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「カザフスタン共和国の日」東京で祝賀行事が開催される

【東京INPS=浅霧勝浩

カザフスタンがソ連邦の時代だった末期にカザフスタンの国家主権に関する宣言を行い1991年の国家独立への第一歩となった「カザフスタン共和国の日」を祝うレセプションが、駐日カザフスタン大使館主催で開催された。

この日はソ連時代の歴史的背景から130以上の多民族が共存する同国国民の団結の象徴となっている祝日。 サーブル・エシンベコフ駐日カザフスタン大使は、多民族・他宗教国家として、9月にローマ教皇をはじめ世界の伝統宗教指導者(日本からは神社本庁、創価学会が参加)が集う会議をカザフスタンがホストして国際社会の注目を集めたことや、引き続き全方位平和外交を推進する観点から日本との関係を一層深化させていきたいと挨拶した。

日本からは吉川ゆうみ外務大臣政務官と黄川田仁志衆議院外務委員会委員長が登壇、ユーラシア大陸の中央に位置する安定したパートナーとして、共に今日の国際環境を取り巻く様々な課題を協力して乗り越えていきたいと挨拶した。

Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director/President of INPS Japan

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ナイジェリア南部で過去10年で最悪の洪水が発生し600人が死亡

【ニューヨーク/アブジャIDN=リサ・ヴィヴェス

ナイジェリア南部と沿岸部の州で発生した洪水により、600人以上の命が奪われ、140万人が避難し、道路や農地が甚大な被害を受けた。当局は、この状況が11月まで続く可能性があると警告している。

ナイジェリアの36州のうち31州が、この10年で最悪を報じられている洪水の被害を受け、インフラや約20万戸の家屋が一部または全部が破壊された。

Map of Nigeria
Map of Nigeria

この国独特の勾配のある塗装された金属屋根は、食糧や燃料を満載した車やトラックと同様に、ほぼ完全に浸水している。

ナイジェリアのサディヤ・ウマル・ファルーク人道問題担当大臣は、この災害の多くは政府の無策が原因であると非難した。

「2022年の洪水について十分な警告と情報があったのに、州、地方政府、地域コミュニティーは耳を貸さなかったようだ。」とツイッターに書き込んだ。

「氾濫原に住む人々を高台に避難させ、さらなる洪水に備えるよう、各州政府、地方自治体議会、地域コミュニティーに呼びかけている。」とファロウク大臣は語った。

ナイジェリア南部に位置するバイエルサ州では、終わりの見えない洪水が大惨事を引き起こしている。

ナイジェリアの通信社(NAN)によると、数千人の住民が避難したこの洪水は、同州を担当する電力会社に公共電源の停止を強い、ほとんどの変圧器が水没してしまったという。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

ナイジェリアでは毎年、特に沿岸部で洪水が発生している。当局は、隣国カメルーンのラグド・ダムからの余剰水の放出と、異常な降雨がこの災害の原因であるとしている。

「水位は憂慮すべきレベルまで上昇している。」と、ナイジェリア南部バイエルサ州の州都イエナゴアからレポートしたアルジャジーラのアーメッド・イドリス氏は語った。「水の流れの激しさも増しています。上流からの洪水がこちらに流れ続けています。」と語った。

環境保護論者によれば、ナイジェリアの温室効果ガス排出量は世界の1%未満だが、気候変動、暑さ、干ばつ、砂漠化の急激な増加、洪水の被害は不釣り合いなほど大きい。同国は、世界で最も気候変動の影響を受けやすい国のトップ10に入っている。


Adenike Oladosu presenting the opening speech at the 2020 Elevate Festival photo by Elevate Festival

12年以上前、世界の富裕国は、2020年から2025年まで毎年1000億ドルを気候変動ファイナンス(気候変動の影響を最も受ける低所得国の適応を支援する資金)として提供することを約束した。しかし、彼らはその約束を破り、現在約束した資金は2023年まで提供されない可能性が高い、と述べている。しかし、気候の危機は今、パキスタンからスーダンまでの国々を荒廃させている。

偶然にも、11月6日から18日まで、エジプトのリゾート地シャルムエルシェイクで、国連気候変動会議、通称COP27が開催される。この会議に先立ち、オラドス・アデニケさんなどの気候活動家は、ナイジェリアの気候危機に対処するための気候資金の提供を求める声を強めている。

「ナイジェリアで進行中の気候危機(洪水)は、何百万人もの人々の生活を破壊し被害総額は数十億ドルに相当します。これは国全体の食糧安全保障を脅かすものです。気候危機は、私たちが迅速に行動しなければ、次のパンデミックとなるのです。」と、オラドスさんは語った。(原文へ

INPS Japan

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|ジンバブエ|ペットボトルでレタス栽培

【ムタレ(ジンバブエ)IDN=ファライ・ショーン・マティアシェ】

ジンバブエ中部の人口密度の高いグウェル市郊外の町ムタパ。ルース・ルゲジェさん(38)は、自宅の裏庭に置かれた空の2リットル入りペットボトルで栽培したキャベツを見つめていた。

この革新的な農民は、近くにある違法なゴミ捨て場からこのペットボトルを拾ってきて、水耕栽培に使っているのである。

彼女の庭には温度を管理する温室がある。

彼女の水耕栽培の仕組みでは、太陽光システムや国の電力供給網からの電気を使うのではなく、重力を用いてペットボトルの中の作物にパイプを通じて水や栄養を送っている。

カリバやフワンゲの主要な発電所では古い発電機を使っているために長時間の停電が生じている。そこで、24時間の電源を必要とする水耕栽培を行う多くの農民にとっては、太陽光発電が代替手段となっている。

しかし、ルゲジェさんのような多くの農民にとっては、太陽光発電は高くてなかなか手がでない。

重力を用いた水耕栽培は実現性が高く安価である、というわけだ。

「コロナ禍の衝撃緩和措置として現金支給を得ていました。小さな庭もありました。昨年10月に、水耕栽培を行う支援も得ることができました。」と、11歳の娘を持つシングルマザーでもあるルゲジェさんは語った。

SDGs Goal No. 12
SDGs Goal No. 12

「自宅近くのゴミ捨て場からペットボトルを拾ってきて、レタスやほうれん草、キャベツなどの葉物野菜を育て始めました。」

ペットボトルを拾ってくることでコスト削減になる。

「買ったりはしません。コストはずいぶん減りましたね。しかも、簡単に取り替えられます。」とルゲジェさんは言う。

グウェルなどジンバブエ国内の町では違法なゴミ捨て場があちこちに見られ、プラスチックごみの投棄が住民の頭を悩ませている。

とくに人口密度の高い郊外であるグウェル市当局のゴミ収集方針に一貫性がないことが原因だ。

グウェルでは違法な廃棄物投棄に罰金を科すため、人々は深夜や早朝にゴミを投棄することになる。

なかでも、プラスチックは燃焼時に人間の健康に大きな害を与える。

分解されるのに数百年もかかるプラスチックの一部は、国内の川やダムに流れ込んでいる。

研究によると、プラスチックは、気候変動を悪化させる温暖効果ガスであるメタンやエチレンに変わるという。

ルゲジェさんは、ドイツの慈善団体「ヴェルトフンゲルヒルフェ」【訳注:2030年までの貧困根絶を目指す団体】によって、水耕栽培などの生活向上支援を受けているグウェルの多くの世帯のひとつである。

彼女が昨年水耕栽培を始めたとき、育てた野菜は自分自身の消費用だと考えていた。それを最終的に隣人に売ることになるとは考えも及ばなかった。

「今年初めに初めて野菜を育ててみて、余った野菜を売ることができたんです」と、失業状態にあり生活のために農業を続けるルゲジェさんは語った。

Lettuce grown in plastic bottles in Ruth Rugejo's backyard garden in Gweru. Credit: Kudzai Mpangi.
Lettuce grown in plastic bottles in Ruth Rugejo’s backyard garden in Gweru. Credit: Kudzai Mpangi.

「そのお金で娘を学校にやることもできたし、洋服などの必需品を買うこともできました。」

ヴェルトフンゲルヒルフェ」の都市レジリエンス構築プログラムの生産資産創出エンジニアであるタクドゥワ・ムヴィンディ氏は、リサイクルペットボトルを利用した水耕栽培システムは費用対効果に優れていると語る。

「65リットルのタンクの中で水に栄養が足されます。水と栄養の両方が、重力を利用して、管を通じてペットボトルの中に栽培されている作物の中に送られます。」と、この水耕栽培の仕組みを考え付いたムヴィンディ氏は説明した。

「最終的には水はタンクの中に回収されます。農民はそれを最初の65リットル入りタンクの中に注ぎ込みます。気象条件によって、これを一日3回繰り返すのです。」

乾燥地帯あるいは都市部において作物を育てることを可能にする農法である水耕栽培は、[土壌を使う通常の農法と比較して]水使用量が9割、土地使用が75%少ない。

Map of Zimbabwe
Map of Zimbabwe

水耕栽培法で育てられた野菜は通常の農法よりも2倍速く育つ。

水耕栽培は、土地や水を持たない農民にとってのオプションとなり、土壌が貧弱な土地で大いに機能する、と語るのは、国連食糧農業機関(FAO)のルイス・ムヒギルワ駐ジンバブエ副代表だ。

「都市や乾燥地帯、低地などの環境で水不足や気候変動、土地の劣化などに直面している従来からの農業が問題を乗り越えるには、水耕栽培は有益な手法だと言えます。」とムヒギルワ氏は語った。

ルゲジェさんは、農場を所有して商業規模で水耕栽培を展開することを夢見ている。

「大きな土地があったら、街のスーパーマーケットに野菜を届けてみたい。」ルゲジェさんはそう語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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もしロシアがウクライナに小型核を使ったら?

【国連IDN=タリフ・ディーン

ウクライナでロシア軍が後退戦を強いられていることで、ウラジーミル・プーチン大統領が「戦術核兵器」を使用するのではないかとの観測が米国内で広がっている。この核兵器は1945年8月に広島・長崎に投下された米国の核兵器よりも壊滅的な威力がないかもしれない。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

ウクライナ東部での戦闘における度重なる敗北を受けて、プーチン大統領は、もしわが国の領土保全が脅かされた場合、「利用できるすべての兵器システムを利用する」と警告している。

プーチン大統領は、核兵器を使用すれば世界的な非難を招き、「国際的に孤立した国家」として自国の立場をさらに危うくすることを理解している。

また、核兵器の使用により、ロシア領内に放射能が吹き流れてくるのではないかとの観測もある。

最もありえるシナリオは「戦術核兵器」の使用だが、このタイプの兵器は国際条約による規制を受けていない。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は10月4日、匿名を条件に取材に答えた米政府筋の話として、「ウクライナ領土の一部を住めなくすると脅してウクライナの反攻を止めようとする最後の試みではないか。」と報じた。

「ストックホルム国際平和研究所」大量破壊兵器プログラム核情報プロジェクトの責任者であり、同研究所の上級研究員でもあるハンス・M・クリステンセン氏はIDNの取材に対して、「戦術核兵器は大陸間航続距離を持たず新戦略兵器削減(新START)条約の対象とならないあらゆる核兵器を指します。この用語はソ連・米国・フランス・英国が局地的な戦闘や限定的な地域的シナリオにおいて使用することを意図してこの種の核兵器を開発した冷戦期にまで遡ります。」と説明した。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

「戦術核兵器は時として、核戦争のエスカレーションに歯止めをかけ、それが全面的な戦略核による殲滅にエスカレートするのを防ぐ目的を持たされていたこともあった。」

クリステンセン氏によると、現在、魚雷から地雷、爆弾、巡航ミサイル、弾道ミサイル、対空ミサイル、ミサイル防衛迎撃ミサイルに至るまで、実に多くの種類の戦術核が存在するという。

米科学者連盟(FAS)核情報プロジェクトの責任者でもあるクリステンセン氏は、ロシアは戦術核の最大の保有国であるが(最大1912発)、これに対して米国は約200発、パキスタンはおそらく数十発を保有していると語った。

すべての核兵器は致命的だが、戦術核は概して戦略核よりも爆発力を小さく調整するオプションを備えているという。

「しかし、多くの戦術核が広島型原爆の10~20倍の爆発力を持っています。爆発力は通常、破壊することを意図した標的の性質によって決められます。」とクリステンセン氏は説明した。(※核戦力に関する最新情報はこちらを参照)

米空軍に20年以上従軍した経験を持つビル・アストア中佐は10月5日の声明で、「戦術」核か「戦略」核かというのは単なる言葉遊びに過ぎないと語った。

「あらゆる核兵器は全く破滅的なものであり、全面核戦争にエスカレートしていく危険性を秘めたものだ。」とアストア中佐は語った。

もしロシアが「戦術」核兵器を使用することになれば、米国や北大西洋条約機構(NATO)も同じ方法で対抗することになるだろうと中佐は警告する。

FAS

歴史学の教授でもあり、軍事史、科学技術史、宗教史などの論文を多数発表しているアストア中佐は、「たとえ大規模な核戦争が回避できたとしても、核戦争の結果として起きる政治的な混乱によって、経済は不安定化して深刻な世界的不景気を引き起こし、場合によっては世界恐慌となるかもしれない。それがまたファシズムや権威主義の種をまくことになるだろう。」と語った。

ロシアが戦術核兵器、特に核魚雷の使用を計画しているとの報道について、事務総長のコメントはあるかと問われ、国連のステファンドゥジャリク報道官は10月3日、記者団に「そうした主張について詳細を知る術はない」と語った。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

「私たちが非常に懸念しているのは、紛争の激化と、特に核兵器の使用です。事務総長はこの点について非常に明確にしていると思いますが、いかなる戦局においても、いかなる形であっても、この種の兵器の使用を正当化することはできないのです。」

米国の科学者らによる非営利団体「憂慮する科学者同盟」によると、当初、米国の核戦力の中で戦術核は一つの種類に過ぎなかったという。

数十種類の核兵器が開発され、数万発が製造されたが、その一部は爆発力が非常に小さく、1人の兵士によって発射が可能なものであった。

やがて、ソ連の通常戦力が拡大するにつれ、米国と同盟関係にあるNATO諸国は、核兵器を戦車や大砲の数的不利を補うための武器と考えるようになった。

「双方がさまざまな種類の核兵器を開発するにつれ、理論家の中には、あらゆるレベルで同等の戦力で敵に対抗する必要性を認識する者もいた。彼らの懸念は、もしある国が戦略核兵器しか持っていなければ、低レベルの戦術核攻撃に対する報復にその核兵器を使うことをためらうかもしれないということである。なぜならその反応は不均衡であり、全面的な核戦争につながる可能性があるからだった。」

「この欠陥のある危険なモデルによれば、米国はいわゆる『紛争/戦争の烈度に応じて想定されたエスカレーションラダー(事態エスカレートの梯子)』の全段階において相手に対抗できる幅広い種類の核兵器を必要としたのである。」

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

「さらに厄介なのは、「エスカレーション優位」という考え方に基づくモデルである。これは、ライバルがどんな戦いも絶望的と見て抑止するほど、あらゆるレベルで優れた能力を追求することを必要とする。この危険な理論は、核戦争に「勝利」する可能性を想定している。

しかし、米国のドナルド・レーガン大統領が1984年に宣言したように、米国・ロシア・中国・フランス・英国の5か国は最近、「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」との原則を再確認した。

憂慮する科学者同盟によると、米国は0.3~170キロトンの爆発量を調整できる戦術核重力爆弾を200発保有している。(広島型原爆の爆発力は15キロトンだった。)

米国防総省は、イタリア・ドイツ・トルコ・ベルギー・オランダの欧州5か国に、「B61」と呼ばれるこの種の爆弾を約100発配備している。

他方、ロシアには約2000発の戦術核があり、その出力は極めて低いものから100キロトン超までさまざまである。運搬手段には航空機、艦船、地上発射システムがあり、それらの一部は通常兵器の運搬にも使える。たとえば、ロシアがウクライナに対して使用したミサイルの一部は核弾頭を運搬することもできる。(原文へ

INPS Japan

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荒波に架ける橋(Bridging Troubled Waters): 分断社会に結束をもたらす

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャイワット・サーシャ=アナンド】

社会的緊張と紛争の時代に、結束を促す架け橋を築くことが極めて重要になっている。名曲『明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Water)』が教えてくれるように、われわれが築いている橋の下に荒波があることを忘れてはならない。

2019年6月にシンガポールで開催された第1回「結束ある社会に関する国際会議(International Conference on Cohesive Societies: ICCS)」において、シンガポールのハリマ・ヤコブ大統領は、アイデンティタリアン的傾向を強める分断の間に壁ではなく橋を架けるよう、国々や社会に呼びかけた。同じイベントで、アラブ首長国連邦の「暴力的過激主義対策に関するヘダヤ国際研究センター(Hedayah International Centre of Excellence for Countering Violent Extremism)のアリ・アルヌアイミ博士は、われわれが「戦争ではなく橋を築く時代」にいると指摘することによって、大統領のメッセージを改めて強調した。(原文へ 

社会的分断が深刻化する状況で橋を架けるには、その下の荒れた水を理解することが重要である。今日、橋を架ける人々が社会的結束を促進しようとする際に立ちはだかる“荒波”の種類を明らかにするために、手引きとなる三つの問いがある。(1) どこに亀裂が見られるか、(2)現代社会においてそれらの亀裂は現在どれほど深いか、そして、(3)それらの亀裂に対処するのがなぜそれほど難しいのかである。

「どこに亀裂が見られるか」という第1の問いを通して分断社会と折り合いをつけようとするとき、ロバート・ベラーが半世紀前に書いたことを心にとどめるのが賢明である。結束ある社会では、集合体の中で制度化された聖なるものに関する信念、象徴、儀式の集積の力によって人々が結び付いていたと、ベラーは主張した。

このような信念、象徴、儀式は、国家に定義を与える。それは、宗教が信者や追随者に対して及ぼす力とは異なり、それゆえ「市民宗教」という言葉で表される。警察、裁判所、メディアといった制度に信頼を置くことができる結束ある集合体に、多様な人々をとどめ置くことができるのが、市民宗教の力である。

米国やタイのような高度に二極化した社会において近頃起きていることから判断すると、米国では選挙プロセスへの信頼が損なわれており、タイでは、昔なら考えられないことだが、王制改革に関する論議が伝統的な社会構造をずたずたに引き裂いているようだ。

二極化はまた、バングラデシュ、ブラジル、インド、ケニア、ポーランドをはじめ世界中で、民主主義的な制度や慣行の縫い目も切り裂いている。恐らく、かつてこれらの社会を結束させた「市民宗教」が、一部のケースではすでに崩壊したとは言わないまでも、いまや裂け目が入りつつあるのだろう。

かくも長きにわたって社会をまとめてきた市民宗教を脅かすその裂け目は、どれほど深いのだろうか? 筆者が思うに、リベラル派(人々であれ社会であれ)が大いに共鳴する権利や自由という「普遍的」言語に対して、普通の人々が日常の徳について用いる道徳的言語が対立するとき、市民宗教の結束力は厳しい試練にさらされてきた。

マイケル・イグナティエフは著書“The Ordinary Virtues”の中で、対立するアイディアや要請に対処できるよう人々を導く「道徳的オペレーティングシステム」の役割を果たすのは、このような普通の徳、なかでも信頼と寛容であると主張する。

普通の徳にとって、鍵となる道徳的区別は自己/他者、市民/よそ者である。よそ者を「他者」とするなら、人種、宗教、ジェンダー、国籍は、自己/市民であることの第一義であり、共通の人間性は第二義となる。

例えば、社会的結合に不可欠と考えられている寛容という問題を考えてみよう。普通の徳において、寛容は義務ではなく、市民からの贈り物であり、誰がその贈り物を得るかは、主権者としての国家が決める。市民は、よそ者が彼らの「道徳的オペレーティングシステム」を受け入れることを条件として、よそ者に寛容という贈り物を与えるのである。よそ者がそれを自分の権利と言い張るなら、寛容は与えられない。

イグナティエフはさらに、異なる集団が同じ社会の中に生きることはできるが、彼らは共生するのではなく分離して存在しているという所見を述べている。普通の徳は、われわれを団結させる場合もあれば、分離させる場合もある。

一方では、普通の徳は、癒し、和解、連帯の鍵である。

他方では、自らの集団が他の集団より特権を持っている場合、普通の徳は、「恐怖と排除の政治」のために悪用されやすくなる。この「恐怖と排除の政治」が勢いを増した現在、恐らくこのようにして既存の政治論が普通の徳に力を与えたり奪ったりするのだろう。それがもっか、橋の下の水を極めて危険にしているのである。

「恐怖と排除の政治」が勢いを増した状況で、社会的結束を促進するために橋を架けることがますます難しくなったのは、なぜだろうか? 多くの人が、オンライン・コミュニケーション、その特性、スピードを主要な問題と認識している。

自分たちの「真実の」説明によって、「フェイクニュース」との「戦い」に身を投じる人もいる。しかし、恐らく彼らは、「真実」という概念自体がますます問題をはらんでいることに気付いていない。

筆者の考えでは、最も良い答えの一つを『MITテクノロジー・レビュー』に掲載されたゼイナップ・トゥフェックチーの記事に見ることができる。彼女は、デジタル技術の破壊的傾向を理解するために、技術そのものではなくそれを取り巻くエコシステムを見なければならないと提案する。

「ソーシャルメディアの時代にソーシャルメディアで反対意見に出会うということは、ひとりで座っているときに新聞でそれらを読むのとは違い、……サッカースタジアムで仲間のファンと一緒に座っているときに敵のチームからそれらが聞こえてくるようなものだ」と、トゥフェックチーは説明する。

アイデンティティ意識の対立がきわめて激しいエコシステムでは、「所属することのほうが事実より力を持つ」。事実がほとんど無意味なことへと格下げされるそのようなエコシステムにおいては、アイデンティタリアン的な相違を乗り越えようとする結束ある社会にとって、硬直化した所属意識が深刻な脅威となる。

分断社会において社会的結束を目指す努力は、現在非常に重要になっていることから、結束を脅かす亀裂の位置と深さ、そして、健全な結束ある社会の実現に向けた努力を難しくしている条件を理解しようとすることが、緊急に必要とされている。

橋の下の荒波を構成する基本条件(市民宗教、普通の徳、エコシステム)を批判的に認識し、そのうえでこれらの現実に立ち向かうことによってのみ、橋を架ける試みが現実的なものとなり、意味のある社会的結合が可能となるのである。

チャイワット・サーシャ=アナンドは、バンコクのタマサート大学政治学教授ならびにタイ平和情報センターの創設者および所長である。著書に“Nonviolence and Islamic Imperatives” (2017)、論文に“The Governor, The Cow Head, and the Thrashing Pillows: Negotiated ‘Restrictive Islam’ in Twenty-First Century Southeast Asia” (Religions, 2022)がある。本稿は、「結束ある社会に関する国際会議2022」に向けたシリーズの一環である。

INPS Japan

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【ニューデリーINPS/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

警察署に女性警察官がいれば、ジェンダーに起因する暴力が多いことで知られるインドの女性にとって、司法制度へのアクセスが容易になることが、ある研究結果で明らかにさ れた。

世界経済フォーラムによると、インドの男女平等度は156カ国中140位。また、インドは過去20年間、女性に対する家庭内暴力が多く、増加傾向にあることが分かっている。

Location of Madhya Pradesh in India./ By फ़िलप्रो (Filpro) - File:India dark grey.svg, CC BY-SA 4.0
Location of Madhya Pradesh in India./ By फ़िलप्रो (Filpro) – File:India dark grey.svg, CC BY-SA 4.0

この研究は、7月にサイエンス誌に発表されたもので、インド中部のマディヤ・プラデーシュ州で2300万人の市民を管轄する180の警察署をサンプルにしたものである。これを無作為に3つのグループに分け、そのうち61の警察署には通常の女性用ヘルプデスクを、59の警察署には女性のみが運営するヘルプデスクを設置、一方で60の警察署にはヘルプデスクを設置しなかった。

インドでは、警察署に第一報を正式に提出する形で事件登録が行われ、警察官は判事の令状なしに逮捕し、刑事手続を開始することができる。また、事件登録は家庭内事件報告書でも可能で、これは判事の監督のもとで民事手続を開始するものである。

11ヶ月の調査期間中、ヘルプデスクのある警察署では、ヘルプデスクのない警察署に比べて、家庭内の事件報告が約2000件、第一報が3300件以上多く登録されていることがわかった。刑事手続きにつながる第一報の増加は、すべて女性警官が運営するヘルプデスクによるものだった。

Sandip Sukhtankar/ University of Virginia

この研報告書の著者で米バージニア大学経済学部准教授のサンディープ・スクタンカール氏は、SciDev.Netの取材に対して、「この介入によって民事と刑事両方の事件登録が大幅に増加したことは、正しい支援と訓練があれば、警察は実際に女性の訴えに対応できることを示しています。」と語った。

インドの女性は、事件登録の際に大きな障害に直面している、とこの調査は指摘している。「女性が社会や家族の圧力に屈せず事件を報告した場合でも、警察官は公式に記録することを拒むケースが少なくない。」

スクタンカール氏は、「事件の登録は犯罪被害者の女性にとって正義を実現するための小さな、しかし重要なステップです。」と指摘したうえで、「女性が刑事犯罪や民事犯罪の苦情を警察に訴えることに抵抗がなくなるまでには、さらなる努力が必要です。」と語った。

女性の地位向上を目指す非政府組織で、国連経済社会理事会の諮問機関であるGuild for Serviceの事務局長であるミーラ・カンナ氏は、「女性に対する犯罪が一般に警察で登録されない背景には、インド社会の家父長制と、15年前に最高裁が命じた警察改革が実現しなかった経緯がある。」と指摘した。

「女性に対する犯罪の大半は、経済的というよりもむしろ性的なものですが、警察署の責任者を含む一般の警察官はそうした女性に対する犯罪を軽視しがちです。」と、カンナ氏は語った。

Meera Khanna/ By Sunbeam112 - Own work, CC BY-SA 4.0
Meera Khanna/ By Sunbeam112 – Own work, CC BY-SA 4.0

「一般的に男性警察官は、殺人をレイプよりはるかに悪質な犯罪と考えるでしょう。レイプに対する恐怖は、すべての女性に共通する経験ですから、レイプという犯罪の重大性をよく理解している女性警察官のこの犯罪に対する態度はおのずと男性警察官のものとは異なります。女性が犯罪を通報しても、警察は家父長制の規範に導かれるように、しばしば無関心でいることが多い。その結果、被害を訴えた女性は再被害を受けることになるのです。」

「マディヤ・プラデーシュ州の警察が、州内の700あまりの警察署すべてに女性相談窓口の導入を計画していることを知り、嬉しく思っていますが、インドのように広大で多様な国で女性の司法アクセスを改善することは、遅々として進まないことでしょう。」とカンナ氏は語った。

一つは警察の役割だ。カンナ氏によれば、警察は「植民地時代の名残り」があり、犯罪の捜査よりも法と秩序の維持、政治家や高官の保護が主な役割だといまだに考えている。

「この調査結果は、女性に対する暴力の削減に取り組む政策立案者に具体的かつ実用的な洞察を与えるものです。」と、世界銀行の性的暴力研究イニシアチブとともにこの調査の主要な出資者であるアブドゥル・ラティフ・ジャミール貧困アクションラボの犯罪と暴力イニシアチブ南アジア担当エグゼクティブディレクターのショビニ・ムケルジ氏は語った。

女性に対する犯罪は、特に低・中所得国において、開発の大きな障害になっています。」とムケルジ氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス

男女の賃金格差、教育利用や労働市場の不平等といった問題が21世紀の現代にも生き続けている。「UNウィメン」と国連経済社会局が、17項目から成る持続可能な開発目標(SDGs)の一つであるジェンダー平等の達成には現在のペースでは300年近くかかりかねない、と9月に発表した最新の報告書で指摘した。

Women Leadership Forum
Women Leadership Forum

そうした中、「欧州ブランド研究所」が、国連産業開発機関(UNIDO)との共催で9月20日、「女性のリーダーシップフォーラム」をウィーン国際センターで開催した。

「フォーラムは2013年に『平等は価値を生み出す』というパネルディスカッションから始まりました。さらにこの10年で、このフォーラムは女性の指導者を目に見える存在とし、次世代にとってのロールモデルとしてきました。」と、レネート・アルテンホーファー氏は説明した。

コロナ禍とポスト・コロナ時代を見据えて、暴力的な紛争や気候変動、女性の性と生殖に関する健康と権利に対する反動が、ジェンダー格差をさらに悪化させてしまっていると報告書は指摘した。

国連は、コロナ禍によってさらに4700万人の女性・女児が極度の貧困に陥り、男女間の貧困格差を拡大するものと推測している。16カ国からのデータを見ると、このコロナ禍の間、女性は男性よりも29%多い時間を育児に費やしている。また、13カ国における調査結果では、半数近くの女性が、コロナ禍が始まってから自分自身あるいはその知り合いが暴力を経験したと回答している。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

UNIDOのゲルト・ミュラー事務局長は、「よりよい状況に向かって現状を好転させるために、男女双方が努力せねばなりません。…私達全てに責任があります。政治・経済・社会における根本的な変化が必要です。必要なのは強い女性のみならず、真剣に取り組む男性も必要です。例えば、アフリカ諸国では54カ国のうち女性元首がいるのは2カ国だけです。」と語った。

ミュラー事務局長はまた、「女性・女児への平等を実現するには、文化・社会・経済・法律など多くの次元で取り組まねばなりません。また、法律・政治参加・経済生活・教育機会における平等も同様に重要で、中でも経済活動に必要な金融サービスを全ての女性が利用できるように取組むことが特に重要です。女性が地球の平和と進歩にとって不可欠の存在であるにも関わらず、現在10億人の女性が金融市場から排除されています。」と語った。

Ghada Waly (left), director general of the United Nations Office at Vienna and (right) our reporter Dr Aurora Weiss. Credit UNIS Vienna /Nikoleta Haffar.
Ghada Waly (left), director general of the United Nations Office at Vienna and (right) our reporter Dr Aurora Weiss. Credit UNIS Vienna /Nikoleta Haffar.

「『2030アジェンダ』は、経済・社会・環境という持続可能性の3つの柱を掲げています。したがって、女性を経済の中心に据えることが必要です。例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)所長で国連欧州本部長であるガーダ・ウェイリーは、自身の出身国エジプトの例に触れ、「女性がほとんどの世帯を維持しています。」を語った。女性の失業率は男性より3倍高い。「包摂と多様性の実現には努力が必要なのは明らかです。それは社会の中核に触れる問題だけに、達成するのがなかなか難しい。社会の指導的地位にいる女性と男性両方の関与が必要なのはこのためです。」とウェイリー本部長は指摘した。

UNODCでは、警察官や検察官、弁護士、裁判官として活躍する女性が増えることが、暴力から女性を保護することにより貢献し、より平和的な社会の実現につながると考えている。女性はこの部門には少なく、世界全体では女性は警察官の6人に1人を占めているに過ぎない。法執行と法機関における女性の存在は、犯罪に対応する被害者センターの効果的運用と結びついている。司法部門に女性が増えれば公正性は強化されます。」とウェイリー本部長は強調した。

ジェンダー平等は特定の職業だけで問題になるのではなく、社会全体で取り組まねばならない問題である。例えば、ケニアの女性が農業部門における資金調達に関連していくら訓練を受けたとしても、女性が法律上土地を保有することができなければ、そうした資金はそもそも活用されることはない。

アラブ諸国では労働市場における女性参加率が世界で最も低く、世界全体が56%であるのに対して、アラブ諸国では26%である。対照的に男性の参加率は(世界全体は74%)76%である。また、女性の失業率は15.6%で、世界全体の平均の3倍高い。指導層における女性の割合も低く、世界全体の27.1%に対してアラブ諸国では僅か11%である。

例えば、中東のヨルダンは、紛争状態にある国を除けば、世界で女性の経済的な参加率が最も低い国である。国際労働機関(ILO)が今年発表した報告書によると、女性の労働市場参加率は、男性の60%と比較して、わずか15%以下しかないという。

国内に紛争を抱えたイエメンやシリア、アフガニスタン、イラクといった国々の女性にとって雇用機会はより少なく、安全の問題がより大きく、女性への支援機構が貧弱で、機会はかなり限られている。

指導的地位におけるジェンダーの不均衡は依然として大きい。「世界経済フォーラム」の「グローバルジェンダーギャップ報告2022」によると、女性は依然として、指導的地位の3分の1を占めているに過ぎない。

米国のビクトリア・R・ケネディ駐オーストリア大使は、「ウィーンで開催された女性リーダーシップフォーラムで、世界中の女性・女児が、その可能性を制限し、将来を脅かす障害に直面し続けています。」と強調した。

Victoria Reggie Kennedy, United States Ambassador to Austria/ By United States Department of State, Public Domain
Victoria Reggie Kennedy, United States Ambassador to Austria/ By United States Department of State, Public Domain

米国の外交官であり、法律家、活動家、未亡人、テッド・ケネディ米上院議員の2番目の妻であるビクトリアの演説は力強いものだった。彼女は、女性が政府や経済部門で成功を収めれば、将来世代の女性・女児がそれに続こうという影響を及ぼすことから、ロールモデルの役割が非常に重要だと指摘した。

「米国のカマラ・ハリスは女性で初の副大統領となり、そのような高位を占めた初めてのアフリカ・アジア系女性となりました。女性が高位に就くとき、将来世代の女性・女児がそれに続く道を切り開くことになります。」と、ケネディ大使は語った。

ケネディ大使はまた、米国で女性解放運動が盛んだった頃、1970年代にいかにして自分がどのような進路を選んだかを想起した。ハリス副大統領の父親は弁護士だったが、当時の弁護士職は男性だけが就くものであり、自身も父の道を継ごうとは考えていなかった。しかし、「ある男性教授が彼女の目を見開かせてくれた。」とケネディ大使は語った。

その教授は彼女に対して、女性弁護士カーラ・ヒルズの話をしてくれたという。ヒルズは当時、ジェラルド・フォード大統領から住宅・都市開発長官に指名されたばかりであった。1970年代中盤当時、カーラ・ヒルズは米国史上4人目の女性閣僚であった。その男性教授は「もし彼女にできるなら、あなたにはできないという理由は?」と問いかけ、ビクトリア・ケネディの人生を変えたのだった。(原文へ

INPS Japan

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【ニューヨークIDN=ジェフリー・D.サックス

米カーター政権で大統領補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキー氏が、ウクライナを米露両国双方にとってユーラシアでの覇権を握るうえでの「地政学の要」と位置づけたことは有名である。ロシアは自国の安全保障上の重要な利益が危機に瀕していると考えており、ウクライナ紛争は核戦争へと急速にエスカレートしつつある。米露両国は、災難に見舞われる前に自制することが急務である。

西洋列強は19世紀半ばから、クリミア、それも黒海の海軍力を巡ってロシアと競い合ってきた。クリミア戦争(1853-56)では、英仏がセヴァストポリを占領し、ロシア海軍を一時的に黒海から一掃した。今回の紛争は、要するに「第二次クリミア戦争」である。今回は、米国主導の軍事同盟が北大西洋条約機構(NATO)をウクライナとジョージアに拡大し、NATO加盟国5カ国が黒海を包囲することを狙っている。

James Monroe, the 5th US President, Public Domain

米国は、1823年に発表したモンロー・ドクトリン以来、西半球に対する欧州列強による侵攻を米国の安全保障に対する直接的な脅威とみなしてきた。「…従って、アメリカ合衆国と欧州列強との間に存在する誠実な友好関係のおかげで、わが国は、西半球のいかなる地域であろうとも、欧州列強がその政治体制の拡大を試みた場合には、わが国の平和と安全に危害を与える行為とみなすと宣言することができる。…(モンロー・ドクトリンより抜粋)」

1961年、キューバの革命指導者フィデル・カストロがソ連に支援を求めたとき、米国はキューバに侵攻した。米国は、ウクライナのNATO加盟に関して米国が主張しているような、キューバがどの国とも同盟を結ぶ「権利」にはあまり関心がなかったのである。1961年の米国の侵攻は失敗し、62年にソ連はキューバに攻撃用核兵器を配備することを決定し、それがちょうど60年前の10月、キューバ・ミサイル危機を引き起こすことになった。この危機は、世界を核戦争の瀬戸際に追いやった。

しかし、米国は西半球における自国の安全保障上の利益重視を掲げる一方で、ロシアの近隣におけるロシアの中核的安全保障上の利益を侵害してきた。ソ連が弱体化するにつれ、米国の政策指導者たちは、米軍は好きなように活動できると考えるようになった。1991年、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官は、ウェズリー・クラーク将軍に、米国は中東に軍事力を展開でき、「ソ連は我々を止めないだろう」と説明した。米国の国家安全保障当局は、ソ連と同盟関係にある中東の政権を転覆させ、ロシアの安全保障上の利益を侵害することを決定したのだ。

Photo: Mikhail Gorbachev (1931-2022) Source: Meer
Photo: Mikhail Gorbachev (1931-2022) Source: Meer

1990年、ドイツと米国はソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領に、ソ連が東側の軍事同盟であるワルシャワ条約機構を解体すればNATOの東方拡大はないと確約をした。同年の東西ドイツ統一にゴルバチョフ大統領が同意したのはこの確約を踏まえたものであった。しかしソ連が崩壊すると、ビル・クリントン大統領はこの確約を反故にしてNATOの東方拡大を支持した。

ロシアのボリス・エリツィン大統領は猛烈に抗議したが、これを止めることはできなかった。米国の対ロシア外交の第一人者であるジョージ・ケナンは、NATOの東方拡大は「新しい冷戦の始まりである」と断言した。

クリントン政権下の1999年、NATOはポーランド、ハンガリー、チェコへと拡大した。その5年後、ジョージ・W・ブッシュ政権下でNATOはさらにバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、黒海(ブルガリア、ルーマニア)、バルカン半島(スロベニア)、スロバキアの7カ国に拡大。。さらにバラク・オバマ政権下の2009年にアルバニアとクロアチアに、ドナルド・トランプ政権下の2019年にモンテネグロへと拡大した。

NATO.INT
NATO.INT

ロシアのNATO拡大に対する反発は、1999年にNATO諸国が国連を無視してロシアの同盟国セルビアを攻撃したことで急激に強まり、2000年代には米国がイラク、シリア、リビアに介入した戦争でさらに硬直化した。2007年のミュンヘン安全保障会議でプーチン大統領は、NATO拡大は 「相互信頼のレベルを低下させる深刻な挑発 」を意味すると宣言している。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

その際プーチン大統領はこう続けた。「この拡大はどの国に対するものなのか。そして、ワルシャワ条約機構が解体した後、西側のパートナーたちが行った(NATO東方拡大を許さないという)保証はどうなったのか。その宣言は今どこにあるのだろうか。誰も覚えてさえいない。しかし、私はこの聴衆に、何が語られたかを思い出させることにしよう。1990年5月17日、ブリュッセルでのマンフレート・ヴェルナーNATO事務総長の演説を引用したい。その際彼は、NATOがドイツ領土の外に同軍を配置しない用意があるという事実は、ソ連に確固たる安全保障を与えると述べている。現在、この保証はどこにあるのか。」

また2007年には、ブルガリアとルーマニアの黒海沿岸2カ国がNATOに加盟したことを受けて、米国は黒海地域タスクグループ(当初はタスクフォース・イースト)を設立した。そして2008年、米国はNATOがウクライナとグルジアを将来的に取り込むと宣言し、米露の緊張をさらに高めたのである。両国が加入すればロシアは黒海でNATOの5カ国(ブルガリア、グルジア、ルーマニア、トルコ、ウクライナ)に囲まれ、ロシアの黒海、地中海、中東への海上アクセスが脅かされることとなる。

ロシアは当初、ウクライナの親露派であるヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領が、2010年に議会を率いて同国の中立を宣言したことにより、ウクライナへのNATO拡大から保護されていた。しかし2014年、米国はヤヌコビッチ政権の転覆を支援し、反ロシアを掲げる政権を誕生させた。その時点でウクライナ戦争が勃発し、ロシアはあっという間にクリミアを奪還し、東ウクライナでロシア人の割合が比較的高いドンバス地方で親ロシアの分離主義勢力を支援するようになった。ウクライナ議会は同年、中立を正式に放棄した。

ウクライナとロシアが支援するドンバスの分離主義者たちは、8年間も苛酷な戦争を続けている。ミンスク合意を通じてドンバスの戦争を終わらせる試みは、ウクライナの指導者がドンバスの自治を求めた合意を守らないことを決め、失敗に終わった。2014年以降、米国はウクライナに大量の軍備を注ぎ込み、今年の戦闘に見られるように、ウクライナの軍隊をNATOと相互運用できるように再編することに貢献した。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

2021年末にジョー・バイデン大統領がプーチン大統領のNATOの東方拡大中止要求に同意していれば、2022年のロシアの侵攻は回避されていた可能性が高い。同年3月、ウクライナとロシアの政府が、ウクライナの中立を前提とした和平協定案を取り交わすことで、戦争は終結していた可能性が高い。その裏で、米国と英国はヴォロディミル・ゼレンスキー大統領にプーチン大統領との合意を拒否し、戦い続けるよう迫った。その時点で、ウクライナは交渉から離脱した。

ロシアは、軍事的敗北とNATOのさらなる東方拡大を避けるために、必要に応じてエスカレーションを行い、場合によっては核兵器を使用することになるだろう。核の脅威は空虚なものではなく、ロシア指導部が自国の安全保障上の利益が危機に晒されていると認識していることを示すものである。恐ろしいことに、米国もキューバ・ミサイル危機の際に核兵器の使用を覚悟していた。最近、ウクライナの高官が米国に対して、「ロシアが核攻撃を考えれば、すぐにでも核攻撃を行うよう」促しているが、これは確実に第三次世界大戦を引き起こすものだ。私たちは再び核の破滅の瀬戸際に立たされているのである。

Jeffrey Sachs of Columbia University/ By Bundesministerium für Europa, Integration und Äußeres – FMSTAN & SPIDER Global meeting in Austrian Foreign Ministries in Vienna, CC BY 2.0

ケネディ大統領は、キューバ・ミサイル危機の際に核の対立について学び、その危機を意思の力や軍事力ではなく、外交と妥協によって打開した。つまり、ソ連がキューバの核ミサイルを撤去するのと引き換えに、トルコの核ミサイルを撤去したのである。翌年には部分的核実験禁止条約を締結し、ソ連との平和を追求した。

1963年6月、ケネディ大統領は、今日私たちが生存し続けていることにつながる本質的な真理を口にした。「核保有国は、自国の重要な利益を守りながらも、相手国に屈辱的な退却か核戦争かの二者択一を強いるような対決が起きることを避けなければなりません。核の時代に、そのような対決への道筋を採れば、政策の破綻を招き、全世界の死を望むことにほかならないからです。」

NATOの非拡大を前提とした3月末のロシア・ウクライナ間の和平合意案に立ち戻ることが急務である。今日の不安定な状況は、世界が過去に何度も経験したように、容易に制御不能に陥りかねない。世界の存亡は、すべての関係者の慎重さと外交力と妥協に懸かっている。(原文へ

INPS Japan

この記事はINPSのロベルト・サビオ顧問が運営するOther Newsが当初配信したもので、著者の許可を得て転載しています。

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ローマ法王、カメルーンで拉致されたカトリック信者の解放を訴える

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

ローマ法王フランシスは、フランス語圏と英語圏のコミュニティー間で長年内戦が続いているカメルーン南西部で誘拐された5人の司祭、修道女、料理人、カテキスタ、15歳の少女の解放を求めるカメルーン司教団の呼びかけに賛同した。

Pope Francisco/ Wikimedia Commons
Pope Francisco/ Wikimedia Commons

9月25日、ローマ法王はカメルーンの平和のために祈っていると語った。「私は、マンフェ教区で誘拐された人々の解放を求めるカメルーンの司教たちの訴えに参加します。」とカトリック通信は報じている。

バチカンニュースによると、9月16日の誘拐事件のほか、カメルーンのンチャンにある聖マリア・カトリック教会に武装集団が放火した。

カメルーンのカトリック司教団は、誘拐されたキリスト教徒の即時解放を求める声明の中で、この攻撃を強く非難した。この行為は一線を越えており、私たちは『もうたくさんだ』と言わなければならない。」と、司教らは声明で述べている。

現在の英語系住民による分離独立運動のルーツは、第一次世界大戦で英国とフランスが「ドイツ保護領カメルーン」を占領し、その領土を2つに分割したことに遡ることができる。この分割により、英仏両地域で異なる文化遺産やアイデンティティが形成され、後の再統一の試みに問題を生じさせることになったのである。

1961年、国連はこの英国領をナイジェリアとカメルーンのどちらに併合するかを決定するための協議を行った。批評家たちは、この協議を、巨大な力を持つ当事者たちが関与した「偽りの交渉」と呼んだ。

Map of Cemeroon
Map of Cemeroon

カメルーンで民族主義的な対立が続く中、旧英国領カメルーン(現在のカメルーンの北西州南西州を合わせた地域)の英語系住民は、カメルーンの独立(国家樹立)後に主導権を握ってきたフランス語系住民に対して不満を募らせながら暮らしています。」と、学者のフォンケム・アチャンケン氏は「グローバル・イニシアティブ」誌に記している。

フランス語系住民に対する英語系住民の割合は現在約16%で、1976年の21%から低下している。

教会への攻撃は、人権の保護と向上を目的とした非営利組織であるアフリカ人権民主化センター(CHRDA)からも非難されている。

これに関連して、人権監視団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、カメルーンの著名なアングロフォンの平和活動家アブドゥル・カリム・アリ氏が再逮捕されたことを報告している。アリ氏は、カメルーン兵が同国の英語系住民に対して行ったとされる人権侵害を映したビデオを携帯電話で所持していたことで告発された。(原文へ

INPS Japan

資料:The church of St. Mary’s in Nchang burned on 16.09.2022./YouTube

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【ヌルスルタンINPS Japan/アスタナタイムズ】

第77回国連総会は、全般的に不安と警戒感が特徴的であった。一部の演説者は非難にとどまり、世界の安全保障状況と経済的展望が目に見えて悪化しているという一般に認められた事実について、国連の他の加盟国を非難した。

このような時こそ、バランスのとれた状況判断と、人類共通の目標が明確に示されることが特に重要であった。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領が提案したアプローチは、この困難な時代に団結することへの希望を述べたものであった。

このアプローチは、過去70年間、地球上の相対的な平和と安定の維持のために国連が用いてきた、古くから試されてきた原則のいくつかを維持することを提案しているという意味で、保守的なものである。

「この普遍的な組織の根底にある基本原則に立ち返ることほど、今重要なことはありません。特に、国家の主権的平等、国家の領土保全、国家間の平和的共存という3つの基本原則のつながりを再考する必要があります。」とトカエフ大統領は語った。

一方、こうしたカザフスタンのアプローチは、決して受動的で現状に盲従するという意味ではないことに留意する必要がある。変革は必要だが、それはコンセンサスによって導入され、絶えず議論され、関係国のすべての重要な利益が尊重され、保護されるべきものという考え方である。

それゆえ、トカエフ大統領は、人類が歴史を通じて生み出してきた合意に至るための最良の方策(国際会議や各種国際イベントを通じた対話と常設機関の設置)への参加を呼びかけた。当面の目標は、私たちがあまりにも長い間、当たり前だと思ってきたこと、つまり「平和」についてである。もちろん、今回の国連総会でこのような考え方を述べたのはトカエフ大統領だけではなかった。

WANG YI, Foreign Minister of the Republic of China addressing at the UN General Assembly/ UN Photo.

「平和とは、空気や太陽のようなものです。私たちはそれらを当たり前のものと考え、時にはそれなしには生きられないことを忘れてしまう。同じように、平和は全人類の未来にとって必要な前提条件です。中国の王毅外相は総会の演説で「混乱や戦争はパンドラの箱を開けるだけで、問題を解決することはできません。」と語った。

しかし、領土保全や国家の主権的平等という概念は、具体的にどのようなものなのだろうか。これらは、絶え間なく続く戦争から人類を守るための原則である。法の下の平等を基本に、個人の生命や財産を守る法的原則と同様、この2つの原則は、トカエフ大統領が言及した第3の原則、すなわち国家間の平和的共存の実現につながるものである。

「この3つの原則は相互に依存しています。」とトカエフ大統領は付け加えた。この点については誰も異論がないだろう。

カザフスタンは、1991年に旧ソ連邦の崩壊に伴い誕生した独立国家の中で、平和保護の面で非の打ち所のない評価を得ている数少ない国の一つであり、実際、東西両陣営双方と良好な関係を維持することができている唯一の国である。

カザフスタンは、国連でほとんどの人が言葉では支持しているが、実際にはほとんど実践していない「ノンブロック(特定の陣営に加わらない)」方式に徹している。

Image source: EurasiaReview
Image source: EurasiaReview

その結果、カザフスタンは「東側」のブロックにも「西側」のブロックにも属さない。カザフスタンは北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないし、集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟していても、それを外国のいかなる国に対しても利用できないことは誰もが認めるところである。(CSTO加盟国の首脳会議の決議には必ず「いかなる第三者にも向けられない」という条項があり、カザフスタンはこの原則を強く主張している)

では、カザフスタンは世界の舞台で弱く、孤立しているのだろうか。いや、それどころか、カザフスタンはあらゆる平和ミッションの貴重な戦力となっている。カザフスタンは近隣諸国と領土問題を抱えることなく、タジキスタン、アルメニアとアゼルバイジャン、ロシアとジョージア、そして現在のウクライナとロシアの関係を破壊した「ポストソ連戦争」の二つの波から見事に逃れてきたのだ。

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

第一波は1988年から91年にかけてのソビエト連邦の弱体化と崩壊、第二波はNATOの拡大、そして2008年にNATOがウクライナとジョージアの将来的な加盟を認めたことに伴う紛争である。

ユーラシア大陸ではいつから戦争が可能になったのだろうか。1988年から91年にかけてソ連が弱体化すると、旧ソ連構成共和国の民族主義者たちは、トカエフ大統領が国連総会で述べた原則を破って、国境を画定する好機と捉えたのである。こうした原則の破棄は、数々の紛争を引き起こした。

NATOの拡張と、2008年にブカレストで始まったプロセスの継続が約束された後、一部の国はこれを自国の領土における分離主義運動(2008年のグルジア対南オセチア、モルドバとトランスニストリア間の緊張、その他多くの不幸な出来事)の問題を解決する新たな機会と捉えた。

トカエフ大統領は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(2022年6月15日~18日)におけるロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、「カザフスタンは分離主義を支持しない」と明言した。つまりカザフスタンは、ウクライナ領内にロシアが一方的に認めた「準国家」を認めないと明言したのである。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

トカエフ大統領の発言は、カザフスタンがロシア民族の権利を軽視しているからではなく、新たな準国家を創設しその独立のために武力闘争を展開することは、現代世界ではもはや許されないからである。それはすでに数々の戦争を引き起こしており、歴史が何度も示しているように、戦争は決して解決策にはならない。

では、戦争が正当な救済方法でないとすれば、どうやって今日の世界の不平等やアンバランスを是正すればよいのだろうか。トカエフ大統領の提案は、協力と対話、そして合意できるところは合意していくというものだ。その中心は、カザフスタンの「地元」である中央アジアである。この大統領の提案は、全文を引用するに値する。

「私達は、来年の閣僚級会合での協議と、2024年の未来サミットの開催に貢献することを期待しています。私達は、単にグローバルな課題や危機に対応することから、新たなトレンドを予防し、よりよく予測し、私達の評価を戦略的な計画や政策立案に統合していくことへと移行しなければなりません。」

The 6th CICA Summit/  photo by Gov of Kazakhstan
The 6th CICA Summit/ photo by Gov of Kazakhstan

まさにこの目的のために、カザフスタンは30年前に「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)」の開催というアイデアを提案した。(カザフスタンのアルマトイに常設事務局が置かれている)

トカエフ大統領は、「新たな挑戦と脅威の中で、私達は10月にアスタナで開催される首脳会議でCICAを本格的な国際機関に変え、世界の調停と平和構築に貢献したい。」と語った。

トカエフ大統領は、最近カザフスタン南部のトルキスタン州を訪問した際にも、同じ原則的な立場を再確認した。「わが国の外交政策は、中立を基本としていく……この政策は、バランスのとれた、建設的なものである。そしてもちろん、マルチベクトル政策であり続けるだろう。カザフスタンは、ロシアとの同盟関係、中国との戦略的パートナーシップ、友好的な中央アジア諸国との多国間協力関係を発展させるためにあらゆる努力をします…この政策は、国際社会から高く評価されており、我が国の最優先事項に合致しています。」

これが前進であると言う以外に、何を付け加えればよいのだろうか。欧州で何が起こっているかを見てみよう。もし、カザフスタンのアプローチが、アジアで同じような混乱を避けることができれば、カザフスタンは「21世紀のスイス」となり、平和と国家間の協力の真のエンジンとなることができるだろう。(原文へ

INPS Japan

ドミトリー・バビッチ氏は、モスクワを拠点に30年にわたり世界政治を取材してきたジャーナリストで、BBC、アルジャジーラ、RTに頻繁に出演している。

この記事は、Astana Timesに初出掲載されたものです。

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アフガニスタンの安定を望むカザフスタン