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「グローバル・ヒバクシャ:核実験被害者の声を世界に届ける」(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

核兵器禁止条約第2回締約国会議の最終日、カザフスタン国連政府代表部と共催したサイドイベントで核実験による被爆者証言を収録したドキュメンタリー映画を先行上映した創価学会インタナショナルの寺崎広嗣平和運動総局長は、国連ニュースサービスのナルギス・シェキンスカヤディレクターの独占インタビューに応じ次のように語った。映像記録・編集は浅霧勝浩INPS Japan理事長が担当した。なお、国連ニュースサービスのウェブサイトに掲載された記事(ロシア語版)とその日本語翻訳版はこちらへ

【INPS Japan/ 国連ニュース】=ナルギス・シェキンスカヤ

Nargis Shekinskaya, Director, UN News Service (RU) Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
Nargis Shekinskaya, Director, UN News Service (RU) Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

UN News:サイドイベントで先行上映された「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」を観て、大変感銘を受けました。創価学会インタナショナル(SGI)がこのドキュメンタリー制作を支援することが重要だとなぜ思われたのですか?

寺崎:ご存じの通り核兵器禁止条約(TPNW)は第6条・第7条で核実験の被害者のケアと被災地の修復を謳っています。この6条と7条故にTPNWが人道的条約と言われる所以でもあるのですが、広島・長崎は比較的知られていますけども、世界中の核実験場跡地に多くの被害を受けた人々が残っているということを知らない人が多いです。

この核禁条約の理念を知ってもらう意味でも、世界中の被爆者、いわゆる「グローバル・ヒバクシャ」の証言を収録して、広くいろいろな人たちに認識をしてもらうことが必要だと考えたからです。よって、我々の友人でもあるカザフスタンのNGOと一緒に、この事業を進めることにしました。素晴らしい作品ができたと思っています。ご覧いただきありがとうございました。

その発表会を兼ねたサイドイベントには、実際に、カザフスタンから第三世代の被害者の方が証言に来てくださったので、非常に大きな示唆を与える、またグローバルな被爆者の人たちのことをもっと知らなければいけない、そのようなことをイベントに参加された人たちにインパクトを与えることができたと思います。

UN News: 日本への原爆投下を生き延びた方々をヒバクシャと認識してきましたが、例えばセミパラチンスク核実験場の被害者のことをヒバクシャと聞くのは初めてです。今では、世界中で核実験の被害者も被爆者と呼ぶようになったのでしょうか?

寺崎:戦争で被爆を受けた唯一の国は日本。広島、長崎です。この地の被害者を被爆者と呼んできたわけですけれども、そういう意味では今まで核実験とか、場合によっては核物質の採掘に従事する人々も被爆しているわけです。今までは被害者と呼んできましたが、今はそれら全ての人たちを含めて「グローバル・ヒバクシャ」と呼ぶことが多くなっています。つまり、実験の段階、核物質の採掘の段階等で既に被爆者は存在しているわけです。それらの方々のことも我々は共有しないといけないですね。

UN News: 今回の上映会を含むサイドイベントをどのように評価されていますか?ドキュメンタリー映像をみた人々の反応はどうだったでしょうか?

I Want To Live On: The Untold Stories of the Polygon. Documentary film. Credit:CISP

寺崎:もちろんこの映画を作ったのはこれから多くの人たちに観てもらうために作ってきたわけですから、最初に観ていただいた人たちがどういう感想を持ったかということは、これからの私たちのこの作品の活用に関する非常に重要な関心事でした。反応は、私は単に大変な人たちが生き抜こうとしている、そのことに感動した等、それはその通りです。しかしそういうレベルにとどまらないで、なぜそういう現実に直面してしまったのか。どうして我々はこれまで知らなかったのか。知ることができなかったのか。そういうことがより認識されていくことが、合わせて重要なことだと思っています。そのための一つのリソースとして使っていきたいと思っています。もう少し幅広く私たちは、各地の被爆者の方たちの証言も集めて映像化して広く発信できるようにしたいと決意しています。

これは核禁条約6条・7条のある意味での必要性というものをサポートする活動にもなると思っています。

UN NEWS: このような認識を人々に深めてもらうために国連はどういう役割を果たすべきだと思いますか?

寺崎:国連が機能しているかどうかということが、ウクライナの問題、或いはパレスチナの問題を通して、ネガティブな意見が横行している面がありますけれども、私はこうした問題が生じている時こそ逆に、唯一の多国間の会議の場所である国連というものの存在が大事だし、国連ができることはもっとあると私は信じています。

Mr.  Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, SGI. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, SGI. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

今回の核禁条約第2回締約国会議でも、あまり気付いている人がいないのですが、初めて国連の場で、いわゆる核兵器の非人道性を論じるセッションというものをやったわけですね。シンポジウム等を通じて我々市民社会もやってきたんですけども、今回初めて国連本部の本会議の場で、それをメキシコが議長国としてやりましたね。これは非常に大きな出来事だと感じています。

扉を少し開いた。でも可能性は、自分たちがそうだから言うわけではありませんが、国対国の議論が行き詰ったときには、もっと市民社会との関係を強化していく、国連に関わるステークホールダーを増やしていかなければならないですね。それは多分国連の機能を活性化するためにも有効だし、各国と市民社会が対話できる関係ができることも私は健全な方向だろうと思います。対話しながら高めていく関係になるべきですね。

UN News: 核実験の被害者も「ヒバクシャ」とよばれるようになってきていることは、私たちにとっても新たな側面ですし、重要なことだと思います。

寺崎:4年前(2019年)に私もセミパラチンスク旧核実験場に実際に行きました。(カザフスタンの首都)アスタナからもすごく遠いです。

UN News: 私たち(シェキンスカヤ記者と浅霧INPS Japan理事長)もセミパラチンスク旧核実験場は行きました。

セミパラチンスク旧核実験場。ここでは1949年から89年までの間に、468回の核実験が行われた。 Photo: Nargis Shekinskaya.

寺崎:旧核実験場を訪問した時の衝撃は、(自分はこの問題について)もっと頑張らねばならないというエネルギーを与えられたと思っています。360度あれだけの荒涼とした旧核実験地の大地を目の当たりにして、その意味では、我々が頭で考える前に、出来事、事実(ファクト)をきちんと認識することが、やはり重要なことだと思いました。抽象的な議論をしているうちは、問題は解決の方向に進まないと思います。これは我々市民社会がむしろできる大きな仕事ではないか。外交官の人たちはデスクワークで忙しいが、外交官も市民社会も力を合わせることが重要だと思います。

UN News: 国連は市民社会が果たしてきた役割を非常に高く評価しています。

寺崎:国連はできなかったことも多いし課題もあるけれども、しかし一方で、できたことも沢山ありますね。みんなそれを忘れていますね。我々は国連の支持者です。国連を支える以外に、他に代わるものはないです。皆さん方(国連ニュース)の発信が有効であることを期待しています。

UN News: 有難うございました。

Intererview with Mr Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, SGI. Filmed and Edited by Katsuhiro Asagiri, Presidentof INPS Japan.

INPS Japan

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カザフスタンの経済変革: 2029年までにGDPを倍増させ、世界の投資家を惹きつける

【London INPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

カザフスタンのカシム・ジョマルト・トカエフ大統領は、年頭のインタビューで、新しい経済モデルに切り替え、2029年までに国内総生産(GDP)を倍増させ、最大4500億ドルに達するという目標を概説した。同国の昨年の一人当たりGDPは約13,000ドルである。国際通貨基金(IMF)によると、2028年までにこの数字は16,800ドルに増加すると推定されている。

こうした野心的な目標を達成するため、大統領は経済運営について2つの主要なアプローチを示した。

まず第一に、大規模な産業プロジェクトの実施とインフラ開発計画の作成が行われる。これらのプロジェクトは現在検討中であり、大企業、機関投資家、専門家コミュニティとの協議が行われている。

また、民営化や資産返還など、投資誘致の重要な問題を解決する必要がある。トカエフ大統領は12月4日、カザフスタン経済への投資誘致の効率を高めるための措置に関する政令に署名した。また、最近、投資環境と投資プロジェクトの質の高い実施を促進するための広範な権限を持つ投資本部が設立された。

もうひとつの重要な対策は、経済全体に新しい「ルール」を確立するための制度改革である。政府は大統領の指示に基づき、国とビジネス間の関係を再構築するための新しい税法を策定している。ここでの焦点は、投資家に快適な条件を作りつつ、必要な予算収入レベルを維持するバランスを達成することである。トカエフ大統領は、公共調達と官民パートナーシップに関する新法は、透明性と財政安定のために極めて重要であると強調した。また、「カザフスタンで始まった政治改革と社会の民主化は、外国人投資家にとって予測可能な市場を作り出している。」と語った。

改革には次のような施策が含まれている。つまり、公共信託国民評議会が設立され、選挙、政党、国会に関する法律が改正された。

トカエフ政権による改革の主な目的の一つは、より公平でバランスのとれた政治体制を確立することである。この目的のために、憲法改革の枠組みの中で、民主主義を守るためのいくつかの障壁が設けられた。つまり、①人権と自由のさらなる保護を保証する憲法裁判所が再設立され(これにより、 検事総長やオンブズマンを含むカザフスタン国民は、憲法裁判所に直接申請して、憲法の原則に矛盾すると考えられる違法な規範を宣告することができるようになった)、②大統領の任期は一期7年と変更されず、③カザフスタン国会の下院(マジリス)の権限が大幅に拡大された。

また、集会に関する新法が採択された後、従来の許可制の代わりに、平和的な集会のための届出手続きが導入された。

カザフスタン共和国憲法に関する国民投票の噂について、トカエフ大統領は、「憲法を改正してでも権力を変更することは、経済界と投資会社の双方に混乱をもたらすものであり、国際社会に対する義務を維持し、とりわけ2年前の1月の争乱後にかなり活発な市民社会が形成されているカザフスタンでは、このような慣行は現実的ではない。」と反論した。

外交問題についてトカエフ大統領は、「カザフスタンは地政学的に重要なプレーヤー(中国、ロシア、西側諸国)の間のバランスを保つため、マルチ・ベクトル外交を堅持し続けている。」また、「現在の困難な地政学的状況において、すべての外国のパートナー、特に近隣諸国と互恵的で実用的な協力を発展させることがカザフスタンにとって重要である。」と語った。

トカエフ大統領は、「C5+1」フォーマット(中央アジア5カ国と域外の国との対話フォーマット)の妥当性について言及し、中央アジアは、地政学的現実、貿易、投資、ビジネス、技術革新における幅広い機会について独自のビジョンを持つ、ダイナミックに発展している地域であるとの見解を示した。そのため、中央アジアに対する世界の関心は顕著に高まっており、「C5+1」対話プラットフォームに対する需要も増加している。

トカエフ大統領は、2024年にカザフスタンがいくつかの影響力のある地域・国際組織や団体(上海協力機構集団安全保障条約機構、アラル海国際基金など)の議長を務めること、今年6月に多くの国の指導者や世界的な企業の参加を予定しているアスタナ国際フォーラムが重要なイベントになる、と語った。

トカエフ大統領はドバイで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第28回締約国会議(COP28)で演説し、世界的な気候変動問題への取り組みに対するカザフスタンの強いコミットメントを伝えるとともに、主要な取り組みについて概説した。

この席でトカエフ大統領は、カザフスタンが中央アジア地域で初めてパリ協定を批准し、2060年カーボンニュートラル戦略を採択したことを強調した。また、カザフスタンの新しい環境規範について言及し、国民経済のほぼすべての部門においてグリーン技術の包括的な適応を促進することを目的としたものであると説明した。

トカエフ大統領は、民間の環境保護イニシアチブを支援する国の姿勢を強調し、プラスチック廃棄物をなくすプロジェクトに取り組むカザフスタンのパッカーズ協会に言及した。

トカエフ大統領はまた、カザフスタンがグローバル・メタン・プレッジ(メタンの排出量を2030年までに2020年比で30%削減することを目標とする国際的枠組み)に参加することを決定したことを発表し、メタン排出量の削減が地球規模の警告を遅らせる最速の方法であると語った。大統領は、国際的なパートナーに対し、これらのイニシアティブへの具体的な支援を提供するよう呼びかけ、気候変動対策資金に対するコミットメントの拡大を求めた。

「2050年までに世界の気温上昇を1.5度に抑えることができたとしても、中央アジア諸国は最大2.5度の気温上昇に直面することになる。これは、水不足、猛暑、砂漠化、極端な水文学的現象を引き起こすだろう。」とトカエフ大統領は主張した。

カザフスタンが、来る国連総会で、水へのアクセスなどグローバルなスケールでのガバナンスメカニズムを確立することを目的とした国際フォーラム「ワン・ウォーター・サミット」を、フランスと共同開催することに合意したことは非常に重要だ。

近年、カザフスタンが経済、政治、環境、外交などの分野で打ち出した政策、改革プログラム、構造改革の結果として、同国がより強力で責任感のある立派な国として世界の舞台に登場することが期待されている。「カザフスタンは、急速に不安定になりつつある世界において、調和をもたらし、平和を維持し、安定のために働くという役割を果たす用意がある。」とトカエフ大統領は語った。(原文へ

INPS Japan/ London Post

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【フナフティ(ツバル)IDN=カリンガ・セネビラトネ】

アラブ首長国連邦(UAE)での[国連気候変動枠組み条約]第28回締約国会議(COP28)が新たな気候変動補償基金からいかに資金を分配するかの議論を進める中、太平洋の小島嶼国ツバルは、対応に数百万ドルを要するかもしれない気候変動による数多くの問題に直面している。

元公務員のセレタ・タウポさんは、「私はここで生まれ育った。私たちのきれいな海辺はなくなってしまった。もう岩しか残っていない。かつて海岸沿いにあったヤシの木もなくなった。海が大通りまで迫っている。」と嘆いた。

Tuvalu – Location Map/By OCHA, CC BY 3.0

ツバルは気候変動との闘いの最前線に立たされている。南太平洋の、世界で最も辺鄙なところにある国だ。人口1万1200人、環礁が13カ所のツバルは、今後30~40年で国が海の下に沈んでしまわないように、温室効果ガスを排出する主要国により大胆な行動をとるよう繰り返し要求してきた。

2017年、この脅威に対する新たな防衛策として「ツバル沿岸適応プロジェクト(TCAP)」が開始され、7年間で3890万ドルの費用が見込まれている。「緑の気候基金」が3600万ドルを提供し、ツバル政府は290万ドルを協調融資する。この事業はツバル政府と協力して国連開発基金(UNDP)が共同で実施している。

高地に避難することが難しいツバルでは、TCAPによって、環礁から浚渫砂を利用して7.3ヘクタールの土地があらたにかさ上げされた。海抜3メートルであり、首都フナフティのあらたな名所になっている。2100年までは海水面よりかなり高い位置にあり、大規模な嵐にも耐えうることから、家屋やオフィスビルがこの土地の上に建つことになっている。

2023年7月、TCAPはツバル政府に最新型のオンラインシステムを提供し、気候変動によって引き起こされる海水面の上昇や頻繁に発生する暴風雨に伴うリスクを発見し、それらへの対応策を練り、そのリスクを減ずることができるようになった。このデータは他の環礁の同種の事業にも転用可能だ。

「この緻密なデータはTCAPの主要な事業がデザインされている基本線となるものだ。波の影響モデルやデータもまた、TCAP危険情報データベースの基礎をなしている。これらすべての活動が、太平洋の小島嶼開発途上国としては初めてのものだ。TCAPの全国プロジェクト責任者のアラン・レスチャー氏は、「フナフティの埋立地区の設計に資する情報を提供しているのはまさにこのデータだ。」と語った。

気候変動は神による罰か?

このプロジェクトは、家屋、学校、病院などの主要な沿岸インフラが高潮による被害を受けやすいという脆弱性を軽減するとともに、弾力的で財政的に持続可能な沿岸管理のための制度、人材、知識を強化することを目的としている。

近年は、台風の強大化、海水面の上昇、気温の上昇によって、食料安全保障や健康、水資源などの面で持続可能な開発目標(SDGs)達成の取り組みが相当に難しくなってきている。

ツバルのキリスト教会連合のフィティラウ・プアプア代表は、気候変動の脅威はここツバルで重大であり、人々を守ることがきわめて重要だと語った。「干ばつや暴風雨の頻度が増している。しかし、地球温暖化による海水面上昇の影響はこの国では顕著だ。市民は海水面の上昇を常に記録してきた。私たちの国で最も高いところは海抜わずか1メートルしかない。」と指摘した。

太平洋諸国には敬虔なキリスト教徒が多く、遠隔地のコミュニティーでは気候変動は神からの罰でありどうしようもないことだと信じられているという。プアプア代表はそのような考え方を否定した。「民が神の創造物である自然を破壊したら、その結果を背負わねばならない。その一つの帰結が私たちが現在気候変動として経験しつつあるものだ。しかしこれが神からの懲罰だという考え方は支持できない。」

天候パターンの変化は人々の健康と食料安全保障に影響を与える、とツバル赤十字の地域保健コーディネーターを務めるミリキニ・ファイラウツシ氏は指摘した。「この間、デング熱が流行った。より蒸し暑く、そして乾燥とするといった気候の変化がその要因のひとつだ。」

台湾がツバルの野菜生産を支援

ファイラウツシ氏によれば、気候の変動のために食料生産が低下しており輸入に頼らざるを得なくなっているという。かつては生計を立てる基本手段だった漁業も影響を受けている。「私の父は漁師だったが、今では潮が変化してしまいかなり沖まで出なくてはならなくなった。気温上昇で潮目と風が変わってしまったからだ。かつては環礁の内部で漁ができたが、今では沖に出ないといけない。」

ツバルでは野菜や果物はほとんど栽培されておらず、市場でも売られていない。裏庭に自家用の小さな野菜畑を持っている人もいる。しかし、台湾とツバルの開発援助プログラムにより、台湾がツバルに野菜栽培を導入している。ツバルは台湾と国交のある4つの太平洋島嶼国のひとつである。

台湾人はツバル政府より与えられた空港近くの浜辺沿いにある農地で野菜栽培を成功させた。毎週火曜と土曜に一般市民に野菜を売る。おもにキュウリとほうれん草だが、時にはカボチャやゴーヤもある。市場は朝6時半に開き、7時には売り切れてしまう。

事業はツバルと財団法人国際合作発展基金会の協力協定の下で2004年に始まった。ツバル政府はフナフィティに0.6ヘクタール、バイタプ島に2ヘクタールを準備した。

ツバルに派遣されている農業技術支援者のチェン・ファピンさんは「ここでの野菜作りには課題が多い」と話す。「ひとつの理由は土壌だ。環礁ではすべての土壌がサンゴ礁(白砂)からできている。だから、有機肥料のコンポストを使わねばならない。時には化学肥料も使う。(この島ではたくさん取れる)ココナッツの葉をブタの肥料と混ぜて有機肥料を作る。我々は豚舎を持っているわけではないが、豚を飼育している人は多いからね。」

ファピンさんはまた、地元の人びとに野菜栽培を習わせて、政府が立ち上げた小農園で雇用しているという。「ここでの平均収穫量は月に2000トン程度だが、野菜の需要は近年この国で高まっている」。彼らの他の農場では月に2.5トンの収穫があり、バイタプ島の1000人の住民に提供されている。島の寄宿中学校もその恩恵を受けているひとつだ。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

ツバルの収入源は限られており、主な収入は南太平洋マグロ条約に基づく漁業ライセンス料、対外援助金、海外労働者(主にニュージーランド)からの送金である。遠隔地であることと、航空運賃が高いことが、観光産業の発展を妨げている。フィジーからフナフティに到着する便は週に3便しかなく、ホテルはゲストハウスに近い3軒しかない。

「ツバルの海の女性たち」の代表を務めるバサ・サイタラさんによると、「私たちが観光産業の育成を始めた際、『エアーB&B』のような部屋を提供するように女性に呼びかけがなされた」という。「私も部屋を提供した女性のひとりだ。しかし、航空券が高いのでビジネスは成り立たなかった。1年に1人しか客がいなければ協力する者はいなくなる。観光産業なんか準備しても意味はない、ということになる。」

教会指導者のプアプアは、ツバルは漁業では有利だが、大規模な農業には投資が必要だと考えている。「私たちには最小限の資源しかありません」と彼は悲しそうに語った。(原文へ

INPS Japan

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ナイジェリアでは気候変動による災害が急増しており、政府は気候変動の影響を抑えるための取り組みを優先するとしている。

【アブジャ(ナイジェリア)IPS=レオン・ウシグべ】

 Orthographic map of Nigeria/ By Ukabia – Own work, CC BY-SA 3.0

2022年だけで、洪水により少なくとも662人が死亡、3174人が負傷し、約250万人が避難し、20万戸の家屋が倒壊した。

世界銀行は、2012年以来、国内の6000平方キロメートル以上の土地が侵食の影響を受けており、そのうち約3400平方キロメートルが大きな影響を受けていると報告している。

ナイジェリア侵食・流域管理プロジェクト(NEWMAP)のチームによれば、当時、谷底侵食による被害は毎年1億ドルにのぼると推定されていた。

NEWMAPの下で、政府は世界銀行と協力し、劣化した土地の再生や侵食と気候変動に対する脆弱性を軽減するための事業を23州で開始した。このプロジェクトには4つの作業分野の流れがあった:

  • 侵食と流域管理のインフラに投資し、土地の劣化を抑える、
  • 侵食や流域のモニタリング、災害リスク管理を強化するための情報サービスの開発、
  • ナイジェリアの気候変動対策の戦略的枠組みを強化し、低炭素開発を促進する。
  • 連邦および州レベルでのプロジェクト管理を、財政的、社会的、環境的な安全対策と監視、広報、およびプロジェクトの監視と評価を通じて支援する。

2021年に報告された成果は肯定的なものであった。プロジェクトは3万5000人に直接的な利益をもたらし、コミュニティ利益団体への小額の助成金を通じて10万人以上に間接的な利益をもたらした。このプロジェクトを通じ、185058人が訓練を受け、その42%が女性だった。

第一の作業分野では、プロジェクトは持続可能な管理下にある土地を倍増させ、60近くの参加型地表水管理計画を完成させ、谷底侵食を大幅に減少させた。

第二の作業分野では、環境影響評価ガイドラインの草案を作成し、この地域に100以上自動水文・気象・洪水早期警報システムを導入した。

また政府は、北部のバウチ、ジガワ、ソコトの各州で、何千本もの木の種や苗を植えて土地を回復させている。

第三の作業分野では、政府はグリーンボンドを発行し、燃料効率の高い調理用ストーブの配布や、農村部の保健センター向けのソーラー発電機の開発など、気候変動に配慮したプロジェクトへの民間投資を喚起した。

第四の作業分野では、チームはリモートセンシング、地理情報システム技術、360度カメラとドローンを使った遠隔監視と苦情解決をテストした。

全体として、NEWMAPはナイジェリアの行動と結果に対する意欲を示した。

行動の加速を求める

ナイジェリア水文サービス機関(NIHSA)によると、現在、ナイジェリアの36州のうち32州と連邦首都特別地域の178の地方行政区(LGA)が、高い確率で洪水危険地域に該当している。また、ナイジェリアの744のLGAのうち224が中程度の確率の洪水危険地域に、372が確率の高い洪水危険地域に含まれている。

ナイジェリアの830キロ以上にわたる海岸線は、洪水、浸食、水質汚染、大気汚染の脅威にますます脅かされている。大西洋に面するニジェール・デルタ州のコミュニティは、海岸線を遮る岩盤の浸食により、家や農地を失い、あるいは失う恐れがある。

NASA Space Shuttle Overflight photo of the Niger Delta/ NASA – File:STS61C-42-72.jpg, Public Domain

砂漠化によって森林が消滅しつつある。砂漠化防止アクションによると、同団体が活動する地域では、2007年に存在していた森林の半分しか残っていないという。

2023年5月まで水資源大臣を務めたスレイマン・フセイン・アダム氏は、洪水が生命と生活、農業、家畜、インフラ、環境に大きな被害をもたらすと警告していた。

ナイジェリアの災害管理を担当する国家緊急事態管理庁のアルハジ・ムサ・ザカリ人材管理部長によれば、ナイジェリアにおける自然災害の頻発は気候変動と関係しているという。

「ナイジェリアは、根本的に新しい、より効率的な災害管理のアプローチを再検討する必要があるかもしれない。」とザカリ氏はインタビューで語った。

新しいアプローチ

ナイジェリアの国防大学(NDC)は8月、研究成果「気候変動対策の強化:2035年までの戦略的選択肢」を発表した。同報告書は、気候適応プログラムにおいて短期、中期、長期の目標を達成するための戦略を採用することを推奨している。

カシム・シェティマ副大統領は、現政権は、関連する個人や機関と協力し、砂漠化、海岸浸食、洪水に対処するため、気候変動への介入を優先していると述べた。

シェティマ副大統領はNDCの報告を受け取りながら、「気候変動の破壊を過小評価することの安全保障への影響に対する懸念」を政府も共有していると述べました。

政府の戦略のひとつは、人命を守り、財産やインフラへの被害を減らす予防策を国民に知らせることである。

さらに、サヘル地域の耕地面積を拡大することを目的とした「緑の万里の長城」イニシアチブを通じて、政府はバウチ、ジガワ、ソコトの北部各州で何千本もの木の種や苗を植えて土地を回復させている。

Image credit: UNCCDC
Image credit: UNCCDC

シェティマ副大統領は、「(研究)結果と政府の政策目標が一致していることを目の当たりにし、これらの課題に効果的に取り組むためには、総合的かつ包括的なアプローチが不可欠であるという我々の信念を補強するものであり、心強く思う。」と語った。(原文へ

出典 Africa Renewalは、アフリカの経済、社会、政治の発展を扱う国連のデジタルマガジンである。

IPS UN Bureau

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【国連ニュース/INPSJ=ナルギス・シェキンスカヤ】

「4年前、セミパラチンスク核実験場跡地を訪れたとき、360度あれだけの荒涼とした大地を目の当たりにして、私は本当に衝撃を受けました。」と、日本の非政府組織(NGO)創価学会インタナショナルの寺崎広嗣平和運動総局長は国連ニュースサービスのインタビューに応えて語った。

I Want To Live On: The Untold Stories of the Polygon. Documentary film. Credit:CISP

核兵器禁止条約第2回締約国会議の一環として、ドキュメンタリー映画「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」が ニューヨークの国連本部で先行上映された。この映画は、カザフスタンのNGOである国際安全保障政策センター(CISP)が創価学会の支援を受けて制作したものである。

この映画は、ソビエト連邦の主要な核実験場であったセミパラチンスク核実験場にまつわる出来事と核実験により被害を被った人々に光を当てたものである。被爆者らによる率直な証言を通して、核実験がこれまで三世代にわたって地元住民に与えた被害の大きさと今日も続く苦しみを明らかにしている。

ナルギス・シェキンスカヤ国連ニュースサービスディレクター(左)、寺崎広嗣SGI平和運動総局長(右)撮影・編集:Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

秘密施設

セミパラチンスク核実験場での最初の爆発実験は1949年8月29日に行われ、89年までこの秘密施設では地上と地下の両方で少なくとも468回の核実験が行われた。

ソ連時代の40年間にわたり、夥しい数の地域住民が被曝した。当時、このことについて語ることは禁じられていた。真実が明らかになったのは、カザフスタン共和国がソ連から独立してからである。

核実験場での最後の爆発は1989年10月に起こった。1991年8月29日、大統領令によりセミパラチンスク核実験場は閉鎖された。

現代の被爆者

セミパラチンスク実験場跡地で最も危険な地域では、残留放射線が未だに毎時10~20ミリレントゲンに達している。にもかかわらず、周辺地域にはまだ人々が住んでいる。最近まで、地元住民は汚染された土地の一部を放牧に使っていた。

「戦争で被爆を受けた唯一の国は日本。広島、長崎です。この地の被害者を被爆者と呼んできたわけですけれども、そういう意味では今まで核実験とか、場合によっては核物質の採掘に従事する人々も被爆しているわけです。今までは被害者と呼んできましたが、今はそれら全ての人たちを含めて『グローバル・ヒバクシャ』と呼ぶことが多くなっています。」と寺崎総局長は語った。

Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, SGI. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
寺崎広嗣SGI平和運動総局長 写真: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

「HIBAKUSHA 」は日本語に訳すと「被爆者」である。2014年現在、192,719人の広島・長崎の被爆者が生存している。被爆者の多くは、原爆投下後に晒された放射線被曝が原因で深刻な癌を患っている。

日本の法律によれば、被爆者には、核爆発前と爆発後2週間以内に爆心地から数キロ以内にいた人、そして、放射性降下物に被曝した人、被曝した女性から生まれた子供が含まれる。日本政府は被爆者に毎月手当を支払い、医療を提供している。

何百年も続く汚染

創価学会(創価とは価値創造の意)は、13世紀鎌倉時代の仏教の僧、日蓮の教えに基づく運動体である。核兵器のない地球の未来を積極的に提唱している。ソ連時代に原爆実験が行われた中央アジアのカザフスタンも、核兵器のない世界を求める運動に積極的に参加している。

セミパラチンスク核実験場は、プルトニウムの放射線は2万4千年ごとに半分ずつしか減少しないため、非常に長い間危険をもたらす可能性がある。カザフスタンの人々の後の世代の健康へのリスクは、何世紀にもわたって続くだろう。

1949年から1989年までの期間に、セミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーの国土に相当)では少なくとも468回の核実験が行われた。写真:Nargis Shekinskaya, UN News Service.

「世界各地に被爆者がいることを多くの人に知ってもらうためには、証拠を集め続けることが必要です。よって、カザフスタンの友人やパートナーと一緒に、このドキュメンタリー映画の製作事業を進めることにしました。私たちの努力はその影響力を結集することに重要な役割を担っています。国際社会は、グローバル・ヒバクシャについて認識する必要があります。」と寺崎総局長は語った。(原文へ

INPS Japan

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「たとえ古い万年筆であっても、偉大な作家のものだったとしたら、後の世の人々はそれを畏敬の念を持って見るものです。なぜなら、どこかでそれは偉大な人の傑作の秘密を明かすことができると感じているからです。」と池田大作氏は、1978年11月に「鏡」と題したエッセイで記している。

Pope Francisco/ Wikimedia Commons
Pope Francisco/ Wikimedia Commons

残念ながらそのようなペンを私は持っていないし、池田氏と直接面談する機会もなかった。それでも、96歳の誕生日を前に逝去した同氏は、「多くの人々にとって精神的指導者でありメンターだった。」と、教皇フランシスコが先般のメッセージで認識したこの人物に敬意を表して、このコラムを記すこととしたい。

フランシスコ教皇はさらに、池田氏の「平和への永続的なコミットメントと、生涯を通じて宗教間対話を促進し続けた取り組みを称賛」した。教皇は、メッセージの中で、「池田氏と同氏のビジョンであるすべての人々の調和を推進するために尽力している人々のために祈りを捧げます」と述べ、メッセージを結んでいる。

創価学会インタナショナル(SGI)は、2023年9月にカトリック系の聖エジディオ共同体がベルリンで開催した国際会議「平和への勇気の声をー宗教と文化の対話」に参加した・これまでも、2019年3月にローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会がバチカンで開催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」や、カザフスタンがアスタナで開催した第6回世界伝統宗教指導者会議(2018年10月)、第7回同会議(2022年9月)、そして2022年11月のバーレーン対話フォーラムなど、宗教間対話に参加してきた。ここで宗教指導者たちは、地球規模の問題について率直に意見を交換し、叡智を分かち合った。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

平和活動と核廃絶の提唱

池田氏の母の存在は「…彼の平和活動の出発点」とされているが、戸田城聖創価学会第2代会長に触発された池田氏は生涯にわたって核兵器の廃絶を一貫して提唱した。1957年の冷戦の最中、戸田会長が翌58年に亡くなる直前に「原水爆禁止宣言」を発表した際、池田氏は師と共にあった。

1960年5月に32歳で創価学会第3代会長(初代牧口常三郎〈1871年~1944年〉、第2代戸田城聖〈1900年~58年〉)として就任して以来、池田氏は、日本を中心に192カ国及び地域に1200万人以上の会員を擁し、90カ国では、その構成団体が法人団体として登録される地域社会に根差した仏教団体として発展する、その先頭に立ってきた。

キラーロボット
INPS Japan Website

1975年には、世界中の創価学会組織を結びつけるグローバルな組織である創価学会インタナショナル(SGI)を設立し、その会長に就任した。8年後、国際連合経済社会理事会(ECOSOC)はSGIを協議資格を有する非政府組織(NGO)として認定した。

創価学会の第3代会長、SGIの創立会長、そして平和、文化、教育を促進するいくつかの国際機関の創設者として、池田氏は対話の変革力を世界的な課題に取り組む中心的手段として唱えた。

SGIの6つの重点分野は、軍縮持続可能性と気候変動人権教育平和ジェンダー平等と女性のエンパワーメント人道支援である。

約15年にわたって、池田氏がINPS JapanIPSIDN)に寄稿した電子メールインタビューやオピニオン記事に反映された同氏の深い知恵、測り知れない慈悲、不屈の精神から私は大いに恩恵を受けてきた。

多才さ

池田氏の多才さと的確で明晰な文章は、私の印象に強く残っている。気候変動対策や核兵器廃絶、その他の大量破壊兵器廃絶の必要性を訴える池田氏の言葉には、緊急の気候変動対策や核廃絶を支持する人々にありがちな、終末論的なシナリオは微塵もない。

ICAN
ICAN

たとえば、「|視点|気候変動:人間中心の取り組み」では、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスの箴言「最も多くの人が共有するものは、最も注意が払われにくい」を引用し、一般的な人間の傾向を強調している。この警告は、今日、特に気候変動との戦いにおいて、依然として大いに関連性がある。

池田氏は、昨年1月に発表した緊急提言「平和の回復へ歴史想像力の結集を」の中で「『戦争ほど残酷で悲惨なものはない』というのが、二度にわたる世界大戦が引き起こした惨禍を目の当たりにした『20世紀の歴史の教訓』だったはずです。」と自身の見解を述べていた。しかし、ウクライナ戦争や中東の紛争は、その教訓が学ばれていないことを示している。

|視点|核時代の“終焉の始まり”となるか?」では、次のように主張している。「核兵器に基づく安全保障の奥底には、『目的のためには手段を選ばない』『他国の民衆の犠牲の上に安全や国益を追い求める』『将来への影響を顧みず、行動をとり続ける』といった現代文明に深く巣食う考え方がある。核問題の解決は、このような考え方を乗り越える挑戦でもあると考えてきました。」

国連の中心的役割

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

池田氏は、平和のためのフォーラムとして国連の中心的役割を固く信じていた。1983年から2022年にかけて、40回に亘って平和提言を毎年執筆し、軍縮と核兵器の廃絶、環境保護、人権の促進など、今日の重要な課題についての仏教の視点と具体的な提案を提供した。また仏教の原則に根差した人間主義の哲学を展開し、世界市民教育を提唱した。

「問題なのは、その映り方の違いによって、自分の意識にないことが自分の世界から欠落してしまうことだ。その結果、ある人々にとって『かけがえのない重み』を持つものが奪われる危機が生じていても、多くの人が気づくことなく事態が悪化してしまう恐れがある。」と池田氏は記している。

池田氏は仏教の評論から伝記的エッセイ、詩、子供向けの物語に至るまで、250冊以上の翻訳作品を出版した多作な作家でもあった。また、創価学会の歴史を小説化した『人間革命』(全12巻)、『新・人間革命』(全30巻)を執筆した。

仏教哲学者であり教育者でもある池田氏は、英国の歴史家アーノルド・トインビーやミハイル・ゴルバチョフ元ソビエト連邦大統領など、文化、教育、異なる信仰伝統の分野で活躍する世界中の著名人とも対話を行い、人類が直面する複雑な問題に取り組む方法を明らかにした。これらの対話のうち80以上が書籍として出版されている。

日本への数回の訪問中、私は民主音楽協会(民音)と東京富士美術館(TFAM)を訪問する機会があった。民音は「民衆の音楽」を意味し、世界中の国々との文化交流に取り組んでいる。池田氏は民音を「人類を結ぶ文化交流の大道」として「精神的なシルクロード」と表現した。

2023年に開館40周年を迎えた東京富士美術館のコレクションには、絵画、版画、写真、彫刻、陶磁器、漆芸品から甲冑、刀剣、様々な時代と文化の勲章まで、約30,000点の日本、東洋、西洋の美術作品が含まれている。特に注目すべきは、ルネサンスからバロック、ポストモダン時代にわたる500年間の西洋油絵の優れたコレクションと、写真の類まれな傑作コレクションである。これはまさに「世界への扉」である。

Ramesh Jaura lecturing at Soka University/ photo by Katsuhiro Asagiri, President of IPS Japan
Ramesh Jaura lecturing at Soka University/ photo by Katsuhiro Asagiri, President of IPS Japan

寺崎広嗣SGI平和運動総局長のおかげで、私は日本とアメリカの創価大学を含む創価教育のシステムについて知ることができた。東京・八王子にある広大な創価大学のキャンパスも訪れた。1971年以来、創価大学は人間教育の最高学府であり、新しい大文化建設の揺籃であり、人類の平和を守るフォートレス(要塞)である。

創価大学の留学生交換プログラムは日本国内で最大規模のものであり、世界中の100以上の大学との学術交流協定を結んでいる。2014年には、創価大学は日本の文部科学省によって「トップグローバル大学」の一つに名を連ねた。大学は1985年に開学した創価女子短期大学とキャンパスを共有している。

東京や日本国外での国際イベントで寺崎総局長との長年にわたる対話を通じて、人類の平和と繁栄のために日蓮仏法の人間主義的教えを広める創価運動を私が理解するための窓が開かれた。

広島と長崎を訪れると、被爆者が経験した苦しみと、生き残った人々が今も感じている苦しみを感じる。池田氏は、 「戦争や核兵器に反対して叫ぶことは、感情論でも自己憐憫でもない。それは、生命の尊厳に対する揺るぎない洞察に基づく、人間の理性の最高の表現である。」と述べている。

Photo credit: Hiroshima Peace Memorial Museum, Shigeo Hayashi - RA119-RA134
Photo credit: Hiroshima Peace Memorial Museum, Shigeo Hayashi – RA119-RA134

来日中、私は日本各地の様々な年齢層の創価学会の会員とも話をした。彼らは、「対話と平和のための教育が、不寛容や他者を拒絶する衝動から私たちの心を解放してくれる」という池田氏の信念を共有している。彼らはシンプルな現実を意識している。つまり、「広大な宇宙に浮かぶ小さな青い球体であるこの惑星を、すべての 『乗客』たちと分かち合うしかない。」という現実だ。

Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, Soka Gakkai International (SGI) at the 6th Congress of World and Traditional Religions, Astana, Kazakhstan. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

95歳で亡くなった池田SGI会長は、G7広島サミットへの最後の提言で次のように述べている。「”闇が深ければ深いほど暁は近い”との言葉がありますが、冷戦の終結は、不屈の精神に立った人間の連帯がどれほどの力を生み出すかを示したものだったと言えましょう。…今再び、民衆の力で『歴史のコース』を変え、『核兵器のない世界』、そして『戦争のない世界』への道を切り開くことを、私は強く呼びかけたいのです。」

「この言葉を胸に、諦めない勇気を携えて、協働の道を進んでいきたいと思います。」と寺崎総局長はIDNのインタビューで語った。(原文へ

INPS Japan

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NATO拡大論者がインド太平洋に注目

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール

NATOの初代事務局長(SG)を務めたイスメイ卿が、NATOの目的は「米国を取り込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込むことだ」と述べたのは有名な話である。冷戦終結により、国際関係と世界秩序の基盤に大きな変化が訪れるという期待が生まれた。しかし、歴史の黄昏の中にそっと消えゆくのではなく、NATOは新たな役割を模索する同盟となった。その目的は、米国を取り込み、ロシアを押さえつけ、国連を締め出すことへとねじ曲げられた。ロシアが大幅に力を削がれ、超大国の栄光は見る影もなく貧困化し、国土も人口も縮小した今、NATOの目的は今一度変わり、弱ったロシアに蹴りを入れ、米国を救い出し、中国を封じ込めることになりつつあるかもしれない。(

オーストラリアは、再び保安官代理の星型バッジを着けてNATO軍団と相乗りするべきだろうか? むしろオーストラリアは、台湾をめぐって戦争をしないよう米国を説得し、万が一戦争になるとしても事前にそのような戦争への取り組みにはコミットしないとしたほうが良さそうだ。

NATOのインド太平洋妄想

NATOは、英国、フランス、ドイツ、イタリアなど、歴史的に敵対してきた欧州の大国間に軍事的安全保障、政治的安定、集中的な経済協力を生み出し、維持してきた。その支持者らは、NATOがソ連による加盟国の攻撃を抑止してきたとも信じているが、ソ連がそのような狙いを持っていたという証拠はどこにもない。冷戦が終わり、新たな、いまだ定義されていない時代へと歴史的な移行が生じる中、40年にわたってNATOが築き上げてきた軍事的、官僚的、組織的、政治的資産は、混乱と急速な変化の時期に安定をもたらす力であり、出現しつつある新秩序を形成する手段でもあった。しかし、その後、NATOのリーダーたちは、純粋な欧州内の防衛同盟だったものを欧州外で集団的軍事力を投射する同盟へと変容させようという誘惑に駆られたのである。

イェンス・ストルテンベルグは、第13代NATO事務総長に就任した。彼は2022年11月のブルームバーグとのインタビューにおいて、また2023年2月のミュンヘン安全保障会議においても、独裁国家ロシアへの過度な依存という過ちを中国に対して繰り返してはならないと、NATO諸国に警告した。ウクライナ戦争は、「安全保障が地域的なものではなく、世界規模のものだということを示している。現在欧州で起こっていることは、今後アジアでも起こる可能性がある」とも述べた。

彼の前にNATO事務総長であったアナス・フォー・ラスムセンは、2015年4月17日のアルジャジーラの討論番組で、NATOを「世界でこれまで知られてきた中で最も成功を収めた平和運動」と評した。NATOの元最高司令官である米国のジェイムズ・スタブリディス大将(退役)は、2019年4月15日の「タイム」誌への寄稿で、「なぜNATOは世界平和に不可欠か」を説明した。

これは昔ならば真実だったかもしれないが、現在の状況では妄想的である。

この軍事同盟の事実上のリーダーは米国である。1945年以来、米国は他のどの国よりも多くの国に対して爆撃を行い、制裁、監視、軍事介入によって外国政府の体制変更に関与してきた。2023年6月7日に米議会調査局が発行した年次報告書によれば、1798年から2023年4月までの間に米国は、合計500回近い海外派兵(実際の武力行使とは異なる)を行い、そのうち57%は冷戦終結後になされた。米国は単独で、全ての外国軍基地の5分の4を占めている。The Soldiers’ Projectのエバレット・ブレッドソーによれば、米国は約80カ国で約750カ所の海外基地を展開している。それに対して、英国は145カ所、ロシアは30カ所程度、中国は5カ所である。現在米軍は、約17万人の軍事要員を海外に派遣していると推定される。

1999年に米国が主導してNATOが行ったコソボへの軍事介入は、国際法、国連憲章、そしてNATO自身の憲章に違反する侵略行為だった。際限のないNATO拡大は、直接ロシアの国境まで容赦なく迫り、ロシアの軍事行動を抑止するどころか誘発した。ワシントンで幅を利かせ、海外の紛争地に軍事行動で対応するプレイブックにどっぷり浸かっているネオコンが、台湾問題をめぐって中国を相手に同じ作戦を繰り返す準備をしているとしたら、どうなるだろうか?

NATOは、憲章により北大西洋に限定される

北大西洋条約第5条は、締約国であるNATO諸国は「欧州または北米における1カ国またはそれ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なすことに合意」し、武力行使を含む個別または集団の対応が必要であると定めている。第6条は、第5条に定める武力攻撃とは (i) 「欧州または北米におけるいずれかの締約国の領土」、および (ii) 「いずれかの締約国の軍隊、船舶、または航空機で、前記の領土または欧州内の他の地域またはそれらの上空にあるもの」に対する「攻撃を含むと見なされる」と明確にしている(いずれの条項も、強調は筆者によるもの)。

アジア太平洋パートナー(オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国)は、米国の優位性を保ち、中国を封じ込めるためのNATOのグローバル化に加担することに意欲的なようだ。これら4カ国はいわゆる「グローバルパートナー」グループにも入り、NATOとの個別の取り決めやAUKUSのような補足協定を結んでおり、それらはNATOにとって足掛かりとなっている。日本は、NATOと新たなパートナーシップ協定を結び、NATOの事務所を東京に開設するようである。

しかし、東京事務所を含むNATOのアジア進出計画に待ったをかけたのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領である。これではNATOに付託された権限が本来の焦点からあまりにもかけ離れてしまうと主張するエリゼ宮高官は、「NATOとは、北大西洋条約機構という意味だ」と言い、北大西洋条約第5条と第6条は「地理的なもの」だと言い加えた。その後、NATOは、コミュニケから東京事務所への言及を削除した

また、米国が待ち構えていたかのように、貿易、金融、そして国際通貨としてのドルの役割を兵器化するという問題もあり、手段を選ばず他国の体制を変更してきた歴史もある。西側の大国が国際金融・ガバナンス構造における優位性を兵器化しようとしていることを、今や、他の多くの国々は自国の主権と安全保障に対する脅威と認識している。

2009年8月3日にブリュッセルで開かれた記者会見で、ラスムセンは、NATOが「自由、平和、安全保障という共通の価値を守る民主主義国のコミュニティーで」あり、「いまだかつてないほど多くのことを、多くの場所で行っている」と述べた。しかし、その対象と影響の範囲をアジアや太平洋まで拡大しようという夢は、失地回復を狙う新植民地主義的な考え方の最新の表れといえるかもしれない。

第1に、1949年にNATOが設立されたとき、ポルトガルは民主主義国家ではなかった。第2に、欧州で最も長い歴史を持つ民主主義国家の全てがNATOに加盟しているわけではない。スイスは、その中立性を用心深く守っている。とはいえ、北大西洋地域におけるほぼ全ての民主主義国家がNATO加盟国であることは事実である。

また、NATO加盟国の全てが植民地支配の過去を持っているわけではない。しかし、歴史的に植民地支配を行った欧州国家は全てNATOの加盟国であるということも事実だ。アルファベット順に言うと、ベルギー、フランス、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、英国である。多くの西側諸国は今、自国の歴史、銅像、博物館、教育課程を脱植民地化し、浄化して、植民地支配の罪の残滓と残響を取り除くことを求める声に揺れている。それなのに、安全保障分野ではインド太平洋に集団で乗り込み、植民地主義の記憶を呼び起こすリスクを冒そうというのは何とも奇妙なことだ。2021年9月にAUKUSが初めて発表された段階で、インド太平洋の運命は自分たちが決めると言わんばかりの3人のアングロサクソン国家の古臭くて生白い男性リーダーたちは、十分に印象を悪くしたではないか?

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。

INPS Japan

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この記事は、聖教新聞電子版が配信したもので、同社の許可を得て転載しています。

核兵器禁止条約の第2回締約国会議が11月27日から12月1日までアメリカ・米国ニューヨークの国連本部で開催された。創価学会インタナショナル(SGI)はカザフスタン共和国国連代表部等と関連行事を開催(11月28日、国連本部で)。同国の核実験被害者の証言をまとめたドキュメンタリー映画を上映した。聖教新聞では、同映画をSGIと共に制作したCISP(国際安全保障政策センター)のアリムジャン・アフメトフ代表にインタビューした。(聞き手=同新聞社記者)

――核兵器廃絶への取り組みを始めた理由を教えてください。

私は長年、カザフスタン共和国の外務省に勤めていました。転機となったのは、2015年にアメリカ・ニューヨークの国連本部で開催されたNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議に参加した時のことです。多くのNGOが参加しており、声を上げていました。

しかし、カザフスタンからは、一つのNGOも参加していなかったのです。わが国には核実験場がかつて存在し、多くの方が今も苦しんでいます。だからこそ、核兵器廃絶に向けて、カザフスタンが国際社会でリーダーシップを発揮すべきであり、わが国からも多くの市民が声を上げるべきだと感じました。

そこでCISP(国際安全保障政策センター)を創設しました。以来、CISPは、SGIと様々な関連行事を開催するなど、あらゆる取り組みを推進しています。

ーー映像制作の経緯をお聞かせください。

カザフスタンでは、約150万人が核実験の影響を受けて苦しんできましたが、記録された証言は多くはありません。より大勢の人に、核被害者の真実を伝えるための、映像制作を始めました。

CISP(国際安全保障政策センター)がSGIの支援を得て制作したドキュメンタリー「私は生きぬく:語られざるセミパラチンスク」。12/28のサイドイベントで先行公開され、参加者から大きな反響があった。映像:CISP

私自身、核被害者が住む地域を訪れ、直接、映像に出演してくださる方々を探しました。整備されていない道を通り、車で6,7時間をかけて街に向かったこともあります。

長時間かけて訪問したとしても、映像制作の趣旨に賛同いただけず、出演を断る人もいました。「これまで、何度も核実験被害の証言をしてきたが、結局、現実は何も変わらなかった。もう、話したくない」と言われたこともありました。そこには、被害者への支援が足りていない現実があるのです。

一方で、当初は出演に対して消極的だったものの、私が首都のアスタナから来たことを伝えると、出演を承諾してくださった人もいます。首都から来た人のプロジェクトであるならば、政府などの必要なところに声を届けてくれるはずだと信じてくださったのかもしれません。「この証言映像が希望です」と語られ、核被害者への支援などが改善されることを願われていました。

ーー今回の第2回締約国会議には、カザフスタンの若者も参加しました。

第2回締約国会議のサイドイベントには、カザフスタンから被爆3世のアイゲリム・イェルゲルディが参加して証言を行った。映像:INPS Japan浅霧勝浩

カザフスタンの青年の代表が、今回の会議に参加できたことは画期的なことだを感じています。核兵器廃絶に向けて、青年の参画は非常に重要です。

私は以前、研修プログラムの一環で、ある国の若い外交官を核実験場の跡地へ案内したことがあります。彼らは核軍縮の必要性は感じつつも、核兵器廃絶については考えていないようでした。しかし、核実験被害者の実相について学んだ後に意見を交わすと、核兵器廃絶を本気で考えるようになっていました。

今の青年が将来、各団体や各国の重要な役割を担っていきます。だからこそ若い世代への軍縮教育が大事になってくるのです。

ーー日本の読者へのメッセージをお聞かせください。

セミパラチンスク核実験場における核実験 資料:国立原子力センター
セミパラチンスク核実験場における核実験。1949年から89年まで、ソ連軍により456回の核実験が実施された。 資料:国立原子力センター

日本とカザフスタンは、核被害に苦しんだ過去があるからこそ、核兵器廃絶を実現するための、世界をリードする使命と責任があります。

市民社会の役割は非常に重要です。NGOの草の根の取り組みは、小さいことのように思えるかもしれませんが、川の流れが少しづつ岩を削るように、取り組みを長く続けていくことで必ず変化を起こすと確信します。

現在、世界は核兵器廃絶から逆の方向に向かっているように見えます。しかし、世界を良い方向へと転換するまで、私たちは諦めてはいけません。核兵器をゼロにするその日まで、共に平和への行動を続けましょう。

INPS Japan/『聖教新聞12月8日付を転載」

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【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

Portrait of Trotsky/ By LeonidasTheodoropoulos - Own work, CC BY-SA 4.0
Portrait of Trotsky/ By LeonidasTheodoropoulos – Own work, CC BY-SA 4.0

かつてウラジーミル・レーニンに近い立場にあったレフ・トロツキー「あなたは戦争に関心がないかもしれないが、戦争の方ではあなたに関心があるのだ」と言ったとされる。核兵器使用の可能性が取りざたされるこの時代にあって、立ち止まってこの言葉の意味をゆっくり考えてみるべきだ。

対ロシア・対ウクライナ政策について、ジョセフ・バイデン大統領こそがこのことをよく考えてみるべきだと思われる。それはロシア自体に直接挑戦する危険性があるからだ。米国がビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの歴代政権を通じて北大西洋条約機構(NATO)の境界線を強引に(東に)前進させたのち、バイデン大統領が、外交政策に関する豊かな経験を活かして、その動きに歯止めをかけてくれるものだと期待した人もいただろう。

NATOに加盟する国の数が増えたことで、1991年に冷戦が終結した時点では消滅したと考えられていたロシアと米国および欧州の敵対関係が、このようなレベルにまで拡大したのである。

私たちが生きているうちは国際協調を基調とする平和な時代が続くだろうと考えられていたが、実際には、ロシアが核の威嚇を繰り返し、米国はロシアの国境ぎりぎりまでNATOの境界線を広げようとし、ウクライナへのロシアの軍事介入に激高して経済制裁に訴え、ウクライナの戦争機構に物資を送り続けている。

西側諸国とロシアの間に戦争が起こるという観測もある。トロツキーは正しかったのか? フランスがフランスであり続け、NATOのいかなる軍事行動にも拒否権を発動する限り、そのようなことは起きそうにないが、(ワーテルローの戦いでナポレオン・ボナパルトに勝利したウェリントン公爵が言ったとされる)「とんでもない危機一髪の出来事」になるかもしれない。

ウラジーミル・プーチン大統領に領土的野心はないものと私は見ているが、他国から脅威を受けることはないロシアをめざしてはいるだろう。

米国はいかにロシアを騙したか

それは、ロシアの初の民選大統領であるボリス・エリツィンの時代にまで遡る。エリツィン大統領は時をうまく利用したが、時としてクリントン大統領に利用されることもあった。クリントン大統領はしばしば、あまり体調の良くないエリツィンが疲労し、ウォッカを飲みすぎた夜間を狙って難しい交渉を持ちかけてきた。

Mihail Gorbachev/ Katsuhiro Asagiri
Mihail Gorbachev Photo:Katsuhiro Asagiri、President of INPS Japan.

冷戦終結において西側のパートナーであったソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領は、ブッシュ大統領やドイツのハンス=ディートリッヒ・ゲンシャー外相と、ドイツの再統一を認め、統一ドイツをNATO加盟国とする見返りとして、NATOのこれ以上の東方拡大は行わないという了解を得たと考えていた。

実際、ゴルバチョフ大統領がプーチン大統領と同じように表現したように、ロシア自身がNATO加盟国になり、ロシアが「ヨーロッパの家」に加わる構想が真剣に協議されたこともある。ヘンリー・キッシンジャー、ズビグニュー・ブレジンスキー、ジョージ・ケナンといった米国外交の重鎮たちはみな揃って、NATOをあまりに(東に向かって)遠く、あまりに早急に拡大することでロシアを追い詰めないよう警告していた。

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

クリントン政権時の国防長官ウィリアム・ペリーもまた、英国紙『ガーディアン』が主催した会議で、「(冷戦の終結によって)米ロ間で得られた利益はロシアではなく米国の行動によって「浪費」されてしまった。」と指摘したうえで、「この数年、非難の大部分はプーチン大統領の行動に向けられてきた。しかし、初期には米国にも非難されるべき点があったと指摘せざるを得ない。我々を悪い方向に導いた最初の行動は、東欧諸国を取り込んだNATOの東方拡大であった。」と語った。ペリー元国防長官はさらに、「困難に陥ったかつての超大国に対して米当局が侮蔑的な態度を取ったことがこの決定の背景にある。」と指摘した。

第二の大きな過ちは、ブッシュ政権が、ロシアからの激しい反発を押し切って、東欧にミサイル防衛システムを導入したことだ。「イランからの核ミサイルから防衛するというのがその正当化理由であった。しかし、イランのミサイルにそのような射程はなく、核兵器を運搬する能力もなかった。ロシアは『ちょっと待ってくれ、それではロシアの防衛能力が弱まる』と抗議した。しかし、米国の決定は、それ自体に利点があるかどうかという観点よりも、『ロシアがどう考えようが関係ないだろう?』という見方からなされてしまった。」

ウクライナの革命を支援

オバマ政権はその後、東欧を拠点とするミサイル防衛システムを変更し、長距離迎撃ミサイルを中距離迎撃ミサイルに置き換えた。ロシアはこれを歓迎したが、ミサイルが依然としてロシアに向けられる可能性があることを指摘し、ミサイルがロシアに向けられないという保証と確約を求めた。

その後、米国とEUは、ウクライナの革命を支援するという決定を下した。しかし当時控えていた選挙は、おそらくロシアに同調する政府を退陣に追い込むものであったため、それを正当化する理由はなかった。また、西側の政策は、ファシストの流れを汲む組織のメンバーである過激派を容認することを意味した。

非常に腐敗した国家の政治的渦中に介入する代わりに、オバマとその後継政権は、米国とロシアが保有する核兵器の削減にエネルギーを集中すべきだった。(オバマはロシアと核軍縮協定を結んだ最後の大統領であったが、それはかなり限定的なものであり、それまで米国によって破棄された核軍縮条約を補うものではなかった)

バイデン大統領は正しいことをして損害を修復し、トロツキーの間違いを証明できるだろうか?彼の現在の政策から判断すると、私はそれを疑い始めている。ウクライナ紛争は、より悪く、より包括的なものへの足がかりになるかもしれない。「戦争は西側諸国を追いかけている」のである。(原文へ

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太平洋小島嶼国にとって、COP28は気候正義という砂漠の「オアシス」には小さ過ぎる

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジェームズ・バグワン】

アラブ首長国連邦で開催されたCOP28の成果について熟考を重ねているが、ドバイ砂漠の砂塵が徐々に収まりつつある。

実際のところ「ドバイ合意」は、太平洋の小島嶼開発途上国とそれが代表するコミュニティーにとって何を意味するのだろうか? 小島嶼国連合(AOSIS)が全体会合の場に参加してもいない間に、つまり何の介入もできないうちに、いわゆる合意が採択されてしまったという事実は、争点は常に「化石燃料(Fossil Fuel)」という「Fワード」となるCOPの姿を示している。(

早い段階で「損失と損害」基金に関する議案が採択され、資金拠出が表明されたことは歓迎すべきニュースだが、この決定がもたらすはずの喜びに水を差したのは、基金の運用や最も脆弱で最も責任のない国やコミュニティーによる基金へのアクセス、影響を受けるコミュニティーの尊厳や価値を保つ形で非経済的な損失と損害を算定する方法などに関して、なすべきことがなおも多いということである。最初から、太平洋島嶼国は立場を明確にしていたし、パリ協定が2015年のCOP21で採択されて以降それは明確だった。すなわち、これ以上極端で不可逆的な気候影響を回避するためには、産業革命以前と比較した世界の平均気温の上昇を1.5°C以内に抑えるべきだという立場である。太平洋諸国による“生き延びるために1.5度達成を(1.5 to stay alive)”というスローガンは、パリ会議以降のCOPで毎回掲げられている。今年は太平洋小島嶼国にとって1.5は「レッドライン」だった。「もし」も「しかし」もない。

太平洋地域の教会は、太平洋の人々を代表して政府のこのような姿勢を継続的に支持しており、緩和に関する具体的解決策(化石燃料の段階的廃止)を伴わなければ、適応や「損失と損害」に対する資金提供は「血の代償」であると一貫して主張してきた。2023年のCOP28では、太平洋の政府、教会、市民社会、活動家らが団結してこの立場を主張した。すなわち、化石燃料からの早急かつ公正な移行を実現するとともに、適応のため、ならびに非経済的なものを含めた損失と損害への資金提供のために多額の資金を新たに用意することによって、“生き延びるために1.5度達成を”の「一線を譲らない」ことを主張したのである。

8年前にパリ協定が結ばれてからわれわれの惑星はどのような状況にあるのか、何をなす必要があるのかに関するグローバル・ストックテイク(GST)最終文書は、化石燃料にごく簡単に触れたのみである。これは由々しきことではあるが、移行に関連する抜け穴に比べればまだ可愛いものだ。科学への力強い言及があったことは高く評価された。また、各国が2025年までの「国が決定する貢献」を策定し、より良いものを提出しようとする努力を後押しするマイルストーンを定めた明確な道筋と、技術実施プログラムの設立がそれを補足した。しかし、これらの決定は、気候変動による影響を不釣り合いに大きく受けているAOSISの39の小島嶼開発途上国にとっては、「レッドライン」に及ばないものだった。化石燃料からの自発的かつ非拘束的な「移行」を求め、いかなる誓約や計画、強制力のある改善措置も定めない妥協文書を採択したことで、COP28は、AOSISが「行動と支援における飛躍的な変革」としての「軌道修正」と呼ぶものを提供することはできず、代わりに平常運転を維持することを選んだのである。AOSISによれば、COP28の結果は後退である。

とはいえ、2週間にわたるCOP28の会期中に一部の化石燃料産出国が「化石燃料不拡散条約イニシアチブ」に署名したことは、有意義なことである。気候変動が小島嶼国に、ひいては自国のコミュニティーに及ぼす影響に対処するため、化石燃料経済からの公正な移行に尽力することを約束する国は増え続けており、太平洋地域の周縁に位置する東ティモールや石炭と石油の両方を産出するコロンビアもそれに加わった。COP28終了までに化石燃料不拡散条約イニシアチブに署名した国はすでに12カ国に上り、キャンペーンへの賛同を表明と見なし得る国も増え続けている。

興味深くもCOP28に先立って発表された教皇フランシスコの回勅「ラウダーテ・デウム」(Laudato Deum)は、既存文書(2015年の回勅「ラウダート・シ」)を補完する初めての回勅であり、また、ドバイにおけるCOP28の全体会合に向けた一国(バチカン)の元首としてのメッセージでもあり、化石燃料時代を終わらせることを求めるものだった。バチカンは現在、署名の可能性を視野に入れて化石燃料不拡散条約に関連する文書の検討を行っている。それは、一国家だけでなく世界最大の宗教団体の一つを代表するものとなるため、実現すれば非常に大きな意味を持つ。

信仰・宗教団体は、COPにおいて興味深い動きを発揮し続けている。COP28では「信仰パビリオン」が設置され(主催者によれば費用は約150万ドル)、国連環境計画、ムスリム長老評議会、持続可能な開発のための宗教間対話センター、監督派教会カリフォルニア司教区、その他多くの信仰に基づく団体が資金を提供した。これは、化石燃料不拡散条約の支持など、気候変動対策に重点を置いた大規模な宗教間運動の結果である。COP28の期間中、パビリオンは、気候行動に向けた宗教間の交流と協力を促進する革新的かつ包摂的なスペースとしての役割を果たした。思索のスペースのほか、信仰パビリオンでは、先住民コミュニティーのための気候正義、環境再生の取り組み、損失と損害、気候運動におけるフェミニストや若者のリーダーシップ、グリーンファイナンスといったテーマに関する公開討論会を開催した。

COP28で公表された宗教間合同の呼びかけは、信仰パビリオンでの議論を反映し、政策決定者や意思決定者に次のように呼びかけた。

  • グリーン経済への公正な移行を優先する
  • 化石燃料不拡散条約を採択する
  • 気候交渉において種と生態系の保護を優先する
  • 新規かつ持続的な資金源や緑の気候基金への新たなアクセス方法を提供する
  • 「損失と損害」基金への公正かつ包摂的なアクセスのため、資金源を拡大し、多様化する

信仰心の篤い地域であるがゆえに、COP28における太平洋教会協議会(PCC)の存在は信仰パビリオンを越えて広がった。PCCは、太平洋諸国の代表者やAOSISの交渉者に聖職者による精神的支援を行い、2者間協議、特に化石燃料不拡散条約に関するバチカンとの協議に参加し、活動家らとともに行動を起こした。COP28の議長国やリーダーたちには“生き延びるために1.5度達成を”が確実に守られるよう迫り、最も影響を受けた国々の代表者には、資金拠出、公正、迅速、「永久的」な化石燃料の段階的廃止などを要求する「一線を譲らない」よう求めた。

COP28の成果が期待外れであった一方で、化石燃料不拡散条約イニシアチブや、気候変動と人権について国際司法裁判所の勧告的意見を求める動き(太平洋地域が主導した)が示しているのは、COPの相変わらずの膠着状態を打破して前進する解決策や手段として、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の枠外のプロセスに目を向ける国々が増えているということだ。これは、30年にわたるプロセスが気候危機への対処にほとんど成功を収めていないことへの苛立ちというだけでなく、最もリスクにさらされた人々による革新的なアプローチとして認識される必要がある。それは希望と現状への抵抗の兆しであり、Pacific Climate Warriors(太平洋地域の青年たちによる気候変動行動団体)の言葉を借りるなら「われわれは溺れてはいない! 戦っているのだ!」ということを示している。それはドバイにおける、気候正義という砂漠のなかで太平洋のわれわれが持ち得た唯一の青いオアシスだった。

ジェームズ・バグワンは、太平洋教会協議会の事務局長。

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