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ジェノサイド容疑者、ヘイトスピーチ犯罪を裁く国際法廷を拒絶

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ルワンダの実業家で大量虐殺者とされる人物が、1994年のルワンダ大量虐殺の首謀者と資金提供の容疑で裁判を受けている法廷に現れなかった。

フェリシエン・カブガ(87)は、ハーグの国連法廷に提出された告発状によると、ツチ族を虐殺した勢力(フツ至上主義の政党や党の民兵組織、インテラハムウェ等)を幇助し、「千の丘自由ラジオ」として知られるラジオ局を利用して憎悪を扇動したとして訴えられている。(ヘイトスピーチ例/Youtube)

1994年の大量虐殺では、約100日間で少数民族のツチ族と穏健派フツ族約80万人が殺害された。

裁判の冒頭、裁判長は、カブガが法廷に出頭せず、拘置所からビデオリンクで審理を見守ることに決めたと述べた。カブガは声明を発表し、裁判所が自分で弁護士を選ぶことを拒否したため、現在の法的代理人に「信頼がない。」と述べた。

カブガの弁護団は、2020年の法廷への初出廷時に、依頼人の無罪を主張した。彼らは、カブガが裁判を受けるにはあまりにも弱っていると主張したが、裁判官は、審理時間を短縮したうえで裁判の続行を決めた。

ルワンダで最も裕福で影響力のある人物であったカブガは、23年間も逃亡を続け、偽名で暮らし、アフリカや欧州で国や住居を変え、2年前にパリからほど近い郊外のアパートでついに逮捕された。

「千の丘自由ラジオ」は、ルワンダ全土の聴収者を扇動し、殺人キャンペーンを開始した。ルワンダ国際刑事裁判所によるカブガの起訴状によると、市民がどこで道路封鎖をすべきか、どこで「敵」を探すべきかという情報を放送していた。

 Photographs of Genocide Victims - Genocide Memorial Centre - Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. - Own work, CC BY-SA 3.0
 Photographs of Genocide Victims – Genocide Memorial Centre – Kigali – Rwanda/ By Adam Jones, Ph.D. – Own work, CC BY-SA 3.0

カブガに対する起訴状には、多くの殺戮を行った民兵グループに訓練の費用を支払い、ナタやその他の武器を配給したことが含まれている。

ヘイトスピーチの結果に焦点を当てたこの裁判は、政治的右傾化の中で言論の自由を制限してきた多くの国々で、この問題がより大きな意味を持つようになったため、通常よりも多くの聴衆を集める可能性がある。

この裁判をハーグで開催しているルワンダ法廷のスティーブン・ラップ元訴訟部長は、「これはまた、強力な経済的アクター、裕福なビジネスマンが、自らが引き起こした犯罪の責任を問われる珍しいケースです。」と語った。

以前の裁判では、裁判官は、ラジオ局の2人の幹部と新聞社の経営者を大量虐殺扇動罪で有罪判決を下し、1994年の殺害に拍車をかけたとして長期刑を宣告している。

2003年に出された判決の要旨は、「人間の価値を創造し破壊するメディアの力には、大きな責任が伴う。従って、メディアを支配する者は、その結果に対して責任がある。」と述べている。

農民の息子であるカブガ氏は、ルワンダ北部の村で古着やタバコの行商からスタートした。その後、徐々に土地を購入し、紅茶農園を始め、巨万の富と政治的影響力を手に入れた。

しかし、カブガは現在、彼の財産は裁判所によって押収され、ベルギーとフランスで凍結されたため、なくなってしまったと主張している。カブガの13人の子供たちは、資産は銀行のものであるとして、ほとんどの口座の凍結を解除するよう法廷に要求している。

この法廷には、ヒューマン・ライツ・ウォッチや他のグループから、ジェノサイドの最中や後に大規模な復讐殺人を行ったルワンダ愛国戦線のメンバーの過剰行為も訴追するという任務が果たされていないとの非難が寄せられている。その結果、少なくとも3万人、おそらく5万人が殺害されたと報告されている。

一方、ジンバブエでは著名な作家らが扇動罪で有罪に。

Photo taken in November 2006 during a UK tour organised by David Clarke, Ayebia, CC BY-SA 3.0

別の展開として、ジンバブエの小説家、劇作家、映画監督であるツィツィ・ダンガレンブガは、政治改革を求める平和的な抗議活動を行ったにもかかわらず、暴力を扇動したとして、裁判所に有罪を宣告された。

ダンガレンブガと共同被告人のジュリー・バーンズは、9月29日(木)、ハラレ治安判事裁判所において、暴力を扇動する意図をもって公共の集会に参加した罪で有罪判決を受けた。二人にはそれぞれ7万ジンバブエドルの罰金刑が科せられた。受賞作家は6ヶ月の執行猶予付き判決を受けたが、彼女は、自分の事件が、ジンバブエで表現の自由の余地が縮小し、犯罪化されていることを証明していると主張した。

ダンガレンブガは2020年7月、「私たちはより良いものを求めています。我々の制度を改革せよ」と書かれたプラカードを持ち、平和的な抗議行動を行った際に逮捕された。アムネスティ・インターナショナルや作家団体PENインターナショナルなどの人権団体は、起訴を取り下げるよう求めていた。

PENインターナショナルはこの有罪判決を速やかに非難し、ジンバブエ当局に対して「人権に関する義務を守り、反対意見を迫害することをやめるよう」呼びかけた。

バーバラ・マテコ判事は、2人が暴力を扇動する意図を持ってデモを行ったことを、疑う余地なく証明したと述べた。

ダンガレンブガは、裁判所の決定に抗議し、高等裁判所に上訴すると述べた。ダンガレンブガは、小説家、劇作家、映画監督。彼女のデビュー作「Nervous Conditions」は、ジンバブエ出身の黒人女性によって初めて英語で出版された作品である。2018年にBBCによって「世界を形作った本トップ100」の1冊に選ばれている。その他にも文学的な栄誉を獲得している。(原文へ

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|国連|戦争も平和もメディア次第

到底無理な話

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハーバード・ウルフ】

ロシアのウクライナ侵攻直後、全てのEU諸国および欧州NATO加盟国の政府が反応を示した。ウクライナを支援するだけでなく、自国の軍事費増額も発表したのである。しかし、実際には全ての費用を賄えるわけではないことを示すいくつかの兆候がある。

ベルギー政府は装備費を10億ユーロにしたいと考え、クロアチアは今後3年間で41%の増額を望み、デンマークは軍事費を国内総生産(GDP)の2%にすることを目指し、フィンランドは一気に70%の増額、フランスは2025年までに27%の増額、ドイツは1,000億ユーロの特別基金を決定し、英国は2024年までに支出を13%増額するなどなど。幅広い分野の軍事費増額が予想される。少なくとも計画ではそういうことだ! さまざまな国が掲げるこれらの野心的プロジェクトは、うまくいくのか? あるいは、これらの約束は、ロシアの侵略行為に対する最初の反応として十分理解できるものの、実際にはまず実行不可能なものだろうか?(原文へ 

短中期的に見れば、特に戦争の終わりがだいぶ先と思われることを考えると、欧州における軍備増強努力は強化されるだろう。西側同盟とEUはロシアの所業にひどく衝撃を受けているため、しばらくは平常体制に戻れないだろう。冷戦時代に経験したように、欧州が再軍拡のスパイラルに陥る可能性はなきにしもあらずである。パワーの主な根源をエネルギー貯蔵量と軍隊とするロシアが、西側の再軍拡の動きに反応することは間違いない。

しかし、発表された軍備増強計画の実行可能性については、安全保障、経済、財政上の少なくとも五つの理由から疑問符がつく。

第1に、欧州は景気後退に直面している。全ての経済研究機関、ほとんどの政府、そして国際通貨基金が、持続的な景気後退を予測している。インフレ、特にエネルギーコストの上昇が、そしてグローバルサプライチェーンの諸問題が、多くの産業部門において警鐘を鳴らしている。すでに生産制限が実施され、あるいは発表されている。これらの予測が現実になった場合(それはほぼ間違いない)、それはすぐに大幅な税収減につながる。欧州諸国の多くが、2008/2009年金融危機の後遺症で多額の債務を抱えており、EU内で十分な埋め合わせができているとは到底いえない。つまり、現在発表されているような防衛予算の増額は、国家の債務削減という長年喧伝されてきたドグマを放り捨てない限り、財政的実行可能性の留保の対象とならざるを得ない。

第2に、コロナ禍の代償がある。現在の不安定な経済状況は、コロナ危機との因果関係もある。ロックダウンをはじめとするコロナ対策(国民生活の制限、多くの産業における生産削減など)が及ぼした影響は、医療部門だけにとどまらない。コロナ禍は、政府による異例の財政措置ももたらした。不動と思われた欧州財政政策の基盤が、署名ひとつで棚上げされている。

EUの1993年マーストリヒト条約は、以下の三つの基準を定めている。

  • 政府の財政赤字の対GDP比が3%を超えないこと
  • 政府債務残高の対GDP比が60%を超えないこと
  • いずれのEU諸国のインフレ率も、加盟国中最もインフレ率の低い3カ国との差が1.5ポイントを超えないこと

これら三つの基準のいずれも現時点で満たされておらず、EUは、これがコロナ禍による規則の例外であり、可能な限り早く解消すると主張している。それは非現実的に思われるし、マーストリヒト基準への回帰も、繰り返し引き合いに出されるとはいえ、具体的な計画はない。

第3に、気候変動対策に伴う費用がある。ウクライナにおける戦争で、化石燃料依存の迅速な低減といった気候変動対策の多くの目標が陰に追いやられた。石炭使用量削減など、合意された気候プログラムの一部は規模を縮小されつつある。しかし、先延ばしにしたからといって、問題が解決されたというわけではない。それどころか、気候変動対策を先延ばしにすればするほど、後でかかる費用は大きくなる。

第4に、ウクライナへの軍事支援および復興支援プログラムがある。多くの国はすでに、ウクライナへの武器供与だけでなく、近い将来に向けた財政・経済支援の提供を約束している。それは、現時点ではウクライナ難民の支援や戦時下での経済活動の維持であるが、今後は破壊された都市や寸断されたインフラの復興支援ということになる。これらの負担がいくらになるか、信頼できる推定はない。とはいえ、第二次世界大戦終結後のマーシャルプランの規模に準じる支援策が必要であることは間違いない。

第5に、ロシアとの経済関係がある。冷戦終結前後のデタント時代に戻るのは、全くもって不可能である。失われた政治的信頼はあまりにも大きい。経済関係の相互依存によって関係を構築しようという試みは、ロシアに対しては失敗した。長期的に見れば、西側は、プーチン政権から自国を軍事的に守らなければならないだけでなく、政治的関係、そして何よりも経済的関係をこれまでとは違った形で構築していかなければならない。とはいえ、ウクライナ、その他の欧州諸国、そして米国は、どのような政治的枠組みの中であれ、戦争を終わらせるためにはロシア政府と交渉しなければならない。欧州は、当面の間ロシアのエネルギー供給なしにやっていくことはまずできないだろう。それは、EUがロシア産石油の輸入を停止するか否かに関する難しい議論が示している。エネルギー価格の高騰は、将来何が起こり得るかをすでに示唆している。EU諸国は、エネルギー消費を制限する必要があり、さらなるコスト上昇に耐えねばならず、非常に長期にわたって完全にロシアのエネルギー供給なしにやっていくことはできないだろう。

要するに、今後発生するさまざまな財政負担の全てに対応するのはまず無理だということである。景気低迷により社会福祉費が増加すれば、問題はさらに悪化するだろう。これらの財政課題を管理するのは、到底無理な話である。恐らく全ての分野で妥協が必要であり、公的債務も増加する可能性が高い。防衛力を強化するために現時点で発表され、計画されている全ての支出を実現させるなど、決してできるものではない。ウクライナにおける戦争の終わりが見えない現在、長期的な影響を検討し、今後浮上する障害や必要な制限に対して国民の準備を整えることが適切だろう。

ハルバート・ウルフ は、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。2002年から2007年まで国連開発計画(UNDP)平壌事務所の軍縮問題担当チーフ・テクニカル・アドバイザーを務め、数回にわたり北朝鮮を訪問した。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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|カザフスタン|核兵器の危険性について若者に議論を促す展示

【アスタナINPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

カザフスタンの首都アスタナ(9月17日にヌルスルタンから改称)中心部の高級ショッピングセンターである「ケルエン・モール」で9月16日から月末まで続く展示会では、核兵器の危険性を若者に伝えるために革新的な方法を用いている。

「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展の開会式で挨拶するカザフ側の共催団体「国際安全保障政策センター」のアリムジャン・アクメートフ代表。撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

今回の展示は、平和・文化・教育を促進する日本の仏教系非政府組織創価学会インタナショナル(SGI)が、ノーベル賞受賞団体核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と地元のNGOカザフ国際安全保障政策センターと共に企画したものである。

展示は、広島への原爆投下から今日に至る70年以上の核の歴史を、核兵器が社会に与えた壊滅的な影響について表現した写真やイラスト、グラフなどを駆使しながら示している。

SGIは、長崎と並んで原爆が初めて使用された広島で2012年に最初の展示会を開催して以来、世界21カ国・90カ所以上の都市で開催してきた

開幕式には、各国政府関係者や赤十字、大学・研究機関ら各界の来賓が参加した。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan
「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展のポスター 資料:SGI

「カザフスタンは、ソ連時代にセミパラチンスク核実験場があり、核実験により多くの人々が甚大な被害を被った国です。今日の核兵器を巡る状況にかんがみて、カザフスタンの多くの人々が、広島・長崎の原爆投下を体験した日本人の多くと同様に、核軍縮への強い願望を持っています。」と、寺崎広嗣SGI平和運動総局長はIDNの取材に対して語った。

カザフスタン外務省のアルマン・バイスアノフ国際安全保障局副局長は開会の挨拶で、「カザフスタンはソ連時代の1949年から89年にかけて456回行われた核実験の影響を被ってきた。」と語った。これらの実験は地下及び空中で行われ、健康上の被害を受けた人は約150万人におよぶとされる。

カザフスタン政府を代表して登壇したアルマン・バイスアノフ氏は、核戦争の危険が高まっている現在、核兵器の脅威に関する意識啓発を行うこの展示会の意義を高く評価した。 撮影:浅霧勝浩/ INPS Japan

バイスアノフ副局長はまた、「核兵器なき世界は私たちの外交政策の中核をなすものです。」と述べ、カザフスタンが2019年に核兵器禁止条約を批准していることを指摘するとともに、「カザフスタンは、核兵器を禁止する運動を構築するための世界的な連合を主導しています。」と語った。

「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」と題された、カラフルで目を引く約20枚のパネルから構成された今回の展示は、特に若者たちがこの問題に対する無関心から抜け出すための教育的役割を果たすように設計されている。展示パネルは、私たちが大切に思っているものを守るのに本当に核兵器は役に立つのか、核兵器が人間や環境、医療、経済、それに私たちが望む将来に対してどのような問題を引き起こすのかといった問題に答えている。

展示会の感想を語るアスタナ在住のIT実業家マディヤール・アイイップ氏 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「カザフスタンの若者は核実験が行われたことは認識していますが実体験としての記憶はありません。この核廃絶展に参加して、核兵器をはじめとする大量破壊兵器が、国際社会において全く容認されないものだということを学びました。」と語るのは、開会式に出席したカザフスタンの若者マディヤール・アイイップ氏である。「人類は問題解決に互いに核兵器を使用して滅亡してしまうのではなく、人類共同体と協力しあうべきです。」とIDNの取材に対して語った。

ボラトベク・バルタベク氏(左)は、核実験場を閉鎖に追い込んだ活動家らが1989年に署名した歴史的な冊子「セミパラチンスクブック」を開幕式に持参した。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

開会式典の特別ゲストはボラトベク・バルタベク氏(63歳)であった。彼は核実験被害者の二世で、国際的な反核運動家として30年以上に亘って核実験の影響を受けた人々の声を代弁してきた人物である。開会式では自身と自身の家族に核実験が与えた悲劇的な影響について語った。

バルタベク氏は、彼が住んでいたカザフスタン東部のサルジャル村近くでソ連が核実験を行った際、まだ子どもだった。核実験が行われたのはのちに「ポリゴン」(多角形)と呼ばれるセミパラチンスク核実験場(大きさは日本の四国に相当する)であった。彼は、夏の間両親が一つの部屋に住み、他の部屋は核実験に来たソ連軍関係者が使っていたのを覚えている。

セミパラチンスク核実験場における核実験 資料:国立原子力センター
セミパラチンスク核実験場における核実験 資料:国立原子力センター

「私たちが子どもだった時、ヘリコプターが飛んできて、『さあ実験だ』と喜んで駆け回っていたものです。当時、核実験が危険なものだという認識はありませんでした。」とバルタベク氏は語った。

「のちに成長する中で、友人や親戚、知り合いが原因不明の病気で次々と亡くなるようになり、子供心に恐怖を感じていました。大人に聞いてみても『埋め立ての病気だ』と答えるだけ。その時の大人たちの悲しい目を見ていると、これは聞いてはいけない問題なのだと子どもながらに理解しました。」

バルタベク氏は、ソ連政府が自分たちをセミパラチンスク(現在のセメイ)市に集団で連れていき、10日間にわたって核実験を行ったことを語った。政府は実験の結果について何も教えてくれなったが、自分たちの住む地域が実験の対象になったのだと考えている。しかし、ソ連政府は核実験の影響を受けた人たちに特別な援助をすることはなかった。

「現在、核実験に起因する病気が子供や孫の世代にも出てきている。彼らは埋め立て地の爆発実験を見てこなかった世代です。」と指摘し、自身の孫娘も血液の病気にかかっており、障害者登録されていると語った。「日本からの参加者を初めとして、この核廃絶展示会に参加された方々に対して、私の孫娘が病気から回復するご支援をいただきたい。」

展示会の意義を高く評価するとともに、核実験が人間の健康にもたらす影響について、人道的な視点からも光をあてる必要性を訴えた研究者イスカンダル・アキルバエフ氏。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

外交政策のアナリストであるイスカンダル・アキルバエフ氏は、「セミパラチンスク核実験場はソ連解体に伴って閉鎖されたが、問題は終わっていない。」と指摘した。核実験が人体に及ぼした影響は「次世代にも及ぶことがあります。(汚染された)飲み水、医療施設(の不足)により治療のために他の都市にいかねばならないなどの社会経済的問題で人々は苦労しています。こうした側面にも光があてられなくてはなりません。」と、アキルバエフ氏は語った。

アキルバエフ氏は、「冷戦期の思考が再び頭をもたげ、核兵器が現実に使用される可能性が取りざたされている危険な時」にあって、この核廃絶展示は全国を巡回すべきだと思います。過去の失敗から学ぶことは極めて重要です。」と語った。

ノーベル平和賞受賞団体ICANと共に制作した反核展示会を世界各地で巡回しているSGIを代表して、この展示会開催の目的と意義について語る寺崎広嗣SGI平和運動総局長。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「この展示はこれまで20か国以上で開催されており、今後も多くの言語に翻訳して他の地域でも開催したいと考えています。この展示は、他の核兵器廃絶を訴える展示とは趣が違う部分があると思います。それは核兵器に対して様々な観点からの視点と与えようとしている点です。」と、寺崎総局長は語った。

核兵器の恐ろしさを知るカザフ人と日本人が協力して核廃絶を訴える必要性を語る増島繁延氏。増島氏はカザフ語・日本語辞書の編纂や同国の歌手ディマッシュ・クダイベルゲン氏の来日に際して日本語通訳を務めるなどカザフスタンと日本の架け橋として長年尽力している。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタンに15年以上在住の日本語学校校長でジェトロ特派員の増島繁延氏は、日本もカザフスタンも核兵器の恐怖を体験してきたからこそ、「被爆国として私達(=カザフ人と日本人)が核兵器の恐怖を世界に伝えていかなければ、人々はわからない。だからこそ、私達が率先してやらなければならないことだと思います。」と語った。

「核兵器について、漠然としたイメージを持っている人が多いですが、しかし、自分たちの見えるところに核兵器があるわけではないので、どうしても日常性の中から、核の問題というのは隠れてしまいがちです。その意味で私たちは、自分たちの様々な人生・生き方に関わる観点から、核兵器というものが決して無関係ではなく、強い関係の上で成り立っている、そのことを視点として皆さんに提供したいという目的をもって構成されている展示です。」と寺崎総局長は語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|桜とカリブルブル(カラバフ地域に咲く特有の花)

【バクーINPS Japan/AZVIsion=アイーダ・エイバズリ】

Map of Azerbaijian
Map of Azerbaijian

2020年9月27日に勃発した第二次ナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンは、約3000人の犠牲者を出した44日間に亘った戦闘と、ロシアや米国等による数度にわたる調停を経て、30年以上アルメニアの占領下にあったナゴルノ・カラバフ地域の約4割を回復した。(ただし、アゼルバイジャンにとって念願のアルメニア軍の撤退は実現したが、代わりに同地域にロシア軍の駐留を認めざるをえなかった。) English Azeri

紛争が終わり、メディアが解放されたナゴルノ・カラバフ地域に入ると、家屋をはじめ歴史的な建造物から著名人の墓碑に至るまで、徹底的に破壊された旧占領地の惨状が世界に発信されるようになった。

1993年のアルメニア軍の軍事侵攻と占領後の破壊・略奪でゴーストタウンと化していたアグダムに入った著名な英ジャーナリスト トーマス・デワール記者は、破壊されたモスクのミナレット(尖塔)から見下ろしたアグダムの光景を「あの日は、春の空が晴れ渡った日で、ここから、100キロ北のコーカサス山脈の峻険な山並みをが見てとれた。しかし、私の視線は眼下に広がる小さな広島(徹底的に破壊されたアグダムの街)に釘付けになった。」と、著書「カラバフ: 戦争と平和の道を歩むアルメニアとアゼルバイジャン」で述べている。

The ruins of Agdam city photo by Azvision.az

この著名な英国人記者が荒廃したアグダムの街並みと原爆で荒廃した広島を比較したのは偶然ではない。後者は米軍が政治的に「リトル(ボーイ)」と名付けた核爆弾によって、前者は街に侵攻してきたアルメニア軍によって、無辜の市民が多数虐殺されたという点で共通点がある。

The ruins of Agdam city photo by Azvision.az

日本政府は戦後、1960年代初頭までには広島市の再建を成し遂げ、爆心地付近は12ヘクタールの広大な地域を平和記念資料館や平和の鐘など様々の施設を備えた平和記念公園に整備した。広島原爆の惨禍を経験した人々は、カラバフ戦争で私たちが経験した痛みや今日直面している問題をより理解していただけるのではないだろうか。

今日、アゼルバイジャンは友好諸国の支援を得て、新たに回復した地域の再建に乗り出している。新たに奪還したカラバフ地域の空の玄関口としてフュズリ(首都バクーから西に300キロ)には、早くもトルコの支援を得て国際空港が開港し、ザンギラン市の元住民は30年越しの念願が叶って故郷に戻り始めている。古都シュシャは古来音楽の都としても知られており、再び国際音楽コンクールを開催している。蘇ったシュシャの街は、こうした活動を通じて、再び平和・自由・友好を象徴する音楽の都として存在感を拡げていくだろう。

またアゼルバイジャンは、現代世界を繋げて2500年の歴史を有する大シルクロードを復活させるべく、ザンゲズール回廊(ナゴルノ・カラバフ地域とアゼルバイジャンの飛地であるナヒチェバン知事共和国を繋ぐ回廊)の建設に乗り出している。また、新たに解放した地域に平和と安定をもたらすために、友好諸国の支援を得て、道路建設と並行して、30年に亘った占領中に破壊された家屋や学校、様々なモニュメントも再建している。

Khari-Bulibul photo by Azvision.az
Khari-Bulibul photo by Azvision.az

ナゴルノ・カラバフの解放地域の復興状況には、日本企業が積極的に関与している。例えば、グリーン・エネルギー・ゾーンを構築すべく、日本企業が作成した行動計画(2022~2026 年)が承認され、日本企業の有する先進的技術、ノウハウ等の活用が期待されている他、日本企業は開放地域地位における地雷除去活動にも深く関与している。地雷が除去された地域から随時エコシステムを復活させ、グリーンゾーンを構築していくのである。

私たちは、開放地域の復興のためのシュシャを訪れる日本人に、アゼルバイジャンの自由・愛・勝利の象徴であり、この山岳地帯で4月上旬に開花するカリ・ブリブリの花を見せている。この花と日本の桜が似ているように、アゼル人と日本人の愛や夢も互いに共通するものを感じる。私は、いつの日か、日本の桜の花が、開放されたシュシャやカンゲンディ、コジャリといった地でも花を咲かせてほしいと願っている。(原文へ

INPS Japan

この記事の著者は2022年9月にカザフスタンのアスタナで開催された第7回世界伝統宗教指導者会議を共に取材したアゼルバイジャンの記者。アゼルバイジャンの国営テレビで本記事の掲載やINPS Japanとのコラボについて話してくれた。

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【国連IDN=タリフ・ディーン】

9月6日に国連が開催した「平和の文化」に関するハイレベルフォーラムは、世界に明確なメッセージを送った。

今回のハイレベルフォーラムは、主権国家であるウクライナが、世界最大の核保有国の一つであり国連安保理の常任理事国であるロシアによって蹂躙されているときにあって、平和の重要性を強調した。

同時に、シリアやイエメン、イラク、エチオピア、リビア、ミャンマーで発生している数多くの軍事紛争と終わりなき内戦においてもまた、平和的解決と政治的安定性が待ち望まれている。

国連の「趣旨説明」によると、今年のハイレベルフォーラムは「様々な場所において暴力と紛争が継続し拡大する状況を世界が目の当たりにする中で」開催されたものだ。

「こうした問題が、既存の差別や不寛容の問題の上に折り重なっている。人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治的・その他の見解、国籍あるいは社会的出自、資源へのアクセス、障害、出生時の地位などに基づく差別は、新型コロナ感染症のパンデミック(世界的な大流行)によってさらに悪化している。」

国連総会が「『平和の文化』に関する宣言及び行動計画」に関する先駆的な決議53/243を全会一致かつ留保なしに採択したのは1999年9月13日のことだった。

The U.N. has held High-Level Forums on the Culture of Peace for the past three years. Ambassador Chowdhury moderates a panel at last year’s event. Credit: UN Photo/Evan Schneider
The U.N. has held High-Level Forums on the Culture of Peace for the past three years. Ambassador Chowdhury moderates a panel at last year’s event. Credit: UN Photo/Evan Schneider

この画期的な決議の採択を国連で主導したアンワルル・チョウドリ大使はIDNの取材に対して、この25年ほど「私は、平和と非暴力を自分自身の一部、つまり人格とすることを目指す、『平和の文化』の推進に力を注いできました。」と語った。

「地球と人々の両方を破壊する軍国主義、軍事化、兵器化がますます進む中で、『平和の文化』はより意義を増してきました。」とチョウドリ大使は指摘した。

チョウドリ大使はまた、「『平和の文化』に関する行動計画を国連はどうやって履行するつもりなのかとしばしば尋ねられます。私は、国連自身が国連システムを通じてそれを所有し内在化する必要があると考えています。」と語った。大使は「世界の子どもたちのための平和の文化と非暴力のための国際の10年」(2001~10年)の実施を決めた1998年の宣言を主導したことでも知られている。

チョウドリ大使は、「国連事務総長は『平和の文化』を指導的なアジェンダの一つに優先的に据えるべき。」と語った。持続可能な平和という目標を前進させるために「平和の文化」のプログラムの中で国連が持っている実行可能なツールを事務総長は大いに利用すべきだという。

「『平和の文化』のツールを用いようとしないことは、職場に行くのに車が必要で、実際に自家用車を持っているのに、運転の仕方に関心を持たないのと同じようなことだ。」

「私が『平和の文化』を推進する中で学んだことの一つは、戦争と紛争の歴史を繰り返してはならないということです。そして、非暴力や寛容、人権、民主的参加の価値を、あらゆる男女、子ども、大人の中で育んでいかなければなりません。」と元国連事務次官、元国連上級代表のチョウドリ大使は語った。

まもなく退任する第76回国連総会のアブドゥラ・シャヒド議長は、「平和の文化」を「暴力や紛争の根本原因に対処して、個人や集団、国家間の対話や交渉を通じて問題解決を図ることで、暴力を拒絶し紛争を予防する一連の価値観や態度、行動様式、生き方である。」と定義した。

UN Assembly President Abdulla Shahid Highlights Hope For Billions Around the World/ UN News

「このことから、私たちは、持続可能な平和は単に暴力や紛争の不在によって永続するのでない、と理解しています。むしろ、『平和の文化』は、対話と尊重を通じて相互理解を高め差異を乗り越える継続的な取り組みを社会に要請しているのです。この目的に向かって、『平和の文化』は、国家や地域社会から家族、個々人に至る社会の様々なレベルの内部、またそれらの間において行動の変革を促すものです。」

「その基盤となる一体性と包摂性の原則は、コロナ禍や気候変動、フェイクニュースの拡散、経済の不確実性といった国境を超える難題でこの世界が満たされている時にあって、極めて重要です。こうした問題の一つ一つが領域を横断した影響を及ぼし、紛争の可能性を高めてしまうのです。」とシャヒド議長は語った。

カンボジアのソバン・ケ国連大使は、10カ国が加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)を代表して、今回のハイレベルフォーラムのテーマ「平和構築を進めるための正義・平等・包括の重要性」は、コロナ禍から地域紛争、食料不足に至る多くの世界的な課題がある中で、「平和の文化」の永続的な価値を反映していると語った。

ケ大使は、正義、平等、包摂の原則は、平和を維持し、平和構築の取り組みを推進する国内および国際的な取り組みの中核となるべきであると語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

持続可能な開発目標(SDGs)第16目標(平和で包摂的な社会の推進)に関連して、ASEANは「これらの中核的な原則なくして、意味のある開発などあり得ないと考えている。」と大使は語った。

55年前、ASEANの創設者らは、「正義と法の支配を尊重し国連憲章の原則を遵守することで地域の平和と安定」を促進する、ルールに基づいて発展し続ける地域的枠組みの先頭に立つ組織を構想していた。

6億3000万人の人口を抱えるASEANは、「平和の文化」を、政治的に連帯し、経済的に統合され、社会的に責任を持ち、民衆を指向し、民衆を中心とした地域づくりの中核的な価値であると理解し、その価値を取り込んできた。

ASEANは、地域機関と国連が共通の利益のために重要な問題に取り組むための独自の補完的な能力を有していると確信している。

「『平和の文化』を強化することは、平和構築の取り組みを前進させる道です。」とケ大使は語った。

インドは、ハイレベルフォーラムの前に発した声明で、「『平和の文化』は平和と寛容のグローバル秩序の基礎だ」と述べた。それは、包摂的かつ寛容な社会を築く前提条件となる。

このことは、紛争後や紛争の影響を受けた状況において、また、平和構築を推進する私たちの取り組みにおいて、より大きな意味を持つ。「平和の文化」に関する国連宣言と行動計画は、連帯と理解を促進する多国間行動の効果的な青写真を提供している。

「寛容や憎悪、暴力、テロがもはや一般的となってしまった今日の世界では、『平和の文化』促進への私たちの強いコミットメントを再確認することが以前にもまして重要になってきている。」とインドの声明は述べている。

現在のパンデミックは、かつてないほど人類の相互関連性と相互依存性を浮き彫りにしている。このような試練の時にあっては、相互の支援、共感、協力を強めることが求められる。

「加盟国間の分裂と亀裂がますます拡大している今、私たちは『平和の文化』の促進に関する世界的な対話を促進する国際的な努力を強化することを呼びかける。また、宗教間の対話は、包括的かつ広範なものとし、あらゆる宗教や宗派を包含したものでなければならないということを再確認する。」

「民主主義、多元主義、思いやり、文化の多様性、対話と理解の原則を順守する平和構築の努力は、『平和の文化』の基礎を形成する。」

平和構築の取り組みへのインドの基本的なアプローチは、加盟各国がそれぞれ舵を取っているということと、そして、加盟国の開発優先順位を尊重する姿勢に根ざしている。

今日の世界では、不寛容や憎悪、暴力、テロリズムがほとんど当たり前になってしまいつつある。

国連はこの「趣旨説明」において、コロナ禍の影響に加えて、紛争の結果が不景気を加速し、社会を不安定化させ、不平等を増大させ、ガバナンスの問題を悪化させていると指摘している。また、平和と安全保障に対して、各国と世界の両レベルにおいて難題を投げかけている。

Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine

既に以前から存在した脆弱性の問題に加えて、これら全てのことが、とりわけ紛争後および紛争に影響を受けた国々の貧困層を、暴力や危険に晒されやすくしている。

「この問題に対処するために、望ましい社会への共通のビジョンを作り上げ、住民のあらゆる部分のニーズを考慮に入れることを視野に入れるならば、平和構築と平和の持続に取り組む以外に選択肢はない」。

このようなビジョンは、紛争の発生、拡大、継続、再発を防止し、根本原因に対処することを目的とした活動を包含している。同時に、差別や不平等をなくし、誰も取り残されないように社会的結束と包摂的開発を促進することが急務となっている。

「平和の文化」に関する国連総会決議で詳述されているように、平和的かつ非暴力的な方法でこうした問題に対処する能力を人々につけることが、不可欠の要素となる。

「平和の文化」の概念によって促進される価値は、「宣言」および「行動計画」によって、8つの行動領域(①教育、②持続可能な経済及び社会開発、③人権、④男女平等、⑤民主的参加、⑥理解・寛容・連帯、⑦情報及び通信の自由、⑧軍縮かつ紛争の平和的解決を通じた平和と安全の促進)を通じて定義されている。(原文へ

INPS Japan

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【アスタナINPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

ローマ法王フランシスコが、東西をつなぐ新たなルート(道筋)の中心として中央アジアのカザフスタン共和国が台頭してくる見通しを提起した。しかし今回は、人間関係と尊重を基盤としたルートの話である。

カザフスタンはかつて、シルクロードと呼ばれる、東西をつなぐルート(交易路)を通る貿易商や旅人たちが出会う場所だった。この21世紀にあっては、中国が「一帯一路」構想として知られる鉄道や高速道路網を通じた新たなシルクロードを構築しようとしている。

カザフスタンの首都ヌルスルタン(17日にアスタナに改称)で第7回「世界伝統宗教指導者会議」が9月14日に開会されるにあたって、ローマ法王は、人間を純然たる物質的な欲望の追求から引き離すこうしたルート(道筋)に新たな定義を与えた。

約1000人の参加者で埋まったカザフスタン中央コンサートホールにおいて市民社会や各国外交官の代表らとの公式会見に臨んだローマ法王フランシス 撮影:浅霧勝浩 

ローマ法王は「私たちは、かつて隊商たちが数世紀にわたって旅してきた国に集っています。この土地では、とりわけ古代のシルクロードを通じて、多くの歴史や思想、宗教的信条、希望が交錯してきました。」「カザフスタンが再び、遠くからやってきた人々の出会いの地となりますように。」と、50カ国以上から参加した主に宗教指導者から成る約1000人の聴衆に語り掛けた。

法王はまた、そうしたルートは「尊敬、真摯な対話、人間尊重、相互理解を基盤とした人間関係を中心としなければなりません。」と語った。

カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、12世紀から14世紀にかけてヌルスルタンには仏教寺院、キリスト教の教会、イスラム教のモスクが建っていたことを指摘し、「カザフの大地は、昔から東西の架け橋でした。しかし、残念なことに、(今日の国際情勢を見渡せば)不審と緊張、紛争が国際関係に舞い戻ってきています。」と語った。

Kassym-Jomart Tokayev, President of Kazakhstan, delivering his speech  before  representatives of civil society and diplomatic corps at the Kazakhstan Central Concert Hall, which was packed with over 1000 people. Photo by Katsuhiro Asagiri
公式会見で演説するカザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領 撮影:浅霧勝浩  

トカエフ大統領はまた、「これまでの国際安全保障体制が崩壊しつつあります。」と指摘したうえで、「これらの危機を克服する方途は、善意と対話、協調の中にしかありません。」と断言した。

ローマ法王は、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行(パンデミック)によって「強制的にもたらされた世界の不平等と不均衡という不公正」を根絶するために協力するよう、世界各国から集った宗教指導者らに熱心に語りかけた。

「今日でも依然として、どれだけの人々がワクチンを受けることができずにいるでしょうか?より多くを手にし、僅かしか与えないものたちの側ではなく、困っている人々の側に寄り添おうではありませんか。自ら予言的で勇気をもった良心の声となろうではありませんか。」とローマ法王フランシスコは語りかけた。

「貧困はまさに、伝染病やその他の巨悪の蔓延を可能にするものです。不平等と不公正が増殖し続ける限り、新型コロナウィルス感染症よりもさらに悪いウィルス、すなわち憎悪、暴力、テロリズムといウィルスがなくなることはないでしょう。」と法王は警告した。

全体会議では、主要宗教や各地域を代表する多くの講演者が同様のメッセージを発した。

アルアズハルモスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師 撮影:浅霧勝浩

カイロのアルアズハル大学の総長で同モスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師は、パンデミックから回復しようとしているときに、別の災害が出てきている状況を嘆いた。「私たちは最近、グローバル経済に影響を及ぼす傲慢な政策の影響を受け、民衆の生活が破壊されています。道徳的な教えを持つ宗教が、現代文明を導いていないことは痛ましいことです。」と語った。

ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長であるボロコラムスク府主教アンソニーは、キリル総主教の声明を引用して、「私たちは、事実が捻じ曲げられるのを見たり、国々や人々に対する憎悪にまみれた言葉を投げつけることで、人々を対話と協力から遠ざけたりする様を見てきました。」と述べたうえで、そうした対話を行う機会を与えてくれた「世界伝統宗教指導者会議」への謝意を述べた。

ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長であるボロコラムスク府主教アンソニー師 撮影:浅霧勝浩

「文明は善悪で分割することはできません。私たちは相互の尊重を育んでいく必要があります。」と語ったのは、中国道教協会の李 光富(リ・コウフ)会長である。

二聖モスクの守護者(サウジアラビア国王)を公的に代表するサレー・ビン・アブドゥル=アジズ・アル・アシュ=シェイク師はまた、宗教間に橋を架けることの重要性を語った。「宗教が社会に混乱をもたらすために利用されないようにしなくてはなりません。私たちは社会的責任の価値を促進する必要があります。従って、宗教指導者の役割は、慈善、正義、公正さ、思いやりを実践するよう、他の人々を動機づけることであるべきです。」と師は訴えた。

Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai delivering his speech at the plenary session. Photo by Katsuhiro Asagiri
池田大作SGI会長の2022年平和提言を引用しながら、本会議で発言する寺崎広嗣創価学会副会長 撮影:浅霧勝浩

日本の仏教団体・創価学会の寺崎広嗣副会長は、「苦境にある人々に手を差し伸べることが以前にも増して重要になっています。」と指摘した。寺崎副会長は、法華経の教え(「自他共の幸福」の思想)を紹介しつつ、「(さまざまな脅威を克服する“万能な共通解”は存在しないからこそ、)困難を抱える人のために自らが『支える手』となり、共に喜び合えるような関係を深めていくことが重要である」との池田大作SGI会長の2022年平和提言の趣旨を強調した。また、「生きる喜びを皆で分かち合える社会を目指し、宗教間の連帯を広げていきたい。」と述べた。

アフリカから唯一の代表であった「全アフリカ教会協議会」のフィドン・ムウォンベキ博士は、他者の尊厳を尊重せずに、他者が反応した際に紛争を引き起こしてしまうような人物はあらゆる宗教にいる、と指摘した。この点の説明をIDNが後にさらに詳しく求めたところ、博士は「人間がお互いに顔を合わせないときには、ステレオタイプを持ってしまう。しかし、互いに顔を合わせれば、そうしたステレオタイプが違っていたことに気がつくだろう。」と説明した。

アフリカからの唯一の代表であった、全アフリカ教会協議会のフィドン・ムウォンベキ博士 撮影:浅霧勝浩

ムウォンベキ博士は、アフリカでは、ソマリアやコンゴ、ナイジェリア北部で起こっていることから、多くの人がイスラム教は暴力的だと考えていると説明した。「私はここでイスラム教徒に会い、彼らがイスラム教についてどのように話しているか、すべての人の人間の尊厳へのコミットメントを見て、(私は)彼らの人生に対する態度が(ステレオタイプとは)異なっていることを理解しました」と指摘した。

最終宣言

ローマ法王フランシスコの参加を得て2日間の日程で開催された第7回会議の最終宣言には35の項目と勧告が盛り込まれた。この宣言は、世界のどの国の行政機関でも、また国連などの国際機関でも利用可能な文書を作成することによって、人類の現在および将来の世代が、相互尊重と平和の文化を促進するための指針とすることを確認したものである。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

「世界伝統宗教指導者会議」事務局長でカザフスタン議会の上院議長をつとめるマウレン・アシムバエフ氏は、この宣言は発表後に次の国連総会において加盟国に提示されることになると語った。

宣言はまた、会議の事務局に対して、2023年から33年の10年間、世界伝統宗教指導者会議を世界的な宗教間対話のプラットフォームとして発展させるためのコンセプト・ペーパーを策定するよう、会議事務局に指示した。

第7回会議の閉会にあたって、トカエフ大統領は、「宗教が持つ平和構築の潜在力を有効に活用し、宗教指導者の努力を結集して長期的な安定を追求することが重要である。」と語った。

「コロナ後の世界において地政学的な混乱が激化する中、グローバルなレベルで文明間の対話と信頼を強化するための新しいアプローチを構築することがより重要となっています。今回の会議は、このような重要な取り組みに大きく貢献できたと確信しています。」と、トカエフ大統領は語った。

また、カザフスタンを訪問し会議に出席したローマ法王に対する謝意を表明し、「今回の法王のご訪問により、最終宣言に盛り込まれたアイディアや提言が世界的に一層よく知られるようになると考えています。」と語った。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
                     参加者の集合写真 資料:第7回世界伝統宗教指導者会議事務局

第8回世界伝統宗教指導者会議は3年後の2025年9月に同じヌルスルタン(アスタナ)で開催されることが最終セッションで合意されている。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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先住民を脅かす気候変動―彼らの視点を取り入れよ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=カリン・ゲルハルト/ジョン・デイ/ラリッサ・ヘイル/スコット・F・ヘロン】

オーストラリアの先住民は気候変動による多くの脅威に直面しており、それは食料供給から健康問題にまで及ぶ。例えば、海面上昇によりすでにトレス海峡の島々では浸水が発生しており、壊滅的な被害が生じている。

気候変動に関する政府間パネルによる影響と適応に関する直近の報告書では、オーストラリアに関する章において、気候変動がアボリジナルの人々やトレス海峡諸島民、そして彼らの土地と文化に及ぼす影響は「広範、複雑、複合的」であると記されている。(原文へ 

これらの影響が記録されることは重要であるが、データの出典の大部分は西洋科学に基づく学術文献である。「伝統的所有者」たちが彼らの土地で経験し、対処している影響や困難は、彼ら独自の視点から評価し対処されなければならない。

「伝統的所有者」たちは、6千年以上にわたってオーストラリアで暮らしてきた間に気候の変化を乗り越え、適応してきた。それには、現在グレートバリアリーフとなっている一帯を水没させた海面上昇や、降雨量の極端な変動などがある。その結果、時間の経過に伴う自然の変動に対する繊細な感覚を彼らは発達させた

そこで、私たちは何をしたか?

Yuku Baja Muliku(YBM)の先住民の人々は、クイーンズランド州北部アーチャーポイント周辺に広がる彼らの「陸と海の国」に見られる変化を案じ、文化的価値への影響を評価する新たな方法を創出するため、ジェームズクック大学の研究者と協力を行った。

私たちはそのために、価値観に基づき、科学的根拠に主導され、コミュニティーに重点を置いた気候脆弱性指数のアプローチを用いた。この指数が、先住民の人々にとって重要な意味を持つ価値を評価するために使われたのは初めてである。

YBMの人々は次に挙げるような、彼らの価値観に生じた変化を評価するための主な質問に回答した。

その価値は、100年前はどのようなものでしたか? それは現在どのようなものですか? 2050年頃の将来の気候において、それはどのようなものになると予想しますか?その価値に関連してどのような管理方法がありますか、それは今後変化しますか?

そのうえで、これらの気候変動からどのような問題が生じたかを議論した。

このプロセスを用いて、YBMの人々の暮らしぶりに直接影響を及ぼしている問題を洗い出すことができた。例えば、伝統的な食料源は気候変動による影響を受ける可能性がある。アナン川ではかつて、カラス貝を簡単に見つけて採ることができた。しかし、ここ10年の極端な気温現象が大量死をもたらしている。今やカラス貝は以前よりはるかに小さくなり、数もはるかに少ない傾向がある。

また、この過程で、降雨量と気温の変化により一部の食用植物が出現する時期が変わっていることも記録された。これは特に、花が開き、あるいは芽が出るためには野焼きが必要な植物に当てはまる。これはひいては、採集・収穫のタイミングが変化したということを意味する。

このような気候に連動する変化は、既存の伝統的知識体系に試練を突きつけ、「陸と海の国」に広がるさまざまな種、生態系、気象パターンの間の結びつきを変化させる。

このプロセスの重要な部分は、伝統的な生態学的知識の持ち主と西洋科学の研究者との間に相互に有益なパートナーシップを築くことであった。それには、信頼と尊重に基づく関係を確立することが不可欠である。

まず彼らの国を歩くこと、すなわち川、マングローブ、浜辺、岬、森林、湿地を見て、「海の国」を眺め渡すことは、研究者らにとって、「伝統的所有者」たちの視点を理解する助けとなった。経験と知識(特に年配者や先住民レンジャーが持つもの)に敬意を払うることが重要であった。先住民の文化的・知的財産プロトコルが認識され、評価プロセスを通じて尊重された。

「伝統的所有者」を彼ら自身の知識体系における熟練の科学者として尊敬し、協力して働くことが、成功に不可欠であった。繊細な伝統的知識を守るために、伝統的な生態学的知識を気候変動評価に組み入れるあらゆる努力が必要である。

気候変動は今後も続き、加速すると思われることから、先住民族の人々の文化的遺産にもたらされる影響を最小限に抑えるため、私たちは力を合わせて取り組まなければならない。

カリン・ゲルハルトは現在、博士課程の一環としてYuku Baja Mulikuの伝統的所有者の人々との協働プロジェクトに携わっている。グレートバリアリーフ財団に勤めており、以前はグレートバリアリーフ海洋公園局で働いていた。
ジョン・デイは、1986年から2014年までグレートバリアリーフ海洋公園局に勤務し、1998年から2014年は同局のディレクターの1人であった。スコット・ヘロンとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。
ラリッサ・ヘイルは、Yuku Baja MulikuのJalunji Warra民族の出身であり、現在、Yuku Baja Muliku Landowner & Reservers Ltd.の最高経営責任者を務めている。また、地元自治体クック・シャイアの議員として2期目を務めている。
スコット・F・ヘロンは、オーストラリア研究会議とNASA ROSES生態系予測プログラム(NASA ROSES Ecological Forecasting)より資金提供を受けている。ジョン・デイとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。

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【ヌルスルタン(アスタナ)INPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

9月13日に開催された第7回「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合において、マウレン・アシムバエフ事務局長は、「世界全体が、コロナ禍、紛争、制裁、気候変動などの世界的問題の影響を経験しており、私たちは、世界全体で地政学的対立と紛争の激化を目の当たりにしています。」と語った。

「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合が開催された「平和と調和の宮殿」撮影:浅霧勝浩
「世界伝統宗教指導者会議」の事務局会合が開催された「平和と調和の宮殿」撮影:浅霧勝浩

カザフスタンの首都を会場として2日間開催され、ローマ法王フランシスコが基調講演を予定している今回の会議を前に、アシムバエフ事務局長は、「国家間の不信、戦争、テロ、国際機関による効果的対応の欠如が世界全体の状況にマイナスに作用しています。この状況の下、私たちの会議は、対話、矛盾の克服、紛争の終結、平和の達成を求め、国際社会に対して重要なメッセージを送ることができます。」と語った。

調和の中で人々が生きる多宗教・多文化社会を実現してきたことを誇るカザフスタンは、9・11同時多発テロ後に世界全体で宗教的対立が起こる中、2003年にこの会議を開始した。第1回会議には23カ国から17人の代表団が集まった。

世界伝統宗教指導者会議は3年毎に開催されている。

9月14日に開幕した第7回会議には50カ国・100以上の代表、国際メディア約230社、国内メディア500社が集まった。

今回の会議のハイライトはローマ法王フランシスコの参加であった。法王はカザフスタンに3日間の滞在の予定で9月13日に到着した。この20年でローマ法王が中央アジアの同国訪問するのは初めてのことである。イスラム教徒が大半を占める(人口の7割)このカザフスタンにおいて、人口1900万人のうちカトリックは約12.5万人しかいない。

到着した日の夜、ローマ法王は、約1000人の参加者で埋まったカザフスタン中央コンサートホールにおいて市民社会や各国外交官の代表らとの公式会見に臨んだ。

カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、ローマ法王を迎えるにあたり、ソ連からの独立後30年間、同国は「多様性における統一」の概念に基づき、民族・宗教間の調和のための独自のモデルを構築してきたことに触れ、このような経験があるからこそ、カザフスタンでは「世界伝統宗教指導者会議」を開催しているのだと指摘した。

ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩
ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩

トカエフ大統領は、ローマ法王のカザフスタン訪問に謝意を示しつつ、「2003年に始めたこの会議は、各々の信仰が異なっていても一堂に集い協力し合うことができることを示す好例と言えます。私は、対話と人間の博愛、尊重のみが共存と寛容を可能にすると強く信じています。法王の訪問はこの会議の価値を高め、そのメッセージを世界に広く伝えるのに役立つだろう。」と語った。

トカエフ大統領はまた、「世界のほとんどの発展途上地域で食糧不足に直面しています。同時に、世界の最も脆弱な国々で地政学的対立が激化し、世界各地で緊張が高まっています。」と指摘した。

カザフスタンは「健全で世俗的な」社会を形成してきたとして称賛したローマ法王は、「現在の地政学的な緊張関係の中では、対話を促進する外交的な取り組みを強化することが肝要です。」「敵意を悪化させず、集団間の対立激化を鎮静化させる術を学ぶべき時です。私たちには、人々の間の相互理解と対話を国際レベルで促進できる指導者が必要であり、それによって、新たな世代の声を考慮に入れつつ、より安定的で平和的な世界を構築することが必要です。」と語った。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

「そのためには、誰が相手であっても、理解や忍耐、そして全ての人との対話が必要です。繰り返しますが、たとえ『誰が相手であっても』です。」とローマ法王は強調した。

車椅子に乗って登壇したローマ法王フランシスコは「腐敗の害悪」を乗りこえる必要についても語った。そうすることで、人々のニーズに対して、言葉だけの注目を与えるのではなく、真に対処することが可能になるからだ。カザフスタンの豊富な天然資源について言及した法王は、そうした富は不平等を生じかねないと指摘した。「社会の繁栄は一部の者たちの手中にのみ納めてはならず、多くの人々が共有しなくてはならない。」と法王は指摘した。

カザフスタン外務省が9月13日に開いた記者ブリーフィングで、「ナザルバエフ宗教間・文明間対話発展センター」のブラート・サルセンバエフ・センター長は、今回のような会議が国家間紛争に対していかに建設的な解決策を与えうるかという記者からの質問に答えて、今回の会議を独自のものたらしめているものは、これまでの同種の集まりとは異なって、カザフスタンが、世界各地の宗教の単なる代表団ではなく、その指導者の参画を得ている点にある、と指摘した。

カザフスタン外務省に開催された、国際メディア代表に対するプレス・ブリーフィング。中央左が、ナザルバエフ宗教間・文明間対話発展センター」のブラート・サルセンバエフ・センター長、右がローマン・バシレンコ外務副大臣 撮影:浅霧勝浩

サルセンバエフ・センター長は同時に、この会議が、世界の紛争に関連した「全ての問題を解決できるわけではない」ことも認めており、「私たちは、(問題解決に向けた)適切な雰囲気を作り、イニシアチブを提案し、いくつかのステップを提供しようとしていますが、これは長い道のりです。」と語った。

記者ブリーフィングの司会を務めたカザフスタンのローマン・バシレンコ外務副大臣は、会議の最終文書は「きわめて影響力の強い精神的な指導者の声として」、世界の多くの国際機関や各国政府に送られ、メディア、特にSNS上を通じて拡散される予定だと語った。

会議の議長を務めたアシムバエフ事務局長は、精神的な指導者や宗教者らは、「もしこの会議が共通の建設的なアジェンダの下に国際社会を連帯させることができるならば、イデオロギー的、精神的な空白を新たな意味合いで満たすことができるだろう。」と語った。(原文へ

INPS Japan

第7回世界伝統宗教指導者会議(9/14-15)には世界各地から約230の主だったメディアが、カザフスタンに記者を派遣した。IDN/INPSを代表して日本から取材に当たった浅霧勝浩INPS Japan理事長/マルチメディアディレクターが、現地で同行した各国の記者たちの視点から一連の行事を映像にまとめた。撮影・編集:浅霧勝浩

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【ヌルスルタンINPS Japan=浅霧勝浩 (Katsuhiro Asagiri)】

「第7回世界伝統宗教指導者会議」(9月14日~15日)に出席するため13日に中央アジアのカザフスタンに来訪したローマ法王フランシスコは、首都ヌルスルタン市内の中央コンサートホールで、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領と共に登壇し、公式会見に臨んだ。ローマ法王のカザフスタン来訪は、2001年9月22日のヨハネ・パウロ二世以来21年ぶり。会場には各国から到着した伝統宗教指導者をはじめ、カザフスタンの各界代表や駐在外交団が出席した。

Abai Kunanbaev/ Public Domain
Abai Kunanbaev/ Public Domain

法王フランシスコはこの公式会見で、2003年以来「世界伝統宗教指導者会議」(2003年から3年毎に開催)を一貫してホストしてきたカザフスタンの多様性と調和を重んじる社会的風土について言及。同国の伝統楽器「ドンブラ」をモチーフに同国で深く尊敬される詩人・作曲家・哲学者・教育者で、しばしばドンブラと共に歌われる、アバイ・クナンバイウル(1845~1904)の言葉を巧みに引用しつつ、スピーチを行った。

法王フランシスコは、「ドンブラ」について「多様性の中で、過去と現在をつなぐ継続の印」「移り変わりの早い社会において、過去の遺産と記憶を大切に守るシンボル」と述べ、平行な二本の弦を弾くドンブラの奏法を「冬の厳寒と夏の猛暑、伝統と発展、アジア性とヨーロッパ性といった相対する特徴を調和」させる「東西が出会う国カザフスタン」の姿に重ね、ドンブラが他の弦楽器と共に演奏される特徴にも言及しつつ、「社会生活の調和は、共に育ち、成熟してこそ可能になるものです。」と語った。

また、多様な文化的・宗教的伝統が調和するカザフスタンは、「多民族・多文化・多宗教の実験室、『出会いの国』としての召命を帯びています」と指摘。「健全な政教分離のもとで宗教の自由が尊重されたこの国で、社会調和における宗教の貢献を示すために、第7回世界伝統宗教指導者会議に参加できることを嬉しく思います。」と語った。そして、「カザフスタンの名が調和と平和を表すものであり続けることを願いつつ、この国の平和と一致の召命を神が祝してくださるように。」と祈られた。

ドンブラ(前列向かって左端の2人がドンブラ奏者)を含むカザフスタンの伝統楽器による演奏 撮影:浅霧勝浩

歴史の悲劇を未来の希望につなげる知恵

多様性に寛容な多民族・多宗教国家の背景には、カザフ人が歩んできた苦難の歴史がある。

スターリンがカザフスタンで引き起こした飢餓(1932年~33年)により、多くのカザフ人が隣国に逃れた。研究により諸説あるが、この時期に150万人から230万人のカザフ人が犠牲になったと推定されている。出典:Wikimedia Commons

かつて東西交易の要衝をおさえる遊牧民の国家として繁栄したが、18世紀に入ると南下してきた帝政ロシアの圧迫をうけ、19世紀にロシア帝国の支配下に入った。さらに20世紀になるとロシアに代わったソ連の下で大規模な定住政策・集団農場が強制され、その結果引き起こされた飢饉で推定150万人から230万人のカザフ人が犠牲になった。また、カザフ人の独立を訴えた活動家や知識人・資産家は抑圧の対象となり、多くが各地に設けられた強制収容所で犠牲となった。言語もカザフ語よりもロシア語が優先され、文字表記もアラビア文字からラテン文字、さらにキリル(ロシア語で使われるアルファベット)文字が強制された。第二次世界大戦がはじまると、ドイツ人、ユダヤ人、ポーランド人、朝鮮人、日本人、ウクライナ人等、ヨシフ・スターリン政権によって敵視された各地の市民や捕虜がカザフの地にも建設されたソ連の強制収容所に連行されてきた。現在のカザフスタンに130以上の民族がいる背景にはこうしたソ連時代の政策も関係している。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

また、戦後は1949年から89年にかけて、ソ連がカザフスタン東部に建設したセミパラチンスク核実験場(大きさは日本の四国に相当する:INPS)で456回にわたって核実験が繰り返され、健康上の影響を受けた人は150万人におよぶとされる。

こうした苦難の歴史にもかかわらず、カザフ人はソ連が解体すると、新生カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の強力な指導の下で、あらゆる民族平等と信教の自由(ソ連の体制下では宗教は毒とされ抑圧された)を保証するとともに、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核戦力の完全放棄を、ロシアのみならず欧米諸国の安全保障を巧みに取り付けて実現した。以来、カザフスタンは、国連を基軸に「核なき世界」の実現を訴える外交活動を最も活発に展開している国の一つである(2024年には核兵器禁止条約締約国会議をホストすることが決まっている)。

カザフスタンでは、ソ連による遊牧文化の否定・定住化政策にも関わらず、都市民・農耕民となってた今も、カザフ人のジュズ、部族、氏族に対する帰属意識はよく残っている。独立したカザフスタンは、苦難の時期を経ても祖先から受け継いできた伝統・文化を国造りの基本に据えるとともに、ソ連時代にカザフ文化が抑圧された教訓を生かすべく、カザフ文化以外のカザフ人(他民族系カザフ人)の伝統・文化・宗教をカザフ文化と対等に扱うことを憲法に明記し社会の調和を重視する政策を推進している。

ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩
ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩

法王フランシスコは、カザフの地に根付く寛容で強固な精神性について、アバイの言葉「いのちの美しさとは何であろう。もしその深きをさぐらぬならば。」「目覚めた魂、澄んだ精神が必要」等を引用しながら、「世界は私達から、目覚めた魂と澄んだ精神の模範、真の宗教性を待ち望んでいる。」と語った。そして、「『信教の自由』を人類の統合的発展に不可欠な条件、本質的で譲ることのできない権利として示し、他者に強制することなしに、自分の信仰を公に証しすることは、すべての人の権利にほかなりません。」と強調した。

法王フランシスコはさらに、今日国際社会が直面しているグローバルな課題として、「人間の脆さを知り、いたわるパンデミック対応」、「平和への挑戦」、「兄弟的な受け入れ」「環境保護」を挙げ、「諸宗教が各自のアイデンティティーを守りながら、友好と兄弟愛のうちに共に歩み、暗い現代を創造主の光で照らすことができるように。」と語った。

人口約1900万人のカザフスタンでは、イスラム教徒(スンニ派)が約70%を占めるが世俗的で、生活を制限する厳しい戒律はなく、女性の服装も自由。キリスト教(ロシア正教が大半、カソリック教徒は推定125,000人)は26%、その他ユダヤ教、仏教、バハイ教、ヒンズー教など、130の民族構成を反映して多様な宗教が共存している。

「第7回世界伝統宗教指導者会議」を報じる特集番組。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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国連機関、ナイジェリアで最も汚染された地域の浄化計画を酷評

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

2019年に軌道に乗っていれば、世界で3番目に大きなマングローブの生態系を持つナイジェリアのニジェール・デルタ地域オゴニランドという、同国で最も汚染された地域の10億ドル規模の浄化に大きな期待が寄せられていた。386マイルに及ぶ湿地帯を覆う虹色の油膜、休止中の坑口や稼働中のパイプラインからの絶え間ない流出、かつて青々としていたマングローブが原油で覆われ、農地が焼け焦げて不毛になる一方でベンゼンの臭いが充満する、そんな状況に対処することが期待されていた。

国連環境計画(UNEP)の支援と、石油会社シェル社の資金提供の約束により、この最も野心的なプロジェクトから何らかの成功が得られると期待されていた。

しかし、ブルームバーグ・ニュースの暴露記事は、このプロジェクトを「模範的なものとは程遠い」と評している。それどころか、「地球上で最も汚染された地域の一つをさらに汚している」と言うのだ。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

「オゴニランドの浄化が、ニジェール・デルタ全体の浄化の標準となることを期待していました。しかし、何の影響も見られません。本来なら、(プロジェクトの実施により)土地や川が原油の影響を受けた人々の生活や人生に何らかの影響を与えるはずです。」と、Friends of the Earthグループのオゴニ族の弁護士、マイク・カリクポ氏は語った。

国連機関は、オゴニランドの浄化作業について厳しい評価を行い、管理不行き届き、無能、無駄、透明性の欠如が横行していること、具体的には、油にまみれた土の無計画な保管が、汚染されていない土地や小川に化学物質を浸透させていること、環境浄化の経験がほとんどない企業に契約が結ばれていること、何百万ドルもの不要な作業の提案があることなどが指摘された。

「石油会社は環境浄化に責任を持つべきです。石油会社は本来、環境浄化に責任を持つべきなのです。」と、シェル社に対する現在進行中の訴訟でオゴニ族のコミュニティを代表する英国の法律事務所リー・デイのパートナー、ダニエル・リーダー氏は語った。

2015年にはボド族のコミュニティに6646万ドル、昨年はエジャマ・エブブ族のコミュニティに1億900万ドルを支払い、ニジェール・デルタにおけるシェルの債務は膨らんでいる。同社は、ナイジェリアの裁判所が2020年に88人の原告に対して支払うよう命じた19億ドルの賠償金に関する決定を待つ間、同国の陸上資産を売却する取り組みを停止している。

シェルは、アフリカ最大の産油地域における最大の石油事業者であり、住民は高い貧困率と、毎年数百件の流出事故による環境の悪化に直面している。

Map of Nigeria
Map of Nigeria

ニジェール・デルタにおける活動家サータ・ヌバリ氏はCNNに、「地下水は世界保健機関(WHO)の基準値の900倍のベンゼンで汚染され、収穫量の少ない農地、ほとんど釣りができない川、毎年数千人にのぼる新生児の死亡に苛まれています。」と語った。

一方、少なくともあるナイジェリア人は、当局からの支援がほとんどないにもかかわらず、マングローブの育成と再植林の計画を進めている。

自宅の庭でマングローブを育てていたマーサ・アグバニ氏は、苗床を植える好機を考え行動を開始、2019年の終わり頃には、100人の女性マングローブの植林者が活動を展開している。

ニジェール・デルタにおける世界最大級のマングローブの生態系は、何世紀にもわたって人類と調和して存続してきた。汽水域をろ過し、海岸の浸食を防ぎ、水生生物の避難場所となり、それが人間が暮らす環境を支えてきたのである。

 KENULE B. SARO-WIWA THE OGONI HERO
KENULE B. SARO-WIWA THE OGONI HERO

アグバニ氏は母親と同様、多国籍石油企業による生態学的に繊細な地域の環境破壊に対抗して1990年に設立された「オゴニ民族存続運動」に参加してきた。

また、母親と同様、1995年に軍事独裁者サニ・アバチャ政権下のナイジェリア政府によって処刑されたオゴニランド最大の英雄、環境活動家ケン・サロ=ウィワ氏の活動に影響を受けている。

マングローブは、海草やサンゴ礁、漁業に害を及ぼす有害な栄養分や流出水から海洋の生息地を守っている。また、マングローブの根は、汚染物質、重金属、農薬、農業排水など、土地から流れ出る水のろ過を助けることが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の別の報告書で明らかにされている。そのため、マングローブは水質と透明度を維持することができる。また、海草藻場とサンゴ礁への栄養分の分配もコントロールしている。マングローブのような自然のフィルターがなければ、赤潮やサルガッスム藻類の繁殖など、危険な状況が発生する可能性がある。(原文へ

INPS Japan

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