導者と教会組織が、各々の政府に対してどの程度広島・長崎巡礼のフォローアップをしていけるかにかかっています。」と語った。

「ただし加盟教会がどの程度行動できるかについては、事情は国によって様々でしょう。例えばノルウェーの教会指導者は、明らかにパキスタンの教会指導者よりも、自国の政府に対する潜在的な影響力を発揮できる機会に恵まれています。」

Peter Prove/ WCC

「世界教会協議会自体、第二次世界大戦の経験を踏まえて戦後に発足した組織です。つまり同大戦が人類にもたらした破壊と残虐行為に衝撃を受けたことが、WCCが発足する究極の動機となったのです。」「つまりWCCは、大量虐殺、ホロコースト、原爆投下、そして世界大戦と紛争一般に対するリアクションとして組織されるに至ったのです。」とプルーブ委員長は語った。

プルーブ委員長はまた、「WCCは核軍縮と核兵器の廃絶を目指して市民社会組織との協力関係を長年に亘って構築してきました。」と指摘したうえで、「しかし依然として軍縮が進展しないのは、軍縮のための国際構造が機能障害をきたしているからです。」と主張した。

プルーブ委員長は、その具体例として、主要な軍縮交渉プロセスであるNPT運用検討会議(今年4月27日から5月22日に国連本部で開催)が決裂に終わった事例を指摘した。

「核兵器を管理し廃絶するメカニズムは機能していません。なぜなら、これらのメカニズムは核兵器を保持し続けることを意図している国々の管理下に置かれていくからです。」とプルーブ委員長は語った。

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

WCCは核兵器の法的な禁止を呼び掛ける「人道の誓約」に署名した世界の過半数にあたる113ヵ国の立場を支持している。

「私たちは、これまでに、核兵器禁止を支持する国々が世界の過半数を占めることに成功しました。そして今、これらの過半数の国々が、核兵器禁止に向けたプロセスにおいて過半数の強みを生かしていくことを期待しています。」とプルーブ委員長は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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広島・長崎への原爆投下は避けられた(デイビッド・クリーガー核時代平和財団所長)

「核兵器なき世界」を希求する太平洋島嶼国

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

イラクとレバントのイスラム国(ISIL)のようなテロ組織による残虐な暴力の恐怖とともに、中東や北アフリカで政治的紛争が激化する中、ウクライナ危機は、米国及びNATO(北大西洋条約機構)同盟国と、ロシアとの間の冷戦に再び火をつけている。こうした中、核保有国と非核保有国が協力して核兵器の完全廃絶に向かうことが、絶対的に必要になっている。今日、意図的であれ事故であれ、核兵器の使用によって大惨事が起こるリスクはこれまでになく高まっているのだ。

オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼諸国は、核保有国による完全軍縮という目標に向けた唯一の拘束力ある多国間取り決めである核不拡散条約(NPT)を履行する世界的な取組みの最前線に立ってきた。しかし、今年4月27日から5月22日まで開かれた9回目のNPT運用検討会議(核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用の三本柱をもつ)は、核保有国とその核の傘に依存する一部の同盟国の見解と利害を圧倒的に反映したものとなった。

"Pacific Culture Areas" by User:Kahuroa - Outline: File:World2Hires filled mercator.svg; Map information based on Vaka Moana: Voyages of the Ancestors - the discovery and settlement of the Pacific, ed K.R. Howe, 2008, p57.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons
“Pacific Culture Areas” by User:Kahuroa – Outline: File:World2Hires filled mercator.svg; Map information based on Vaka Moana: Voyages of the Ancestors – the discovery and settlement of the Pacific, ed K.R. Howe, 2008, p57.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

2015年運用検討会議は、核保有国の軍縮への約束という点において2010年運用検討会議よりも後退したものとなったが、他方で、オーストリアが推進した「人道の誓約」への賛同集めによって非核保有国が軍縮に向けて歩みを進め、前進を示すものともなった。同誓約は、容認しがたい人道的影響をもたらす核兵器を禁止し廃絶するための新たな法的拘束力ある取り決めを求めて行動することを誓約したものであり、7月14日時点で113か国が賛同している。

「人道の誓約」には10の太平洋島嶼国が署名している。クック諸島、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ツバル、バヌアツだが、トンガとミクロネシア連邦は署名していない。1956年から96年にかけて、太平洋島嶼国は、図らずも米国・英国フランスによる核実験による被害者となってしまった。

マーシャル諸島共和国のトニー・デブルム外相は、1954年3月当時、9才だった。彼は、リキエップ環礁近くで祖父と魚を釣っている時に、「夜明け前の空を突然光線が照らしたかと思ったら、海や魚、空が赤くなり、つづいて恐ろしい衝撃波が襲ってきた」と語っている。水爆投下地から200マイルの場所での出来事であり、デブルム氏はこの運命的な日の記憶は決して忘れることができないとう。

マーシャル諸島共和国は、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道的影響に焦点を当て、核軍縮を強力に推進してきた。マーシャル諸島は、1946年から58年の間に、米国による67回の大気圏核実験のために甚大な被害を受け、放射能汚染された。そこで同国は、強制移住や死、継続的な健康被害に苦しんだ民衆の歴史を持ち出して、核保有国をハーグの国際司法裁判所の場に引きずり出す重要な訴訟を提起したのである。

"Operation Crossroads Baker Edit" by United States Department of Defense (either the U.S. Army or the U.S. Navy)derivative work: Victorrocha (talk) - Operation_Crossroads_Baker_(wide).jpg. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons
“Operation Crossroads Baker Edit” by United States Department of Defense (either the U.S. Army or the U.S. Navy)derivative work: Victorrocha (talk) – Operation_Crossroads_Baker_(wide).jpg. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

デブルム外相はIDNの取材に対して、「非核保有国が協力して、核兵器を禁止・廃絶する新条約を作るべき時です。核保有国は、法的義務があるにもかかわらず、今のところ事態を主導しようとしていないことは明らかです。むしろこうした国々は、核保有や核による脅し、潜在的には核使用によって自らの安全を確保する特別の権利がある(実際にはそのようなものはないのだが)と考えているのです。そう主張することによって、これらの国々は、全ての国家と全ての民衆の共通の安全だけではなく、自らの安全をも棄損しているのです。」と語った。

核実験と太平洋地域の軍事化に反対する太平洋全体での初期の抗議活動に加わったフィジーのバネッサ・グリフェン氏は、「太平洋では、核兵器の使用が陰に陽にどのような影響をもたらすのかを私たちは目の当たりにしてきました。だから、核兵器禁止のために非核保有国が活動するのは、唯一、まともで、人間的で、責任ある行動なのです。核保有国は、全体として、無法者であり、国際人道基準をないがしろにしているとみなされねばなりません。」

グリフェン氏は、太平洋地域の女性メディア団体である「フェミリンク・パシフィック」(FemLINKPacific)の代表を務め、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)「武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ」(GPPAC)のメンバーでもある。「太平洋島嶼国には、その歴史的な体験から核軍縮を強く訴える資格があります。国連での加盟国数も多く、核軍縮というグローバルな問題に関して、外交力を集合的かつ効果的に使うべきです。」とグリフィン氏は語った。

NPTは1995年に無期限延長された。同条約の第8条では、5年毎に条約を再検討することになっている。5年毎の再検討プロセスは核保有国に政策として核軍縮を追求させるためのものであったが、この5年間核保有国がやってきたことと言えば、核戦力近代化のために高コストの政策を実行することであった。

Map of Australia
Map of Australia

軍備や軍縮、国際安全保障の現状について評価するストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の最新年鑑によると、「全ての核保有国が新型核兵器システムの開発に取り組むか、既存の核兵器を更新しようとしている」とされている。今年初頭時点で、9か国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が合計で1万5850発の核兵器を保有しており、そのうち4300発が作戦配備の状態にある。

オーストラリアは核兵器を保有していないが、米同盟の下で拡大核抑止のドクトリンを採用しており、それは同国の国家安全保障の根幹をなすと見られている。オーストラリアは「人道の誓約」に署名していない。同国外務・貿易省の報道官はIDNの取材に対して、「核保有国と核の傘に依存する国を含めて全ての国が、核兵器がない方がより安全だと感じられるような環境を作らねばなりません。」と語った。

平和・正義・環境に関わる活動家や宗教団体、市民団体、科学や医療の専門家、国連諸機関が、厳格かつ効果的な国際管理の下での核兵器の廃絶に関する交渉を早期に開始することを呼び掛けている。

きわめて非道徳的

2015年NPT運用検討会議に出席したICAN豪州支部長のティム・ライト氏は、「運用検討会議を通じて、オーストラリアは、核兵器の使用は特定の状況下では正当化されるし必要だと主張して、軍縮について消極的な態度をとりました。こうした立場は、私の見方では、きわめて非道徳的なものです。しかし、遅かれ早かれ、オーストラリアは核兵器を完全に拒絶する国際的潮流に加わってくれるものと期待しています。それこそが、オーストラリア国民が望み要求していることなのです。」と語った。

Tim Wright/ ICAN
Tim Wright/ ICAN

米国、ロシア、英国、フランス、中国、ドイツ(P5+1)がイランとの間で結んだ画期的な核合意によって、軍縮に新たな希望が生まれている。国家の自己利益がいずこにあるかを認識することで、地政学に変化を生み出すことができる。イランは、米国によってほぼ軍事的に侵攻され、不倶戴天の敵であった状態から、イラクやISILの問題に関して米国などの国々がより真剣に関与しなくてはならないと考える国に変わってきたのである。

昨年10月、オーストラリアのデイビッド・ジョンストン国防相は、ISILの勢力を止めるという共通の利益のために、オーストラリア軍がイラン軍と協力する可能性があるとまで述べている。

「核兵器は全ての人々にとっての共通の脅威であることから、敵との協力さえ可能です。」「イスラエルさえも、その核戦力が短所になることを理解すべきです。なぜならそれは、中東の他の国々が自らの核を取得しようと考える誘因となっているからです。」と、戦争防止医師会(オーストラリア)のスー・ウェアハム理事は語った。

この5年間、核兵器がもたらす人道的影響の問題が、軍縮外交において最も前進のみられた領域であった。「新アジェンダ連合」(NAC)の議長国であるニュージーランドは、NPT第6条における核軍縮義務を履行する法的メカニズムを前進させる道筋について提示した「作業文書9」の起草に深く関わった。

オークランド大学の国際関係学の博士課程院生であるリンドン・バーフォード氏は、「ニュージーランドは、そうした議論が肝要で緊急に求められているが、その議論を行う前に特定の法的枠組みを選択してしまうことは時期尚早だと主張しています。しかし、NGOは、ニュージーランドがなぜ『人道の誓約』に賛同しないのかと訝っています。新アジェンダ連合の他の構成国はすべて同誓約に賛同しており、ニュージーランドが『核兵器の人道的影響』問題について主導的な役割を果たしてきているだけに、誓約に賛同しないのが不可解なのです。」と語った。

核兵器の完全禁止・廃絶における大きな障害となってきたのは、核保有国の2つのルール(一つは自らに課した「軍縮」義務、もう一つはその他全てのNPT加盟国に課した「核不拡散」義務)である。ウェアハム氏は、「しかし、あまり認識されていない障害は、オーストラリアのような米国の同盟国が果たしている役割です。これらの国々は、米国に対してその核戦力の維持をひそかに求める一方で、軍縮の最前線に立っているかのような外観を作り出そうとしています。もし米国の緊密な同盟国が米国と袂を分かち、核兵器による『保護』を拒絶したならば、そのインパクトは甚大なものになるでしょう。」と語った。

Ramesh Takur/ ANU
Ramesh Takur/ ANU

NPT発効から約40年が経過した現在、およそ1800発の核兵器がわずかな事前通告時間で使用可能な即発射態勢に置かれている。ラメシュ・タクール教授(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策校核不拡散軍縮センター長)は、「NPTはその耐用期限が切れ、恐らく国際社会は、NPTに強固に結び付けられている既存のグローバルな核秩序を危機に陥らせることなくポストNPT時代への移行を図る必要に迫られているのだと思います。NPTの下では、核不拡散の義務には拘束力があり、検証可能、執行可能なものであるのに対し、軍縮義務についてはそうなっていません。「核兵器の人道的影響」に関してこれまで3回の国際会議が開催されてきましたが、これは、いまや159か国によって支持された、ポストNPTの非核秩序への道筋を指し示したものかもしれません。」と語った。

タクール教授は3つのオプションがあると語る。「第一は、国際人道法の核心に違反する核兵器のあらゆる使用を禁止するというもの。第二は、圧倒的多数の非核保有国が、核兵器の使用だけでなく保有も禁止するために自ら動くというもの。そして第三は、最善だが最も難しいオプションである、生物兵器や化学兵器を禁止したのと同じような線で核兵器禁止条約(NWC)を交渉するというものである。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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「中立性」を拒絶して人権の側に立つ博物館

【リバプール(英国)IPS=A・D・マッケンジー

このイングランド北部の都市にある「国際奴隷制博物館」の現代版奴隷制度の展示は、人権に光を当て、そのテーマを「全面に出す」ことを選択した博物館のひとつの例だ。

「社会正義はそれ自体では実現されません。それには積極行動主義(アクティビズム)と、リスクを取ることをいとわない民衆の存在が不可欠です。」と語るのは、国際奴隷制博物館(ISM)を運営している国立リバプール博物館の館長を務めるデイビッド・フレミング博士である。

この博物館は、過去および現代の奴隷制の様々な側面に焦点をあてると同時に、「人権問題に関する資料の国際拠点になることを目指している。

Dr David Fleming, director of National Museums Liverpool, which includes the city’s International Slavery Museum. Credit: National Museums Liverpool

2013年に発足し、現在では世界全体で80以上の博物館が加盟している「社会正義を求める博物館連合」(SJAM)の会員であり、2010年には「国際人権博物館連盟」(FIHRM)の立ち上げでも中心的な役割を果たした。

FIHRMの目的は、「センシティブで対立含みの人権問題に関わっている」博物館同士の協力を促し、「好意的な環境で新たな思考と取組み」を共有することにある。フレミング氏はIPSの取材に対して、「いずれの組織も、博物館が変容していくあり様を反映しています。」「博物館は私情を挟まない主体というわけではありません。それは記憶を保護する役割を担っているのです。博物館の役割に目を向け、それがいかにして人生に変化をもたらせるかを見ていかねばなりません。」と語った。

国際奴隷制博物館で来年4月まで展示予定の「壊された人生」と題された特別展示は、現代世界の奴隷制の被害者について取り扱っている。その半分がインドにおり、大部分が「ダリット」、かつては「不可触民」として知られていた人々だとみられている。

学芸員によれば、この特別展示は「インドの現代奴隷制を通じて搾取され人権を侵害されているダリットなどの人々の経験を知る機会を提供するもの」だという。

「ダリットは依然として、社会的疎外と偏見に晒されながら極度の貧困下に生きることを強いられており、人身売買や債務労働の犠牲になりやすいのです。」と学芸員は付け加えた。

ダリット解放ネットワーク」との協力で開催されているこの特別展示は、写真や映画、個人の証言等の手段を用いて、性奴隷や児童奴隷状態に置かれている人々の「苦難の物語」を紹介している。また、こうした人々の「壊された人生」を何とかしようと活動している人々についてもスポットライトをあてている。

この展示は国立リバプール博物館の特別展室にて行われているが、常設展では、大西洋奴隷貿易人種差別主義の遺産の惨禍に関する展示がなされている。

フランスの都市ナントにある「奴隷制廃止記念碑」や最近開館したばかりのグアドループにある「メモリアルACTe」と並んで、リバプールのこの博物館は、奴隷制に関する意識喚起を目的とした数少ない国立機関の一つであると識者らは言う。

「しかし、(フランス南西部)ボルドーのような場所での奴隷貿易に関する常設展にとっても、この特別展は『重要なインスピレーションの源』となっています。」とアラン・ジュペ市長は語った。ボルドー市では、「ボルドー、大西洋横断貿易と奴隷制」と題された包括的な展示がアキテーヌ博物館で開かれ、詳細で明晰な情報が提供されている。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

これらの博物館は、世界市民性を涵養する役割を果たし、民衆を教育し、人権の尊重や社会正義、多様性、平等、持続可能性などに関してこれまでとは違う発想を来訪者に提供しようとしている。

フレミング氏はIPSの取材に対して、「私たちは人権への闘いに公然と人々を巻き込もうと試みています。」「人種差別主義と戦うとの意志に燃えながらこの博物館を後にしてほしいと、いつも国際奴隷制博物館で話しています。」「何を考えたらいいのか、どう反応したらいいのかについて、他人に指示することはできません。しかし、ある雰囲気を創り出すことはできます。そして、この奴隷制博物館における雰囲気とは、明確に反人種差別主義的なものです。観覧者には『こんな酷いことがあったとは知らなかったが、もう考え方が変わった』と思いながら、博物館を後にしてくれたらと期待しています。」

リバプールが18世紀に主要な奴隷貿易港であったという否定しがたい歴史を持っているにもかかわらず、誰もがその歴史の事実を受け入れているわけではない。かつて、偏見を持つ人間が、博物館の目的を否定しようとして、博物館の壁にカギ十字を描いたこともあった。

「既に何らかの知識や一定の態度をもってここに訪れる人もいます。そういう人々を変えることができるとは思いません。しかし、展示のテーマについてこれまであまり考えを持ち合わせなかった中間地帯にある人々を、私たちは念頭に置いています。」とフレミング氏は語った。

植民者によって腕を切り落とされた若いアフリカ人たちを写した写真について最初は理解できない英国の児童らの集団が博物館を見学したときのことについて、フレミング氏は語った。

“MutilatedChildrenFromCongo” by Alice Harris – King Leopold’s Soliloquy: A Defense of His Congo Rule, By Mark Twain, Boston: The P. R. Warren Co., 1905, Second Edition.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

写真に関する説明を受けると、児童たちは「民族だけを基準に人間がこれほど恐ろしい行動をとりえるということを理解するようになるのです。」とフレミング氏は語った。

フレミング氏は、世界各地で社会正義に関する展示を見学し、自身の博物館の展示についての情報を広めているという。最近彼は、「記憶を動員する:アフリカの大西洋アイデンティティの創出」という、リバプールで行われた会議において、博物館の役割に関する基調講演を行った。

アフリカ系アメリカ人研究コレギウム(CAAR)」と最近英国で発足した「ブラック・アトランティック研究所」の共催によるこの会議は、6月末にリバプール・ホープ大学で開催された。

この会議は、米ノースカロライナ州の歴史あるエマニュエル・アフリカン・メソジスト・監督教会で白人青年が9人の黒人信者を射殺した事件から数日後に開かれた。

今回の乱射事件は、この数年間にアフリカ系アメリカ人を対象に起こった数多くの暴力的な事件の一つとなった。会議参加者はこの事件から問題の切迫感を痛感するとともに、アクティビズムに関する議論を活発化させた。とりわけ、社会正義や人権をめざす闘いにおいて記憶を保存し「活性化」する点で、作家やアーティスト、学者が果たせる役割についての活発な議論が行われた。

メリーランド大学(ボルチモア郡)のジェームズ・スモールズ教授(美術史・博物館研究)は、「芸術家、さらに言えば博物館は、一部の人々が呼ぶところの『表象の責任』を負っており、それに向き合わねばなりません。」と指摘したうえで、「芸術家は自分の属する民族集団やコミュニティのために自動的に語るものだと考えられています。しかしそうした考えに従おうとする人もいれば、そこから距離を取ろうとする人もいるのが現実です。」と語った。

コロラド大学のクレア・ガルシア教授は、多くの学者にとって、学者の領分と考えられる領域において、「学問とアクティビズムとの間には必ずしもつながりはありません。」、と語った。

「そうした考えの人々にとっては、学問とは『理論的』かつ『普遍的』なものであって、政治的であったり、『特定集団の窮状』に焦点を当てるようなものであってはならないのです。」とガルシア氏は指摘した。しかし、こうした立場は、ある民族集団の「問題を数多く抱えた人間的状況から切り離された時」、さらなる問題を生み出すという。

「社会正義」のために立ちあがる博物館という考え方は、この問題が世界の様々な場所で様々に考えられているために、物議を醸すこととなる。「客観化することと教育すること」との間の線引きもまた、議論を生む課題である。

フレミング氏は、「例えばリバプール国立博物館は、「人間動物園」で展示された黒人演者に焦点をあて物議を醸した「展示B」をやることなどなかっただろう。」と語った。この展示企画は明らかに、人種差別と奴隷制を非難することを目的としたものであったが、逆に、ロンドンやパリなどの都市で2014年に抗議活動を招くことになった。

"Humanzoogermany". Licensed under public domain via Wikimedia Commons
“Humanzoogermany”. Licensed under public domain via Wikimedia Commons

「個人的には私はこうしたことが大嫌いです。今後同じような企画が浮上すれば、私は『反対』に票を投じるでしょう。それは、このテーマが物議を醸し難しい問題だからというのではなく、それが人間の品格を貶め侮辱するものだからです。ここにはあらゆる問題が含まれており、私はこれについてずっと考えてきました。」

フレミング氏や他の学者らは、歴史を「物語る」のは誰かということを深く意識していると語ったが、これは博物館に影響を与える問題でもある。

「アフリカ系アメリカ人研究コレギウム」による会議の一部参加者は、国際奴隷制博物館の一部展示内容について批判を展開した。いったい誰を観客として想定しているのか、誰が展示を選んだのか、などが疑問として出された。

アフリカ大陸に祖先をもつ著名人に焦点を当てた展示セクションは、米国の人気トークショー司会者オプラ・ウィンフリー氏や、著名なアスリート、エンターテイナーで占められており表面的な構成に思えた。

フレミング氏は、「博物館というものは、『やりすぎだ』とか、『まだ不十分だ』とか、両方の批判をしばしば受けるものです。しかし、そこから距離を取ることが答えではありません。なぜなら世界には依然として『エセ中立』博物館が溢れているからです。」と語った。

「最も意義があり興味を呼び起こす博物館は、『道徳的な指針』を示すような施設ですが、そうした博物館が『独力でできることは少ない』ことから、助けを必要としています。」とフレミング氏はIPSの取材に対して語った。彼が代表を務める博物館では、独自の専門能力と観点を展示にもたらしてくれるような非政府組織としばしば協働している、という。

奴隷制のほかにも、世界各地の博物館が、アパルトヘイトカンボジアなどの国における大量虐殺、ラテンアメリカなどの地域で軍事独裁政権期になされた残虐行為等について焦点をあてた取り組みを行っている。

「世界には博物館に変化を求めない国もあります。しかし、リバプールでは、私たちは単に観光目的で博物館を運営しているのではないのです。」とフレミング氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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国連安保理、イラン核合意承認で米議会を牽制

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連安全保障理事会の全15か国は、最近合意されたばかりのイランとの核合意を全会一致で承認して団結力を見せることで、米国の右派・保守派政治家の陰謀的な計画に抵抗する意志を示した。これらの政治家は、米議会自身がこの合意に関する決定を下すまでは採決を延長することを国連安保理に望んでいた。

国連安保理は7月20日、国連の基準でいえば比較的早い午前9時に、数か月の長きにわたった交渉の末に7月14日にウィーンでまとまった五大国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)にドイツを加えた「いわゆるP5+1」による国際合意を是認した。

サンフランシスコ大学で政治学・中東研究学教授を務めるスティーブン・ズーヌス氏は、IPSの取材に対して、「米国は、協定当事者である7か国(P5+1+イラン)のうちで、協定に対する強い反対論がある唯一の国です。世界の戦略分析家の中では、この協定はもっとも現実的に実現可能なものだとの評価がかなり広くなされています。」と指摘したうえで、「いつでもどこでも米国が自分の意思を押し付けることがもはやできないような多元的で複雑な世界になってきているという事実を受け入れられない人々がいるようです。」と語った。

安保理における政治についての著作も多いズーヌス氏は、協議が成功するには、どちらかが一方的に勝利するのではなく、双方の妥協が必要だと語る。

協定の主要な交渉人の一人であるジョン・ケリー米国務長官は、二国間ではなく国際的な協定に関してさえ、米国の意向が政治的・外交的に国連よりも優先されるべきだという一部の米議員からの要求に対して、テレビのインタビューを通じて反応した。

「(米)議会が望むようなことをフランスやロシア、中国、ドイツ、英国に要求すべきだというのは、傲慢です。」とケリー長官はあるテレビ番組のインタビューの中で語った。

「これらの国々には投票に参加する権利があります。しかし、我々は、米議会のことを考慮に入れ、これらの国々を説得して投票の実施を遅らせたのです。従って、いまさらこれらの国々の意志を妨害するつもりはありません。」とケリー長官は付け加えた。

『ニューヨーク・タイムズ』によると、上院外交委員会ボブ・コーカー委員長(テネシー州選出、共和党)と同委員会のベンジャミン・カーディン筆頭理事(メリーランド州選出、民主党)が先週、バラク・オバマ大統領に共同書簡を送り、米議会が決定を下すまでは安保理の投票を延期するよう要請した。

公共情報精度向上研究所」(本部:ワシントンDC)のノーマン・ソロモン所長はIPSの取材に対して、「米議会の多くの議員に理解させるにはしばしば困難な概念だが、米国政府が世界を仕切ることができるわけではないし、時には米国政府でも国連安保理を仕切ることさえできないこともあるのです。」と語った。

「『覇権』という言葉を使うわけではないが、米国は全ての国々を導き照らす存在であり、その能力を国際法という怪しいものの陰に隠すべきではないと信じる議会の共和党や数多くの民主党議員にとって、これは衝撃であり、少なくとも侮辱的なものでしょう。」とソロモン氏は指摘した。

「この場合、イランとの核合意を壊そうとする米議会の危険な横暴に対して、一笑に付せばいいのか抗議すればいいのかは、難しいところです。」と、60万人にのぼる活発な支援者を擁するオンライン行動グループ「RootsAction.org」の創始者でコーディネーターでもあるソロモン氏は語った。

ソロモン氏はまた、「歴史的にみれば、米国政府の政策によって核拡散の大部分が引き起こされてきました。」と指摘したうえで、「米政府はイスラエルが核兵器を保有していることを今後も公的には認めないだろうし、米国の指導者らは、中東の非核兵器地帯化を目指すいかなる提案、あらゆる提案に対して、背を向けてきました。」と語った。

20日には、加盟28か国の欧州連合(EU)もイランとの核合意を承認し、欧州による対イラン経済制裁解除への道を開いた。

「イランの核兵器取得を不可能にするバランスのとれた合意であり、重要な政治合意です。」とフランスのローラン・ファビウス外相は語った。

英国のマシュー・ライクロフト国連大使も20日、「イランがもはや核兵器を製造できないということで、世界はより安全な場所になりました。」と述べ、ファビウス外相と同様の認識を示した。

ソロモン氏はIPSの取材に対して、「米国は数多くの国々に原子力の商業利用を拡散させてきた主要な国ですが、発電のための核エネルギーが核兵器開発のための主要な入口になるという現実を一貫して否定してきました。」と指摘したうえで、「米政府高官のレベルで、こうした事実を認めたことはないし、ましてや、そうした危険な原子力の大盤振る舞いから世界を遠ざけようと努力をしたこともありません。」と語った。

ソロモン氏はまた、「現在交渉中のイランとの核合意は、オバマ政権が自身の成果であると主張できる数少ない大きな外交的成果の一つと言えます。しかし、米国の多くの愛国主義的な勢力が、この合意を壊そうと躍起になっているのです。」と指摘した。

「国連の文脈では、そして米国の政治的舞台という文脈では、この動きはそれそのものとして認識されねばなりません。つまり、率直に言って、平和的解決という悪い冗談からイランに対する戦争遂行という(彼らの)希望を救い出そうとする米議会内の好戦主義者たちによる恥知らずな企てとして認識される必要があるのです。」

20日に安保理決議2231が採択されたのち、国連の潘基文事務総長は、同決議はイランとの核合意に関する「包括的共同行動計画」(JCPOA)の実行を確実にするものだと述べた。

潘事務総長は、「この決議によって、JCPOAの履行を促進する手順が確立され、全ての国が合意に含まれた義務を履行することが可能になりました。」と指摘したうえで、「この決議によって、イランに対する全ての核関連制裁は結果的に解除されることになるでしょう。国際原子力機関がJCPOAに従ってイランが核関連の義務を遵守しているか検証し続けていくことになります。」「国連は、決議に実効性を持たせるために必要なあらゆる支援を行う用意があります。」と語った。

ズーヌス氏はIPSの取材に対して、「米ソ間で締結された核関連諸条約の事例が示しているように、地政学的な敵対国であり他方の政体に対して強く反対しながらも、軍備管理に関しては、お互いに有利なウィン・ウィンの解決策があると考えることもできるのです。」と語った。

「核兵器に関するほとんどの取り決めは相互主義を採っているが、イラン近隣の核武装国であるイスラエル、パキスタン、インドは、核兵器に関する国連安保理決議に違反し続けているにも関わらず、核兵器を廃絶あるいは削減したり、査察を受け入れたりすることさえ義務づけられていないのです。」とズーヌス氏は付け加えた。

そして、今回の協議に加わった6か国のうち5か国(=ドイツを除く安保理5大国)までをも含む他の核兵器国も、その核戦力を削減するようには求められていない。

「イランがこの協定を通じて不当な利益を得ているという考えは、全くばかばかしいと言わざるを得ません。」と、ズーヌス氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

イランとの核合意をめぐる最大の誤解は、それが米国との二国間協定であるというものだ。

しかしそれは事実ではない。

この合意には、国連安全保障理事会の五大国、すなわち、米国、英国、フランス、中国、ロシアに加えて、ドイツ(P5+1)が関わっている。

しかし、それでもなお、右派・保守派の米議員らは、国連による対イラン制裁の段階的解除という内容を含んだ国際的合意に細かい検討を加え、その意義をなきものにしようとしている。

五大国が拒否権を持った国連安保理は来週会合を開いて決議を採択し、今回の合意を承認する見通しだ。

しかし、親イスラエル派と米議会の一部は協定を遅延させることを望み、米国が国連よりも政治的にリードすべきだと主張している。

米国務次官(政治問題)で対イラン協議に加わったウェンディ・シャーマン氏は、今週初めの記者会見でこう述べた。「ええ、国連安保理決議の構成のあり方ですけれども、米議会による検討に付するために60日から90日の暫定期間を取ることになると思います。」「『P5+1(国連安保理五大国+ドイツ)』のすべての国が、これは国連のプロセスの産物だからということで国連の承認を得ようとしたら、少し困難な事態になるでしょう。つまりそうなった場合、我が国は、『世界の皆さんには申し訳ないのですが、米議会の審議をお待ちください』としか言えないからです。」

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

アクロニム研究所の所長でプリンストン大学の「核分裂性物質に関する国際パネル」のメンバーでもあるレベッカ・ジョンソン博士は、IPSの取材に対して、「イラン核合意の真価はその結果の中で問われるでしょう。」と語った。

さらにジョンソン博士は、「私はこれまで、米国やイランの科学者、外交官、それに人権擁護活動家とも話をしてきました。まだ超えるべきハードルがあることについて、楽観視しているものは誰もいません。しかし、この合意が前向きな一歩であり、これまでの停滞と敵対よりは遥かにましなものであることは間違いありません。」と付け加えた。

「しかし、核拡散の防止と人権の擁護はそこに留まらないことは理解しておかねばなりません。私たちは、イランが、『核兵器の禁止と廃絶に向けた法的欠落を埋める』ことを訴え、オーストリア政府によって今年始められた『人道の誓約』に署名した112の核拡散防止条約(NPT)加盟国のひとつであることを歓迎しています。」

またジョンソン氏は、「もし将来的にさらなる核の拡散と核の脅威を避けようとするならば、核兵器禁止に向けた多国間交渉と、中東からすべての核兵器と大量破壊兵器(WMD)をなくすための努力を続けられねばなりません。」と語った。

Hillel Schenker
Hillel Schenker

パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』の共同編集人であるヒレル・シェンカー氏は、イスラエルからの強い反発について、「ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、大国(=P5+1)とイランとの間の今回の合意は「世界の終わり」だと捉えているようです。」と語った。

イスラエルと米国両方の政界に影響力を持つ右派でラスベガスのカジノ経営者シェルドン・アデルソン氏から資金援助を受けているヘブライ語日刊フリーペーパー『イスラエル・ハヨム』は、イランとの合意に関して「永遠に不名誉な合意」との見出しを付けた。

他方で、イスラエル野党の指導者らは、ネタニヤフ首相がイスラエルの米オバマ大統領及び米国政府との関係を悪化させたとして、今回の合意は「悪いもの」だと主張している。

「私たちが現在目にしているものは、ネタニヤフ首相の恐怖の政策の失敗であり、オバマ大統領の希望の政策の成功です。」とシェンカー氏は語った。

シェンカー氏はまた、「ネタニヤフ氏は、父である故ベンゾン・ネタニヤフ教授が支配的な存在であった家庭に育ちました。ネタニヤフ教授は、スペインの異端審問を研究する中で、自分達、ユダヤ人、イスラエルが何をしようとも、世界全体は常に自分たちの敵であり、自分達は所詮同胞を頼みにするしかない、との結論に至った人物です。」と語った。

このアプローチは近代シオニズムの創始者たちが採ったアプローチとは正反対のものである。近代シオニズムの創始者らは、世界の大国と連携することの重要性を理解していた。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

物理学者で、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共国際問題学部「核未来研究所&科学・安全保障プログラム」の講師でもあるM・V・ラマナ博士氏は、IPSの取材に対して「イランとの対立は根拠をほとんど公開することなく煽られ、どんな主張でも言いたい放題の状態になっていました。」と語った。

ラマナ博士はまた、「この合意がそうしたイラン・バッシングを終わらせることを願っています。ともかく、この合意は正しい方向への重要な第一歩だと考えています。そして次のステップは、中東地域のすべての国家、とりわけイスラエルが、イランと同じような核に対する制限を受け入れることです。」と付け加えた。

「今こそ、国際社会がイスラエルに関心を向け、核戦力と、核兵器を製造可能にする核施設の廃棄をイスラエルに要求すべき時です。」とラマラ博士は言う。博士は『約束された力:インドの核エネルギーを検証する』の著者であり、『原子科学者紀要』の科学・安全保障理事、「核分裂性物質に関する国際パネル」のメンバーでもある。

ジョンソン博士は、「交渉事には、パンを焼くのに似て、科学とともに手練が必要-つまり、タイミングと適切な材料を使うことが大事です。粘り強い外交によって適切な時期にこの協議がまとめられることになりましたが、米国、イスラエル、イラン、アラブ諸国、欧州各国、そしてその他の国々が、前に進む意志を持たねばなりません。そうでなければ決して成功しないでしょう。」と語った。

「この合意によってイランが核兵器を取得できるようになるだろうとか、米議会がこの合意を拒否すれば、さらなる交渉によって(米国にとって)より良い成果が挙げられるなどと主張している米国やイスラエルの政治家・評論家には気をつけねばなりません。」とジョンソン博士は警告した。

「この核不拡散というプディングをより高熱のオーブンに戻してしまえば、すべてが焼け焦げてしまうでしょう。」

そうした誤った主張は、イラン国内の少数の強硬派(マームード・アフマディネジャド前大統領に近い残党勢力)を利するだけだという。彼らは、合意が壊れれば利益を得ることになるだろう。

「こうした評論家らが、合意に対する自分たちの批判を本気で信じているほどナイーブだとは思えません。自らの政治的理由であれ経済的理由であれ、時代遅れの対立構造にしがみつき、イランを悪者にして孤立させ続けることに既得権を持っているから、イランに対する冷遇を止めたくないのです。」

「ジョンソン博士はまた、制裁は強制の手段としては鈍く、通常は、女性や子どもなど最も脆弱な立場にある人びとを最も傷つけ、人権や民主主義を抑圧したい権威主義的な集団のいいように使われるだけです。」と語った。

「この建設的な核合意を失敗させることに米・イラン双方の強硬派が成功すれば、悲劇的な『失われた機会』となるだろう。」

シェンカー氏は、「ネタニヤフ首相の政治的キャリア全体が、恐怖を煽り、その危機と対決するための『強い指導者』の必要性を基盤としています。」と語った。

最近の選挙でもこのことが典型的に表れた。選挙戦終盤になって、「(イスラエル在住の)アラブ人が、左翼の準備したバスに乗って大挙して投票に向かうことになる」などと言いだしたのだ。

しかし、これまで3回の任期の間、恐怖の究極の源泉はイランの核兵器の脅威であった。これは、ネタニヤフ首相が2年前に国連総会で行った演説、昨年米議会で行った演説に明快に表れている。

7月17日付『マアリブ・デイリー』紙の見出しは、イスラエル軍や治安部門の指導者らの多くがイランに対する軍事作戦には反対しているにも関わらず、「(イランとの核)合意後、イスラエル国民の47%がイランに対する軍事作戦を支持」というものであった。

この調査結果は、ネタニヤフ首相とその一派、そして主流メディアの評論家らが生み出した恐怖の産物である。「しかし、それに替わる落ちついた声も聞かれるようになっています。」とシェンカー氏は語った。

たとえ米議会内の共和党勢力の助けを借りて(イランとの核合意を妨害するような)決議を出しても米大統領による拒否権発動を阻止できないことが明らかになっているにもかかわらず、ネタニヤフ首相はどうして引き続き国際社会全体を敵に回すようなことをできると考えているか、イスラエル観測筋の多くが不思議に思っている。

こうした専門家筋のネタニヤフ首相に対する困惑は、ビル・クリントン元大統領がかつて1996年に同首相との初会談後に語ったコメントによく表れている。「彼はいったい自分を何者だと考えているのか? ここで絶大な力を誇っているのはいったい誰だ?」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=ノラ・ハッペル】

今年9月に国連総会で採択予定の野心的な「ポスト2015年開発アジェンダ」が果たして実行可能なものになるかどうかは、大部分が資金調達いかんにかかっている。

エチオピアのアジスアベバで開催された「第3回開発資金国際会議」(7月13日~16日)に向けた国際協議においても、旧来の政府開発援助(ODA)を補完し、世界の成長が鈍化し大半のドナー国が予算上の制約を感じている時代に資金調達の欠落を埋める安定的で予測可能な手段だと見なされている「革新的な資金調達メカニズム」が議論の中心になってきた。

ミレニアム開発目標(MDGs)採択という文脈の中で21世紀初めに考え出されたこの概念の背景にある理念は、バランスの崩れを取り戻し、極度な貧困の根絶や教育・グローバルヘルスの推進といった最も緊急を要する開発上のニーズに対する資金を提供するために、「目に見えない」形で相当の収入をあげるところにある。そのメカニズムには、政府による徴税から官民パートナーシップといったものまで、幅広い内容が含まれる。

革新的資金調達の著名な事例に、グローバルヘルスに関する取り組みであるUNITAID(ユニットエイド)がある。主たる資金的裏付けは、航空券連帯税である。集められた資金は、マラリアやHIV/AIDS、結核と闘うためのグローバルな対応策のために使われている。

なかでも最近の事例が、金融取引税(FTT)であろう。諸政府はこれを、金融投機を抑制するツールであると同時に、開発のための金融に利用し得る相当の収入をあげるメカニズムであるとみている。現在、欧州連合(EU)の11の有志国家で金融取引税を適用するという計画が進行中であり、これが革新的金融の次のステップとなるかもしれない。

元フランス外相で国連事務次官(開発のための革新的金融担当)、ユニットエイドの議長・創設者のフィリップ・ドゥスト=ブラジ氏が「第3回開発資金国際会議」の開催と今年後半の「持続可能な開発目標(SDGs)」採択を控えてIPSによるインタビューに応じ、金融取引税と革新的資金調達メカニズムに対する見解を披歴した。

Q:「ポスト2015年開発アジェンダ」に関する協議という文脈において、革新的資金調達はどのような役割を果たすでしょうか?

A:2015年は、世界の未来にとって極めて重要な3つの国際会議が開催されるという意味で歴史的な年です。1つ目はアジスアベバで開催される「第3回開発資金国際会議」、2つ目は「持続可能な開発目標(SDGs)」が発表される9月の国連総会、3つ目はパリで開催される「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)です。

この3つの国際会議では、シナリオは同じようなものになるでしょう。すなわち、素晴らしい政治的合意がなされるが、その裏付けとなる金融的手段に欠く、という状態です。この点に関して私は警告したいのです! 世界には史上かつてないほどお金が溢れているにもかかわらず貧富の差が継続的に拡大している現在において、もし革新的資金調達の道を見つけることができないならば、21世紀はひどい暴力に終わることになるでしょう。

Q:開発のための金融には相当な金融資源が必要となります。金融取引税は、他の革新的な資金調達手段と比較して、必要な資金を確保するのに適切なツールだと言えるでしょうか?

A:金融は、今日もっとも税金から逃れている経済部門の一つです。金融部門が2008年の経済危機で国際開発に及ぼした甚大な悪影響について知れば、非常に驚かれることでしょう。金融取引に対して取るに足らない割合の税を課すことで、世界中で数千億ドルを確保し、結果として、極度な貧困や感染症、気候変動との闘いにおいて決定的な役割を持つことができるのです。

現在私たちは、完全にグローバル化された世界に生きており、こうした脅威は世界のあらゆる市民の頭上に降りかかってきます。これに対抗するには、グローバル化された活動や交流を通じて、国際連帯に貢献すべきなのです。実はこれこそが、私がフランスのジャック・シラク大統領とブラジルのルイス・イグナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領とともに航空券連帯税を始めた際に念頭にあった思いなのです。

人々はますます旅行をするようになっていますから、航空券の価格にほんのわずかの税を課すことによって、世界中で救命治療をより多くの人々に施す機会が与えられることになります。金融取引税も同じような論理です。財政的なニーズは膨大であり、お金のあるところからそれを取ってくる必要があります。革新的資金調達手段は、競合関係にあるものではなく、むしろ相補的なものとみなされるべきです。

Q:ユニットエイドは、HIV/AIDSや結核、マラリアに対処するために世界的な連帯税という方式を使って集められた資金を投資しています。これらの疾病対応において、ユニットエイドはどのような成果を上げてきましたか?

A:第一に、ユニットエイドの投資は、[医薬品の]価格を年1500ドルから500ドルに引き下げることによって、2007年に主要な効果的HIV治療のための市場を創出しました。

第二に、ユニットエイドは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバル・ファンド)と国際連合児童基金(ユニセフ)への支援を通じて、4億3700万ドル以上に相当する最高水準のマラリア治療を提供することに貢献し、2000年以降でマラリアによる死者数を世界で47%削減するうえで重要な役割を果たしました。

第三に、結核菌を検出するための重要な新型テストカートリッジの価格を4割下げる交渉を、米国際開発庁(USAID)や「ビル&メリンダ・ゲーツ財団」とともに、145か国を相手に行いました。これによって、世界全体で、2年間で7000万ドルの節約につながり、医薬品への耐性をもつ結核事例の把握率が年間で3割向上しました。

Q:UNITLIFEという新プロジェクトについて説明していただけますか? それはどういうもので、準備はどれくらい進んでいるのでしょうか?

A:私たちは、8億7000万人の人々が栄養不良に苦しみ、アフリカ大陸のほぼ3割の子どもたちが慢性的な栄養不良で学校の授業についていけなかったり成長が遅くなったりするという、恥ずべき世界の現実と闘わねばならないのです。

さまざまな世代を破壊し、社会を不安定化させ、諸国、とりわけアフリカの国々を激しく痛めつけてきた災難に直面した私たちには、効果と連帯を統合したような対応を想像する義務があるのです。それが、UNITLIFE(ユニットライフ)を始めようと思った理由です。

ユニットライフは、単純な原則に依っています。すなわち、連帯のグローバル化が経済のグローバル化に見合うような形で、アフリカの資源を引き出すことで得られた巨万の富のごく一部を、栄養不良問題に対処するために使おうということです。これまでに、アフリカ6か国の元首がこの原理を受け入れています。ユニットエイドが世界保健機関(WHO)によって主催されているのと同じように、ユニットライフはユニセフによって主催されています。

Q:欧州11か国で今後実施されることになる金融取引税が有益であり効果的であるためには、どのようなものである必要があるでしょうか? たとえば、フランスやイタリアの金融取引税をどのように評価されますか?

A:フランス、イタリアの金融取引税については、あまり評価できませんね。金融規制の面でも歳入の面でも、所期の成果を上げていません。両国政府は自国の金融部門を守ろうとしているだけのように思えます。

もっとも投機的な取引には課税しないという免除が課されているのです。デリバティブマーケット・メーカー、日中取引、高頻度取引は、もっとも危険なものであるにもかかわらず、この2つのモデルでは課税対象とされていません。

さらに言えば、これらの手法に対して課税することで、金融取引税はもっとも多くの資源を得ることができるのです。同じ理由で、外国株に適用されない欧州の金融取引税も、きわめて意義に欠けるものとなるでしょう。11か国の政治指導者は、金融部門からの反応を恐れるのではなく、やる気を見せて、適用対象が広く抜け道を許さない強力な金融取引税のしくみを設計すべきです。

Q:徴税されたものの特定の割合を確実に開発問題に振り向けるにはどうしたらいいでしょうか?

A:すでに、フランスの金融取引税の17%が気候問題と感染症対策に配分されています。フランソワ・オランド大統領は、欧州金融取引税の一部も同じ目的に配分すると述べています。もう少し割合を大きくすることを望みたいものです。

(スペインの)マリアーノ・ラホイ・ブレイ首相もまた、国際連帯に歳入の一部を配分すると約束していますが、それがこれまでに出された唯一の宣言です。11か国の元首が協働で国際連帯に資金を配分してくれることを望みます。「グローバル・ファンド」や世界保健機関、「グリーン気候基金」といった多国間基金に金融取引税の歳入を使うことで、徴収されたお金を確実に開発に使うことができます。

そして、いまや「世界最大の墓場」とでも言った方がよい地中海を数多くの移民が渡ろうとしている状況の中、貧困国から富裕国への大量移民を防ぐ唯一の解決策は、いわゆる「グローバル公共財」(食料、飲料水、基本的医薬品、教育、衛生)をすべての人間に提供することにあると強調しておきます。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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市民社会がポスト2015年開発アジェンダで持つ重要な役割

【国連IPS=ノラ・ハッペル】

「民間部門の行動がポスト2015年開発アジェンダの成功を左右することになるでしょう。」と、国連ハイレベル政治フォーラムという文脈で7日に開かれたサイドイベントの開会あいさつでカルメヌ・ヴェッラ欧州委員会委員(環境・海事・漁業担当)は語った。

「ポスト2015年アジェンダの実行に市民社会を関与させる」と題されたイベントは、欧州経済社会委員会、欧州連合(EU)国連代表部、国連経済社会局が主催して開かれた。

同イベントには、EUや国連の関係者、市民社会組織、経済界、労働組合などの代表が参加し、持続可能な開発政策における市民社会の影響について議論し、市民社会組織のさらなる活発な関与を促進する措置について話し合われた。

このイベントを通じて強調されたように、「組織された市民社会」がポスト2015年の開発アジェンダを実現するうえで重要な役割を持っている。

「組織された市民社会」という用語は、政府から独立したすべての集団や組織を指し、共通の利益促進のために市民が協力してことにあたる状況を示している。

パネリストたちは、今年9月に採択予定の「持続可能な開発目標」(SDGs)の策定に大きな貢献を成したのちに市民社会が果たしうるさらなる役割は、その実行プロセスに関与することであり、その再検討や監視手続きで役割を果たすことであることを明確にした。

ヴェッラ氏は、省エネを改善し、インフラへの資金を提供し、生物多様性を守るうえで、社会的責任やグリーン経済といった概念を通じて経済界が与えうる影響についても指摘した。

ヴェッラ氏によれば、「ライフスタイルや選ぶ製品に関して、十分な情報をもった決定を行うこと」によって、消費者も重要な役割を果たすという。これらの行動は、社会的保護や公正な労働条件、持続可能な開発を求める労働組合やNGOの政策提言活動によって補完され、他方で、市民社会全体も、「我々に責任を取らせる」うえで重要な機能を持っているという。

国連環境計画のイブラヒム・ソー副代表は、世界の多くの場所において政府にはSDGsを成功に導く専門能力も知識も欠いていることがあるという事実に特に注意を向けた。市民社会組織は、政策推進能力や科学、知識を提供することによって、違いを生み出すことができるという。

「市民社会組織には政策決定の権限もないし、国家レベルで決定を下す権限もないが、科学を提供し、政策決定において科学を統合するよう訴えていく点で、非常に重要な役割を担っている。」

CIVICUS(シビカス/市民社会の世界的連合組織)のジェフリー・ハフィンズ国連代表は、主要な利害関係者との関与のメカニズムに関する最近の調査結果を示しながら、国連加盟国及び国連が、周縁化された社会からの利害関係者が関連の会合に参加するよう資金支援を行い、遠隔地からの参加が可能になるようにオンラインのビデオストリーミングを継続し、関連する利害関係者の間の調整を促進し、現在の関与メカニズムが真にすべての利害関係者を代表するものであり「北(=先進国)」の巨大組織によって支配されることがないよう見直す必要性について意識を喚起した。

つづくパネル討論会では、「地球を救うために」経済界が短期的な利潤を諦める意思があるかどうかについて懐疑的な意見が出された。しかし、パネリストらは、顧客が持続可能性を期待し、政府が要求する中で、経済界も徐々にそれを受け入れ実行しつつあるという楽観論を示した。

米国国際ビジネス評議会のノリーン・ケネディ副代表(環境担当)によれば、より持続可能で、より浪費が少なく、より効率的な経済活動は同時に競争力を増すことにもつながるという。責任あるビジネスは「ユートピアではなく、実際将来的に実現する世界の姿なのです。」とケネディ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【カトマンズIPS=ロバート・ステファニキ】

チウテ・タマンさん(70歳)は、4月25日の地震(マグニチュード7.8)発生時、自分の耕作地で作業をしていたが、あまりの揺れに最寄りの木にしがみついた。彼の妻と娘はその時家の中にいたが、とっさに外に逃げ出した。家はあっという間に倒壊し瓦礫と化した。しかし彼らは運が良かったほうだ。

「人命を奪うのは地震ではなく建物。」これは震災を経験した地域では周知の事実だが、今回の地震でネパールの人々もこの教訓を痛感することとなった。犠牲者のほぼ全員が、未熟な石工が石と泥を単純に積み重ねただけの家屋の下敷きになって落命していた。レンガやセメントは費用がかかるが、石と泥はただで入手できるため、これが一般的に普及している施工方法だった。

ネパール西部のダディン郡(カトマンズの北西38キロ)の丘陵地帯に位置するチウテさん一家が暮らしてきたラムチェ村では、村内181戸のうち、168戸が倒壊し住めない状態になっている。

ネパール政府の最新の報告によると、4月25日の震災で倒壊した建物は16郡で607,212戸にのぼったが、そのうち実に63%が、タマン族が暮らしている地域だった。タマン族は、ヒマラヤ地域に居住するチベット・ビルマ語派の中で最大かつ最も貧しい部族だが、ネパール全人口に占める割合は6%に満たない(約135万人)。

このような被害状況を見ると、むしろ「人命を奪うのは地震ではなく不公正。」といった方が適切だろう。今回の震災で亡くなった8844人のうち、実に3012人がタマン族の人々だった。また犠牲者の50%以上がネパール社会の主流から取り残されたコミュニティーに属する人々であり、半数以上が女性だった。

ラムチェ村はタマン族の村である。なかには自身の耕作地を持ちトウモロコシやくるみ大のジャガイモを栽培しているものもいるが、収穫物で家族を養えるのはせいぜい2~3ヶ月に過ぎない。タマン族の人々は残りの期間を契約労働者として働いて生活している。 

ラムチェ村の人々は自分たちが大変貧しいと認めている。なぜかと尋ねると、「先祖代々貧しいから…」という回答が返ってくる。彼らは自分たちが貧しいのは運命であると受入れ差別されているとは感じていない。何世紀にも亘って組織的に搾取され続けた結果、不公正が社会の一部として蔓延っているのだ。

筋骨たくましいタマン族の人々は、歴史を通じてカトマンズの支配層に対して一定の労働力を提供してきた。しかし過去においては、タマン族出身者は政治や軍に参加する道を閉ざされていた。今日でも、末端の兵士や警察官として前線に投入されることはあっても、軍や警察機構の中で彼らが出世できる見込みはほとんどない。また、タマン族の声はネパール政府の施策に反映されていない。

また大半のタマン族は仏教徒だが、ヒンドゥー教徒である支配者層がネパール社会に浸透させてきたカースト制の支配から免れることはできない。ネパール社会で影響力を行使しているのはブラーミン(最上級カースト)に属するネワール族チェトリ族の人々であり、「良家」の出とされるこうしたエリート達はタマン族の人々を見下している。

経済的苦境から困窮化した農民が働き口を求めてカトマンズの労働市場に流入してきており、ホテルで働くポーターの約半数、テンプ―と呼ばれる三輪タクシー運転手の大半を占めるようになっている。こうしたなか、刑務所を調査した統計によると、人口規模に対して不均衡な数のタマン族出身者が刑法犯罪で収監されている。

タマン族の人々はこれまでと同様、今回の震災に際してもネパール政府の支援を当てにはしなかった。震災後、ラムチェ村の人々は互いに助け合い、料理を共にし、瓦礫と化した村の再建を村民同士の協力で進めてきた。その結果、ラムチェ村ではNGOによる限定的な支援を得ながら、震災後の混乱は落ち着きを取り戻しつつある。

震災から1週間後、ラムチェ村の被災者には、欧州委員会人道支援・市民保護局(ECHO)からの資金援助による毛布や防水シート、蚊帳が支給された。

今日、村中の人々が仮宿舎で行列を作り、現地NGOアドラのスタッフから欧州連合のロゴマークが入ったプラスチック製水タンクと衛生キット(歯磨き粉、歯ブラシ、浄水錠剤、生理用ナプキン、経口避妊薬)を受け取っている。そして若い女性活動家らが、粘り強く一人一人の村人に衛生キットの使い方を説明している。

チウテ・タマンさんの家族は、地震で家が倒壊した後、木切れを組み合わせただけの、今にも壊れそうな小屋で3日間を過ごした。その後、入手した防水シートでテントを作り、そこに家族にとって最も貴重な財産であるヤギと一緒に移り住んだ。チウテさんは、「家畜は夜間テントの外に放置してはなりません。なぜなら、虎や豹の餌になりかねないからです。」と語った。一週間後、チウテさんは借金して建築建材を運び込み、隣人の協力を得て、自身と妻、最年少の娘と夫のための家を建てた。

小屋のデザインはいたってシンプルである。木材を組み屋根と壁をトタンの波板で覆ったワンルームの床は油布が敷き詰められており、それに簡易なベッドと食器棚、ガスコンロが備え付けられている。

チウテさんは、「たとえこの小屋が倒壊しても、最悪の場合、私たちの上に覆いかぶさるものは石ではなくトタン板にすぎません。」と皮肉交じりに語った。

木材は遠方から運ばなければならなかったため小屋の建設には2週間がかかった。そして小屋が完成してしばらくしてネパール政府による支援がようやくラムチェ村にももたらされた。震災で家屋を失った家族に対する政府の支援策は15,000ルピーの低利貸付を行うというもので、チウテさんはこのローンを利用して小屋を建設するために負った借金の約半額を返済した。

チウテさんと同じくラムチェ村の住民であるディーパク・ブテルさん(29歳)は、今回の政府支援で180,000ルピーの融資を受けることができた。しかし、ブテルさんの場合不幸なことに、震災時に妻と生後18カ月になる幼い娘が倒壊した家の瓦礫の下敷きとなり亡くなっている。

これだけの資金があれば将来の地震にも耐えられる家を建設することが可能だが、今や長女が唯一の家族となったディーパクさんは、「おそらく自分も最終的にはトタン屋根の小屋に住むことになるでしょう。これまで生涯に亘ってぎりぎりの暮らししか知らない私としては、全財産を家の建設のみに費やしたくはないのです。」と語った。

今後の復興過程において、はたしてネパール政府が、この機会を活かしてタマン族がどうして自然災害にかくも脆弱なのか、そして将来災害からタマン族の人々を保護するには何ができるかについて、その答えを導き出すか否かは、時間が経過すれば明らかになるだろう。

ネパールタイムズによると、国家計画委員会前副会長のジャグディシュ・チャンドラ・ポクレール氏は、「過去の失敗を繰り返してはなりません。かつて1980年代初等、マクワンプールに貯水池が建設された際、その地域に居住するタマン族の一家約500戸がネパール政府の命令で移転を余儀なくされたことがあります。その際、タマン族の人々は現金による補償ではなく、他の土地への再定住を希望しました。」「しかし政府は現金補償を実施しました。その結果、補償金で土地を購入した者はごく一部で、大半の立ち退き家族は、まもなく補償金を使い果たし再び困窮したのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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