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ラテンアメリカとカリブ海諸国が核実験禁止を支持

【ウィーンIDN=ラインハルト・ヤコブセン】

ドミニカ国は、2月上旬に包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を決定したと発表した。CTBTは、いかなる場所、いかなる人によっても、あらゆる空間(宇宙空間、大気圏内、水中、地下)における核実験の実施、核爆発を禁止している。この条約は26年前に署名解放されたが、未だに発効していない。

その理由は、CTBTには185ヵ国が署名、その内170ヵ国が批准を済ませているが、核保有国である仏、露、英を含む核技術を保有する特定の44ヵ国(=発効要件国)全ての批准が必要であり、未だに8カ国(中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、米国)が批准を終えていない。中でもインド、北朝鮮、パキスタンは署名さえしていない。発効要件国で前回批准したのは2012年2月6日のインドネシアであった。

CTBTO
CTBTO

ウィーンに本拠を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO )準備委員会によると、ドミニカ国のCTBT署名は同条約が全中南米諸国(ラテンアメリカ・カリブ諸国)で普遍的なものと認められている証左であり、核不拡散と核軍縮分野でこの地域が果たしているリーダーシップを示すものである。

2021年2月のキューバによるCTBT署名・批准に続いて、ドミニカ国が署名することで、全中南米諸国33カ国がCTBT加盟国となる。

2月7日にドミニカ国のルーズベルト・スカーリット首相と会談したCTBTOのロバート・フロイド事務局長は、「これはドミニカ国との新たなパートナーシップ新時代を画するものであり、核実験に反対する規範強化に共に取り組んでいくことを楽しみにしている。」と語った。

フロイド氏は、昨年8月にブルキナファソのラッシーナ・ゼルボ氏の後を引き継いで以来、今回が初の中南米訪問であり、10日間の歴訪中、バルバドス、ドミニカ国、コスタリカ、メキシコで、主な地域パートナと協力関係の深化を協議した。

IMS/ CTBTO
IMS/ CTBTO

今回のフロイド事務局長による歴訪の背景には、中南米諸国がCTBTOの重要な技術パートナーとして、世界337か所を網羅して核実験を探知する国際監視制度(IMS)の内、43拠点をホストするなど、CTBTを支持し重要な取り組みを進めてきた経緯がある。

1967年に署名解放したトラテロルコ条約は、人が住む地域で結ばれた非核兵器地帯を創設する条約としては、史上初のものであった。

メキシコで開催されたトラテロルコ条約55周年記念行事で登壇したフロイド氏は、核兵器実験のない世界という共通のビジョンを実現する上で中南米諸国が果たす重要な役割を強調した。

「中南米地域には、核不拡散と核軍縮の分野で長年に亘ってリーダーシップを発揮してきた誇るべき歴史があります。そして間もなく、全ての中南米の国々がCTBTへの批准を終え、誇りと団結をもってこの偉業を記念する瞬間を迎えます。」

最初の訪問地バルバドスで、フロイド事務局長は、ジェローム・ウォルコット外相を含む政府高官と会見し、CTBTに対する同国の支持に謝意を述べた。また、東カリブ地域と小島嶼国(SIDS)を対象とした能力開発研修や、熱帯暴風雨やハリケーンで被災した国々における気候変動適応や災害リスク管理にCTBTOのデータを活用する協力を拡大することについて、様々な政府機関の技術担当者と協議した。

フロイド氏、バルバドスとドミニカ国に続いてコスタリカを訪問した。コスタリカは、ラス・フンタス・アバンガレスにコスタリカ地震火山観測所が管理するCTBTOの地震学的監視観測所補助観測所(AS25)をホストしている。

フロイド氏は、コスタリカの核不拡散分野における取組について、「この国の技術能力の高さと積極的な外交姿勢に感銘を受けた。」と称賛するとともに、「義務を国内で率先して果たしていこうとするコスタリカのビジョンを知り大いに励まされた。」と語った。また国連平和大学では、学生や教員との語いの後、次世代の若者を教育しエンパワーするCTBTOの活動を象徴する意味で、大学の伝統に従い、キャンパスに原生種のコルテザ・アマリリアを植樹した。

Latin America/ By Heraldry – Own work, CC BY-SA 3.0

そして最後の訪問地メキシコでは、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)がトラレロルコ条約55周年を記念して開催したイベントで講演し、「トラテロルコ条約について最も力強く感じるのは、中南米地域の国々が、核軍縮や核不拡散の問題について声を一つにし、集団安全保障や軍縮教育、訓練について協働できている点です。」と語った。

また、CTBTの長年の支持者であるマルセロ・エブラルド外相を訪ね、CTBTの普遍化と条約発効に向けたメキシコの関与について協議した。メキシコは、5つの国際監視制度(IMS)施設(地震学的監視観測所補助観測所3カ所、水中音波監視観測所1カ所、放射性核種監視観測所1カ所)のホスト国となっている。

フロイド事務局長は、メキシコ外交官向けの教育訓練機関であるマティアス・ロメロ協会において、CTBTと世界の核不拡散及び軍縮をとりまく現状について語った。(原文へ) 

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ウクライナ危機はパワーシフトの時代の地政学的な断層を映し出す

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

あらゆる大国は、外交政策を貫く組織原則を必要とする。大国は歴史の潮流の中で盛衰するもので、繁栄が永遠に続く国もなければ、永遠に衰退し続ける国もない。ある大国の退潮が恒久的な衰退の始まりなのか、それとも単に一時的な後退なのかを確実に判断する方法はない。パワー移行期における地政学的な断層は、相対する大国の誤算に根差した戦争を引き起こす重大なリスクを孕んでいる。いま述べたことは、全て批判の余地のないことだが、この真理をいかなる出来事や領域にも適用することは、なかなか難しいことである。(原文へ 

今回の危機は、ウクライナを巡るロシアとNATO(北大西洋条約機構)間の緊張であり、これが中国と台湾問題に波及してくる可能性もある。西側諸国は、ウクライナや台湾の運命を、対ロシア・中国関係の組織原則としたいのだろうか。ウクライナ・台湾との政策を策定し、それに従ってロシア・中国との関係を構築していこうという感情的な思いに駆られることがあるかもしれない。しかし現実主義に立てば、まずロシア・中国との政策を策定し、その戦略的な枠組みの中で現在および潜在的な危機に対応していくべきである。

オーストラリアのギャレス・エバンス元外相は、政治回顧録『Incorrigible Optimist(仮訳:頑固な楽観主義者)』で、米国のビル・クリントン元大統領が2002年に私的な会合の中で、冷戦終結後に米国は厳しい選択に直面したと語った、と記している。米国は永遠に「最高権力者」の位置に留まろうと努力することもできるし、「もはや世界のブロックにおける最高権力者の地位にない状況でも安心して暮らせるような世界を作り出す」ために、その支配的なパワーを利用することもできる、というのである。1999年のコソボ介入でクリントン政権がそうしたように、米国の歴代政権が採ってきたのは第1の選択肢の方であった。

現在の危機の根原は、ロシアが2014年にクリミア半島を併合したことにある。ジョン・ケリーは2014年3月、「21世紀においては『完全に捏造した口実』で他国に侵攻することはできない」と宣言した。しかしそれは、同じく21世紀の出来事だった米国のイラク侵攻から11年後の事である。この米国務長官が自身の発言の持つ皮肉と偽善を自覚していなかったのは驚きだが、そのことはロシアだけではなく米国でも当時から指摘されていた。

米国の外交当局は、冷戦後のロシアが一時的に後退している大国なのか、それとも恒久的に衰退の一途をたどっているのかを判断しなくてはならなかった。コソボやその他で起こった出来事は、後者の見方への信念を裏切った。ウラジーミル・プーチン大統領の言動は、ロシアの後退を断固阻止するという信念に裏づけられているようだ。冷戦終結後に影響力を増した米国の外交エリートたちは、対等な相手として必ずしも受入れないまでも、ロシアの利害と感情を理解しようともしなかったために、ロシアに対処する経験や分析枠組みを喪失してしまったのである。そのために、親ロシアだが選挙で選ばれたウクライナの大統領を2014年に失脚させ、従順な反ロシア派を据える陰謀に積極的に関与するという、決定的な判断ミスを犯すことになったのである。

ビクトリア・ヌーランド米国務次官補による悪名高い「EUなんかクソ食らえ発言を覚えているだろうか。2014年1月28日、ヌーランドはジェフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使との同じ電話のなかで、ウクライナの反体制派指導者アルセニー・ヤツェニュクは「支援すべき男」であると発言しており、米国がウクライナ内政に「かなり深く食い込んでいることを白日の下に晒した」(「ワシントン・ポスト」の報道による)。ヤツェニュクは2014年から2016年まで正規にウクライナ首相を務めた。ヌーランドはジョー・バイデン政権の国務次官(政治問題担当)を務めている。米政府の誰も、彼女の指名をプーチンがどう受け止めるかを立ち止まって考えることをしなかったのだろうか。

ロシアがウクライナに対して強い関心を寄せるのには、言語・民族・歴史・ナショナルアイデンティティー・地政学に深く根差した理由がある。対照的に、米国側の関心は一時的で距離の遠いものであり、あくまで選択的に付け加えられたものにすぎない。クリミア半島にはここを本拠とするロシア黒海艦隊が常駐しており、海を通じて黒海沿岸諸国や中東へのアクセス拠点であることから、ロシアにとってクリミア半島を失うことは存亡の危機となる。クリミア住民投票の法的な正当性は疑わしいものだが、正しく住民投票を行ったところで、結果は同じようものであったであろうことは、疑いの余地はほとんどない。クリミアにおけるロシアの行動に対してコソボの前例のような事態が起きることをNATOは拒絶した。「われわれは1999年をよく覚えている」とプーチン大統領は2014年3月にロシア議会の両院合同会議で演説したが、NATOの拒絶はロシアには不誠実に映った。クリミア半島はエカテリーナ大帝の治世以来ロシアの一部であった。1990年代にNATOがバルカン半島で用いたロジックでいえば、ロシアとの再統合を望むクリミアに対してウクライナが抵抗するなら、NATOはキエフを爆撃して言うことを聞かせる必要があるということになるからだ。

バイデンのアフガン撤退をめぐる大失敗と、ロシアによるウクライナへの「小規模な侵攻」発言を巡る外交失策を目の当たりにして、私は、一瞬だけだが、引退を撤回して『ホワイトハウスの頂上に白旗がはためく』という仮題の本でも書こうかという誘惑に駆られた。しかし、ウクライナを巡る米国の無能は、米国の真の力を反映したものでも、死活的な利益が危機に晒された際に米国が行動を起こす意思やその真価を反映したものでもなかった。より深刻な問題は、アフガン撤退を巡るほぼ一致した厳しい批判と、「バイデンは与しやすい大統領だ」という評判がますます強まることで、彼が外交的妥協を取る余地が狭まって、厳しい軍事的反応を示さざるを得なくなっているのではないか、ということだ。

このため、自由な社会の価値観という、最後に残された核心的な利益が危機に瀕している。米国は「戦争疲れ」でハードパワーを展開する決意が弱まっていることに加えて、ソフトパワーもまた、その内部から損なわれつつある。どの国にも後ろ暗い過去はあるものだが、人類の福祉全体に対する西側社会の貢献には比類なきものがある。にもかかわらず、西側社会は、自己嫌悪と激しく分極化した文化戦争、政治の機能不全、漂流する道徳問題で揺れてきた。プーチンですら、西側の「キャンセル・カルチャー」や「ウオゥク(Woke=覚醒)・イデオロギー」――攻撃的に歴史を見直そうとする動きや、マイノリティの利益の特権化、ジェンダーアイデンティティーの曖昧化、伝統的な家族像の解体――などは、1917年のロシア革命以後のボルシェビキによる苛烈な抑圧と同調主義を彷彿とさせるものだ、と警告しているのである。

他方で、インド太平洋地域では、止めようもないグローバルなルール違反者としての中国が真の脅威なのではない。もしパワーシフトが順調に進むのなら(もちろんそれは確実ではないが)、より大きな脅威は、中国がルールを策定し、解釈し、執行する支配的な立場に立つかもしれないということである。これは、過去数世紀にわたって西側諸国が享受してきた役割である。中国当局は、一流の大国は、国際法を用いて他国にそれを順守するよう強いるが、自らの行動に対する法的規制は否定するという教訓を学んでいる。中国の行動を導いているものは、ロシアに対する米国の弱さというよりも、米国が最高権力者であった時代の行動ぶりに関する記憶なのである。西側は、中国的特徴を持ったルールに基づくグローバル秩序に心理的に適応することができるだろうか。

※本記事は、2022年1月28日に「The Strategist」に掲載されたものです。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を努め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

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【ワシントンIDN=ダリル・キンボール

ウラジーミル・プーチン大統領は外交ではなく破壊の道を選んだ。数か月にわたってウクライナ周辺に大規模なロシア軍部隊を集積し、2月21日にウクライナ東部のルハンスク州ドネツク州にロシア軍を進軍させるよう命令したことで、壊滅的な戦争を開始した。

プーチン大統領がウクライナに対して、用意周到かつ弁解の余地のない攻撃を仕掛けたことで、北大西洋条約機構(NATO)・ロシア間の緊張と欧州で紛争が勃発するリスクが高まり、今後数年にわたって核不拡散・軍縮が前進する見通しは低くなった。

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

欧州における冷戦後の安全保障秩序を軍事力で一方的に変更しようとするこの最も恥ずべき行為の背景にはプーチン大統領が募らせてきた多くの不満がある。その中には、欧州における軍事バランスを変えるNATO東方拡大政策のように現実に根を持つものもあるが、想像にすぎないものもある。しかし、隣国に対するロシアの暴力的な攻撃がそれによって正当化されるものではない。

プーチン大統領は、ロシア軍の進軍決定を発表した怒りに満ちた演説で、ウクライナは正統な国家ではなく、大ロシアに所属するという、野蛮で、自民族中心主義的で、歴史的にみて不正確な主張を展開した。西側諸国に肩入れした独立国ウクライナは核兵器を製造するかもしれず、ロシアにとっての重大な脅威となるとの大げさで誤った主張までしてみせた。

ウクライナに対するロシアの攻撃は、ウクライナの領土や政治的独立への威嚇や武力行使に対して安全を保証したロシア・英国・米国による1994年の「ブダペスト覚書」に違反するものだ。

ウクライナはこの覚書に対応して非核兵器国として核不拡散条約(NPT)に署名し、ソ連から継承した1900発の核弾頭(当時世界3位の規模)を放棄した。ウクライナやロシア、そして世界は、その結果としてより安全になった。しかし、プーチン大統領の今回の振る舞いはNPTを棄損し、核保有国が非核保有国に嫌がらせをしているとの印象を強めた。こうして、軍縮へのインセンティブは損なわれ、核拡散を防ぐことがより難しくなってしまう。

近年のロシアと西側諸国との間の不信の負のサイクルは、冷戦の終結に一役買った重要な通常兵器・核兵器の軍備管理協定が無視され、遵守されず、果ては脱退までされてしまったことによって、さらに悪化している。

Image source: Sky News

冷戦終結を導いた防護壁としては、欧州における大規模戦力構築の予防を目的とした「欧州通常戦力条約」、軍事能力や軍事活動に関する透明性の向上を求めた「オープンスカイ条約」、攻撃的・防衛的兵器の軍拡競争が野放図に行われることを予防する「対弾道迎撃ミサイル制限条約」、欧州における核戦争の危険を低減した「中距離核戦力全廃条約」などがある。

結果として、当事者間の協力関係は浸食され、軍事能力に対する懸念が強まり、計算違いのリスクが高くなった。

ウクライナに対するプーチン大統領の恐るべき戦争が進行する中、米国や欧州、国際社会は、ロシアの主要な組織や指導者に対する強力な制裁も含め、強力かつ連帯した対応を維持しなくてはならない。包囲されたウクライナの民衆には、国際社会からの緊急の支援が必要だ。ウクライナの全てではないかもしれないが一部の領土をロシアが押さえる可能性があり、それを抑止するための防衛目的の軍事支援をウクライナ政府は手にすることになるだろう。

これからの数週間で、ロシアや米国、欧州の首脳らは、新たなかつ情勢を不安定化させる軍事的展開や、ロシア軍とNATO諸国軍の間の接近戦、共通の安全保障を損なうような攻撃的兵器の導入を避けるように、慎重に立ち回らねばならない。例えば、ロシアの従属国家であるベラルーシがロシアの求めに応じて戦術核兵器の配備を許すようなことがあれば、ロシアと欧州の安全保障が損なわれ、核戦争の危険が増してしまう。

プーチン体制は国際的な孤立に直面することになろうが、米ロの首脳は、現在止まっている戦略的安全保障対話を通じて協議の再開を模索し、広範なNATO・ロシア間の緊張を緩和し、全面的な軍拡競争を予防する共通の軍備管理措置を維持するようにしなくてはならない。

Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri
Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri

2021年12月にロシアが行った安全保障に関する提案とそれに対するバイデン政権の反応は、相互の懸念を解消する協議の余地があることを示している。例えば、大規模軍事演習の規模を縮小したり、欧州やロシア西部での中距離ミサイル配備を予防する合意がここには含まれるだろう。米国政府は、ロシアがそのような選択肢を真剣に追求する気があるかどうかを試さねばならない。

長期的には、米国・ロシア・欧州の指導者やその市民らは、戦争や核戦争の威嚇こそが彼ら全員にとっての共通の敵であるという事実を見失ってはならない。ロシアと西側諸国は、最後の核軍備管理協定である新戦略兵器削減条約(新START)が2026年初めに失効してしまう前に、膨張した核戦力をさらに削減し、短距離の「戦場」核戦力を規制し、長距離ミサイル防衛を制限する協定を締結することに関心を持っている。そうでなければ、次の対決の場はより危険なものになってしまうだろう。(原文へ

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2/28にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書第二作業部会が公開したレポートの概要を紹介した記事。このレーポートでは、これまでの予測より早く気候危機が進行しており、人々の命や生物多様性への影響の深刻さが強調された。気候危機はすぐ目前に迫っており、温室効果ガスを削減する緩和策だけでなく、損失と被害への対応や適応策の早急な強化の必要性が強調されている。(原文へ)FBポスト

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平和構築をめざす仏教者が「核軍縮は早期に解決を図らなければならない課題」と訴え

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

地域社会に根差した仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI)は、国際連合のように、とりわけ世界が人類の生存を脅かす複合的な危機に見舞われる中で、希望の光となっている。

仏教哲学者、教育者として世界の平和構築を一貫して訴え続けてきた池田大作SGI会長は、1983年から毎年、平和提言を発表している。40回目となる今回の提言は「人類史の転換へ 平和と尊厳の大光」と題され、1月26日に発表された。

池田会長は「現在の世代だけでなく、これから生まれる世代のために、何としても早期に解決を図らねばならない3つの課題」として、①気候変動問題の解決、②子どもたちの教育機会の確保とその拡充の取り組み、③核兵器の廃絶について、具体的な提案を行っている。

世界192カ国・地域にメンバーを擁しているSGIは、国連経済社会理事会との協議資格を持つNGOである。

ICAN
ICAN

池田会長は、「コロナ危機が続く中で、世界の軍事費は増大しており、核兵器についても13,000発以上が残存する中、その近代化は一向に止まらず、核戦力の増強が進む恐れがあると懸念されています。」と指摘している。

さらに池田会長は「またコロナ危機は、核兵器を巡る新たなリスクを顕在化させました。核保有国の首脳が相次いで新型コロナに感染し、一時的に執務を離れざるを得なかったほか、原子力空母や誘導ミサイル駆逐艦で集団感染が起こるなど、指揮系統に影響を及ぼしかねない事態が生じたからです。」と述べている。

池田会長は、「核兵器による惨劇は起きないといった過信を抱き続けることは禁物である。」と警告したうえで、「広島と長崎への原爆投下以降、核兵器が使用されずに済んできたのは、それぞれの時代で最悪の事態を防いできた人々の存在と何らかの僥倖があったからでした。」と述べている。

池田会長はさらに、「国際環境が流動化し、ガードレールは腐食しているか、もしくは全く存在していないという現在の世界において、人的な歯止めや僥倖だけに頼ることは、もはや困難になってきている。」述べている。

現在、核軍縮に関する2国間の枠組みは、2021年2月に米ロ両国が延長に合意した新戦略兵器削減条約(新START)だけしか残っていない。

5年毎に開催される核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議は、新型コロナのパンデミックの影響で今年1月に開催が予定されていたが、再び延期され、8月に開催することが検討されている。池田会長は、「2015年に開催された前回の会議では最終文書が採択されずに閉幕したが、その轍を踏むことがあってはならない。」と述べている。

そのうえで、「全ての加盟国が、NPTの前文に記された『核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払う』との誓いに合致する具体的な措置に合意するよう強く望みたい。」としている。

NPTはしばしばその中核的取引、すなわち、非核兵器国が核兵器取得を放棄する代わりに、核保有国が平和的核技術の利益を共有し、最終的に核兵器を全廃することを目的として核軍縮を推進するという取引を基盤としてきたと見られている。

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

池田会長は、核保有5カ国の首脳が共同声明で再確認した、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」との精神は、冷戦時代の1985年11月にジュネーブで行われた、アメリカのロナルド・レーガン大統領(1911~2004)とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長による首脳会談で打ち出されたものであると指摘し、ジュネーブ首脳会談を彩った「この精神の重要性は、昨年6月の米ロ首脳会談における声明でも言及された。」と述べている。

池田会長は「核時代に終止符を打つために何が必要となるのかについて討議する機会を国連安全保障理事会で設けて、その成果を決議として採択し、時代転換の出発点にすべきだと、私は考える。」と訴えている。

「核兵器の使用を巡るリスクが高まっている現状を打開するには、核依存の安全保障に対する“解毒”を図ることが、何よりも急務となると思えてなりません。」と池田会長は述べている。

「自国の安全保障がいかに重要であったとしても、対立する他国や自国に壊滅的な被害をもたらすだけにとどまらず、すべての人類の生存基盤に対して、取り返しのつかない惨劇を引き起こす核兵器に依存し続ける意味は、一体、どこにあるというのか。」と池田会長は問いかけている。

「この問題意識に立って、他国の動きに向けていた眼差しを、自国にも向け直すという“解毒”の作業に着手することが、NPTの前文に記された『核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払う』との共通の誓いを果たす道ではないかと訴えたいのです。」

来年には、日本でG7サミット(カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・英国・米国)が開催される。その時期に合わせる形で、他の国々の首脳の参加も得ながら、広島で「核兵器の役割低減に関する首脳級会合」を行うことを池田会長は呼びかけている。

広島・長崎は米国が1945年8月6日と9日にそれぞれ原爆を投下した都市である。

1月21日、日本とアメリカがNPTに関する共同声明を発表し、そこで「世界の記憶に永遠に刻み込まれている広島及び長崎への原爆投下は、76年間に及ぶ核兵器の不使用の記録が維持されなければならないということを明確に思い起こさせる」と述べていたことに池田会長は注意を向けた。

その上で共同声明は、政治指導者や若者に対し、核兵器による悲劇への理解を広げるため、広島と長崎への訪問を呼びかけている。

池田会長は、核保有5カ国が核戦争の予防と核軍拡競争の回避に関する声明を1月3日に発したことを指摘し、国連安保理に対して、この共同声明を基礎として、核保有5カ国(米・ロ・英・仏・中。「P5」とも呼ばれ、安保理常任理事国でもある)がNPT第6条に規定された核軍縮義務を果たす具体的措置を採るよう促す決議を採択するよう求めている。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

SGI会長の核問題に関する2つ目の提案は核兵器禁止条約に関連したもので、日本を含めた核依存国や核保有国に対して、第1回締約国会合にオブザーバー参加することを強く求めている。

また、締約国会合で、条約に基づく義務の履行や国際協力を着実に推し進めるための「常設事務局」の設置を目指すことを提唱した。

池田会長は、「核兵器の廃絶に向けて、いよいよこれからが正念場となる」と述べたうえで、「私どもは、その挑戦を完結させることが、未来への責任を果たす道であるとの信念に立って、青年を中心に市民社会の連帯を広げながら、誰もが平和的に生きる権利を享受できる『平和の文化』の建設を目指し、どこまでも前進を続けていく決意」であることを誓った。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ローマ教皇庁主催国際シンポジウム「核兵器なき世界と統合的な軍縮に向けての展望」を取材

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.

INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターが、教皇庁人間開発のための部署が11月10・11両日に主催した国際シンポジウム「核兵器なき世界と統合的な軍縮に向けての展望」を収録したもの。

IDN-INPS covered the Vatican Conference on “Prospects for a World free from Nuclear Weapons and for Integral Disarmament” on November 10-11, the first such gathering organised by the Pope. Apart from giving a glimpse of conference sessions, INPS Multimedia Director and IDN Bureau Chief for Asia-Pacific Katsuhiro Asagiri shot video clips of interviews with the Vatican representatives and independent experts.

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|スリランカ|政府の有機農業政策にコメ農家が困惑

【ポロナルワIDN=R・M・サマンマリー・スワルナラタ】

農場で化学肥料の使用を禁じたスリランカ政府の有機農業政策が、産米地帯であり与党の政治的地盤であるこの地域の農民たちを困惑させている。また、スリランカの食料安全保障がこの政策で危機に瀕していると警告が出されるなど、農業専門家からの批判も招いている。

「ミネリヤ統合農業機関」のアニル・グナワルドゥナ議長は、「政府の有機肥料計画は、適切な準備と作業計画なしに発表されたものであり、大失敗だ。」と指摘したうえで、「政府の当初の計画では、10年で有機農業を達成するということだった。しかし、農民との協議なしに化学肥料の輸入を禁じてしまった。」と苦情を訴えた。

農業科学者のサマン・ダルマケーティ氏は、政府が化学肥料輸入を禁止した直後の昨年5月、『サンデー・タイムズ』紙で、この方針によって森林が失われ食料危機が起こると警告していた。

ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2019年の選挙で「繁栄と輝きの展望」のテーマを掲げ、「健康かつ生産的な市民のコミュニティを創出することで、有害な化学物質に汚染されない食料を消費する習慣を作る必要がある」と述べていた。食の安全に対する民衆の権利を確保するために、スリランカ全土の農業で10年以内に有機肥料の使用を促進すると選挙公約は述べていた。

Photograph of Lieutenant Colonel Nandasena Gotabaya Rajapaksa/ By Mr Jorge Cardoso / Ministério da Defesa - Source Link, CC BY 2.0
Photograph of Lieutenant Colonel Nandasena Gotabaya Rajapaksa/ By Mr Jorge Cardoso / Ministério da Defesa – Source Link, CC BY 2.0

ラジャパクサ大統領が2021年4月に化学肥料と除草剤の輸入を禁じた際、健康上の理由を挙げていた。この輸入禁止は昨年5月6日の特別官報で通達された。内閣が「気候変動対策の持続可能な解決策によってグリーンな社会経済を創り上げる」との計画を承認したことを受けたものだった。この文書は、化学肥料の使用で生産量が増えることは認めたが、湖や運河、地下水を汚染しているとの認識を示していた。

20年以上にもわたって、謎の腎臓病が主要な産米地帯の農民に拡がっており、水質学者や医療関係者を困惑させてきた。農業における化学物質の過剰使用が原因ではないかと疑われてきた。

「緑の革命」技術からの離脱

多くの既得権が働く中、スリランカ政府は農業での化学物質使用から農民を引きはがすことは困難という苦い教訓を学びつつある。慎重な計画と農民との緊密な協議が必要なのだ。

スリランカの農業生産のしくみは、2つに大別できる。一つは植民地期に形成されたプランテーションであり、大規模農場で輸出向けのコーヒーや茶、ゴム、ココナッツといった多年生の作物を生産している。もう一つは小規模生産部門で、国内消費のコメや野菜、豆、ジャガイモ類、香辛料、果物などを小規模農家が生産している。

肥料や除草剤はスリランカのプランテーション生産で長らく使用されてきたが、数十年前まで小規模農家は化学物質をほとんど使わない農業を行っていた。化学肥料が広範に使用されるようになったのは、1960・70年代のいわゆる「緑の革命」期に「高収量」種子が使われるようになってからである。

高価な肥料輸入と補助金

中央銀行の統計によると、スリランカ(公的部門・民間部門の両方を含む)は2020年、海外から2億5900億ドル相当の肥料を輸入しており、これは同国の輸入全体の1.6%を占める。現在の国際価格からすると、2021年の輸入額は3億~4億ドルになるとの観測もある。スリランカ政府は、外貨流出を招く肥料輸入を制限あるいは禁止して、コストを抑えようとしている。

しかし、ペラデニヤ大学農学部元学部長のブディ・マランベ教授は最近の新聞記事で、急に有機肥料への転換を図れば収量の低下につながり、数か月の間に大規模な食糧不足を招きかねないと警告した。教授は、「私は科学に基づいて話をしている。エビデンスを基にした政策決定をしなければ、何もうまくいかない。」と述べ、人々は情報操作されているのだという政府の主張を否定した。また、「食料安全保障は国の安全保障の問題だ」と指摘したうえで、「外部からの食料輸入に頼ることに意味はないのだから、食料安全保障を守るためにも、持続可能な政策を採らねばならない。」と語った。

コメ農家の不満

一部の農民は、政府が十分な肥料を供給できないために、スリランカの主食であるコメを現在の「マハ季」や次の「ヤラ季」に栽培しないと決めている。農民は、化学肥料の輸入が突然禁止されたことに憤っている。農民らは主に田を耕し、低地野菜や穀物類、玉ねぎなどを作っている。しかし、この「マハ季」には化学肥料を使うことができない。もし政府が必要とされる有機肥料の供給を約束するとしても、農民はそれを適切な時期に受け取ることができないという。

コメ農家は、通常は茶やシナモン、ココナッツなどに使われる肥料で代用してきたという。今季のコメの収穫は少なく、収入もかなり減る。

デヒヤネウェラ、ディヴィルンカダワラ、ヴィハラガマ、メディリジリヤ地域の農民を代表している「エクサス・サルー農民組織」のピヤラトゥナ氏はIDNの取材に対して、同組織には142人の農民が属しており、合計で190エーカーの田畑を小規模灌漑水を用いて耕作していると語った。「ここの農民は通常、化学肥料を使って1エーカーあたり100~120ブッシェル(2.5~3トン)を収穫してきた。しかし、今回は肥料の使い方が不十分なためにそれほどの収穫は見込めない」「農業はいまや企業化しており、農民は自家消費のためだけに生産しているのではない。」

Map of Sri Lanka

品種と環境条件にもよるが、コメが種から生育するまでには3~6カ月かかる。発芽、再生産、成熟という三段階を経る。「ここの農民は、105~120日で生育する短期品種と、150日で生育する長期品種の2種類を育てている。」「農民は混合種の種子を使っており、伝統的な品種は用いない。これらの混合種の場合、収量を増やすには質の良い肥料を使わなくてはならない。有機肥料では高い収量を期待できない。」とピヤラトゥナ氏は語った。

ピヤラトゥナ氏は、ポロナルワ地域の農民に与えられている堆肥の品質が悪く、購入した堆肥の中にはごみの破片や種、石などが混じっているという。

ハマウェリ川B灌漑システムを利用している「エカムトゥ・ベドゥム・エラ農民組織」のカピラ・アリヤワスンサ氏は、ヤラ季とマハ季の両方で8エーカーの低地(主に田んぼ)を耕作しており、自身の組織には206人のコメ農家が属しているとIDNの取材に対して語った。また、「この地域では、有機肥料の使用は現実的ではない。」と指摘した。

「我々の村には堆肥を作るだけの資源がない。堆肥を使って野菜は作れるが、コメはできない。なぜなら、伝統的な品種ではなく混合種しかここにはなく、混合種を豊作にするには肥料が必要だからだ。」さらに、闇市でユリア(尿素)を購入するには2万3000ルピー(115米ドル)が必要だったと語った。

アリヤワスンサ氏は、次の収穫期の後に農村経済は崩壊してしまうのではないかと予想している。「今回は収穫が少ない。これまでの3割ぐらいしかないのではないか。マハウェリ地域のほとんどの人びとは農業に依存しているというのに。」彼はさらに、「マハワリB地区だけではなく、ポロンナルワ地区のほとんどの農民が、政府の有機肥料促進政策によって収穫を減らすだろう。」「現在の政府の政策は無計画な意思決定を基にしている」と嘆いた。

農民の期待

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

他方で、有機的な食料生産に対する農民の期待も高まっており、それが輸出力を強化することも彼らは理解している。一部の農業生産組織はそうした起業で成功を収めてもいる。有機食料生産・販売がスリランカで拡大する余地はある。しかし、効率的で生産的かつ利益を生む有機農業システムとその実践のためにはまだまだ研究が必要だ。これが、政府が現在直面している批判である。

「カルケレ民衆会社」のM・G・ダヤワティ会長は、「化学肥料の禁止は自社のマイクロファイナンスにも悪影響を与えている。」と指摘したうえで、「我々はマハ季に75人の農民に対して52ラーク(520万ルピー[ラークは10万ルピーを表す])の耕作融資を行ってきた。残念ながら、農民は期待される収入を得ることはできないし、借金を返すこともできないだろう。」「さらに、農民は、闇値で化学肥料を買うために自らの金や乗り物を担保に入れている。彼らは借金地獄にはまっている。無計画な政府のこんなやり方では(農民の)生活向上は望めない。」と語った。(原文へ

(注)マハ季:年2回ある季節風シーズンのうちの1つ。北東からモンスーンが吹く10月から翌2月あたりまでの期間を指す。なお、もう一方はヤラ季と呼ばれ、南西モンスーンが吹く3月から9月までの期間を指す。

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ウクライナ危機について、①ロシアによる軍事侵攻、②ウクライナ内戦の激化(→ロシア軍の介入)、③外交による危機回避、の3つのシナリオから、米国の地政学的な狙いを分析したメディア・ベンジャミン、ニコラス・デイヴィス氏による視点。著者らは、①②の場合、欧州の米国への依存が決定的となり、30年前の鉄のカーテンが東に移動した形で冷戦構造が復活すると見ている。これは冷戦後の多極化した世界を否定し、国民のニーズを顧みることなく軍事費を増大させてきた軍産複合体の思惑に沿うものであり、この危険な動きを、21世紀の人類共通の脅威に対する協力と軍縮を通じた平和と安定に転換するためにも、NATOの役割の再評価を含めて状況の再検討を訴えている。(原文へFBポスト

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