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|アフガニスタン|タリバンの武装グループがカブール市内のホテルを襲撃

【ドーハIPS/Al Jazeera】

アフガニスタン治安当局の発表によれば、28日深夜のタリバン武装グループによるカブール市内の高級ホテルに対する襲撃は、警察治安部隊との戦闘の末、武装グループ全員の死亡と最大10名の犠牲者を出して終息した。

事件から一夜明けてアルジャジーラの取材に応じた内務省報道官のデセィック・セディキ氏は、「自爆テロ犯を含む8名の武装グループは全員死亡。現時点で作戦は終了しており、地域の安全も確保されました。しかし残念ながら、警察官2名と民間人8名の合計10人の犠牲者がでました。」と語った。

それより先、カブール警察の犯罪対策班長ムハンマド・ザヒール氏は、ロイターの取材に対して、犠牲者にはホテルの従業員が含まれていると語っている。

北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)によると、同部隊のヘリコプター2機が28日未明に出動し、襲撃を受けた「インターコンチネンタル・ホテル」の屋上から銃撃していた武装グループメンバー3人を殺害した。

 
セディキ氏は、武装グループの襲撃は5時間に及びその間ホテルは停電状態にあったが、ようやく電気が復旧したと語った。襲撃中のホテルの様子を捉えた映像には、ホテルの窓から炎と煙が立ち込めていた(下の映像資料参照)。

「警察当局は、今でも各部屋を捜索し怪我人と危険の有無を確かめています。」とカブール警察署長のアユーブ・サランギ氏は記者たちに語った。

タリバンの広報官ザビウラ・ムジャヒッド氏は、メディアにコンタクトをとり、今回の襲撃はタリバンの犯行であるとの声明を発した。

今回襲撃を受けた「インターコンチネンタル」はカブール市を見下ろす丘に位置する高級ホテルで、アフガニスタン在住の外国人や政府関係者に人気がある。名称は「インターコンチネンタル」だが、ホテルそのものは1980年以降、インターコンチネンタルホテルグループとの関係はない。

カブールから報道しているアルジャジーラのバーナード・スミス氏は、「ホテル入り口に続く道路には4つのセキュリティチェックがあるが、ホテルの敷地へのアクセスは比較的容易だ。」と述べている。

「ホテル入り口に続く主要道路にはセキュリティチェックはあるものの、丘に位置し雑木林に囲まれていることから、その気になれば誰でも、フェンスを越えて道路を回避しながら丘を登っていけます。」とスミス氏は語った。
 
襲撃当時、ホテルにはアフガニスタンにおける治安権限を外国勢力あらアフガン治安部隊に移譲する件について話し合う会議が予定されていたため、アフガン全土から集まった多くの地方行政官が宿泊していた。

「偶然かもしれませんが、このホテルには、ちょうど翌日から2日間にわたって開催予定のアフガン治安部隊への権限移譲に関する会議に出席する行政関係者がアフガン全土から集まっていました。」とスミス氏は語った。

「火曜日の深夜、いくつか爆発音がした後、武装グループはホテル内のボールルームまで侵入してきました。襲撃犯の一人はタリバンの戦争音楽をかけたテープレコーダを抱えており、目に入る人間を無差別に撃っていました。混乱状態の中で2階、3階の宿泊客達は惨事から逃れようと飛び降りでいました。」とあるホテルスタッフは匿名を条件にロイターの取材に応じて語った。

警察当局がアルジャジーラに語ったところによると武装グループはホテルに侵入する前に治安部隊と銃撃戦になった模様である。少なくとも犯行グループの一人がこの時点で自爆している。

アフガン警察はホテルを包囲し、犯行グループとの間にマシンガンその他の武器を使用した銃撃戦へと発展した。また現場は緊迫していたため、傍観者たちは警察の命令で地面に伏せさせられた。

この銃撃戦ではロケット推進擲弾や曳光弾の使用が確認されている。現場に居合わせた記者達は砲弾が炸裂する音や5階建てのビルの屋上から銃撃音が聞こえたと述べている。

内務省保安職員のサモンヤル・ムハンマド・ザマン氏は、武装グループはマシンガン、ロケット推進擲弾、地対空兵器、手榴弾で武装していたと語った。

ザマン氏は、襲撃時ホテルには60名~70名の客がおり、ホテル入り口で自爆した2つの死体を見たと語った。

現場に居合わせた独立ジャーナリストのベッテ・ダム氏は、アルジャジーラの取材に応じ、「銃撃戦は何時間にもわたって続きました。また、ロケット推進擲弾が発射されるのも見ました。」と語った。

またダム氏は、原因はわからないが現場で2回にわたって大きな爆発音を耳にしたと語った。そして今回の武装グループの襲撃を「よく連携がなされたものだった」と語った。

ホテルの宿泊客ジャウィッド氏は、銃撃をのがれるために1階の窓から飛び降りで逃げたと語った。

「私は家族と逃げました。銃撃が始まりましたが、ホテルのレストランは客でいっぱいでした。」と語った。

アフガニスタンでは、5月2日に米軍がパキスタンに潜伏中のアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン氏を殺害して以来、武力衝突が増えており、また、この時期はタリバンが毎年攻勢を強める時期にあたる。しかし今回のように首都カブールが攻撃されるのは比較的稀である。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧千鶴

「インターコンチネンタル」を会場にIPS主催で開催したアフガンメディアフォーラム出張時の映像資料はこちらへ

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米国の核兵器予算増額は不拡散に水を差すと活動家が警告

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David Krieger

【国連IPS=ハイダー・リツヴィ】

米国の核政策に関する独立の専門家らが、核兵器予算を増やす国防総省(ペンタゴン)の計画は軍縮に向けた世界の努力に深刻な悪影響を及ぼす、と警告している。

核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は、米軍が核兵器維持に予算の増額を求めていることに関して、「これは明らかに核軍縮義務に直接抵触します。」と語った。

報道によれば、米軍は、今後10年間にわたって核兵器とその運搬手段を「近代化」するために、2130億ドルを承認するよう米議会に求めている。しかもこの要求額は、年間540億ドルにのぼる核兵器システムの維持費に上乗せするものである。

 予算増額分のほとんどが、新型の無人機、潜水艦、大陸間弾道ミサイル、及び新世代核兵器製造のインフラに投資されると専門家は見ている。

議会は現在、来年度予算のカットを審議している。現在のところ、議員の多数とバラク・オバマ政権が新型核兵器システム開発の意義を疑っている様子はない。

オバマ大統領は、2009年1月に政権をとって以来、世界的な核軍縮の大義を謳う演説を行っているが、実際には、歴代の前任者と同じく、国内外における完全なる核兵器廃絶の時限を設定していない。

「オバマ大統領は核軍縮について口当たりのいいことは言っていますが、明らかに、核兵器の近代化に2000億ドル以上を使うことに同意しているのです。」とクリーガー氏は語った。

またクリーガー氏は、いわゆる「新型」核兵器計画には、核兵器を搭載した無人機も含まれていることを指摘した。

「これは紛れもなく長距離殺人兵器です。核兵器を搭載した無人機など間違っています。これは核のカオスへの招待状となるでしょう。」とクリーガー氏は付け加えた。クリーガー氏は、こうなると、核兵器を所有や核兵器開発計画を疑われている国々は、今後ますます頑なになるのではないかと懸念を抱いている。

米国の核兵器サークルは、10年以上にわたって、イランと北朝鮮を敵視し続けてきた。イランは核兵器開発を進めようとし、北朝鮮は核兵器保有を宣言した、という言い分である。しかし、米国自らがその膨大な核兵器をいつ廃棄する用意があるのかについては、明確なシグナルを与えてこなかった。

世界の8つの主要な軍縮団体の横断組織である「中堅国家構想」(MPI)の傘下団体である核時代平和財団は、核不拡散と完全軍縮に向けた国連主導のプロセスを加速するようロビー活動を続けている。

MPIは、「検証可能、不可逆的で、実行可能な、核兵器の法的禁止」を主唱し、国連の潘基文事務総長による核軍縮に関する五項目提案について緊急の行動を求めている。潘事務総長は、「相互に補強しあうような」枠組み合意、すなわち核兵器禁止条約の策定を呼びかけていた。

MPIのリチャード・バトラー議長は、先週IPSに送付された声明において、「核兵器廃絶を求める政府と市民の切なる願いは、実際的な行動です。核兵器が存在し続けることは、すべての人々にとっての脅威であり、受け入れがたいリスクなのです。」と述べた。

MPIは、核兵器国が自国の核兵器削減の義務を受諾した核不拡散条約(NPT)第6条の履行を支持するよう、世界の外交官らに求めてロビー活動をつづけている。

オーストラリアで長く外交官の職にあり、国連の核兵器査察官も勤めたバトラー氏は、先週、NPTでの合意履行を求めるMPIのプロジェクトの一環として、国連で各国政府にブリーフィングを行った。

バトラー氏が先週ニューヨークの国連本部で他の外交官らと軍縮行動に関する協議に備える一方で、MPIの創設者であるカナダのダグラス・ロウチ上院議員は、同じ目的での世界ツアーを開始した。

ノーベル賞にノミネートされたこともあるロウチ氏は、欧州、ロシア、中国、インドへの歴訪の前に発表した声明の中で、地雷とクラスター弾が、「その継続的使用が人間に及ぼす影響についての理解が人々の間に浸透した結果」、条約で禁止されることになった点を強調した。

さらにロウチ氏は、「いまや、同じように、核兵器の使用だけではなく、使用の威嚇、保有、拡散もまた、人間への脅威になるという認識が出てきているのです。」と語った。

一方クリーガー氏は、ロウチ氏の核軍縮・平和に対する努力を賞賛しつつ、同時に、米議会とオバマ政権が今後取るかもしれない行動の帰結について憂慮している。

「米国が世界を支配し続けようとするならば、これは大変な問題です。」とクリーガー氏は語った。クリーガー氏は、ワシントンの政策立案者たちは、米国の安全保障は軍事予算の拡大によってではなく、その大幅削減によって確保できることを認識すべきだとみている。

「核兵器(への予算を)増やすことは、米国は核軍縮に熱心でないというメッセージを世界に送ることになるのです。」とクリーガー氏は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩



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|モロッコ|「憲法改正の動きは良き先例となるだろう」とUAE紙

【アブダビWAM】

モロッコにおける憲法改正の動きは同国にとって重要な一里塚となるだろう。ムハンマド6世国王(1999年即位:右の写真)は17日、新たに民主的な憲章をそなえた「市民に立脚した君主制度」への移行プロセスが開始されたと発表した。

「民主化勢力からは、改革内容が十分でないとして批判する声がでているが、大半のモロッコ国民は、国王の改革提案をより透明性の高い政府の実現に向けた動きとして支持しているようである。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は報じた。

「特筆すべきは改革提案(3月に国王の指示で設立された委員会で審議がなされてきた)が即時実施を前提とした計画を擁している点である。国王の改革提案は7月1日に国民投票にかけられこととなっており、それによりモロッコは改革の道を前進していくだろう。」とガルフ・ニュース紙は6月22日付の論説の中で報じた。

提案内容の目玉は、国王自身が自らの権限の一部を放棄することに同意する一方、首相と議会の権限を大幅に強化した点である。首相は総選挙で最大の票を獲得した政党から選出され、閣僚の任命権を持つことになる。

立法府の権限も強化され、議会の5分の1の賛成があれば政府関係者に対する調査を実施でき、3分の1の賛成があれば閣僚に対する譴責決議を行うことができる。一方国王は、今後も、治安・国防・宗教関連の最高責任者であり、閣議の議長と軍の最高司令官にとどまる。

「モロッコには伝統的に権威主義的な政府と強大な権限をもった治安当局が国王を補佐して国内の政治世論を統制してきた歴史がある。現国王のムハンマド6世は、先王から相続した強力な権限の緩和に踏み切ってきたが、今回の憲法改正提案はこうした改革の流れを大きく前進させるものとなるだろう。」とガルフ・ニュース紙は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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今こそ「オープンガバメント」の推進を!-東日本大震災・被災者支援で必要な視点(谷本晴樹「政策空間」編集委員)

阪神淡路大震災があった1995年、後にこの年が「ボランティア元年」といわれたように、東日本大震災のあった本年は、いずれ「オープンガバメント元年」と振り返られる時がくるのではないだろうか。

今回の震災を契機として、「オープンガバメント」と呼ばれる、政府の情報公開と官民の新たな連携が、急速に進んでいる。この流れをより強固なものとし、さらに拡大していくことが、現在の支援活動をより効果的なものにするだろう。そして長引く避難生活での二次被害を防ぐことに繋がるはずである。そこで本稿では、この震災で登場した「オープンガバメント」の萌芽について紹介しつつ、これから乗り越えるべき課題について検討していきたい。

 
1.「オープンガバメント」とは何か

オープンガバメントとは、分かりやすく一言で言えば、インターネット技術を活用し、政府を国民に開かれたものにしていこうとする取組みである。以前から政府が進めている「電子政府」との違いは、電子政府の取組みが、主として従来の行政の手続きを、簡素化する、あるいは利用者の利便性を高めるというところに重点が置かれているのに対し、「オープンガバメント」は、それだけでなく、政府が持っているデータベースを、API(application programming interface)などの形で提供することで、新たな公共サービスを民間ベースで生み出すことを促し、そうして生まれた新しい公共サービスを通じて、政治への市民参加も促そうというものである。政府は公共サービスを生み出す「自動販売機」ではなく、民間が公共サービスを競う「プラットフォーム」であるべきだという。これまでの政府あり方そのものに変更を迫るものであることから、「Gov2.0」とも呼ばれている。

オバマ大統領は、このオープンガバメントを政策の柱として誕生した。そして「透明性(transparency)」、「市民参加(participation)」、「協働(collaboration)」という三原則掲げ、これまでに様々な取り組みをしている。日本でも、内閣府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT本部)」が2010年5月に出した報告書「新たな情報通信技術戦略」において、オープンガバメントが明記された。そしてその後、タスクフォースが設けられ、具体的な展開について議論されていた。ただ長年の縦割り行政に伴う、これまでの慣行を打ち破るには、多くの課題があることが認識されていた。

2.震災ではじまった、民・官の連携とオープンガバメント

3月11日に震災が起こってから5日後、政府は内閣官房内に「震災ボランティア連携室」を設置した(室長:湯浅誠内閣府参与)。これは、政府が集めた情報を、現地で活動する、あるいはこれから活動しようと考えているNPOやボランティアに正確な情報を届け、窓口を一本化することにより、縦割り行政による弊害を未然に防ごうとするものである。そして22日に発足した民間の「助け合いジャパン」に対し情報提供を開始した。民間のプロジェクトに国がこのような形で協力するのはおそらく初めてだろう。

助け合いジャパン」のサイトでは、政府・省庁などからの最新情報が見られるほか、先行して情報の発信をしていた、様々なソーシャルメディアの情報を組み入れている。

例えば、サイト内の「ボランティア情報ステーション」のページでは、災害地にある社会福祉協議会からの、ボランティア募集情報をみることができるが、これは、そもそも有志がwikiを通じて作った「東日本大地震地震『災害ボランティア情報』まとめサイト」という独立したサイトであった。また震災情報マップもあるが、こちらは「sinsai.info」の情報を組み入れている。

sinsai.infoは、地震発生からわずか7時間後には立ち上げられている。オープンソースであるushahidiを使うことで、場所から情報を得たり、場所に関連させて情報の発信ができる。例えば、選択した特定の地点から20キロの範囲内で、安否確認、店舗の開店情報などの新しい「レポート」が入ると、「アラーム」を受け取ることが出来る。そのほか、消息情報確認用に、Google パーソンファインダーが埋め込まれている。これは、名前を入力すると、パーソンファインダー内にある消息情報が表示され、携帯電話番号を入力すると、各携帯電話会社の災害伝言板の登録情報が表示されるようになっている。4月1日現在、約60万件超の記録が登録されている。こちらでも、行政からの情報提供による協働が進んでいて、岩手県や福島県、警察などが情報を提供している(ただ、避難所にある消息情報は多くが「紙」である。多くの方がそれを、デジタルカメラで写して、デジタルデータとして公開し、被災地の外に住むボランティアが手作業で情報を打ち込み、チェックし、パーソンファインダーにアップロードしている。中には行政が作ったであろうプリントアウトされた資料を一から打ち込んでいるものもある。このようなものであれば、まさしくテキスト形式で公開してもらうだけで、手間も時間も大分節約できるのではないだろうか)。

さらに、行政の提供する情報を利用することで、既存の地域SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)も、被災者支援に役立っている。例えば、盛岡の地域SNS「モリオネット」では、岩手県から提供された情報をもとに、Googleマップに避難所や安否情報を掲載している。この「モリオネット」から、全国の地域SNSに協力が広がり、「学び応援プロジェクト」という、ノートや鉛筆などを被災地の子どもらに送る活動がされている。

またネットを中心とした、節電の運動も話題になっているが、こちらでも官民の協力が始まっている。3月23日、東京電力が電力使用状況について公開している画像やcsv形式でのデータから、金本茂氏(@ssci)が東京電力の電力消費量を返すAPIを作成、翌日、経済産業省情報プロジェクト室(@openmeti)は、これを活用したアプリを作ったら知らせてほしいと呼びかけ、優れたアプリは国でも取り上げていきたいと宣言した。実際に、このAPIを使って、計画停電対策アプリや、東京電力の消費電力情報表示ツールなどが開発されている。

そのほか、行政のデータベースがまとめられたサイトがHack for Japanにあるし、ALL311:東日本大震災協働情報プラットフォームは、公的機関が提供している地図・地理空間情報のデータベースを紹介している。このように、公共機関が持っているデータを公開し、それをもとに民間が優れた公共サービスを開発し、これをまた、国が積極的に取り上げることこそ「オープンガバメント」の中心であって、実際にオープンガバメントに熱心なアメリカなど欧米各国では、「民」から多様な「公共サービス」が生まれている。広範な被災地対策と、福島の原子力発電所対策という二正面作戦を強いられている中で、行政が住民に対してきめ細かな対応をすべて担うことは不可能である。であるならば、やはりここは「民のチカラ」の出番ではないだろうか。「民のチカラ」を引き出すために、政府の果たすべき役割は多いはずである。しかもそれは、行政に対し過大な負担を強いるものではない。行政が持っている情報をもっと公開する、それだけでも、様々な被災者支援に繋がるサービスが生まれるはずである。

3.見えてきた今後の課題と求められる行政の対応

ただ、すでに様々な課題も見えてきている。まずHack for Japan等で紹介されている行政のデータベースをみれば、「利用できるデータ」がまだまだ少ないことがわかる。

また、「量」の問題だけでなく、「質」にも大きな問題がある。多くの情報がPDFあるいはExcelのデータである。例えば、全国社会福祉協議会・全国ボランティア・市民活動振興センターも、避難所の避難者数と災害ボランティア設置状況など、貴重な情報を発信しているが、こちらもPDFである。そこで財団法人地方自治情報センター(LASDEC)は、PDFやExcel形式でのファイルを避け、テキスト形式やCSV形式でのファイルの公開を推奨している。LASDECによれば、PDFやExcelのファイルが比較的容量が大きいため、すでに「サーバー・回線リソースを圧迫し、重要情報が閲覧できない事象が頻出」していると報告している。

一方で、支援する側の問題でもあるが、支援サイトが乱立気味である。現状、「支援サイトのまとめサイト」まであって、どこに必要な情報があるのか、どこがベストなのか分からない。そこで、情報が本当に必要な利用者に、結果的に時間を割いて、色んなサイトを見て廻るという負担をかけているかもしれない。もちろん現時点では、過少よりも過剰のほうが望ましいのであって、どれかを削除すべき、というわけではない。しかし、どこのサイトに上げられた情報でも集約され、かつ本当に重要な情報は、どのサイトでも共通してみられるという仕組み(データベースの一元化)が必要であるし、その点で、プラットフォームとしての政府の役割は大きいはずである。

また、これは特にジャーナリストの佐々木俊尚氏がこちらで指摘しているが、今回の震災では阪神大震災の教訓でできていた緊急時の情報伝達網が破壊されてしまっている。また、被災した地域は軒並み高齢化率が25%を越える地域であり、これまでの震災以上に、現地は「アナログ」なのである。佐々木氏が指摘されているように「アナログ」の情報を「デジタル」に、そして「デジタル」の情報をまた「アナログ」に変換していく作業が必要になっていくだろう。現場での活動との連携が必要とされているところである。
 
おわりに

「オープンガバメント」の掲げるプラットフォームとしての政府の役割は、このような緊急事態だからこそ、非常に大きいはずである。惜しむらくは、震災前にもっとこのような視点が行政に取り入れていたならば、スムーズな支援ができたと思うが、今からでも遅くはない。ぜひとも問題を解消しつつ、「オープンガバメント」を実効あるものにしてほしい。そのことによって、必ず被災者支援に役立つサービスがもっと生まれるはずである。今回の震災で、数多くのIT関係者が手弁当で献身的な活動を続ける姿をみるにつけ、私はそう確信している。

最後に、被災に遭われた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。もし本稿がすこしでも被災者や支援に関わる方の一助になれば幸いです

谷本晴樹プロフィール:
(財)尾崎行雄記念財団研究員、INPS Japan理事、「政策空間」編集委員。日本大学大学院国際関係研究科博士前期過程修了。国際政治学会、臨床政治学会所属。

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│ドミニカ共和国│マカダミア・ナッツの木がコーヒー農家を貧困から救う

【サントドミンゴIPS=エリザベス・イームス・ローブリング】

Macadamia integrifolia/ Wikimedia Commons

32年前にドミニカ共和国を襲ったハリケーン「デービッド」がもたらした森林破壊は、貧困を生んだ。いま、被災後に行われたかつての植林計画を見直して、グルメ向けのアイスクリームを導入することにより、貧困に喘ぐ小規模コーヒー農家を支援するユニークなプロジェクトが進行している。

ハリケーン「デービッド」(カテゴリー5)は、1979年にドミニカ共和国に襲来し、約2000人が死亡、国の農業の70%を破壊した。翌年、起業家のマニュエル・アルセニオ・ウレナが、森林を再生し表土を補強するため、オーストラリアからマカダミア・ナッツの木を導入した。マカダミアの木は浅くしか根を張らないため、貴重な表面土壌を保持するのに役立つと考えられたのである。

 その後15年間にわたってマカダミア・ナッツの木はただ植えられただけであった。やがて実をつけるようになったが、殻が非常に硬く、ナッツが食べられるものだとは現地の人々に知られていなかった。その結果、世界市場で最も高価なマカダミア・ナッツが、収穫されることもなく放置されていた。そして地元の人々はマカダミア・ナッツの木を価値のない木と認識していたことから、やがて薪作りのために伐採するようになった。

そこへやってきたのが、地元アイスクリーム製造会社「エラドス・ボン」の創業者ヘスス・モレノ氏である。環境保全にも関心が深いモレノ氏は、新たにグルメ向きアイスクリーム路線の第一弾として、マカダミア・ナッツ入りアイスクリームを思いつき、放置されてきたマカダミア・ナッツの市場確保に乗り出した。

それから10年が経過した2005年、国産マカダミア・ナッツの生産量はアイスクリーム向け需要を上回り、モレノ氏は新たに「ラ・ロマ」というブランド名でマカダミア・ナッツのパッケージの販売を始めた。今日、「ラ・ロマ」のマカダミア・ナッツ缶は、ドミニカ共和国各地の食料雑貨店や観光地の売店で販売されている。ちなみに商品チラシには、「ドミニカ共和国で愛情を込めて育てました」と謳われている。

モレノ氏は、こうした成功に満足せず、マカダミア・ナッツの木をもっと祖国のために活用できるのではないかと考えた。
 
マカダミア・ナッツの木は、高さ15メートル程まで成長し作付けから6年後にナッツの収穫が可能となる。初年度における1本当たりの収穫量は5ポンド(約2.26キロ)程度だが、樹齢を重ねると年間40ポンド(約18.1キロ)程の収穫を見込めるようになる。また、マカダミア・ナッツの木の根は浅いため、コーヒーの木のそばに植えても害をもたらさず、コーヒーの生育に必要な日陰を提供する役割も期待できた。

こうしたことから、モレノ氏はマカダミア・ナッツの木を導入することで作付面積が1ヘクタール以下で貧困に喘いでいる約10,000件の小規模コーヒー農家を支援できるのではないかと考えた。

「ラ・ロマ」プロジェクトの主任をつとめているエディソン・サントス氏は、会社のトラックを駆使して首都サントゴミンゴから北へ約1時間のボナオ郊外の丘陵地帯を巡っている。彼はそこで現地のコーヒー農家にあたかも金鉱を発見したかのような情熱をもってマカダミア・ナッツの木を栽培するメリットについて説いて回っている。

「私たちには持続可能な農業を実践していくためのビジネスプランがあります。まず、会社側でマカダミア・ナッツの苗木を2年間育てます。そしてプロジェクトに参加を希望する小規模コーヒー農家に対して、必要な技術支援とともに木を提供しています。」とサントス氏はIPSの取材に応じて語った。

「その際、私たちは農家に対して将来収穫されるナッツを買い取る保障をしています。現在はナッツ1ポンド(約0.45キロ)あたり2.7ドルで買い上げています。提供している若い木からナッツを収穫できるようになるにはさらに4年間を要するため、農家が適切に栽培できるよう指導が欠かせません。マカダミア・ナッツの木は樹齢6年になれば向こう100年はナッツの収穫が期待できるのです。」

「栽培といってもたいした手間がかかるわけではありません。6カ月ごとに肥料を与え、ナッツが好物のネズミから木を保護すればよいのです。また、マカダミア・ナッツは、コーヒ豆のようにケアする必要はなく、木に実ったまま乾燥するため、市場への出荷も容易です。」とサントス氏は付け加えた。

マカダミアの木は、1ヘクタール当たり200本を植えることができる。植樹1年目で2500ドルを、将来的には2万1000ドルを稼ぐことも可能だという。1日あたりの収入が1ドルにも満たない小農が多いこの地では、夢物語にも聞こえる。

しかしこうした夢を実現した農家が出てきている。

セルビオ・マルチネス氏は、マカダミア・ナッツの木を栽培して12年になる。植えつけ時期が異なる合計250本を栽培している

「私はこれらの木の栽培をコーヒープランテーション敷地内で始めました。このプロジェクトには満足しており、もし尋ねられれば、私は確実に将来性がある作物をプランテーションで育てていると答えますよ。他の農家にもこのプロジェクトに参加するよう勧めます。」

マルチネス氏はマカダミア・ナッツの収穫で昨年8000ドル以上を売り上げた。しかもナッツの収穫まで成長していない木もあるので今後もっと多くの収穫を期待できる。
 
 「ラ・ロマ」プロジェクトは海外から援助金を獲得し、それを原資に農家への苗木提供と、無料の技術支援を行っている。一方、サントス氏は将来的に援助資金に依存することなくこのプロジェクトを維持していく取り組みについて説明した。

「私たちは、プラスチックの木をしつらえた(プロジェクトの趣旨を記したラベル付の)小さな箱を制作しています。そしてそれを置いてもらう地元のホテルを選定しています。つまり、ホテルの宿泊客は、それを買うことでマカダミア・ナッツの苗木のスポンサーとなり、農民の支援者になれるという仕組みです。なお、提携ホテルにはマカダミア・ナッツの殻を提供しています。またプロジェクトで支援をうけた農家はマカダミア・ナッツの木から収穫ができるようになると、5年~6年かけて元の苗木代をプロジェクト事務局に返済していきます。こうしてプロジェクト事務局は、次の農家に苗木の提供を行うことができるのです。」とサントス氏は語った。

またプロジェクトにはフェイスブックやツイッターのアカウントもあって、さらに支援の輪を広げようとしている。

マカダミア・ナッツで農民を救うドミニカ共和国のプロジェクトについて報告する。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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逆境に立ち向かう国連平和維持部隊

 【ジュネーブIDN=リチャード・ジョンソン】

UN Soldiers in Eritrea" by Dawit Rezene Licensed under CC BY-SA 1.0 via Wikimedia Commons
UN Soldiers in Eritrea” by Dawit Rezene Licensed under CC BY-SA 1.0 via Wikimedia Commons

国連平和維持活動局(DPKO)によると、約8万5000人の軍人、1万4000人以上の警察官、5700人の国際機関文民職員、及び1万3700人の各国文民職員が、4大陸における計15の国連平和維持活動に従事している。

国連は平和維持活動を「紛争で引き裂かれた国々に永続的な平和をもたらすための諸条件を創出する手助けを行う国連活動」と定義している。国連平和維持部隊の兵士は、淡い青色のベレーやヘルメットを着用していることからしばしば「ブルーヘルメット」と呼ばれるが、紛争後における和平プロセスを監視すると同時に、かつての紛争当事者たちが和平合意内容を履行する支援を行っている。このような支援内容は、信頼醸成、政権協定の仲介、選挙支援、法の支配の強化、経済・社会開発など多岐にわたっている。

しかし、国連平和維持活動は決して順風満帆な歴史を歩んできたのではない。1948年の開始以来、120カ国から参加した2900人以上に及ぶ軍人・警察官、文民職員が任務遂行中に襲撃や事故、病気などで命を落としてきた。

国連安全保障理事会は、1997年7月、第2代国連事務総長(コンゴへの平和維持活動のため訪問の途上に航空機墜落事故で殉職)にちなんで、ダグ・ハマーショルド・メダルを創設し、殉職者(当時85カ国から1500名以上)に対する顕彰を行ってきた。

 今年の授賞式は5月27日に執り行われたが、その日はレバノンのシドン北部において、国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)の車両が路肩爆弾により爆破され、イタリア部隊の6人とレバノン民間人2人が負傷するという事件があった。

潘基文事務総長は、5月29日の「国連平和維持部隊の日」に寄せたメッセージの中で、「国連平和維持部隊の展開は、戦争を生き延びた人々が、不安定、不正、恐怖に満ちた環境下で再び苦しまなくてすむよう、そしてそのような環境を取り除くことで初めて永続的な平和が実現できるという国際社会の確信を体現したものなのです。」と述べ、現在世界中で平和維持活動に従事している120,000人以上の兵士、警察官、文民職員を称賛した。

また潘事務総長は、別の声明の中で、UNIFLへの襲撃を非難し、国連はレバノン当局と緊密に連携して「迅速かつ徹底的な」調査を行い、犯人に法の裁きを受けさせると語った。

今年の「国連平和維持部隊の日」記念式典は、とりわけ陰鬱な雰囲気の中で執り行われた。4月上旬にはアフガニスタンの国連事務所が襲撃され7人の職員が殺害されたほか、数日後にはコンゴ民主共和国で平和維持活動に従事していた32人(多くが国連要員)が航空機墜落事故で落命している。さらに昨年には1月のハイチ地震で犠牲となった100人以上を含む実に173人の平和維持部隊要員が任務遂行中に遭遇した災害、襲撃、事故、病気で落命している。

「犠牲者は軍人、民間人、警察官、国連ボランティア、各国スタッフ等様々で、所属先は国連諸機関全体に及びます。また、彼らの国籍や担っていた任務等も様々です。しかし、彼らは共通して、国連憲章の原理に対して不動の信念を抱いていました。彼らは他の人々がより安全で明るい未来を生きていけるよう、自らの命を危険に晒したのです。」と、アシャ=ローズ・ミギロ国連副事務総長は、国連本部で執り行われた犠牲者を追悼した献花式で語った。

ミギロ副事務総長が主宰したダグ・ハマーショルド・メダル授賞式では、2010年3月1日から12月3日までの間に殉職した73人が顕彰されたが、今年初めから4月10日までに亡くなった26人についても式典で追悼の意が表せられた。「国連加盟国が平和維持活動を承認し、各国政府が要員を派遣する一方で、最終的に全ての負担は個人に、とりわけ今日こうして私たちが死後に追悼している男女の双肩にかかっているのです。」とミギロ副事務総長は語った。

潘事務総長は「国連平和維持部隊の日」に寄せたメッセージの中で、「南スーダンの国民投票支援から、コートジボワールの大統領選後の危機への収拾対応、また東チモールの警察要員のキャパシティビルディング支援から南部レバノン丘陵地帯のパトロールなど、国連平和維持部隊『ブルーヘルメット』は、国連の理念を最も良く体現した組織として、紛争後の治安回復、和解促進、そしてよりよい未来への希望を育む活動に従事してきました。」と述べ、国連はスタッフが払ってきた多大な犠牲を決して忘れることなくその功績を称賛している旨を強調した。

今年の焦点は、紛争後の社会における「法の支配」の確立の問題であった。潘事務総長は、「法の支配」すなわち、警察や司法制度、矯正制度に対する民衆の信頼を獲得することが、平和維持活動を成功裏に展開していく上で不可欠である点を強調し、「だからこそ、国連は権力を悪用しないよう警察官を訓練し、正義の裁きを行える司法制度を支援し、矯正施設における人道的環境を確立するために取り組んでいるのです。」と語った。

国連平和維持活動担当のアレン・ル・ロイ事務次長は、この点について、「完全に機能しかつ公平な警察及び司法制度を確立することが、持続可能な平和を構築するうえで欠かせません。法と秩序なくして平和はあり得ませんし、同様に、平和なくして法と秩序もありえないのです。」と語った。

国連「法の支配・治安機構」局のドミトリー・ティトフ事務総長補佐によると、現在、約6万人の平和維持部隊がこの任務に従事しているという。「紛争のきっかけとなる原因は無数にあります。国連は、紛争後の社会が将来における紛争を平和裏に対処できるよう法の支配を再構築することを主眼とした支援を行っています。」とディトフ事務総長補佐は語った。

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

|アラブ首長国連邦|今年も午後の労働禁止時間制を施行

【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)労働省の高官は、6月15日、野外労働者の保護のため設けている猛暑となる夏季の日中における労働禁止時間制(12:30から15:00)が今年も同日から9月15日まで施行されると発表した。

労働省のマヘール・アル・オバド次官補は、ドバイ市当局及び政府代表、民間セクター代表が出席した記者会見において、午後の労働禁止時間制は今年で導入から6年目となるものであり、労働者に対して同省が定めた具体的な条件に従って所定の時間の間、作業を止めるよう呼びかけていると説明した。

「労働禁止時間の導入は、UAEの労働基準法及び国際的な関連条約に基づいて就労上の健康と安全確保につとめる同省の方針を具現化したものです。」

また同次官補は、過去5年にわたる実験結果を「意味のあるものであった」と評価した上で、今後も夏季における労働禁止時間制を継続していきたいとの見解を示した。

オバド次官補によると、この労働者の安全と健康増進を目的とするイニシャチブの導入により、労働省と製造業に携わる人々の間のパートナーシップは深まったとのことである。

「UAE政府はこのイニシャチブの導入により国際的にも高い評価を得た。こうした労働禁止時間制の導入は、UAEと同じ気候条件を持つ国々にとって役割モデルとなった。」とオバド次官補は指摘した。

オバド次官補は、炎天下で働くリスクについて労働者に教育する必要性を強調した。また、雇用主に対しては、職場に遮光シールドの設置や、休憩所の用意、冷たい水や飲み物の提供、応急手当器具の設置など労働者を熱射病から保護するための手段を講ずるよう呼びかけた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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│アフリカ│南南協力は開発に焦点を当てるべき

【ヨハネスブルクIPS=ティナス・デジャガー】

アフリカ諸国は、域外の国々と協定を結ぶ際には、たとえ利益があるように見えても、みずからの開発計画を中心的な課題とするよう慎重に対処すべきである。

南アフリカ国際問題研究所(SAIA)のエリザベス・シディロポウロス所長は、「南南協力という考え方は長らく語られてきましたが、近年における中国とインドの『目を見張るような経済成長』を背景に、注目度が高まっています。とりわけ、後続の発展途上国においては、両国の開発手法に対する関心が高い。」と語った。

南アフリカのウィットウォータースランド大学付属のシンクタンクであるSAIAは、6月9日から10日にかけて「インド、南アフリカ共和国、及びアフリカ大陸」に関する国際会議を開催した。

 
シディロポウロス所長は「インドとアフリカ諸国は法規制や貧困の分野において多くの類似した問題に直面していることから、南南関係を通じた交流は双方に恩恵をもたらすでしょう。」と語った。同所長は、インドとアフリカ諸国間の協力が両者にとって有益である点を強調する一方、この関係が一方にのみに利益をもたらすものであってはならないと警告した。

「途上国はみずからの役割を果たさねばなりません。経済成長を促進するような手法はいくつもありますが、援助はそのひとつに過ぎません。アフリカはインフラ開発とスキル開発を必要としています。また市場アクセスの問題も依然としてあります。」とシディロポウロス氏は語った。

シディロポウロス所長は、途上国間貿易の増加がもたらした直接的な影響については、未だに見極めが困難だと指摘する一方で、「国際貿易の舞台に新たな勢力が加わったことは事実です。アフリカ諸国は、この新しい環境の中で、職業訓練へのアクセス、技術の蓄積が可能となり、途上国間貿易のみならず先進国との貿易交渉においても交渉力を強めています。」と語った。

また同所長は、「海外投資家はアフリカに投資しています。しかし、鍵となるのは、パートナーとアフリカ諸国との間の開発協力です。援助は効果的でなければなりませんが、それは南南貿易というよりも、南南協力というべきものでしょう。」と語った。
 
インドは「アフリカの開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」等のイニシアチブに参加してアフリカ大陸に対する積極的な支援を行う方針を打ち出している。

またインドは、情報格差解消に向けた支援としてオンライン診療が可能な電子医療システムをアフリカ大陸に導入すべく多額の投資を行っている。また、小規模かつ革新的なプロジェクトを対象に資金支援を行う「インド・ブラジル・南アフリカ(IBSA)基金」という試みもあり、例えば、西アフリカのギニアにおけるごみ処理事業に資金支援が行われている。

「しかしこうした支援の効果は、実際にプロジェクトが実施され、長い期間が経過しないと評価することはできません。」とシディロポウロス所長は警告する。

アフリカ諸国は、協力関係を機能させるために、協力合意を結ぶ際にはアフリカ側の既存の開発計画を考慮した内容にすべきである。そうした観点から西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)や南部アフリカ開発共同体(SADC)などの地域機構が、こういった協力の形態にできるだけ関与すべきである。またプロジェクト管理の取引コストを軽減するためにコーディネーターをプールしたり、協力事業の合意内容を慎重にモニタリング、さらには、透明性を確保する努力も必要である。

「南南協力は、南北協力の終焉を意味するものではありません。しかしアフリカ諸国はアフリカに関わる国際問題について発言権を持ちたいのです。」とシディロポウロス所長は付け加えた。

南アフリカ第二の通信企業の社長であるスニル・ジョシ氏も、南南関係は貿易というより協力をベースにしたものであるべきと考えている。彼は、アフリカは天然資源以外にも提供できるものがある、という。たとえば、インドや中国に比べて若い労働力がそれである。

「2009年当時、生産年齢人口に属するインド人は全体の64%でした。しかしこの割合は2020年には57%に低下すると見られています。ちなみにインド人の平均年齢は27歳であり、中国人の場合は37歳であった。一方、アフリカの平均年齢はこれらよりはるかに低いことから、こうした若い人的資源が、将来的にはアフリカ大陸の強みとなっていくでしょう。」とジョシ氏は語った。

またジョシ氏は、「経済成長は、進歩をはかる際に考慮する要素の一つでしかありません。人々や文化に対する好影響といった側面も考慮にいれなければならないのです。」と語った。

南南協力を検討する際、アフリカ諸国は現実的な判断をすべきです。それは南南協力が南アフリカ共和国のような比較的裕福な国には適しているかもしれないが、多くの後発途上国にとってはむしろ南南協力よりも援助の方が効果的と考えられるからです。しかしいずれにしても、南南協力はアフリカの成長段階を支える土台となる戦略の一つとなりえるでしょう。」とジョシ氏は語った。

アフリカ諸国とインド・中国の国際協力の可能性について報告する。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japan戸田千鶴

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核弾頭数減少にも関わらず核軍縮への道のりは遠い

【ニューヨークIPS=タリフ・ディーン】

核拡散防止条約(NPT)で核保有国として認定されている米ロ英仏中の5カ国にインド、パキスタン、イスラエルを加えた8カ国が保有している核弾頭総数は20,500発以上で、2009年時点と比較すると2000発以上減少している。しかしこうした壊滅的な兵器の5,000発以上が依然として実戦配備されており、その内約2000発は高度な「即応態勢」に置かれている。

こうした最新数値は、スウェーデンの軍備管理・軍縮に関する独立シンクタンク「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」が6月7日に発表した、世界の軍備動向に関する2011年の年次報告書に収録されている。

現在、世界最大の核兵器保有2大国はロシア(11,000発の核弾頭を保有)と米国(8,500発)で、フランス(300発)、中国(240発)、英国(225発)、パキスタン(90~110発)、インド(80~110発)、イスラエル(80発)が続いている。

 同年次報告書は、米露両国が2010年4月に締結した新戦略兵器削減条約(新START)において双方の戦略核兵器の削減(配備上限をそれぞれ1550発とする)に合意した点を指摘する一方で、「しかし米露両国は現在、新たな核兵器システムの配備を進めているか、または配備の意志を明らかにしており、無期限に核兵器を保有する決意と思われる。」と記している。

またSIPRIは、隣接する核兵器保有国インド・パキスタン両国については、核弾頭の装着が可能な新型弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発を引き続き進めているほか、「核兵器製造目的で核分裂性物質の生産能力拡大を推進している。」と分析している。

従って、世界の核弾頭数は確かに減少しているが、核軍縮は依然として、ほとんど進展していない状況にある。

この状況について、グローバル安全保障研究所(GSI)のジョナサン・グラノフ所長は、「量的な側面だけ見れば、もちろん核弾頭数が削減されたことは評価すべきでしょう。しかし質的な側面にも着目すれば、核兵器事業に多額の資金が投入され核兵器の近代化が進められている現実も踏まえる必要があります。」と語った。

グラノフ氏は、「核軍縮に向けた全般的な進歩というものは、核兵器保有国と非保有国が協力して、核廃絶という方向性を共通の目的として明確に設定することができて初めて成し遂げることができるのです。」と指摘した。

そのような明確な方向性を打ち出せるかどうかは、今後国際社会が、国際協定や法律文書の枠組みを通じて法的拘束力を持ち例外なく適用される核兵器禁止に向けて、準備プロセスに着手できるかどうかにかかっている。

「そのような明確なコミットメントがあれば、段階的に核弾頭数を削減することが、すなわち核兵器の政治的・軍事的重要性を引き下げることにつながるという意味合いを持たすことができるのです。」とグラノフ氏は付け加えた。

最も重要な点は、核兵器を廃絶するという国際社会のコミットメントであり、「これに関してはレトリックも行動が伴って初めて信用に足るということになるのです。」とグラノフ氏は語った。

SIPRIのシャノン・カイル上席研究員は、「米露両国が合意した新START条約は、数十年に亘る核戦力維持を前提とし、核兵器の近代化を国防政策の重点に据えていることから、本当の意味での核軍縮に向けた一歩とは言えません。」と語った。
 
米国の核兵器計画を監視・分析している西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長は「SIPRI年次報告書は、私が長年に亘って-少なくとも米国上院が包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を拒否したことに関連して1990年代半ばから指摘してきた点を実証するものです。つまり、米国の核兵器計画は、『たとえ数は削減しても、より近代化された核兵器で永遠に優位を保つ』というコンセプトに基づいているのです。」と語った。

「核弾頭数が想像を絶する夥しい数にのぼったピーク時から比べると現在は大幅に削減されていることから、一般にこれを軍縮と混同する傾向があります。しかし、20,000発を超える核弾頭が僅か8或いは9カ国の掌中にあり、人類と地球にとって耐え難い脅威であり続けているというのが今日の現実なのです。」とカバッソ氏は強調した。
 
「冷戦が終わり、バラク・オバマ大統領が高尚な軍縮レトリックを唱えている一方で、核兵器の先制使用が、依然として米国-これまで戦争で核兵器を使用した唯一の国-の安全保障政策の根幹を占めているのです。」とカバッソ氏は指摘した。

そしてこうした米国の核兵器の先制使用を基礎に置く核抑止政策は、他の核兵器保有国の大半の国々における安全保障政策に反映されている。

かつて米国上院のCTBT批准拒否は、その後の「核兵器の近代化及び備蓄性能維持計画」に巨額の政府予算を投入する道筋をつけることとなったが、今回の上院による新START批准承認は、この傾向にさらに拍車をかける結果となった(例:オバマ政権は核兵器近代化5カ年計画のために850億ドルの支出を約束等)。

「こうした新START批准承認を条件とした上院の要求をオバマ政権が受け入れた結果、STARTプロセスは向こう数十年に亘って核弾頭及び運搬手段の近代化を伴うものとなり、事実上軍縮の流れに反するものとなってしまっているのです。」と2008年に「国際平和ビューロー」のショーン・マクブライド平和賞を受賞したカバッソ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|イスラエル-パレスチナ|和平が遠のく中で平和の灯を守る人々

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【ユトレヒトIPS=フランク・マルダー】

政治家たちが和平プロセスを凍結させてしまった一方で、なお和解は可能だと信じる人々が集う多くのグループが、イスラエル、パレスチナ双方に存在する。彼らは、「どちらかの立場を選んだ瞬間から、あなたも紛争の当事者になってしまうのです。」と述べ、国際社会に対して、対立する双方が作り出すステレオタイプ(固定概念)を信じないよう呼びかけている。

「私たちは少数派ですが、革命はいつも少人数のグループから始まるのです。」と、テルアビブ大学の社会学者シロミット・ベンジャミン氏は語った。彼女はユダヤ人であるが、父がシリア人のため、「ミズラヒ(mizrahi)」と呼ばれるアラブ系ユダヤ人である。「だから私は、アラブ人を敵とは思えないのです。アラブは私の家族の文化の一部なのですから。」とベンジャミン氏は語った。

ベンジャミン氏は、最近アラブ系ユダヤ人の若者たちがアラブ世界で民主化を求める街頭デモに参加している若者たちへの連帯を表明した宣言書「Ruh Jedida: A New Spirit for 2011」の署名者の一人である。イスラエルのアラブ系ユダヤ人たちは、アラブ世界でデモに参加している若者達が訴えようとしている問題への理解を示して、「私たちも、大半の市民の経済的社会的権利を踏みつけ…アラブ系ユダヤ人、アラブ人、そしてアラブ文化に対して人種差別による壁を巡らせる政権のもとで生活しています。」と宣誓書に記した。

 ユダヤ人とアラブ人の争いは、しばしば作り出された固定観念によって悪化してきたが、こうした若きアラブ系ユダヤ人達は争いのどちらの側につくことも望んでいない。そしてそう考えているのは彼らだけではないのである。

「私の知っている大半の人々は本当に平和を望んでいます。しかし大半の人々は相手側を信頼できないのです。」とヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)で人権問題に取り組むラビ(ユダヤ教の宗教指導者)のために活動しているイェヒエル・グレニマン師は、IPSの電話取材に応じて語った。「パレスチナ人達は、自分たちの土地が占領されていることから明らかにユダヤ人を恐れています。しかしユダヤ人の恐れにも根拠があるのです。彼らの多くは、第二次世界大戦中に家族全員を殺されており、ハマスがイスラエルを滅ぼすという話を耳にして恐れを抱くのです。つまりパレスチナ人とユダヤ人は、双方が変わり、お互いに対する信頼を築いていかなければなりません。」

この人権団体には様々な政治的な背景をもつ約120人のラビが加盟しており、今月には権威あるアメリカン・ガンジー平和賞を受賞している。「私たちは日常生活の具体的なレベルでトーラ(ユダヤ教の律法)の教えを実践したいのです。例えば、私たちはパレスチナの人々と共にオリーブの収穫にでかけたり、ユダヤ人入植者を相手とした裁判にパレスチナ人の代弁者として証言したりしています。現在、米国からの団体が到着するのを待っており、彼らに東エルサレムを案内する予定です。」とグレニマン師は語った。

「私たちは共に生き残るか、それとも共に滅びるか2つに1つです。」とパレスチナ紛争に関する実際的な解決に向けた研究を行っているシンクタンク「イスラエル・パレスチナ研究情報センター(IPCRI)」のハンナ・シニオラ共同代表は語った。「例えば、環境問題を例に挙げると、紛争のために私たちは水資源の管理をおろそかにしています。その結果、時折帯水層(地下水を含む地層)が汚染されることがあるのです。もしユダヤ人とパレスチナ人がともに協力し合わなければ、私たちはともに災害に直面することになるのです。」

またシオニラ共同代表は、「もちろん、私たちパレスチナ人は、占領により虐げられており、自身の独立国家を必要としています。しかし独立後の私たちの将来は、ユダヤ人の隣人の将来と引き続き密接に関わっているのです。両民族はこの小さな土地に共に生きていかなければならないのです。ですから、私たちは両者間のより温かい関係を築くために道を切り開く努力をしているのです。」と語った。

「それは大変難しい取り組みです。」と、イスラエル国内において大多数を占めるユダヤ人と少数派のアラブ人の間の団結と連帯を育む活動を行っているアブラハム基金のアモン・ベエリ-スリッツェヌ共同代表は同意した。

さらに同氏は、「私たちはユダヤ人、パレスチナ人双方のコミュニティーと活動に取り組んでいますが、同時に全ての人から信用を得るのは難しいのが現実です。他のアオボカシー団体がしばしばイスラエル政府と対決する中で、私たちがそのような立場をとらないことが影響しているのかもしれません。私たちはユダヤ、パレスチナ双方のコミュニティーとも、そして政府とも協力するように心がけています。例えば、イスラエル教育省でアラブの言葉や文化を教えたり、イスラエル警察がアラブ系市民に対するサービスを向上させるための支援などを行っています。こうした取り組みが大変デリケートなものであることは容易に想像できるでしょう。」と語った。

「ムサラハ:和解のための聖職者の会(Musalaha Reconciliation Ministries)」のサリム・ミナヤー代表は、「国際的にもそうした取り組みは大変デリケートなものです。」「世界中の団体は一方を受け入れ、他方を否定します。私たちもしばしば、パレスチナ人側とユダヤ人側の双方から、相手側を非難して忠誠心を証明するよう求められます。しかし、和解のために従事している私たちはそのような要求に応えることはできないのです。私たちはユダヤ人とパレスチナ人の双方を支持し、擁護する存在でなければならないのです。なぜなら、どちらかの側を選択した時点から、紛争の当事者になってしまうからです。」と語った。

この団体は、パレスチナ人とユダヤ人のキリスト教徒が参画している。「私たちには『汝の敵を愛せよ』と説いたイエス・キリストという共通の信仰があります。しかし私たちは活動に共に取り組む人々の宗旨を問いません。例えば、私たちはパレスチナ人とユダヤ人の青年リーダーを対象とした『デザートエンカウンター』という砂漠をラクダに乗って旅したりハイキングしたりするプログラムを実施しています。両民族の青年リーダーたちは旅を通じてお互いを知り合うのです。」とミナヤー代表は語った。
 
一方で、パレスチナ人が苦しみ、両者の対立が激しくなっている中で互いを知り合うことに何の意味があるのかという声もある。これはまさに、ベツレヘムで会計士としているムサ・スベー氏が時折考えている疑問点である。

スベー氏は、「私は平和活動に従事しているイスラエル人に合う機会がありました。その時間が全く無駄だったわけではないし、僅かながらお互いの認識を改めることもできたと思います。しかし、結局はそのことで和解に達したとはいけません。イスラエル、パレスチナ双方とも国民に選ばれた政府は、明らかに益々右傾化してきており、両民族の大半の人々は行動においても思考においても、平和から依然としてほど遠いところにいるのです。」と語った。

ラビのグレニマン師は、「スベー氏のような人に私が唯一言えることは『私たちは君のような人が必要だ。』ということです。」「私の同胞のユダヤ人達が抱いている恐怖心は本物です。私たちにはこうしたユダヤ人に会って恐怖心を取り除いてくれるパレスチナ人が必要なのです。もし人々が、相手側が危険だから会いたくないというのであれば、そうした恐怖心はやがて現実のものとなってしまうのです。そしてこうした恐怖心こそ、私たちの政府が利用しているものなのです。だからこそ、私たちは人々が互いに信じ合い、相手側の人々も神の姿になぞらえて創造された人間であると捉えられるよう手助けすべきなのです。つまり、恐怖心と同様に信頼の気持ちも、やがて現実のものとなっていくものなのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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