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|ウクライナ危機|国連の3機関が、医療に対する攻撃を停止するよう求める

【ジュネーブ/ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

3つの国連機関が、支援を必要としているすべての民間人が制限のない人道支援を利用できるようウクライナにおける即時戦闘停止を求めた。「ウクライナで紛争を終わらせるための平和的解決は可能だ。」と、国連児童基金(ユニセフ)、国連人口基金(UNFPA)、世界保健機関(WHO)が発表した共同声明は述べている。

3月13日に発表された共同声明は、「恐ろしい攻撃によって、患者や保健・医療従事者が殺害され、重傷を負い、重要な保健インフラが破壊されている。膨大なニーズがあるにもかかわらず、数千人が保健・医療サービスの利用を諦めなければならない状況にある。」と指摘したうえで、「医療機関に対するあらゆる攻撃の即時停止」を訴えた。

声明は、ロシアを名指しすることは避けつつ、「乳幼児、子供、妊婦、病人、人々の命を守るために自らの命を危険に晒している医療従事者など、最も脆弱な立場にいる人々を攻撃することは、非情な残虐行為だ。」と述べている。

Image source: Sky News
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ウクライナにおける紛争が激化して以来、WHOの医療への攻撃に関する監視システム(SSA)を通じて、31件の攻撃が報告されている。そのうち24件では保健・医療施設が破壊され、5件では救急車が被害を受けた。こうした攻撃により、少なくとも12人が死亡、34人が負傷し、必要不可欠な保健・医療サービスの提供とアクセスに影響が出た。WHOは、保健・医療施設に対する攻撃が続く中、確認作業を進めている。

「保健・医療や医療従事者に対する攻撃が人々、特に女性や子供、厳しい状況に置かれている人々が必要不可欠な保健サービスを利用できるかどうかに直接影響する。ウクライナでは、女性、妊産婦、幼い子供達、高齢者の医療ニーズが高まっているにもかかわらず、暴力行為により保健・医療サービスへのアクセスが著しく制限されている。」と声明は述べている。

例えば、ウクライナでは紛争の激化以降4,300人以上の赤ちゃんが生まれており、今後3カ月でさらに8万人の女性が出産すると予想されている。妊娠・出産時の合併症の対処等に必要な医療用酸素や医療物資が、危険なほど不足している。

声明はまた、「ウクライナの医療システムは明らかに逼迫しており、この医療崩壊は大惨事につながる恐れがある。あらゆる努力をしなければ、こうした事態は避けられないだろう。」と指摘したうえで、「国際人道法国際人権法は順守されなければならないし、民間人の保護が最優先である。」と述べている。

「人道支援パートナーや医療従事者が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やポリオの予防接種、ウクライナ難民の命を守る医薬品の供給など、必要不可欠な保健・医療サービスの提供を安全に維持し、強化しなければならない。また国境地域では、子供や妊婦のための迅速なケアや照会プロセスを含む保健サービスを、体系的に利用できるようにする必要がある。」

「人道支援者が、支援を必要としているすべての民間人に、どこにいようとも、安全かつ制限のない支援を届けられることが重要だ。ユニセフ、UNFPA、WHOはパートナーと協力し、命を守るサービスや緊急の保健ニーズに対応するための支援の規模を拡大している。産科や新生児ケアに必要なものを含む緊急医療物資を、保健センター、仮設の医療施設や地下シェルターに安全に届けられるようにしなければならない。」

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

保健・医療ケアとサービスは、あらゆる暴力行為や妨害行為から守られるべきである。現在も続くCOVID-19のパンデミックによって、保健・医療システムとその従事者に既に大きな負担がかかっている中、こうした攻撃が起こることで、民間人にさらに壊滅的な影響が出る恐れがある。保健員・医療従事者のために、そして彼らが提供する命を守るサービスを必要とするウクライナのすべての人々のために、すべての医療施設およびその他の民間インフラへの攻撃を停止しなければならない。」(原文へ

INPS Japan

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第三次世界大戦は核使用を伴う現実かそれとも口先だけの脅しか

【国連IDN=タリフ・ディーン

3月2日、ロシアの通信社はセルゲイ・ラブロフ外相が発した「第三次世界大戦が起こるとすれば、壊滅的な核戦争になるだろう」という緊急警告を引用して報じた。また、ジュネーブ国連軍縮会議にオンラインで参加したラブロフ外相は、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するために核兵器の取得を画策してきたと示唆した。―ただしこれは現時点で未確認の噂に過ぎない。

一方、ウクライナのオレクシー・ホンチャルク首相も、ロシアによるウクライナ侵攻は第三次世界大戦の始まりになりかねないとの不安を繰り返し述べている。

こうした核戦争の警告や第三次世界大戦勃発の恐れは、はたして政治的な現実だろうか、それとも口先だけの脅しに過ぎないのだろうか。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)前共同代表で今年出版された報告書「核兵器は禁止された:これは英国にとって何を意味するか」の著者であるレベッカ・ジョンソン博士は、IDNの取材に対して、「ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナに軍事侵攻してから戦略的核抑止部隊を『特別警戒態勢』に移行させた。」と語った。

プーチンが発動した苛烈な軍事侵略は、核抑止論に付随する人類の存亡に関わる危険を示すものだ。つまり、「抑止論とは敵側とのコミュニケーションの手段であり、それがうまくいかなければ、核武装した国の指導者は、核兵器で威嚇或いは核兵器を使用して壊滅的な人道被害を引き起こす可能性が高い、と我々は長年にわたって警告してきた。」とジョンソン博士は語った。

ジョンソン博士はまた、「核兵器の使用や威嚇は、1950年代初頭に、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の防衛政策に組み込まれており、以来、両陣営は核の脅威と不安を世界に広げてきた。ウクライナに対する戦争は、核を保有する指導者と核抑止という幻想に間違いがあれば、いかなる想定外の事態が起こりうるかを思い起こさせる恐ろしい出来事だ。プーチンは、トランプや金正恩等他の核兵器国の指導者と同じく、核兵器を喧伝してきた。」と語った。

Image source: Sky News
Image source: Sky News

「しかしプーチンの場合、他の指導者と異なるのは、ウクライナに侵攻し、同国の都市や民間人に対して燃料帰化爆弾を使用するという戦争犯罪を犯し、次第に追い詰められている点だ。」とジョンソン博士は付け加えた。

一方で、世界で9ヵ国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が核兵器を実戦配備している現実は、世界が今日直面している恐ろしい災いを思い起こさせるものだ。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、9カ国は2021年初頭の段階で保有していた核兵器の総数は推定13,080発であった。これは2020年初頭の推定値である13,400発より減少していた。

しかし、実戦配備されている核弾頭は3,720発から3,825発に増加しており、その内約2000発は米ロ両国が高度警戒態勢に置いている。その内訳は以下の表のとおりである。

婦人国際平和自由連盟(WILPF)のレイ・アチェソン代表はIDNの取材に対して、「プーチンが、核兵器の使用を示唆し軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことは、核兵器の存在が本質的に持っている危険性を裏付けるものだ。」と語った。

SIPRI Yearbook 2021

「この戦争で核兵器が使用されるかどうかについては、プーチンが核の使用を示唆しながら対ウクライナ戦争と軍事侵攻に踏み切ったという意味で、既に使用されている。しかしこれは、ロシアが核兵器を保有しているという問題にとどまらない。」とアチェソン代表は語った。

NATO加盟の3ヵ国(フランス、英国、米国)も核兵器を保有しており、他の5ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)が米国の核兵器を領内に保管している。

「こうした核兵器の一つ一つが平和と安全保障に対する脅威である。核戦争は、地上のあらゆる生命を脅かす大惨事となるだろう。核兵器が存在する限り、核爆発がおこるリスクや他国を威嚇する手段に使われるリスクがある。また、本来ならば気候変動への対応や社会をよくするために切実に必要とされている資金から、核兵器の維持や近代化、配置のために数十億ドルもの莫大な費用が浪費されている。」とアチェソン代表は警告した。

Ray Acheson, Reaching Critical Will
Ray Acheson, Reaching Critical Will

核兵器禁止(核禁)条約は、核兵器の使用、開発、保有のみならず使用を威嚇することも禁止している。

アチェソン代表はまた、「あらゆる国々が核禁条約に加盟し核爆弾の世界的な禁止を支持すべき。核兵器保有国と核兵器をホストしている国々は、手遅れになる前に、いわゆる安全保障政策としての大量破壊を放棄し、保有する核兵器を廃絶しなければならない。」「今こそ世界中の人々が核兵器の脅威に目を覚ます時だ。これは歴史の問題ではない。私たちは日々、核戦争が勃発する可能性と隣り合わせで生きており、この脅威をきっぱりと排除する行動をおこさなければならない。」と語った。

プーチンが核使用を命ずるかという質問に対して、ジョンソン博士は、「残念ながら、誤算や慢心、或いはウクライナの抵抗に軍事侵攻が失敗するのではないかとの恐れ等の理由からプーチンが核兵器を使用する可能性は否めない。プーチンの言う『戦術核』という軍事用語に騙されてはならない。もしロシアの側近らがプーチンを止められなければ、そうした命令で、ウクライナの諸都市が核の劫火で焼き尽くされることとなり、人類存亡に関わる極めて深刻な戦争犯罪と人道に対する罪が犯されることとなる。」と語った。

「世界のほとんどの国々が核禁条約を支持したのは、核戦争を防止するには核兵器の使用と配備のみならず保有も禁止する必要があるという私たちの議論と証拠を理解していたからだ。プーチンの軍事侵攻は、過去30年におけるNATOの東方拡大や失敗に終わったイラクとアフガン戦争と相まって、今日のウクライナの苦難と悪化の一途をたどる危機につながっている。」とジョンソン博士は語った。

ジョンソン博士は、「ウクライナは、合計で12000発を保有するロシアとNATOの板挟みになっている。」と語った。

ICAN関連の諸研究は核兵器を保有する人物がその威力を振りかざせば、どのようなリスクがあるかを示している。

ICAN
ICAN

プーチン大統領のような略奪的で自己陶酔的な人々は、心理的に危険を冒し、誤算が生まれると、ますます攻撃的で向う見ずな行動に出て威嚇と失敗を犯す傾向にある。

「もしこのような人々が軍事力と核兵器を入手すれば、もはや抑止力は破綻し、『使わなければ敗北する』というパニックに陥って核戦争へと繋がっていく。現状に満足した軍部はこうした恐るべき大量破壊兵器を廃絶できたにもかかわらず、核戦争の勃発を防止することを拒否してきたのだ。」とジョンソン博士は語った。

プーチン大統領が、軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことを受けて、英国のボリス・ジョンソン首相は、英国も同様の措置をとると発表した。ジョン・アインスリー氏とグローバル責任のための科学者(SGR)等が発表した研究報告書によると、もし英国のトライデント核ミサイルが、モスクワとロシア国内5か所を標的に発射された場合、数百万人の民間人が殺害され、放射能を帯びた灰塵を含むきのこ雲が空高く舞い上がり、世界的な「核の冬」と大規模な飢饉を伴う大惨事を引き起こすと結論付けている。

「これはプーチンとNATOが繰り広げている理論上の駆け引きではなく、現実の世界で起きうることだ。」とジョンソン博士は語った。SIPRIによると、米ロ両国は2020年の間、退役した核弾頭を解体することで引き続き全体的な核弾頭数の削減に取り組む一方で、実戦配備された核弾頭については2020から21年初頭までの間に推定50発増加させていた。また、ロシアについては、主に多弾頭を装着した地上発射型大陸間弾道弾(ICBMs)及び海上発射型弾道弾(SLBMs)を配備したことで、備蓄核戦力を180発増加させている。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

米ロ両国による配備済戦略核弾頭の数は、2010年に締結した新STARTの制限内にとどまっているが、同条約は未配備状態の保有核弾頭数については上限を設けていない。

「懸念すべき兆候は、冷戦後長らく世界で備蓄されている核弾頭数は減少傾向が続いていたにも関わらず、今日再び増加に転じつつある点だ。」と SIPRI核軍縮・軍備管理・核非拡散プログラムのハンス・クリステンセン氏は語った。

クリステンセン氏はまた、「米ロ間で、新STARTが今年2月に延長されたことは一安心だったが、核超大国である両国の間で、さらなる核軍備管理が合意される兆候はほとんどない。」と語った。(原文へ

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人類が核時代を生き延びるには、核兵器がもたらす厳しい現実と人類の選択肢を報じるジャーナリズムの存在が不可欠(ダリル・G・キンボール軍備管理協会会長)

【ニューヨークIDN=ダリル・G・キンボール】

人類が核時代を生き延びるためには、情報を熟知し、連帯して行動を起こす市民の存在が不可欠だ。そして、核兵器が人類に突き付けている厳しい現実と、その使用がもたらす帰結、そして人類に残されている選択肢を明らかにする効果的で独立したジャーナリズムの存在が不可欠である。

米国による最初の原爆が広島と長崎に投下されて以来、ジャーナリスト達は、世界で最も危険なこの兵器に関する事実を伝え、虚構を暴く重要な役割を果たしてきた。

米政府に安全保障政策を助言した物理学者で、核軍縮の主唱者でもあった故シドニー・ドレル博士は1983年に、核兵器と核政策に関する問題は「あまりに重要過ぎて専門家にのみ任せてはおけない…あらゆる人々がこの大量無差別兵器の標的となっているのだ。従って、私たちには、確かな情報に基づいて、軍備管理が絶対に必要だと政策責任者らに要求する市民になる以外に弁解の余地はない。」と記している。

ICAN
ICAN

核兵器の壊滅的なリスクに関する情報と、核兵器を削減し廃絶する常識的な戦略を身に着けた一般市民たちは、この問題に関心を寄せる科学者や医師、外交官らとともに組織化を進め、核軍拡競争をペースダウンし反転させるよう政治指導者に圧力をかけることに成功してきた。

核兵器に反対する大衆運動が展開された結果、核実験を禁止し、核兵器と核製造のノウハウの拡散を防ぎ、核戦力を制限し検証可能な形で廃棄するための多数の二国間・多国間協定が締結されてきた。そして今年初め、核兵器禁止条約が発効し、核兵器に対する禁止規範をさらに強化する軍縮の法的枠組みにおける新たなツールが生まれたのである。

しかしこうした成果も、何十年にもわたって、核兵器の危険性に光を当て、核兵器廃絶の是非やその方法など、核兵器を巡る激しい公論を取材・配信してきたジャーナリストや編集者たちの働きなしには、現実することはなかっただろう。

例えば、ジョン・ハーシー氏が1946年8月31日発行の『ザ・ニューヨーカー』誌に発表したパイオニア的な現地からのレポートがある。これによって、米占領当局が世界から隠そうとした爆風・熱線・放射線障害といった、核兵器が太陽のように明るい「無音の閃光」を放った後も、長いこと死をもたらし続けるという事実が世界に知られることとなった。

Hiroshima Book by John Hersey, 1st edition/ Wikimedia Commons

残念なことに、冷戦が始まって間もない当時、米国や欧州の多くの主要メディアが核兵器の危険性を軽視していた。そのため、核兵器を巡る秘密のベールをはがすことはできず、政府の公式見解に対する疑問が呈されることはほとんどなかった。

ましてや、メディアが本質的に政府の一部門を構成していたソ連では、核兵器の生産や実験が人間や環境に及ぼす壊滅的な影響について知ることや、危険な核政策に異議申し立てをすることは、普通の市民にとってはなおさら困難であった。

しかし、懸念をもつ核科学者や公衆衛生専門家らの働きによって、一部の専門誌や雑誌が公的議論の狭間を埋めた。例えば、1962年、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌は、ソ連の核攻撃が米国の都市にもたらす影響と、医療体制や緊急対応の仕組みがいかに壊滅的な被害を被るかについて論じた医師らによる画期的な一連の論文を掲載した。キューバミサイル危機に先立つこと数カ月、これらの記事は、核戦争において当事者の一方が「勝利を収める」という神話を打ち砕いた。

また別の事例を挙げると、穏健ながら重要な新聞報道が、軍縮を求める大規模な行動を刺激する出来事を生み出した。1979年2月、米フロリダ州の『セントピーターズバーグ・タイムズ』紙が、「軍備管理協会」のウィリアム・キンケード代表とフリージャーナリストのナン・ランダール氏の監修を得て、ソ連の核爆弾が都市上空で爆発したらという仮定の下で4日間にわたる記事を掲載した。

ランダール氏の解説が、米連邦政府の科学関連諮問機関である「技術評価室」(OTA)の関心を引き、彼女は結果としてOTAのために『核兵器の効果』という連載記事と類似した内容の報告書を同年執筆することになる。この報告書は次にABCテレビの制作陣に刺激を与えて、核紛争の帰結に関するドキュメンタリー風ドラマ「ザ・デイ・アフター」を生み出すことになる。

1983年11月20日に放送された「ザ・デイ・アフター」は実に約1億人の視聴者を獲得した。テレビ映画としては史上最大の視聴者数であった。この映画は米国で「核凍結」運動を生み出し、(ロナルド・レーガン大統領を含む)政府の政策決定者の注目を引き、核の危険を低減する行動を引き起こした。

そして現在も、依然としてマスメディアが、核兵器の危険と、核の脅威を取り除く試みに関する主要な公的情報源である。事実を虚構と切り分けることが難しく、政府によるゆがんだ情報提供が新たな形を取りつつある今日の超情報社会においては、世界で最も危険なこの兵器に関連した最新状況と理念に特に焦点を当てた独立の報道ネットワークの重要性が増しつつある。

1983年以来、インデプスニュースと、その寄稿者・特派員のネットワークは、核兵器の脅威に関心を持つ世界中の人々に対して、計り知れないほど重要な情報を提供してきた。今日、核兵器の脅威を廃絶するための長きにわたる闘いは、核軍拡競争が激しさを増し核戦争の危険が大きくなる中で、新たな緊急性を帯びるようになってきている。

核時代のこの新たな危険な局面において、核の大惨事に対する防護壁を強化し「核兵器なき世界」に向けた前進をもたらす効果的な解決策や理念、行動に関してインデプスニュースが提供する報道は、これまで以上にその重要性を増している。(原文へ

※著者は、軍備管理協会会長の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。

INPS Japan

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オーストラリア政府の場当たり的気候政策に思わぬところから批判

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=デニス・ガルシア】

現在のオーストラリア政府は、気候政策において他の先進国に大きく後れを取っている。政府の関与と努力が不足しているとして、国内外、とりわけ太平洋地域の近隣諸国から批判が出ている。太平洋島嶼国(PICs)は、特に気候変動の影響にさらされ、これに対して脆弱であり、気候変動に関する国際的な外交イニシアチブの最前線に立っている。これらの国の地域協力機構である太平洋諸島フォーラム(オーストラリアとニュージーランドも加盟)は、2018年の地域安全保障に関するボエ宣言において、気候変動は「太平洋諸国の人々の生計、安全保障、福祉を脅かす最大の単独要因」であると断言している。オーストラリアは再三にわたり、お粗末な気候政策に対して他のフォーラム加盟国から圧力をかけられている。(原文へ 

そして今やPICsや他の評論家たちは、思わぬところから加勢を得ている。オーストラリアの軍事・安全保障関係者たちが声を上げ、気候変動と安全保障の結びつきを強調することによってオーストラリアの気候政策に異議を唱えているのである。これは、2021年9月に発表された二つの報告書の焦点となっている。一つは、オーストラリアン・セキュリティー・リーダーズ気候グループ(Australian Security Leaders Climate Group)によるもの、もう一つはオーストラリア気候評議会によるものである。二つの報告書、「Missing in Action. Responding to Australia’s climate & security failure(作戦中行方不明。オーストラリアの気候と安全保障の失敗を受けて―邦題仮訳)」と「Rising to the Challenge: Addressing Climate and Security in Our Region(課題に立ち向かう: 地域の気候と安全保障への取り組み―邦題仮訳)」は、気候変動とその影響を国家および国際の安全保障の問題として捉えている。いずれも、オーストラリア政府が場当たり的な気候政策によって国家安全保障を危機にさらしていると非難している。

「Missing in Action」報告書は、オーストラリア国防軍(ADF)および国防省の元高官らによって作成されたもので、地球温暖化は「オーストラリアが直面する最大の安全保障上の脅威」であると断定している。この脅威に対処するには気候政策を強化しなければならないと、執筆者らは主張する。オーストラリアの気候対策を国連加盟国193カ国中最下位と位置づける国連の報告書を引き合いに出し、現行政府の政策は不十分であるとしている。そして、オーストラリアの安全保障上の利益のために「断固とした政策的措置」を求めている。報告書は、気候と安全保障の関連性を示す事例として、特にシリア内戦、アラブの春、マグレブ地域、中東、サヘル地域の紛争を挙げており、強制移住、国内および国際避難を安全保障問題としている。気候変動の結果として地政学的緊張と軍隊の負担増大が生じると指摘し、資源競争の激化、経済および貿易の混乱、それがもたらす国家間の対立という構図を描いている。こういったこと全てが、オーストラリアの安全保障に大きな影響を及ぼし、オーストラリア軍の負担をさらに増やすことになると、報告書は主張している。ADFは、気候変動に対するオーストラリア政府の無策による被害者として描かれている。軍は、「加速する気候変動の影響に直面して、なんとか事態を収拾しなければ」ならなくなり、その能力は地球温暖化によって深刻な影響を受けるとされている。

「Missing in Action」報告書は、その分析結果に基づいて、とりわけ「包括的な気候と安全保障のリスク評価」、「気候脅威情報収集機関」の設置、気候と安全保障の関連に対する「政府全体のアプローチ」を求めている。そのようなアプローチは「複合システム」であるため、「縦割り型」のアプローチではなく「全体的な視点と総合的な対応」が必要である。執筆者らはオーストラリア政府が「体系的かつ全体的に気候安全保障リスクに対処する、準備と予防の責任を負う政策」を採用することを提案している。

オーストラリア気候評議会による「Rising to the Challenge」報告書の論調も、これと非常に似通っている(オーストラリア国防省のシェリル・デュラント元準備動員担当ディレクター<Director Preparedness and Mobilisation>が両報告書の主執筆者であることを考えれば驚くべきことではない)。同報告書も、オーストラリアには「気候と安全保障の大きな」リスクがあり、「緊急の対策」を必要としていると警告している。オーストラリア近隣の太平洋諸国により明確な重点を置いており、海面上昇の影響、それに続く強制移住と避難を重大な安全保障リスクとして指摘している。同報告書はまた、太平洋地域における「オーストラリアの地政学的影響の喪失」とPICsとの関係悪化を嘆いている。PICsは、「オーストラリアに対し、より強力な排出目標を採用すること、より具体的には化石燃料からの移行を加速するよう促そうと何度も試みて」おり、PICsに直接的な脅威をもたらすオーストラリアのお粗末な気候政策を厳しく批判している。

オーストラリア政府への批判という点で、この報告書は「Missing in Action」報告書よりさらに歯に衣着せぬ物言いである。例えば、政府の「化石燃料産業への財政支援は、オーストラリアの国家安全保障を積極的に弱体化させている」と述べている。執筆者らは、化石燃料への助成を完全撤廃し、2030年までに温室効果ガス排出量を(2005年比)75%削減し、2035年までにネットゼロを達成するよう求めている。「オーストラリア経済の迅速な脱炭素化」を訴え、「気候に起因する安全保障危機の根本原因」に対処するべきだと強く提唱している。また、気候と安全保障の直接的関連についても、「Missing in Action」報告書と同様、「あらゆる安全保障分野にまたがる総合的な気候と安全保障のリスク評価」と「政府全体の意思決定プロセス」を求めている。

国家安全保障の議論を用いることは、オーストラリア政府に気候変動の分野で対策を強化するよう圧力をかける手段としては興味深い(おそらく有望ともいえる)が、そこには落とし穴や欠陥もある。議論は、オーストラリアの国益を何よりも重視する考え方の枠内のみにとどまっている(それ以外は、国益に悪影響を及ぼす可能性がある場合に限り考慮される)。それは、気候変動の分野を「安全保障問題化」し、さらには「軍事問題化」する契機となり、気候変動の問題に対する軍事的解決を正当化および最重要視し、その一方で安全保障に対する狭い理解を支持するというリスクを冒している。「Missing in Action」報告書では、「気候変動については、単に武力攻撃に対する防衛と見なすのではない、安全保障に対する従来と異なる考え方が必要である」としているものの、この「異なる考え方」は、政府全体でのアプローチ、関連産業分野や「より幅広い社会」を含めた対応の要請とほとんど変わらない。

しかし気候変動について議論する際、より幅広くとらえた別の安全保障の概念のほうが適切である。「Rising to the Challenge」報告書と異なり、「Missing in Action」報告書は少なくとも「人間の安全保障」に言及している。しかしその概念を十分に用いて論旨を補強してはいない。生態系の安全保障、あるいは真の太平洋地域の安全保障の理解といったより幅広い安全保障の概念は、人間の安全保障というアプローチをはるかに超えているが、これらの報告書では全く考慮されていない。全体性や関係性を重視する太平洋地域の世界観においては、人間の安全保障(あるいは、国民または国家の安全保障)は、人間以外の存在(実体的なもの、精霊的なものも含めて)、環境、自然(母なる地球、あるいはいわゆる創造物)と切り離して概念化し、実現することはできない。そのような世界観は、今日の経済システム、そして、そもそも現在の破滅的な気候変動をもたらしたライフスタイルや政治を根本から変革するための基盤となり得る。

「オーストラリアン・セキュリティー・リーダーズ」がそのようなアプローチに賛同することを期待するのは、無理な願いというものだろう。とはいえ、彼らが声を上げ、オーストラリアの不十分な気候政策をより良い方向に変えようとしていることに感謝するべきである。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、混成的な政治秩序と国家の形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。

|国連総会緊急特別会合|ロシアとの伝統的な繋がりから沈黙するアフリカ諸国

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

国連総会緊急特別会合のロシア非難決議(賛成141、反対5、棄権35)において、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を非難することを拒否(17ヵ国)或いは投票そのものを拒否(7ヵ国)したアフリカ諸国(いずれも権威主義的な政権)に焦点を当てた記事。プーチン政権は近年、旧ソ連時代に西側諸国からの独立闘争を支援したポジティブなイメージを背景にアフリカ諸国との軍事・経済協力を積極的に進めてきており、アフリカの半数以上の国々がロシアと軍事協力協定を締結している。しかし、国際社会のロシアに対する厳しい批判が高まる中、こうした国々も今後大っぴらにロシアとの協力関係を続けるのは困難になるだろう。国連総会緊急特別会合のロシア非難決議を棄権した南アフリカ共和国では、ロシアとの友好関係を見直すよう求めるインフルエンサーらが、最近逝去したデスモンド・ツツ枢機卿の言葉「不正義に直面して中立を保つことは、抑圧する側につく選択をしたに等しい」を引用して、国連総会における政府の行動を非難している。(原文へFBポスト

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ポーランドが「ウクライナ人」を優先するなか、アフリカ留学生が助けを求める

国連で正当な地位を求めるアフリカ

【ハラレ/アジスアベバIDN=ジェフリー・モヨ

2月初めにエチオピアの首都アジスアベバのアフリカ連合(AU)本部で開催された第35回AU通常総会で、アフリカの指導者らが国連改革を強く求めた。なかでも、これを最も強く主張していたのは、主催国のアビィ・アハメド首相であった。

昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンライン総会だったが、規制が世界各地で緩和される中、今回は2年ぶりの対面での開催となった。

Abiy Ahmed during state visit of Reuven Rivlin to Ethiopia, May 2018/ Mark Neyman / Government Press Office (Israel), CC 表示-継承 3.0
Abiy Ahmed during state visit of Reuven Rivlin to Ethiopia, May 2018/ Mark Neyman / Government Press Office (Israel), CC 表示-継承 3.0

アハメド首相は、「世界の今の現実を反映するように国連を改革・再活性化し、国連がより代表性を高め平等な機関となるようにさせるのは今しかない」と語った。

アフリカの首脳たちは次々に国連改革の必要性を訴えた。南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領は、「発展途上にあるアフリカは、気候変動に対する闘いにおいて国連から不当な扱いを受けてきた」と指摘したうえで、「化石燃料からの移行のような複雑な問題に対する万能の解決策などというものは、アフリカが直面している現実を踏まえておらず、機能することはないし、公正でも平等でもない。」と訴えた。

アハメド首相は、さらに国連安保理改革について、「2005年のエズルウィニ・コンセンサスに基づき、我々は、国連安保理でアフリカ諸国が2つの常任理事国と5つの非常任理事国枠を得られるように要求すべきだ。」と語った。

エズルウィニ・コンセンサスとは、AUが15年以上前に合意した、国際関係や国連改革を巡るアフリカ共通の立場のことである。

アフリカの指導者らは「世界の舞台でアフリカの声にもっと耳を傾けてもらう必要がある」と妥協なき国連改革を呼びかけ、「重要な国際機関においてアフリカの代表をもっと受け入れるべきだ。」と訴えた。

AUの昨年の議長だったコンゴ民主共和国のフェリックス・チセケディ大統領から議長職を引き継いだセネガルのマッキー・サル大統領は、就任挨拶において、自身の1年間の任期の主要目標は「平和」であると語った。

「平和や安全保障の問題にしろ、憲法によらない政権交代の問題にしろ、環境保護や健康対策の問題にしろ、経済・社会開発の問題にしろ、我々の取り組むべきことはあまりに山積しており、いずれも緊急を要するものだ。」とサル大統領は語った。

Moussa Faki Mahamat / By Foreign and Commonwealth Office, OGL v1.0
Moussa Faki Mahamat / By Foreign and Commonwealth Office, OGL v1.0

国連改革を求める声が高まる中、ムーサ・ファキAU委員長はAU自身に対しても改革の必要性を訴えた。各地域やアフリカ全で重要性を持つ問題に関して、AU委員会の権限と統率力に影響を及ぼす法的・政治的限界の問題を指摘したのである。

ファキ委員長がAUの反省点を提起した一方で、アハメド首相は、「今日、国連創設から70年以上が経つが、アフリカはこの国際統治のシステムにおいて何ら意義のある参加もできず、役割も与えられないまま、単なるジュニア―パートナーに留まってきた。安保理に代表枠を持たず、さまざまな意味において過少代表となっている国連においてこのことは特に顕著だ。」と述べ、アフリカ大陸が国連と連携を取っているにも関わらず、あらゆる領域において長年に亘っていかに不当に扱われてきたか不満を口にした。

アハメド首相はまた、「アフリカはしばしば国際メディアによるネガティブ報道に晒されている。内戦や飢餓、腐敗、貪欲、病気、貧困に見舞われた大陸であると繰り返し報道されることは、人々から尊厳を奪い、非人間扱いするものだ。これは計算された戦略と意図によって掻き立てられているものだ。」と述べ、世界のメディアによるアフリカについての報道のあり方についても不満を述べた。

さらにアハメド首相は、「エチオピアがこの間学んできた最大の教訓は、アフリカの兄弟姉妹たちの連帯なしには、一つのまとまりとのしての我々の存在が大きな危機に立たされてしまうということだ。団結すれば立ち上がることができるが、分裂すれば共倒れになる。我々の固い連帯が、『アジェンダ2063』をつなぎとめ、その基礎となる。」と述べ、アフリカ諸国の連帯が必要だと訴えた。

アフリカの指導者らが国連における正当な立ち位置を求めるなか、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、アフリカは世界にとっての「希望の源」であると述べ、その例として、アフリカ大陸自由貿易圏や「アフリカ女性のための金融・経済的包摂の10年」を取り上げた。また、アフリカの指導者らが国連における不当な取り扱いに抗議しているにも関わらず、国連とAUの連携は「かつてないほど強くなっている」と語った。

Antonio Guterres/ Public Domain
Antonio Guterres/ Public Domain

しかし、国連安保理は77年前に構成されたままの状態であり、地政学的な現実が大きく変わってきたにも関わらず、安保理はわずかに変化してきたにすぎない。この場合、第二次世界大戦の戦勝国が自らの国益に沿って国連憲章を作り、自らに常任理事国の椅子と拒否権を与えたのだった。

この点については、今年のAU総会で発言したエチオピア首相と同じく、南アのメイテ・ヌコアナ=マシャバネ前国際関係相が2011年当時、ケープタウンの同国議会で「国連安保理は不平等な権力関係を修正するために緊急の改革を必要とする。」と述べていた。

2020年、世界全体がコロナ禍に見舞われる中、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が国連総会75周年にあたって「国連安保理改革は国連体制を再活性化するために必要なことだ。」「70億人の運命を5カ国の手に委ねてしまうことは、持続可能なやり方でもないし、公正でもない。民主的で、透明で、応答的で、効果的で、公正な代表性を基礎とした安保理が人類にとって必要なのは、疑問の余地がないところだ。」と述べている。

エルドアン発言もそうであるし、エチオピア首相が国連安保理でのアフリカの発言権の向上を求めたことにも表れているように、米国・ロシア・中国・英国・フランスは、安保理常任理事国の地位を独占しており、世界的な支持を得ている決議に対してでさえ、拒否権を発動することができる。

ジンバブエでは、強硬派として知られる与党「ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線」のタウヤリ・キャンディシャヤ氏も、「アフリカ諸国は国連においてまるで存在しないかのごとく、あるいは永遠のジュニアパートナーとして扱われており、アフリカの人間としてこの世界的な組織に属するということは、非人間的な取り扱いを受けているに等しい。」と述べ、国連におけるアフリカの地位の弱さに懸念を示した。

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

しかし、ジンバブエの政治アナリストであるデニス・ベベ氏は別の見方を示している。べべ氏はIDNの取材に対して、「アフリカには専制的な指導者が多く、国連安保理で彼らの権力を強化するようなことになれば、中国やロシアのような国々の影響力を強めることになるだろう。なぜなら中国やロシアは、専制権力を抑えるような動きが国連で出てきたときには、それに反対する側に回るからだ。」と語った。(原文へ

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40年以上にわたって平和研究に携わってきた者として、国境線の変更と主権の侵害を目的とした、20世紀型の時代遅れのこの侵攻のもつ意味を、2022年の今になって知ろうとしていることに愕然としている。この戦闘は、第二次世界大戦以降で私が見てきたなかで最も露骨な越境攻撃であり、重大な国連憲章違反である。(原文へ 

これは国家間の不干渉の原則に対する攻撃であり、国際侵略行為であることは明白である。これを開始したプーチン大統領は、作戦を始めた意図について変え続けており、その目的をロシア国民に隠している。彼は自国のメディアに対し、これを侵略と呼ばないよう指示し、反戦を訴えるロシアの抗議運動参加者や一部の有識者を弾圧している。この戦いは、ロシア帝国の失われた領土を取り戻そうと願い世界の注目を集めることに必死な人物が引き起こした理不尽な行為である。

私はまず、難民となった全ての人々、自国に留まることを選択した、或いはそうすることを余儀なくされた、恐怖と実存的絶望の中に生きている人々に思いを寄せ祈りを捧げたい。そして、愛する人を失い悲嘆にくれている何百万もの数多くの家族とともに祈っていきたい。

戦争は何の解決策にもならない。今回の戦闘行為は、プーチン大統領が抱くウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の可能性に対する懸念や、より多くのさまざまな不安を解消することにはならない。それどころか、武力侵略により帝政ロシアを再興しようとするようなその試みは、苦痛と悲しみ、トラウマ、そして長期にわたる不安定を生み出すことだろう。それは、真に平和を望む人々のあらゆる基本原則に反するものなのである。

プーチン大統領は、ウクライナの指導者をナチスや腐敗者と呼んで悪者扱いしている。彼と彼の外相は、誠実な交渉には関心を示さず、協調的な解決策を模索することを拒絶して、力と強制の道を選んだ。目前の表向きの問題について、非暴力的な解決策を追求する意欲も意思も見られなかった。それどころか、ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツによるズデーテンラント進駐や第二次世界大戦当初のポーランド侵攻、そしてキエフに暮らす人々にとっては1942年のドイツ軍によるウクライナ侵攻という痛ましい記憶を呼び覚ましたのである。

この侵攻が、私たち個人や市民にとって何を意味するのかを考えるとき、危機に対しては「非暴力」の価値観をもって立ち向かうことが極めて重要である、との教訓を得る機会としなければならない。

第1に、ロシアの指導者たちがとった違法な行為への非難で国際社会は結束することが大事だ。あからさまな侵略行為に言い訳は許されない。

第2に、プーチン大統領とロシアの指導者らに対して、即時の停戦と、ウクライナ全土からの全ロシア軍の速やかな撤退を求め続けることが最も大事だ。驚いたことに、プーチンはミンスクでウクライナの指導者と会うことを歓迎し停戦を模索する用意があると述べたという。和平を構築しようとする人々は、紛争当事者を外交交渉のテーブルにつかせ、起きている問題の根本に迫る機会を常に求めなければならない。もしロシア側に誠実な交渉に入る意思がないならば、より機が熟すタイミングを探すべきだ。暴力の混沌の中にあっても、非暴力的な解決策へのコミットメントを決して見失ってはならない。

第3に、何が紛争をもたらしているかを理解しようと奮闘するのと同時に、紛争のあらゆる側にいる人間に焦点を当てることが大事であり、これによって人生が引き裂かれた全ての人々と連帯しなければならない。今この時、私たちの行動の原動力は、人命を守ることであり、苦しみの軽減であり、この流血の混乱のあらゆる当事者に人道支援を提供することでなければならない。

第4に、平和への唯一の道は平和的手段によるとのヨハン・ガルトゥングの原則を改めて思い起こす必要がある。すなわち、ロシアとウクライナで私たちが知る人々に連絡を取り、コミュニケーションを図ることである。彼らに寄り添い、彼らの人道上のニーズに応え、とりわけ、平和を求めることが逮捕につながってしまうロシアにおいて平和を構築する人々を育まなければならない。ロシアとウクライナの人々に、世界から見捨てられたと感じさせてはならない。現時点では指導者に注目が集まっているが、私たちと同様に戦闘に衝撃を受け、生活が一変し破壊されるなかで、支援を必要としている中央ヨーロッパの何百万人もの人々を無視してはならない。

政策決定レベルでは、深い分断と「鉄のカーテン」が再び欧州を覆ってしまうことがないよう、全ての紛争当事者間でハイレベルの意思疎通を維持することが不可欠である。西側諸国はロシアの指導者らに対して厳しい制裁を科しているが、ロシアの民衆を悪者扱いする罠に陥ってはならない。私たちの役割は、世界が分断されようという時にあって、人と人をつなげることにある。

Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute
Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute

最後に、私たちは周囲の人々に手を差し伸べ、協力して、戦争に替わる非暴力的な方法を探っていく必要がある。他の人々が非難している中でも、冷静さと集中力を保たなければならない。私たちは、自分の足元での個人と個人の関係、そして住んでいる国々の政治的関係について向上させるよう努力し続けなければならない。私たちは、尊敬の念を持ち、(敵を含めて)他者を尊厳をもって扱い、協力して解決策を模索し、分断が見受けられればいつでも橋渡しするという原則を守り抜くべきである。

何よりも私たちは、この新たな苦難に当たり気遣いと思いやり、愛をもって対応するとともに、勇気と希望を持ち続け、戦争が時代遅れとなる世界を思い描きながら対応する必要がある。私たちは、この災難が早く過ぎ去るよう、人間の本性にある良き天使の心を育んでいかなければならない。

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

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ポーランドが「ウクライナ人」を優先するなか、アフリカ留学生が助けを求める

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

ロシア軍の侵攻によりウクライナに取り残されたアフリカ出身留学生が直面している苦境に焦点を当てた記事。ウクライナには約8万人の留学生(アフリカからは薬学部・工学部を中心にガーナ、ナイジェリア、ザンビア、南アフリカの学生が多い)が在籍していたが、本国からの十分な支援がなく、自力で戦火の中を西の国境を目指して逃れている。しかしポーランド国境では、ウクライナ人優先という国境警備隊の指示で、アフリカ人が行列の後ろに回されたり越境を拒否されたりしたとのケースが相次いで報告されており、アフリカ各国から懸念の声が上がっている。(原文へ

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【IDN東京=石田尊昭

◆民主主義の厳しさ

尾崎行雄が最も問題にしたのは、国民一人一人の在り方。1917年、尾崎は当時の政党に対し「感情やしがらみで結びつき、国の利益よりも党の利益に走っている」と批判した。あれから100年経ち、皆さんも記憶に新しい2017年秋の総選挙。尾崎が100年前に言った、しがらみ、利害、自分の当落のためだけに動く政治家が、今の日本にいなければ問題はないし、尾崎財団も必要ない。しかし一昨年、我々はまざまざと(その姿を)見せつけられてしまった。ただ、そうしたのは誰か?誰がそんな政党を作ったのか?尾崎に言わせれば「そんな政治家を選んだ国民にこそ責任がある」。これが民主主義。民主主義は、それを守るための努力と覚悟を我々一人一人が持っていないと、あっという間に後戻りをしてしまう。この民主主義の危うさを分かっていた尾崎は、とにかく有権者一人一人の在り方を厳しく説き続けた。このことを忘れてはいけない。そしてこの有権者に対する厳しい目、厳しい言葉は、相馬雪香にそのまま受け継がれている。


◆誰が正しいかではなく何が正しいか

Ozaki Yukio Memroial Foundation
Ozaki Yukio Memroial Foundation

尾崎行雄は、政府の不当な圧力や権力行使を批判したが、一方で国民に対しても厳しい目を向けた。これは、相手がどうこうではなくて、何が正しいかを考えたから。「誰が正しいかではなく何が正しいか」これは非常に重要なキーワード。あの人が言うんだから正しい、政府が言うんだから全部正しい…そう思った時点で思考が停止する。あるいは、国民が言うんだからすべて正しい。「民主主義だから国民の言う通りに動くのが政治の正しいやり方だ」とも尾崎は言わない。国民でも間違うんだということをちゃんと言える。権力に対しても、民衆に対しても、また自分の仲間に対しても、間違いを間違いだと言える。「誰が正しいかではなく何が正しいか」という姿勢が尾崎と相馬の中にがっちりと入っている。

◆自分の頭で考え抜く

尾崎は「憲政の神」と呼ばれた一方で、「国賊・非国民」とも罵られた。暴漢に襲われたり、命を狙われたりしたこともある。それを間近で見ていた幼い雪香は父に尋ねたことがある。「お父さんの言ってること、やってることは間違ってるんですか?」と。尾崎はこう答えた。「間違ってるかどうかは雪香さん、あなたの頭でしっかりと考えなさい」と。これも非常に大事なこと。我々は尾崎が言うから何でも正しいと思ってはいけない。尾崎が言うから、相馬が言うからではなくて、じっくりと自分の頭で考えて答えを出していく。この大切さを尾崎は相馬に伝えている。

◆尾崎行雄と相馬雪香の共通点

尾崎と相馬には4つの共通点がある。1つは、何事もあきらめない「不屈の精神」。2つ目は「日本を世界から孤立させないという信念」。3つ目は「出来ることから始めるという行動力」。そして最後は「物事を公正・公平に見る判断力」。本当に正しいかどうかは、その人の言ってる中身を、我々がきちっと自分の頭で考えなければならない。それがあって初めて国民一人一人の力が成熟し、大きくなっていく。まさに尾崎が厳しく説いた姿勢であり、相馬が自ら実践していった姿勢。さらに相馬雪香には4つの心があった。「本気の心」「純粋な心」「利他の心」「感謝の心」。この気持ちを、我々はしっかりと受け止めて、一人一人がそれを自らの行動に生かしていくことが大事。

◆人生の本舞台は常に将来に在り

Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

尾崎74歳の時、高熱で病床に伏す中で浮かんだ言葉「人生の本舞台は常に将来に在り」。昨日までは訓練で、今日以後が本舞台。過去の知識・経験、悔いや悩みでさえも、未来に向けた糧であるという考え方。尾崎は95歳で亡くなる前年まで国会議員を務め、相馬雪香も96歳で亡くなる前年まで講演で各地を回っていた。尾崎も相馬も生涯現役、まさに「人生の本舞台」の実践者だった。我々もその思いで行かなければならない。過去の経験を生かしながら、常に前を向いて進んでいく。かと言って、遠くの理想ばかりをただ見つめているだけでは意味がない。現実をしっかりと見据え、目の前の一歩一歩を大事にして地道に取り組んでいく。その一つ一つを積み上げていった先に成功がある。尾崎や相馬を大事に思ってくださる皆さんと一緒に、この2人の信念と生き方を一人でも多くの人に伝えていきたい。これからも一緒に頑張っていきましょう。

Ozaki Yukio Memroial Foundation

INPS Japan

* 本稿は、去る1月に都内で行なった講演の要旨(一部抜粋)です。

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中央アジア大学とのメディアプロジェクト

【IDN東京=浅霧勝浩

INPSグループはジャーナリストを目指す若者を支援する目的で中央アジア大学と協力してメディアプロジェクトを推進している。(記事リストへ) FBポスト