ホーム ブログ ページ 54

|NPT再検討会議|サイドイベントで核兵器先制不使用を要求

【国連IDN=タリフ・ディーン

今月初め、学者、反核平和活動家、市民社会組織(CSO)が国連本部に集まり、世界中で高まる核戦争の脅威について議論した際、その根底にあったテーマの一つが8月4日に開催されたサイドベントのタイトル「核戦争を回避するために、短期的に何ができるか。」に込められていた。

このサイドイベントでは、世界の5大核保有国(英国、米国、フランス、ロシア、中国、いずれも国連安保理の常任理事国)に対して、核兵器の「先制不使用」を約束するよう呼びかけるなど核戦争を回避する方途について多岐にわたる議論が行われた。その際、5大核保有国が先制不使用を約束すれば、その他の核保有4カ国(インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)もその例に倣うものと期待された。

国際平和と理解」(オスロ)の理事長であるアレクサンダー・ハラン教授は、3月以降、自身のほとんどの時間を核兵器の先制不使用政策の問題に費やしてきたと語った。

Alexander Harang/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Professor Alexander Harang, International Peace and Understanding, Peace Research Institute, Oslo/ Photo by Katsuhiro Asagiri

「(先制不使用は)古いテーマですが、現在起こっていることに鑑みれば、このテーマが今ほどに重要な時はありません。」とハラン教授は語った。

「今週のNPT再検討会議の一般討論を通じてほとんどの国が表明したように、私達は危険な局面に入っています。核兵器の実際の使用のハードルが著しく下がっているのです。」

「もしこの問題に効果的に対処することに失敗すれば、平和と軍縮をめぐる私達のその他のすべての努力が無駄になってしまうかもしれない。」とハラン教授は警告した。

ハラン教授はまた、「核保有国が『核兵器の先制不使用』を宣言することは、国連の軍縮機構の内部における信頼を再確立し、多国間軍縮への機運を取り戻すのに最も効果的な方法かもしれません。」と指摘した。

「また、核先制不使用は、現在にあって私達が実際に合意できるものだと理解しなくてはなりません。それは達成可能なものであり。そしてそれこそが、私達が核先制不使用に着目する必要がある主な理由なのです。」とハラン教授は訴えた。

8月26日まで4週間にわたって開催される核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議の「サイドイベント」として8月4日に開かれたこの会合は、カザフスタン共和国国連政府代表部、創価学会インタナショナル(SGI)、軍備管理協会(ACA)、戦略的リスク評議会(CSR)、世界政治経済研究所、「国際平和と理解」プロジェクトによって共催されたものである。

Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.
Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

仏教哲学者であるSGIの池田大作会長は今回のNPT再検討会議の開催を前に発表した緊急提案の中で、紛争において核兵器を最初に使用する国にならないこと(すなわち「核兵器の先制不使用」の原則)を宣言するよう核五大国に対して強く呼びかけた。

「核兵器が再び使用されかねないリスクが、冷戦後で最も危険なレベルにまで高まっている。」と池田会長は述べた。

60年以上にわたって核廃絶を熱心に追求してきた池田会長は、米国・ロシア・英国・フランス・中国に対して「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とする今年1月3日の共同声明を、核兵器の先制不使用政策を宣言することによって具体化すべきだと訴えた。

「『核兵器の先制不使用』の方針転換が世界の安全保障環境の改善にもたらす効果には、極めて大きいものがあります。」と池田会長は論じた。

池田会長は、具体的な事例として、2020年6月に、中国とインドが係争地で武力衝突した時、数十名に上る犠牲者が出る状況に陥りながらも、両国が以前から「核兵器の先制不使用」の方針を示していたことが安定剤として機能し、危機のエスカレートが未然に防がれた例を挙げた。

「(核兵器の)先制不使用政策が核保有国の間で定着していけば、核兵器は『使用されることのない兵器』としての位置づけが強まり、核軍拡を続ける誘因が減るだけでなく、『核の脅威の高まりが新たに核保有を求める国を生む』という核拡散の解消にもつながる。」と池田会長は指摘した。池田会長は、平和・文化・教育を促進する1200万人の仏教徒の多様なコミュニティであり、NGOとして国連との協議資格を持つSGIを代表している。

世界に緊張と分断をもたらしてきた「核の脅威による対峙」の構造を取り除くことで、核軍拡競争に費やされている資金を人道目的に向けていくことが可能となり、新型コロナのパンデミックや気候変動問題をはじめ、さまざまな脅威にさらされている大勢の人々の生命と生活と尊厳を守るための道が大きく開かれるようになるだろう。

「私は8月のNPT再検討会議という絶好の機会を逃すことなく、核兵器国による『核兵器の先制不使用』の原則の確立と、その原則への全締約国による支持、非核兵器国に対して核兵器を使用しないという『消極的安全保障』を最終文書に盛り込むことで、安全保障のパラダイム転換を促す出発点としていくことを強く呼びかけたい。」と池田会長は述べた。

Photo: The Secretary-General António Guterres attends the Peace Memorial Ceremony in Hiroshima. Ichiro Mae/UN Photo
Photo: The Secretary-General António Guterres attends the Peace Memorial Ceremony in Hiroshima. Ichiro Mae/UN Photo

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は8月6日の広島での記者会見で、核保有国は「核兵器の先制不使用を約束すべきです。もし誰も先制使用しないならば、核による対立などというものはなくなるからです。」と同様の観点を主張している。

グテーレス事務総長は、「とりわけ今日、核のリスクが世界中で再び高まっています。核兵器の備蓄が強化されており、約1万3000発の破滅的な兵器が依然として存在しています。広島・長崎の教訓は明白です。」と指摘したうえで、「この地球上に核兵器のあるべき場所などありません。核という選択肢を永遠に取り下げてください。今こそ、平和を拡散させるべき時です。」と語った。

Ambassador Magzhan Ilyassov, the Permanent Representative of Kazakhstan to the United Nations/ Photo by Katsuhiro Asagiri

カザフスタンのマグジャン・イリヤソフ国連常駐代表は、このサイドイベントの開会挨拶で、「あらゆる惨禍の中で最も深刻な核兵器の脅威のために、1945年と同じく現在も世界は不安定な状態であり続けています。」と語った。国連は77年前、まさにこの核兵器の惨禍を回避するために設立された機関である。

しかし、国連や国際社会が核廃絶の取り組みを進めてきたにも関わらず、この恐るべき兵器は依然としてこの世に存在する。

イリヤソフ大使は、「経済体制の違いはあれ、この2年半全ての国々を襲ってきた混乱と破壊が、核戦争やそれがもたらす汚染のためにさらに悪化させられるようなことがあってはなりません。」と指摘したうえで、「平和や軍縮、正義、持続可能な開発、環境保護は、人類の生き残りと福祉のための前提条件にほかなりません。」と語った。

NPTは様々な課題に直面してきたが、依然として、国際的な安全保障の枠組み、グローバルな核不拡散体制の重要な礎石の1つであることに変わりはない。

「第10回NPT再検討会議は『前代未聞の大惨事に陥ることを回避するために、人間の安全保障と進歩に向けた重要な決定を迫られる』最も時宜を得た会議となります。」

イリヤソフ大使は、「カザフスタンは、すべての人々のための永続的な安定と安全を確保するため、他国と協力して一刻も早い安全な復興を追求していきます。核兵器のない世界を実現するための国際的な取り組みを提唱することは、独立以来一貫して守ってきた悲願です。」と語った。

「世界に核兵器というものがある限り、その不使用を絶対的に保証することは不可能であることを十分認識しています。しかし私たちが外交を再開した今、このNPT再検討会議の間にその可能性を最大限に生かすことが必要です。」

「私達は、一日も早くこの行き詰まりを打開し、人類にとっての新たな光と希望の地平を見ることができるように望んでいます。」とイリヤソフ大使は語った。

Christine Parthemore, Chief Executive Officer of the Council on Strategic Risks (CSR)/ Photo by Katsuhiro Asagiri

戦略的リスク評議会(CSR)のクリスティーン・パースモア会長は、核対立の可能性が高まっていると指摘した。

「この問題を動かしている要因は幾重にも存在します。地政学的な緊張が高まっていること、将来の軍備管理に関する取り決めを行う十分な推進力に欠けていること、世界は今、気候変動の危機やコロナ禍の影響に取り組んでいること、そして数え切れないほどの圧力がこの問題を引き起こしています。」

「そしてもうひとつの要因を見逃すべきではありません。その要因とは、いくつかの核保有国が、核兵器使用の閾値を下げ、誤算のリスクを増大させかねないような核能力の増強を推進或いは検討していることです。」とパースモア会長は語った。

「低出力」及び「準戦略」に分類されるような核兵器もそこには含まれている。また、核・非核いずれの武器も搭載することができ、危機にあっては区別することが難しい両用能力システムを保有している国々もそこには含まれる。

「私が国防総省にいた際にはその種の能力への関心が高まってきていて、そのことがCSRでの私たちの活動の動機になっています。多くの国々等と協力して、核兵器が使用されるリスクを低減する道を探り、核保有国に自制心と責任を持たせ、NPTの公約に向けて前進させようとしています。」

「私たちは、核保有国に対し、以下の3つの目標に向けた前進を示すあらゆる手段を検討するよう提言します:

1)今日の安全保障環境においては必要のない新型・新規の核兵器の取得への検討をやめること。

2)既に複雑な安全保障環境においてさらに曖昧さを増すような行動を回避し、そうした曖昧さを低減させ始 めること。

3)非核戦力と核戦力が一体のものにならないようにすること。

「そうした措置を実現する方法はたくさんあり、その多くが私の団体やその他のNGO、国連軍縮研究所などによって追求されてきました。」とパースモア会長は語った。

例えば次のようなものある。

・通常兵器と核兵器を搭載できる二重能力兵器システム(特定の兵器または巡航ミサイルのような広範なクラス)の追求を避けるための合意

・多くの国が通常型の中距離地上発射システムのみを維持することに関心を示していることから、中距離核戦力(INF)全廃条約の後継条約を検討すること。

・特定の地域に特定の種類の核能力の配備をしない、あるいは核兵器を全体として配備しないとの合意、或いは、それを一時的に取りやめる約束をすること。

NPT Review Conference side event "Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?"Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director
NPT Review Conference side event “Avoiding Nuclear War: What Short-Term Steps Can be Taken?”Photo credit: Katsuhiro Asagiri. IDN-INPS Multimedia Director

軍備管理協会(米ワシントン)のダリル・G・キンボール会長と、世界経済政治研究所のイェルジャン・サルティバエフ所長もまたディスカッションに加わった。司会はSGI国連事務所のアナ・イケダ氏が務めた。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

NPT再検討会議に寄せて―「核兵器の先制不使用」の確立に向けての緊急提案(池田大作創価学会インタナショナル会長)

広島から、国連事務総長が核軍縮を呼びかける

|NPT再検討会議|核兵器は抑止力ではなく、絶対悪である

広島から、国連事務総長が核軍縮を呼びかける

【広島IDN/ UNニュース】

核兵器保有国が、核戦争の可能性を認めることは、断じて許容できません。8月6日、広島への原爆投下77周年を記念する日本での式典で、アントニオ・グテーレス事務総長はこのように強調した。

「核兵器は愚かなものです。1945年から3四半世紀が経った今、この空に膨れ上がったきのこ雲から私たちは何を学んできたのか、問わなければなりません。」と、グテーレス事務総長は、被爆者、若き平和活動家、岸田文雄首相、地元関係者ら多数が参加した広島平和記念公園での厳粛な催しで、そう訴えた。

事務総長はさらに、「新たな軍拡競争が加速しており、世界の指導者たちは数千億ドルを費やして兵器の備蓄を強化しています。また、世界では約13000発の核兵器が保有されています。」と指摘したうえで、「深刻な核の脅威が、中東から、朝鮮半島へ、そしてロシアによるウクライナ侵攻へと、世界各地で急速に広がっています。…人類は、実弾が込められた銃で遊んでいるのです。」と警告した。

希望の光

UN Photo/Mitsugu Kishida | Hiroshima, shortly after a nuclear bomb was dropped on this city in August 1945.
UN Photo/Mitsugu Kishida | Hiroshima, shortly after a nuclear bomb was dropped on this city in August 1945.

グテーレス事務装置用は、現在ニューヨークで開催されている「核兵器不拡散条約の第10回運用検討会議」を「希望の光」に例え、「本日、私は、この神聖な場所から、この条約の締約国に対し、私たちの未来を脅かす兵器の備蓄を廃絶するために緊急に努力するよう呼びかけます。対話、外交および交渉を強化し、これら破壊兵器の廃絶によって私の軍縮アジェンダを支持するよう呼びかけます。」と強調した。

事務総長はまた、核兵器保有国は、核兵器の「先制不使用」を約束しなければならず、非核兵器保有国に対しては核兵器を使用しないこと、あるいは使用すると脅迫しないことを保証するべきだと強調した。

「私たちは、広島の恐怖を常に心に留め、核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないことだと認識しなければなりません。」と事務総長は語った。

事務総長はまた、「指導者達は自らの責任から隠れることはできない。」と強調した。

事務総長は1945年の8月6日に最初の原子爆弾が広島に投下され9日に長崎に2発目が投下された事実を踏まえて、「(核保有国の指導者に対して)核という選択肢を取り下げてください。永遠に。今こそ、平和を拡散させるべき時です。被爆者の方々のメッセージを聞き入れてください。もう二度と、広島の悲劇を引き起こさないでください。もう二度と、長崎の惨禍を繰り返さないでください。」と訴えかけた。

グテーレス事務総長は若い世代に対して、「被爆者の方々が始められた任務を成し遂げてください。世界は、この地、広島で起こったことを決して忘れてはなりません。犠牲者の皆様の記憶、そして生き残った方々が残してくださった遺産は決して消滅することはありません。」と述べて演説を締めくくった。

世界は決しては忘れてはならない

その後、事務総長は広島と長崎の原爆で生き残った5人の被爆者と面談し、彼らの証言に耳を傾けた。

事務総長は、被爆者らが甚大な被害を受けながらも、「非常に大きな勇気と忍耐」を持ってトラウマを克服したことを認め、彼らへの賞賛を表明した。そして、被爆者を世界の模範と呼び、今回面会した女性3人と男性2人に対して、「あなたたちは『核兵器は愚かなものだ』と指導者に伝える道徳的権威を持っている」と語った。

「国連は、起こったことの記憶を絶やさず、皆さんの物語を永遠に響かせることに尽力してまいります。」と、事務総長は語った。

被爆者らは、例えば、ある方が反核兵器の意識を高めるために歌を作る、別の方が自分の体験を絵に描くなど、人生の大半を平和と軍縮の課題に取り組んできたことを国連事務総長に語った。

若い人たちにも核兵器の実相を理解してほしいというのが、被爆者全員の願いだった。

広島から発信する若者の力

UN Photos/Ichiro Mae | In Japan, Guterres had a meeting with the hibakusha.
UN Photos/Ichiro Mae | In Japan, Guterres had a meeting with the hibakusha.

グテーレス事務総長は、核軍縮や核不拡散など地球規模の課題に取り組む日本の若手活動家たちとの非公式対話セッションにも参加した。そこでは、3つの地球規模の危機、深刻化する不平等、蔓延する武力紛争など、世界の現状について触れたうえで、「私たちの世代は協力し合う必要があります。…いずれ、あなた方がその責任を負うことになるのですから、準備をしておくことが必要です。私の世代を代表して謝罪します。みなさんの世代に責任を渡してしまい申し訳ない。」と語った。

名誉市民

グテーレス事務総長は松井広島市長と武田長崎副市長とも面談し、広島市の特別名誉市民の称号を授与された。

「私は世界の平和のために日々尽力している全ての国連職員を代表して、また、核兵器の拡散を防止すべく、今現在ニューヨークの国連本部に集って交渉に参加している外交官たちを代表して、この栄誉ある称号を受け止めます。」と事務総長は語った。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|NPT再検討会議|核兵器は抑止力ではなく、絶対悪である

岸田首相、NPT再検討会議で1千万ドルの基金創設を発表。青少年の広島・長崎訪問を支援

核兵器禁止条約に一刻も早く批准を(松井一實広島市長)|核兵器禁止条約締約国会議|核兵器の被害者めぐる関連行事が開かれる

|NPT再検討会議|核兵器は抑止力ではなく、絶対悪である

【国連ニュース/INPS=ナルギス・シェキンスカヤ】

「核戦争を回避するために、短期的に何ができるか。」核兵器不拡散条約(NPT)第10回締約国再検討会議が開催されている国連本部で、カザフスタン国連政府代表部と、核兵器なき世界を目指す日本の主要NGOである創価学会インタナショナル(SGI)が共催したサイドイベントのタイトルである。

撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「第10回NPT再検討会議は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックのために延期されてきた非常に重要なイベントです。」と、カザフスタンのマグジャン・イリヤソフ国連常駐代表は国連ニュースサービスに語った。今回のNPT再検討会議は、これまでの会議と異なり、ロシアによるウクライナ軍事侵攻という現実を背景に、核兵器が実際に使用されるかもしれないというレトリックさえ耳にするなかで開催されている。このように、一部の国や政治家にとって後景に退いていた核軍縮の問題が、今再び注目を浴びている。

専門家、外交官、市民社会の代表、そして広島と長崎の原爆の犠牲者を指す日本名「ヒバクシャ」がNPT再検討会議に参加している。原爆による死者は、広島で9万から16万6千人、長崎で6万から8万人であった。今年は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、8月6日に広島で開催される原爆死没者慰霊式に出席している。

寺崎広嗣創価学会インタナショナル(SGI)平和運動総局長/ 写真:ナルギス・シェキンスカヤ国連ニュースサービス
寺崎広嗣創価学会インタナショナル(SGI)平和運動総局長/ 写真:ナルギス・シェキンスカヤ国連ニュースサービス

SGIを代表して参加した創価学会の寺崎広嗣副会長は、国連ニュースサービスに対し、「グテーレス事務総長の来日は、わが国にとって非常に重要な出来事であり、事務総長が広島から世界に向けて発する呼びかけは、日本の人々に希望をもたらすものです。」と語った。

事務総長報道官によると、グテーレス事務総長は世界の指導者たちに対して、遅滞なく核兵器の備蓄を撤廃するよう求める意向だという。また、被爆者との面会や若い世代の反核活動家たちとの対話も予定している。 寺崎副会長によると、SGIは核兵器を「絶対悪」と考え、それに対抗するために、被爆者の声を世界中に広く届ける取組みを行ってきた。

カザフスタンは、ソ連時代に繰り返し核実験が行われ、大きな被害を経験した国であり、ソ連からの独立後「核兵器のない世界」を目指す運動に積極的に参加している。イリヤソフ常任代表は、「そのような兵器(=核兵器)が存在するだけでも既に極めて危険なのです。一部のNPT会議参加者が核兵器を抑止力と考えていることは、遺憾です。」と語った。

ソ連が核実験を行ったカザフスタンのセミパラチンスク核実験場。/写真:CTBTO
ソ連が核実験を行ったカザフスタンのセミパラチンスク核実験場。/写真:CTBTO

イリヤソフ常駐代表は、核兵器のない世界を実現するためには、若者や著名人が積極的に参加することが必要だと考えています。そして、「こうすることで、この問題にもっと注意を向けることができる。」と付け加えた。(サイドイベントをINPSが収録した映像を参照ください。)(原文へ

翻訳=国連ニュース/INPS Japan

関連記事:

NPT再検討会議に寄せて―「核兵器の先制不使用」の確立に向けての緊急提案(池田大作創価学会インタナショナル会長)

岸田首相、NPT再検討会議で1千万ドルの基金創設を発表。青少年の広島・長崎訪問を支援

|視点|核兵器禁止条約第1回締約国会議に寄せて(ラメッシュ・タクール戸田平和研究所上級研究員)

|視点|コンゴ、その鉱物と部族主義(ジョナサン・パワーINPSコラムニスト)

Dag Hammarskjöld. En minnesbok. Malmö 1961., Public Domain
Dag Hammarskjöld. En minnesbok. Malmö 1961., Public Domain

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

国連が1964年6月に西ヨーロッパの大きさのコンゴから国連平和維持軍を撤退させたとき、ウ・タント事務総長は「国連はコンゴが統一と国家化に向けて有機的に成長することによって生じる内部緊張と騒乱から永久に守ることはできない。」と報告した。

国連を分裂させ、ウ・タントの前任者でありコンゴ動乱の調停にあたっていたダグ・ハマーショルドが犠牲となった平和維持活動であっただけに、ウ・タントの撤退判断は、国連兵にとっては、ある種の安堵感があっただろう。ハマーショルド事務総長は、停戦調停に赴く途上で搭乗機が墜落し(原因は未解明)死亡した。

国連は、鉱物資源の豊富なカタンガ州の継承を巡る内戦を終結させ、東西の勢力争いがコンゴを冷戦の激戦地にする危険性があったことに代わるものを提供したという意味で、コンゴに一定の平和をもたらした。しかし、コンゴ動乱の背景にあった、部族主義と鉱物資源開発の問題は今日まで続いている。


現在、コンゴ東部は、再び何度目かの大混乱に陥っている。国連は、コンゴでは耕作可能地の僅か10%しか耕されていないにも関わらず、世界最大規模の食糧危機に陥っていると発表している。これまでに約500万人が国内避難民となっている。コンゴについて「もう一度・再び」と書くだけで、1990年代後半に起きた大規模な戦闘の記憶がよみがえる。

ジンバブエ、ナミビア、アンゴラ、チャドなどが苦境にあるローラン・カビラ大統領側につき、ルワンダとウガンダが反乱軍を支援したため、当時の米国のアフリカ担当国務次官補、スーザン・ライスは、この戦闘がアフリカ大陸における「最初の世界大戦」になるかもしれないと警告した。このときも国連がもう一度介入し、再び平和を回復させた。

しかし心配すべきは、コンゴがアフリカ初の世界大戦の舞台になることではない。国連の存在は、その可能性を鈍らせたし、その規模も実際の第一次世界大戦と比べれば小さいものであった。むしろアフリカは、何世紀にもわたって戦争を生み出してきた部族主義という古くからの問題にどのように対処すればよいのだろうか。欧州の旧宗主国によって部族や文化・言語の分布を一方的に無視して引かれた人工的な国境線は、現在も紛争のリスクを内包している。

1994年にルワンダで起こった大虐殺は、アフリカの部族主義が最も破壊的な形で現れたものであった。コンゴでは、数十年にわたる戦乱にもかかわらず、ルワンダのような事態には至らなかった。実際、コンゴを経済的に丸裸にした独裁者故モブツ・セセ・セコのもとでは、コンゴは適度に静穏であった。コンゴで再び、部族間の断層が浮き彫りとなり、権力の座を争う者たちによって巧みに利用されたのは、モブツ政権が崩壊する最終段階であった。


しかし、部族主義の問題点や落とし穴を論じるのであれば、まずその長所を理解しなければならない。部族主義が民族を吹き飛ばす火薬に例えられるとすれば、それは同時に、普通の社会をまとめる接着剤のような存在でもある。部族主義は、日常生活の中で息づいている。普通の村落(そして多くの都市)の生活では、部族主義はフリーメイソンや学閥のように機能している。仕事や紹介で互いに助け合い、収穫の負担を分担し、夫婦間や物質的な争いを解決し、とりわけ芸術や音楽を独特の形に作り上げている。

しかしこのような美徳が、伝染病のように悪質な変異を起こしたときに、部族の傷跡や鼻の形状の違いが迫害の対象になってしまう。これがコンゴで実際に起こったことである。

しかし、独立後の最初の指導者たちが、アフリカ統一機構の憲章にこれらの境界線の神聖さを認めたように、一度なされたことは簡単には元に戻せない。しかし、アフリカを800の部族に分割しないとしても、これらの境界線を何らかの形で改革することは明らかに必要である。


エチオピアが一時期示したように、円満に分離独立を実現することも可能である。独裁者メンギストゥ・ハイレ・マリアムが失脚した後、エリトリア人は最も洗練された移行と思われる方法で自らの道を歩み始めた。国民投票が行われ、反省のための休止期間が設けられ、その後、両者は分離のためのスケジュールに合意した。しかし、不幸なことに、6年経った今も国境紛争は続いている。私たち楽観主義者が間違っていたことが証明された。両国の間の戦争は何十年も断続的に続いている。

より積極的かつ永続的な例として、ナイジェリアのオルシェグン・オバサンジョ大統領が、石油資源の豊富なボカシ半島の帰属問題を国際司法裁判所に提訴することを受け入れた事例がある。この半島は、ナイジェリアと隣国のカメルーンのどちらに帰属するか、長年の論争があった。ナイジェリアは占領政府であったが、2002年に国際司法裁判所がカメルーンに有利な判決を下すと、国民の反対にもかかわらず、オバサンジョは領土を譲り渡した。国民と部族間の感情も高まり、解決は容易ではなかった。しかし、最終的には、国際法の遵守が勝利した。円満な領土の割譲が成立したのである。

ルワンダ(現在は平和)、ナイジェリア、スーダン、マリ、中央アフリカ共和国、アンゴラがそうであるように、アフリカの部族間紛争に包囲されている地域には、実に2つの選択肢がある。必要であれば、国際司法裁判所を含む中立的な外部機関の助けを借りて、文明的な国境の画定を始めること。あるいは、南アフリカが行ったように、多くの権力を地方に委譲した連邦民主主義国家を建設することである。

モブツのような悪人であれ、タンザニアの故ジュリウス・ニエレレ大統領のような善人であれ、強者が中央から影響力を行使できる日は、ほぼ終わりを告げた。だからといって、それが試されていないわけではない。試されている。しかし、独裁者とその側近自身を除いて、それが成功すると期待している者はほとんどいない。民主主義と人権という概念は、アフリカでは広く浸透している。

さらに、巨大で潤沢な資金を持つ石油・鉱物資源企業も含め、有力な外国人投資家は皆、法規則を守らなければ投資が失敗に終わることを知っており、大きな投資リスクを冒す前に必ず二の足を踏むようになるのだ。部族を基盤としたゲリラに資金を提供し、自分たちのために戦わせていた時代はとうに過ぎ去った。何十年にもわたり、彼らの極悪非道な活動はNGOやメディアによって暴露され、大きな効果を上げてきた。いわゆる「紛争ダイヤモンド・鉱物」を禁止する法律が制定された国もある。例えば、1年半前、欧州連合(EU)は、不法に産出された鉱物の購入を制限する法律を施行した。


携帯電話や電気自動車・飛行機用の高性能バッテリーに必要なコバルトやコルタンを巡る新たな争奪戦の結果にも対処する必要がある。この争奪戦は、1960年代の 「悪徳資本家」的な考え方を再現する危険性をはらんでいるようだが、今回は、部族や民兵の長たちが、日当1ドルの職人的労働力を使って、秘密のルートで製品を輸出するという、より小規模で取り締まりにくい規模で組織されている。

60年前にウ・タントが掲げたコンゴの「有機的成長」のコンセプトには、未だに到達していないのである。植民地時代のベルギーや、冷戦時代にモブツの忠誠心と引き換えに支援した米国のひどい政策のせいにすることは簡単にできる。現代の混乱を作り出したのは、明らかにベルギー人とアメリカ人であるが、それでは今日コンゴが直面している問題を整理することはできない。

その答えが何であるかは、南アフリカの誠実な政治と政治的安定をどう維持するかということを除けば、アフリカで最も難しい問題であろう。欧州連合(EU)アフリカ連合(AU)が協力して、答えを見つける責任を負わなければならない。コンゴはもっと注目されなければならない。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|コンゴ民主共和国|紛争孤児がブラジル格闘技で痛みを乗り越える

|コンゴ内戦|最も貴重なものを持って逃れる

COP26が開幕するなか、コンゴの金鉱で4発の銃弾が響く

太平洋諸国の指導者らが「2050年青い太平洋戦略」を採択―「説明責任を果たす」開発促進を謳う

【スバ(フィジー)IDN=セラ・ティコティコバトゥ=セフェティ】

3年ぶりに集まった太平洋諸国の指導者らが、7月11日から14日にかけて開かれた第51回「太平洋諸島フォーラム」で「青い太平洋戦略2050」を採択した。

今回の会合の議長を務めたフィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相は「この戦略の成功は2つのことにかかっている。第一に指導者が責任を取ること、第二に民衆もまた責任を負っているということだ。」と語った。

この戦略は、①政治的リーダーシップと地域主義、②民衆を中心に据えた開発、③平和と安全、④資源と経済開発、⑤気候変動と災害、⑥海洋と環境、⑦技術と接続性という7つの主要なテーマに焦点を当てている。

戦略の策定には3年の時がかかり、このプロセスに関わる各地の市民団体など様々な利害関係者の関与によって生まれた。この慎重に策定された戦略は、問題となっている領域や実行ガイドラインに焦点を当て、その効果が社会にあまねく広まるようにするものである。

「地域主義」という用語は、外国の地政学的なプレゼンスや、太平洋諸国の指導者らが地域全体で連帯して対処する必要のある緊急の問題に対応しなければならない時に、しばしば持ち出される用語である。

サモアのフィアメ・ナオミ・マタアファ首相は、対面で対話をすることの重要性に言及して、「いったん引いて考えてみることは、そうでなければなかなか公に議論することのないような緊急の課題について私達指導者が議論し、討論し、解決策を見つけていく完璧な機会を提供している。」と語った。

市民社会の関与

太平洋諸島非政府組織協会(PIANGO)のジョサイア・オズボーン副会長はIDNの取材に対して、「私達市民団体のメンバーらもこの3年間戦略の策定に関与してきました。私達がともに協力していけば、戦略を機能させることができると希望を持っています。」と語った。

Photo: French Polynesia Vice President - Jean Christophe Bouissou (left), Pacific Islands Forum Secretary General Henry Puna (centre) and New Zealand Prime Minister Jacinda Arden(right) enjoy a light moment after the presentation of the final communique of the PIF summit. Credit: Sera Tikotikovatu-Sefeti.
Photo: French Polynesia Vice President – Jean Christophe Bouissou (left), Pacific Islands Forum Secretary General Henry Puna (centre) and New Zealand Prime Minister Jacinda Arden(right) enjoy a light moment after the presentation of the final communique of the PIF summit. Credit: Sera Tikotikovatu-Sefeti.

オズボーン副会長は、今回の戦略について、人々が地域と関わるようになれば、自らの懸念や意見を議論の俎上に載せ、どのような計画であってもその利益を地域の人々に広めることができる余地が生まれる良い兆候だとみている。

「青い太平洋大陸戦略2050」の立ち上げにあたって、バイニマラマ首相は「これは前例の問題でもあるが、私達の未来の問題でもあります。」と述べた。地域として、国として、そしてひとつの「青い太平洋大陸」として、いかに協力できるかが問題となる。「この2050年戦略は、私達が共通に持っているもの、私達の課題や機会に関するものです。」とバイニマラマ首相は語った。

戦略的に民衆を中心に置くアプローチは、現地で進行している作業に、提案され(現在は承認されている)その戦略を関連付けるような形で包括的な計画をつくるということである。どんな構想や計画、問題、解決策が現在進行中であるのかを見ながら、テーマ領域をめぐる現在の状況を検討していく。これに続くのが、パートナーシップと協力、強靭性と福祉、教育、研究と技術、包摂性、平等とガバナンスという6つの戦略的道筋である。最後に、それぞれのテーマ領域毎に期待される目標レベルを検討する。

太平洋諸島フォーラムの地域主義に関する顧問であるジョエル・ニロン氏は、これらのテーマ領域の中心に座っているのは海洋であり、私達は青い太平洋に囲まれて生活しているのだと強調した。

「『青い太平洋大陸戦略2050』は、私達の環境における課題に対してより戦略的かつ長期的な対応をする必要性の中から生まれたものです。」とニロン氏はIDNの取材に対して語った。

「気候変動や既存の課題、それに、地域における地政学的な対立の高まりへの対応として、2019年に太平洋の指導者らが戦略策定を呼びかけた結果として生み出された。」

ニロン氏によると、市民社会や民間部門、太平洋地域組織協議会(CROP)のメンバーのような非政府の主体が、この戦略の策定に協力したという。

民衆を中心に据えたこの新たなアプローチは、この戦略の策定に関与した個々人が舵を取り、戦略が履行され監視されるようにするための答えとなりうるものだ。「太平洋教会会議」のジェイムズ・バグワン師の言葉を借りれば、「この戦略を機能させることが極めて重要です。私達がこのような動きに関与したのは初めてのことで、皆が協力しそれぞれの役割を果たして初めて成功することを私達は知っている。」のである。

ニロン氏も同様の見解を口にした。「私達は団結し、より緊密に協力することが重要です。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

また、私たちには多くの強みがあります。人々、若者、文化には自然な回復力と社会的保護を提供する能力が備わっておりますし、重要な天然資源にも恵まれています。」

地域の指導者らは「青い太平洋大陸戦略2050」を承認し、完全に支持しており、様々な地域の主体がその成功を確実にするために、既に実施を計画している。

「そして、この文脈において、どうやって手をつなぐか、国家としてどう協力するか、そしてもちろん外部の世界とどう相互作用を起こすかということについて、導きの糸となるような長期的な戦略的アプローチが必要です。」とニロン氏は語った。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

太平洋の青い海を放射能汚染から守れ

太平洋諸国、COP26できっぱりと主張

|視点|「人類が直面している安保上の問題は気候変動と重度の病気:世界の指導者たちよ、立ち上がれ」(ジョサイア・V・バイニマラマ フィジー共和国首相)

ウクライナ後の核軍備管理・軍縮はどうなる? ある日本人の視点

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

これは、2022年6月24日(金)にウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)で開催された戸田記念国際平和研究所と同センター主催のワークショップで、阿部信泰大使が行ったプレゼンテーションのテキストである。

【Global Outlook=阿部信泰】

1.ロシアによるウクライナへの不法な侵攻

ロシアがウクライナ側からの攻撃や挑発がないにもかかわらず同国に侵攻したことは、紛争の平和的解決、国家主権と領土保全の尊重、内政不干渉という国連憲章の基本原則に反するとして非難された。日本では、ロシアと同じく独裁国家である中国が台湾に軍事行動を起こすことが強く懸念されていたためか、強い反発があった。これは、2014年にロシアがクリミアを併合した際の日本の控えめな反応とは明らかに対照的であった。当時、安倍晋三首相は日本とロシア間の領土問題を解決するための和解の可能性に依然として期待を抱いていた。中国は日本にとって安全保障上の最大の脅威と考えられている。最近日本で行われた世論調査では、回答者の61%が、中国が日本にとって最大の脅威であると答え、15%がロシア、6%が北朝鮮を挙げていた。(原文へ 

2.ロシアの侵攻が核軍縮・不拡散に与える負の影響

ウクライナはソ連崩壊後、核兵器を放棄し、核不拡散条約(NPT)の下で非核兵器国となった。その見返りとして、1994年のブダペスト覚書で、ロシアと欧州の主要国はウクライナに安全を保障した。そのような中で、ウクライナで展開している「特別軍事作戦」と呼ばれるものに欧米が干渉した場合のロシアによる核兵器使用の示唆や、非核兵器国のウクライナが核保有国であるロシアから攻撃を受けた事実から、このホッブズ的世界においては、核兵器保有国の攻撃から国を守るために、核兵器を保有しなければならないという反応が世界各地で起こっている。その結果、現在核兵器を保有している国々は、さらに核保有に固執し、安全保障に不安のある国々は、核兵器保有を考え始めている。東アジアでは、韓国や台湾でそのような意見が出されている。日本では、安倍晋三元首相が北大西洋条約機構(NATO)のように日米の核共有に賛成する考えを示した。このように、ウクライナ戦争は、核軍縮・不拡散に向けた取り組みを大きく後退させている。

3.核軍縮・不拡散を再構築する方法

 核軍縮、軍備管理、核不拡散を再構築する方法を考え始めなければならない。

第1に、米国(及びNATO)とロシアの間では、停滞している新戦略兵器削減条約(新START)の後継条約交渉を、非戦略核兵器も含めた形で再開する必要がある。ロシアがNATOへの加盟を申請しているフィンランドやスウェーデンの近くに核戦力などの配備を強化すると脅しているように、欧州への短・中距離核ミサイルの配備を何らかの形で相互に抑制することが急務となっている。この点については、ロシアは以前からいくつかのアイデアを提案している。ウクライナ戦争が始まって、ロシアとの軍備管理交渉の緊急性は高まった。

第2に、中国問題を緊急課題として取り上げる必要がある。中国は核軍備管理への関与に断固として抵抗している。しかし、中国の核戦力の急速な増強と近代化、そして、台湾を征服するための中国の軍事力行使が核兵器の使用にエスカレートすることへの懸念が高まっていることから、中国の核増強を緩和し、台湾への侵攻を避ける方法を見いださなければならない。台頭する中国にとって、中国を米国やロシアに劣る立場に縛り付けるような核軍備管理協定を受け入れることは困難であろう。1922年のワシントン海軍軍縮条約で、日本は米国に対して保有艦の総排水量比率を3対5に縛られたことを思い出す。一つのアイデアとして、米ロの後継条約に、中国の核兵器保有量が米ロの核兵器保有量の50%を超えた場合、もはやその制限に縛られないという条項を挿入することが考えられる。台湾に関しては、米中両国が台湾のみを対象とした独自の核兵器の先制不使用の約束に合意することが考えられる。これは、台湾が核武装の意図を放棄することを宣言することと組み合わせてもよい。もし中国が台湾を名指しすることを嫌うのであれば、このような相互の先制不使用宣言は、経度と緯度で区切られた地域に限定して行うとすることも可能であろう。また、米中両国は、不用意な核対立へのエスカレーションを避けるため、運搬手段の核・非核の相互識別に合意することも考えられる。

第3に、北朝鮮やイランなどの核拡散懸念国が、NPT再検討会議やTPNW締約国会議などを契機に、核戦力の獲得や強化に向かうことを阻止する努力をすること。また、核兵器の使用に対するタブーを強化するための努力も必要である。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始・締結は、こうした閾値国の核兵器取得に対する障壁を高めるのに役立つだろう。

第4に、核兵器の保有や使用の威嚇が、必ずしも政治的・軍事的立場を向上させるものではないことを示す学術的な研究を奨励することである。例えば、朝鮮戦争は膠着状態に陥ったし、米国はベトナム戦争で事実上敗北した。一方、ソ連もアフガニスタンで実質的に敗北した。通常戦力から、ほとんどの場合使用に適さない核戦力に資金を流用することは、通常戦力を弱体化し、核兵器を使用する機会を得る前に非核戦力による対決で敗退することになりかねない。現在進行中のウクライナ戦争でも、同じようなことが起こっている。

4. 最終的にはウクライナ戦争がどう終結するかにかかっている。

最後に、現状では結局のところ、ウクライナ戦争がどのように終結するかにかかっている。核兵器使用の威嚇がなされ、実際に使用される懸念が高まったとしても、ロシアが核兵器を使用せずにウクライナ戦争が終結すれば、核のタブーは辛うじて維持され、核兵器は非常に使いにくい、或いは実際は使えない兵器であることが証明されるかもしれない。そうなれば、核兵器保有を検討する国の意欲を削ぐことにもつながるだろう。一方、ロシアが何らかの形で核兵器を使用した場合、長崎への原爆投下以来、76年間維持されてきた核兵器の不使用が破られることになる。しかし、ロシアが実際に核兵器を使用する場合のハードルはかなり高いように思われる。その理由として一つには、ロシアが核兵器を使用した場合、ほぼ全世界から厳しい非難を浴び、プーチン大統領が極悪人として世界史に名を残す危険性がある。また第2に、ウクライナはロシアと国境を接しているため、ウクライナでの核兵器使用はロシアにも放射性降下物や電磁パルスが降り注ぐ波及効果をもたらすことになる。第3に、プーチン大統領は、核兵器発射を実際に命令するためには、主要な政治・軍事当局者の同意を得る必要があり、プーチン側近の崩壊を招く可能性がある。

阿部信泰は、軍縮担当の元国連事務次長(2003年~2006年)、内閣府原子力委員会元委員長(2014年~2017年)。
ハーバード大学ケネディスクールにてベルファー科学国際問題センターの原子管理のプロジェクトで上級研究員(2018年~2019年)、国連軍縮諮問委員(2008年)を務めた。また日本の大使として、ウィーン(1999年~2001年)、リヤド(2001年~2003年)、ベルン(2006年~2008年)に赴任した。

INPS Japan

関連記事:

|視点|ウクライナでの消耗戦に終止符を打つために(ジェフリー・サックス経済学者、国連ミレニアムプロジェクトディレクター)

|視点|ウクライナ紛争は理性の自殺につながる(ロベルト・サビオINPS-IDN顧問)

あらゆる核実験の全面禁止を訴える

世界は大きな問題に直面―危ぶまれる持続可能な開発目標の実現

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連の最高位にあるアントニオ・グテーレス事務総長とアブドラ・シャヒド国連総会議長(加盟193カ国)から警告が発せられた。

メッセージは明確だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の2030年の完全履行目標まであと8年となり、その生き残りをかけた支援が真に必要とされている、というものである。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

7月13日から15日の日程で3日間にわたり開催された「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)の閣僚会合で演説したグテーレス事務総長は「世界は大きな問題に直面しています。持続可能な開発目標もそうです。」と語った。

人口で言えば16億人を抱える94カ国が、食料やエネルギー価格の高騰と資金調達の困難という最悪の事態に直面している。

「そのため、今年は複数の飢饉が発生する危険性があります。肥料不足が米などの主食作物の収穫に影響すれば、来年はもっと深刻な事態になる可能性があるのです。」とグテーレス事務総長は警告した。

「時間はなくなりつつあるが、希望はまだあります。なぜなら、やるべきことは分かっているのだから。」

グテーレス事務総長はさらに、「SDGsを実現させたいなら、無意味で悲惨な戦争を今すぐ終わらせること。再生可能エネルギー革命を今すぐ実施すること。人間に投資し、新たな社会契約を今すぐ結ぶこと。そして、権力と金融資源の配分のバランスを変え、すべての開発途上国がSDGsに投資できるようにするための新たなグローバル・ディールを実現することです。」と指摘したうえで、「手遅れになる前に、SDGsを救うために、今日から、野心と決意と連帯をもって団結しよう。」と訴えた。

ロシアによるウクライナ侵攻の波及効果が、コロナ禍からの復興が脆弱かつ不均等な形でしか進まない中で襲い、気候変動が加速度的に進んでいる。しかし、世界の富裕国や交戦当事国は、支援を求めるこうした声に耳を傾けるだろうか、という疑問が残る。

国連総会のシャヒド議長もまた、SDGsの現状を憂慮している一人である。

「持続可能な開発が直面している困難の大きさ、深刻さ、複雑さは前代未聞であり容赦がないものです。気候変動や地域紛争の深刻化から、不平等の拡大や食料不安まで、私達が直面している課題は、2030アジェンダの目標やターゲットを頓挫させる恐れがあります。しかし一方で、私達には、これらの目標をやり遂げるだけでなく、『より強く、回復力がある持続可能な社会を実現できる』という希望があります。」とシャヒド議長は語った。

©Photo/UN Website
©Photo/UN Website

国連が7月7日に公表した『持続可能な開発目標報告2022年版』によると、気候危機やコロナ禍、世界各地で拡大する紛争によって、SDGs17項目の実現が危ぶまれている。

報告書は、とりわけ途上国が直面している問題の厳しさ、大きさに注目している。問題が複数の領域に重なって、食料や栄養、健康、教育、環境、平和・安全の問題に波及効果を持ち、より強靭かつ平和、平等な社会に向けた青写真であるSDGs全体に影響を及ぼしている。

ハイレベル政治フォーラムは、125以上の国家元首・副元首と2000人以上の閣僚・高官・その他の登録参加者が出席し、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とSDGsのフォローアップとレビューを行う中心的なプラットフォームと位置づけられている。

「持続可能な開発のための2030アジェンダを実現に導きながら、新型コロナウィルス感染症からのより良い回復を狙う」と題された今回のハイレベル政治フォーラムは、SDGsの全17目標のうち特に5つの目標を取り出して詳細な検討を加えている。

目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る

目標14:海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する 

目標15:陸の豊かさも守ろう 

目標17:持続可能な開発に向けてグローバル・パートナーシップを活性化する

国連経済社会理事会の主催で、各国閣僚参加による会合が7月13日から15日にかけて開かれ、宣言が採択された。

Collen Vixen Kelapile of Botswana, the newly-elected President of the Economic and Social Council (ECOSOC)/ UN Photo/Mark Garten
Collen Vixen Kelapile of Botswana, the newly-elected President of the Economic and Social Council (ECOSOC)/ UN Photo/Mark Garten

同理事会のコレン・ヴィクセン・ケラピル議長は各国代表らに対して「今年のハイレベル政治フォーラムは、復興政策がどのように危機を乗り越え、パンデミックによるSDGsへの悪影響を逆転させ、2030アジェンダのビジョン実現への道へと各国を向かわせることができるかを考察します。」と語った。

国連経済社会局統計部のステファン・シュヴァインフェスト部長は、「コロナ禍により長年にわたる開発の進展が停止或いは逆転してしまった。」と語った。

2021年時点で、コロナウィルスの直接・間接の影響によって1500万人近い人々が世界各地で亡くなった。極度の貧困を根絶するための4年以上の成果がコロナ禍によって消え去ってしまい、2021年には2019年よりも飢餓人口が1億5000万人も増えてしまった。

この2年間で、推定1億4700万人の子どもたちが、対面式での学習機会の半分以上を失ってしまった。コロナ禍は基礎的な医療サービスを著しく阻害している。ワクチン接種率はこの10年間で初めて低下し、結核やマラリアによる死亡が増加した。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

シュヴァインフェスト統計部長は、こうした現状は暗いもののように見えるとしつつも、「[コロナ禍からの]復興と対応を通じて2030アジェンダの履行達成に向けた道を切り開いていかなければなりません。新たな思考法を実践し、あらたな可能性を開くことができます。」と語った。

また、パンデミック以前は、貧困削減、母子の健康改善、電力へのアクセス向上、水と衛生へのアクセス改善、ジェンダー平等の推進など、多くの重要なSDGsで進捗が見られていた。

SDGsの2022年版報告書は、目前にある課題の厳しさや大きさを強調しているが、これに対処するにはSDGsのロードマップにコミットしこれをフォローする全世界的な行動を加速させる必要がある。

「私たちは解決策を知っており、この嵐を切り抜け、より強く、より連帯を強める方向へと私たちを導くロードマップを手にしています。」とシュヴァインフェスト統計部長は語った。

国連開発計画のアヒム・シュタイナー事務局長は、「前代未聞の価格上昇は、世界中の多くの人々にとって、昨日は入手できた食料が今日は買えない、ということを意味します。この生活費用危機によって多くの人々が貧困に陥り、さらには飢餓が息もつかせぬ速度で進行しており、それに伴って、社会不安も加速しています。」と語った。

Achim Steiner/ UNDP
Achim Steiner/ UNDP

シュタイナー事務局長は、「生活コスト危機に対応している政策立案者らは、特に貧しい国において困難な選択に直面していることを指摘した。課題は、ほとんどの途上国が縮小する財政余力と膨れ上がる債務に苦しんでいる時に、貧しく脆弱な家計に対する有意義な短期的救済のバランスをどうとるかである。

シュタイナー事務局長はまた、「コロナ禍や債務レベルの急上昇、さらには食料・エネルギー危機の進行などの問題と途上国全体が闘う中、取り残される危険が迫っており、グローバル経済における格差は急拡大しています。」と指摘したうえで、「しかし、新たな国際的な取り組みによって、この悪循環に風穴を開け、生命と生活を守ることが可能になります。これには、断固たる債務救済措置、国際的なサプライチェーンの維持、世界で最も疎外されたコミュニティが安価な食料とエネルギーを入手できるようにするための協調行動などが含まれます。」と語った。

会合後に採択された最終宣言には、加盟193カ国による次のような見解や公約が盛り込まれた。

私達は、2030アジェンダとその持続可能な開発目標の完全履行に対するコミットメントを強く再確認し、これをコロナ禍からの包括的、持続可能かつ強靭な復興のための青写真として認識し、『誰も置き去りにしない』持続可能な開発のための行動と実現の10年の流れを加速する。

私達は、この数十年で初めて世界の貧困率が上昇し、何百万人もの人々が再び極度の貧困に陥ってしまったことに深い憂慮を表明する。

私達はさらに、世界的な食糧安全保障の達成の重要性を再確認し、飢餓、栄養不良、食糧不安の激増により、世界各地、とりわけ開発途上国で飢餓のリスクが高まっていることに深い懸念を表明する。

私達は、パンデミックと世界的な経済状況の悪化が、とりわけ最も貧しい人々や脆弱な立場にある人々を襲い、2030アジェンダの履行に直接的な影響を与えている中で、最も取り残された人々にまず手を差し伸べるとの公約を再確認する。

私達は、平和なくして持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和はあり得ないことを再確認する。私達は、この観点から、世界における紛争の増大と継続が、世界の平和と安全、人権の尊重及び持続可能な開発に影響を及ぼしていることに重大な懸念を抱いている。私達は、国連憲章と国際法の諸原則を完全に尊重することを呼びかけ、これらの原則および法のいかなる違反も非難する。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

国連経済社会理事会議長、貧困層のコロナとの闘いを支援するよう訴え

カリブ海諸国、核兵器禁止条約の早期発効を誓う

|HLPF|国連会議、グローバル開発目標達成の前にすべきことが山積と警告

岸田首相、NPT再検討会議で1千万ドルの基金創設を発表。青少年の広島・長崎訪問を支援

【国連ATN=アンジャリ・シャルマ】

岸田文雄首相は1日、世界中の若者が1945年に原爆が投下された広島と長崎を訪れることを奨励するため、1000万ドル(13億3000万円)の新しい国連基金の創設を発表する予定だと、関係筋が明らかにした。

岸田首相は8月1日に国連本部で開幕する核不拡散条約(NPT)再検討会議で演説し、計画の詳細を説明する。また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期実現に意欲を示し、そのための首脳級会談を9月に開催する予定だ。

Prime Minister Fumio Kishida/ ATN
Prime Minister Fumio Kishida/ ATN

岸田首相は7月30日から3日間の訪米中にNPT再検討会議に出席する予定で、日本の首相としては初めての出席となる。関係者によると、核保有国に対し、核兵器の透明性を高めるよう求め、米国と中国には核兵器の削減と管理に向けて対話を行うよう求めるという。「岸田首相は国連のNPT再検討会議で、核兵器のない世界のビジョンとして演説を行う。首相として核軍縮・廃絶に向けた活動を続けるための具体的な出発点とする予定だ。」と関係者は語った。

5年ごとに開かれるNPT再検討会議に各国首脳が参加するのは珍しい。岸田首相の参加は、核問題への熱心な取り組みをうかがわせる。

来年5月19日から21日にかけて広島で開催される主要国首脳会議(G7)では、岸田首相がホスト役を務めることになっている。今回のNPT検討会議での演説と並んで、いずれも岸田首相が掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた舞台となるだろう。

岸田首相はニューヨークで開かれる国連核不拡散条約(NPT)再検討会議での演説で、核兵器国と非核兵器国の橋渡し役としての決意を強調し、「核兵器のない世界」実現に向けた協力を呼びかけるという。首相は、2015年にニューヨークで開催された前回のNPT再検討会議に外務大臣として出席した。しかしその会議では、日本の精力的な取り組みにもかかわらず、成果文書に署名することなく閉幕した。岸田首相は、「最終文書の合意に至らなかったことは残念であり、2015年NPT再検討会議で核のない世界のための約束を前進させることができていたら、核軍縮と廃絶に向けた重要な一歩になったはずだ。」と述べている。

ATN

広島は1945年8月6日、戦時に史上初めて米軍が投下した原子爆弾で破壊された。

広島を選挙地盤とする岸田首相は核問題で進歩的なビジョンを持つことで知られているが、自民党の保守派の多くはこのビジョンを共有していない。岸田首相は、核軍縮、核兵器廃絶の実現に向け、現実的な対策を講じる意向である。核保有国が核兵器禁止条約に参加しないため、岸田首相は、日本が同条約のオブザーバーとなることには慎重な姿勢を示している。

日本の唯一の正式な同盟国であり、日本の安全保障を支える「核の傘」を提供する米国との健全な関係を維持することは極めて重要である。岸田首相は側近に「核の問題を考慮しても、日本が米国との関係を最も重要視していることに変わりはない」と語った。

5月23日に東京で行われたジョー・バイデン米大統領との首脳会談では、この問題に対する現実的なアプローチを示した。両首脳は、日米共同声明を発表し、核兵器のない世界を目指して共に努力する意思を再確認した。

声明では、バイデン大統領が、核兵器を含む米国の全能力を背景とした日本の防衛に対する米国のコミットメントを改めて表明したことも明記された。声明はまた、中国に関するセクションに言及し、日米両首脳は中国に対し、核リスクの低減、透明性の向上、および核軍縮の進展に向けた取り決めに貢献するよう要請したと述べている。

岸田首相は声明に中国の核問題を盛り込むことを優先した。また、バイデン大統領との会談で核問題のバランスを取ることに成功した。さらに、来年のG7サミットの広島開催についてもバイデン大統領の了解を得た。首相は、核保有国である米英仏を含むG7の全メンバーが、広島でのサミット開催に同意することを目指した。また10日に開かれた英国国際戦略研究所が主催するアジア安全保障会議(シャングリラ会合)の基調講演では、中国の核軍縮を訴え、米中間の核軍縮・軍備管理に関する対話を、日本は他の関係国とともに支援していくと述べた。

岸田首相は、「世界はウクライナ侵攻という未曾有の危機に直面し、大量破壊兵器の使用リスクも高まっている。」との認識を示した。また、来る広島G7サミットについて、「武力侵略、核兵器による威嚇、国際秩序の転覆を断固として拒否するG7の意思を示したい」と指摘したうえで、「広島ほど、平和への決意を示すのに適した場所はないと感じている。」と強調した。

Hiroshima after atom bomb on August 6, 1945/ ATN

ストックホルム国際平和研究所は、世界の核兵器数が今後10年で増加する可能性が高いと報告し、冷戦後の核兵器削減の時期が終わりつつあることを示唆した。

岸田首相は自らの理想を掲げると同時に、米国の核兵器を含む軍事力で日本を守る米国の「拡大抑止」の信頼性を高め続けるだろう。日米同盟の抑止力を確保しつつ、核兵器国の理解を得て、核軍縮・廃絶への道筋をどう示すか、それが問われている。

A view of United Nations Headquarters complex in New York City as seen from the Visitors’ Entrance. /UN Photo | Yubi Hoffmann.
A view of United Nations Headquarters complex in New York City as seen from the Visitors’ Entrance. /UN Photo | Yubi Hoffmann.

岸田首相は、2014年の長崎大学での講演で、核兵器のない世界に向けた可能な措置として「3つの削減」を紹介した。1つ目は「核兵器の数の削減」、2つ目は「核兵器の役割の縮小」、3つ目は「核兵器を保有する動機の削減」である。そして、これらの削減を受け入れることで、G7首脳は核軍縮に向けた重要な一歩を踏み出すことになる。

岸田首相は外務大臣として、2016年5月にバラク・オバマ大統領(当時)を広島に迎え入れた。オバマ大統領は「核兵器のない世界」というビジョンでノーベル平和賞を受賞し、広島で廃絶を呼びかけた。

世界は、そうした目標を達成することがいかに難しいかを学んだ。

より良い世界を構築するために8月1日からニューヨークで国連のNPT再検討会議が開催され、世界の視線が注がれる中、初日に登壇する岸田首相は、来年のG7広島サミットの主催者としても、世界の注目を集めることになるだろう。(原文へ

翻訳=INPS Japan

関連記事:

NPT再検討会議に寄せて―「核兵器の先制不使用」の確立に向けての緊急提案(池田大作創価学会インタナショナル会長)

オバマ大統領の広島初訪問でも核兵器禁止は進まず

|視点|核兵器禁止条約締約国会議へのわが国のオブザーバー参加の必要性と核廃絶への今後の課題(浜田昌良 公明党核廃絶推進委員長)

国連軍縮会議が野心的な目標を設定―しかし、それをどう達成するか?

アフリカの干ばつ被害者への資金が大幅に削減され、欧州に資金が流れる

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

ウクライナでの戦争は、欧州に資金を振り向け、アフリカの危機から何百万ドルも流出させている。

戦争が主な原因で食糧不足に直面しているソマリアは、最も脆弱な立場に置かれる可能性がある。その援助資金は昨年の半分以下である。一方、欧米の援助国は欧州での戦争に対応するために17億ドル以上を送っている。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

国連のデータによると、ウクライナに対する22億ドルの支援要請は、ほぼ80%の資金が集まっており、年度半ばの危機としては「例外的」なレベルである。これに対し、ソマリアへの支援は要請額のわずか30%に過ぎない。

ソマリアNGOコンソーシアムのニモ・ハッサン事務局長は、「彼らは『ウクライナに注力している』と表立っては言わないが、彼らがウクライナで何をしているかは分かるはずです。」と語った。

ハッサンや他の何人かは、援助国はソマリア支援の緊急性を理解していると信じているが、ブリュッセルやロンドンの意思決定者は欧州の戦争に気を取られているように見えると語った。

ソマリアの援助団体に50万ドルを提供する準備をしていたある援助国が、その事務局長で元ソマリア副大統領のフセイン・クルミエ氏に、代わりにウクライナ人を助けるために資金を振り向けることを告げたケースもある。

一方、東アフリカ地域では8000万人以上が食糧難に陥っている。特に子どもたちの間で急性栄養失調の割合が高い。

USAIDの人道支援局で行政官補佐を務めるサラ・チャールズ氏はAP通信に、「残念ながら、こうした危機はゆっくりと進行し、やがて急速に進むのが特徴です。」と付け加えた。

Map of Somalia
Map of Somalia

ソマリアのある病院では、この2ヵ月間で20人以上の子どもたちが餓死している。ヤヒェ・アブディ・ガルン医師は、「ここ数十年で最も乾燥した干ばつに見舞われた地方から、衰弱した子どもたちの親がよろめきながら入ってくるのを見てきました。それなのに、人道的援助は届きません。」と語った。

干ばつから逃れたソマリア人は、バイドア市にある500以上の難民キャンプを埋め尽くしている。ノルウェー難民協議会のヤン・エーゲラン事務局長は、AP通信に対し、「怒りと恥ずかしさでいっぱいだ」と述べ、あるキャンプを助け、他の10のキャンプを無視するという「恐ろしい」選択を迫られていると語った。ノルウェー難民協議会によるウクライナでの支援は48時間以内に目標額が全額集まったが、ソマリアでの支援は、数千人が亡くなっているなかで、4分の1程度の資金しか集まっていない。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

国連が20の国・地域で飢餓が急増すると警告

サバクトビバッタ大発生:「アフリカの角」地域への脅威続く

|視点|ウクライナ紛争は理性の自殺につながる(ロベルト・サビオINPS-IDN顧問)

|視点|スリランカの危機から学ぶべき教訓(ラム・プニヤーニ 元インド工科大学教授、社会活動家、コメンテーター)

【ニューデリーIDN=ラム・プニヤーニ】

スリランカ危機は、同国の市民、近隣諸国、そして世界を揺るがしている。あるレベルでは人道的危機、別のレベルでは独裁的な差別政策が市民、特に労働者、タミル人、イスラム教徒の少数派、一般市民に影響を与えていることがわかる。

何千人もの人々が大統領官邸を取り囲んで占拠し、ラニル・ウィクラマシンハ首相の私邸に放火している光景は、実に恐ろしいものだ。食料、ガソリン、医薬品の不足は、この島国の人々に計り知れない悲惨な事態をもたらしている。

Map of Sri Lanka
Map of Sri Lanka

スリランカの政治は、大統領に強大な権限を与える傾向にあり、独裁が政権の全体的な方向性であった。その独裁的な性質は、過去数十年間続いており、歴代大統領たちは、経済の基盤を破壊するような経済措置をとってきた。

マッタラ・ラジャパクサ国際空港のような気まぐれなメガプロジェクトとは別に、特に贅沢品の自由輸入と無謀な民営化政策が、ほとんど役に立たず、国庫を枯渇させた主要な要因であった。

スリランカ政府はまた、農業の全面的な有機化を強調するあまり無謀にも科学肥料の輸入禁止に踏み切るなど、食糧生産を大幅に低下させ深刻な食糧危機を招いた。

このような経済的な誤算は、一人の人間(あるいは一族の組み合わせ)が気まぐれに物事を決めるという独裁的な政権の性質と大いに関係がある。このような独裁政治の台頭は、タミル人(ヒンズー教徒)、イスラム教徒、キリスト教徒といった少数民族を抑圧し、疎外する政策を並行して行ってきたこととも大いに関係がある。

この国はインドと密接な関係にあり、アショーカ王が息子のマヒンダと娘のサンガミッタを派遣し、如来蔵王が提唱した価値観を広めたのもこの国である。また、多くのタミル人(ほとんどがヒンズー教徒)が農園労働者として、あるいは貿易関係で移住してきたのもこの地である。先住民のシンハラ人が仏教徒であるのに対し、タミル人のヒンズー教徒は12.99%と非常に多く、次いでイスラム教徒(9.7%)、キリスト教徒(1.3%)が多い。

スリランカは植民地支配から独立した国であることから、とりわけ宗教ごとに国民を分断統治した英国の政策により、民族のアイデンティティが強調される傾向にある。シンハラ仏教徒らは自らを「先住者」であると主張し、権利の優位性を持っていた。ヒンズー教徒(タミル人)は部外者、「非原住民」として紹介され、そのため何の権利も得られないとされた。

スリランカ出身の学者・活動家であるロヒニ・ヘンスマンは、「主要政党が主張する民族的・宗教的分裂の根源について包括的に説明しており、やがてこれが、特にマヒンドラ・ ラジャパクサとゴタバヤの反人民的・独裁的政権を生み出すに至ったのです。」と語った。(ロヒニ・ヘンスマン、悪夢の終わり、2022年6月13日、New Left Review)。

1948年の独立後、スリランカの二大政党は、18世紀に英国人によってインドから強制移住させられた100万人以上のタミル人から、選挙権と市民権を奪うことに合意した。ヘンスマンは、「この政策は、既に貧困にあえぎ、さんざん搾取されてきたタミル人労働者に、大多数のシンハラ人市民でさえ提出が困難であろうスリランカの祖先を証明する書類を提出するよう要求するという、明らかに差別的なものだった。」と指摘している。

ヘスマンは、自身の幼少期の体験を振り返り、「1958年当時、タミル人を標的にしたシンハラ人の一団がたむろしていたため、私の一家はコロンボ近郊の自宅を後にしなければならなかった。私の父親はタミル人だったからだ。」と語った。

Official Photographic Portrait of fourth Prime Minister of Ceylon (Sri Lanka),Hon S.W.R.D.Bandaranayaka-served from 1956 to until his assassination in 1959, Public Domain
Official Photographic Portrait of fourth Prime Minister of Ceylon (Sri Lanka),Hon S.W.R.D.Bandaranayaka-served from 1956 to until his assassination in 1959, Public Domain

1956年、ソロモン・バンダラナイケがシンハラ語を唯一の国語とすることを公約して政権を掌握した。これに対してタミル語を主要言語とするタミル人は反対運動を起こした。一方、右派シンハラ人組織の過激派僧侶が、タミル人弾圧が十分でないとしてバンダラナイケ首相を殺害した。すると未亡人のシリマヴォ・バンダラナイケが夫の後を継いて女性初の首相となり、インドのラール・バハドウール・シャーストリ首相と交渉して、50万人のタミル人をインドに送還する条約を結んだ。

1972年、新憲法が制定されシンハラ語が唯一の公用語となった。この憲法はまた、仏教に特別な地位を与えた。一方で、少数民族の権利の保護は廃止された。

その後、1972年と75年には、プランテーションの国有化という名目で、タミル人は生計を奪われ、飢餓にさらされるようになった。政権は徐々に右傾化し、表現の自由や民主的な権利は潰された。2005年にマヒンダ・ラジャパクサが政権を取ると、タミル人に対する攻撃が増え、政府の批判者が死の部隊の標的になった。

こうした露骨なシンハラ人優遇政策に対し、タミル系諸政党が設立したタミル統一解放戦線(TULF)は、タミル人の独立国家「タミル・イーラム」の創設を訴えた。また、そのために結成されたのが、タミル・イーラム解放の虎(LTTE)を代表とする過激派組織である。タミル人の不満がピークに達すると、LTTEはテロ活動を活発化して事態を悪化させた。

TTE leaders at Sirumalai camp, India in 1984 while they are being trained by RAW (from L to R, weapon carrying is included within brackets) - Lingam; Prabhakaran's bodyguard (Hungarian AK), Batticaloa commander Aruna (Berreta SMG), LTTE founder-leader Prabhakaran (pistol), Trincomalee commander Pulendran (AK-47), Mannar commander Victor (M203) and Chief of Intelligence Pottu Amman (M 16)./ By http://sundaytimes.lk/970119/plus4.html, Fair use
TTE leaders at Sirumalai camp, India in 1984 while they are being trained by RAW (from L to R, weapon carrying is included within brackets) – Lingam; Prabhakaran’s bodyguard (Hungarian AK), Batticaloa commander Aruna (Berreta SMG), LTTE founder-leader Prabhakaran (pistol), Trincomalee commander Pulendran (AK-47), Mannar commander Victor (M203) and Chief of Intelligence Pottu Amman (M 16)./ By http://sundaytimes.lk/970119/plus4.html, Fair use

タミル人に対する戦争が開始され、国連の推計によると、4万人の市民が命を落とした。LTTEが民間人を盾にしたことと、当時の国防長官ゴタバヤ・ラジャパクサが病院や安全地帯を含む民間人の標的を爆撃するように要求したことである。ラジャパクサ家はまた、LTTEと戦うためにイスラム過激派に資金を提供し、彼らは過激化したという信頼できる情報があるにもかかわらず、情報提供者として政府が雇用していた・・・その信頼性への最後の一撃は、2019年のキリスト教の復活祭に発生した「スリランカ連続爆破テロ事件」で、国中で269人が死亡した。結局、この爆弾テロは、ラジャパクサ家が資金援助していたイスラム過激派勢力によって行われたことが判明した。

ボドゥ・バラ・セーナのような仏教右翼団体が先兵の役割を果たし、シンハラ人大衆はラジャパクサ家の政策を全面的に支持していた。しかしLTTEが消滅すると、新たな敵はイスラム教徒になった。国が支援する仏教僧のグループが、少数派のイスラム教徒を標的にするようになった。経済が低迷し、民主的な保護措置もないまま、政権は大衆の経済的な苦しみに対応できなくなった。強引な政策決定がこの国を破滅に追いやった。社会の大部分の人々の不満が高まり、現在のような恐ろしい事件が起こった。

Photo: Antan0, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
Photo: Antan0, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

この悲惨な統治スタイルから何を学ぶことができるだろうか。宗派間の対立の激化、「多数派宗教の危機感を煽る」(この場合は仏教)宣伝、少数派の人々を疎外する政策、数人の独裁者への権力集中があったことは、誰の目にも明らかである。独裁者(個人や仲間達)は、自分がすべてを知っていると考え、国家を破滅させ、民族間の対立を激化させるような決定を下す。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

|スリランカ|政府の有機農業政策にコメ農家が困惑

ミャンマーは「ロヒンギャ問題」の解決について、スリランカから学べるかもしれない

ベルリンで宗教間対話の先進的なプロジェクトが始動