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|ナイジェリア|ウォーレ・ショインカ、婦女子の殺害が常態する現状打破を訴える

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

米国では少数民族、年長者、子供、移民等を無作為に狙った銃乱射事件が相次ぎ、再び銃規制を巡る議論が高まっているが、太平洋を隔てた西アフリカのナイジェリアでも、無辜の老若男女が無作為に殺害される銃撃事件が頻発して社会問題になっている現状に焦点を当てた記事。

Map of Nigeria
Map of Nigeria

ナイジェリアでは、北西部と中部で農耕民と牧畜民が土地を巡って衝突してきた歴史があり、その一部が「盗賊団」と化して、殺人や略奪、身代金目当ての誘拐を繰り返している。また、ボコハラム等のイスラム過激派も、(カザフィ政権の崩壊に伴う)リビアから流出した大量の武器を入手して、ナイジェリア国内で襲撃を繰り返している。これに対してナイジェリア政府は有効な対策を打ち出せないでいる。こうした状況に、同国のノーベル文学賞作家ウォーレ・ショインカ氏が、国民が一致団結して、襲撃問題に対処する啓発するキャンペーンを開始した。

ナイジェリアでは2022年の1週間(4月10日から16日)、武装した「盗賊団」が様々な攻撃で少なくとも215人を殺害し、最も死者が多い週となった。今回の集計以前には、2022年の最初の3週間で少なくとも486人が殺害され、今年最悪の犠牲者数を記録している。(原文へ

INPS Japan

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|アーカイブ|非合法でありながら存在し続ける核兵器

*本日からオーストリアのウィーンで核兵器禁止条約締約国会議が開催される。IDNでは核なき世界を目指してICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際メンバーとして活動している創価学会インタナショナルと2009年以来、核軍縮・廃絶をテーマとしたメディアプロジェクト「核なき世界に向けて」を推進している。今回は、アーカイブの中から、ヒバクシャの声を取材した記事を掲載します。

【IDNシドニー=ニーナ・バンダリ】(11.03.2012 にIDNから配信)

森本順子さんは、米国が彼女の故郷広島に最初の原爆を投下したとき13歳の少女だった。1945年8月6日の当日、彼女は腹痛を訴え学校を欠席していたことから、爆心地から1.7キロ離れた自宅で被爆した。もし市の中心部に位置していた広島女学院高等女学校に登校していたら360名の同窓生とともに命を失っていただろう。

森本さんは手術が不可能な脳腫瘍を患っており、その影響によりバランス感覚が不自由である。原爆投下から70年近くが経過したが、日本の人々は今でも、放射能が環境や世代を超えて人体に及ぼした恐るべき後遺症とともに日々の生活を送っている。

 「広島と長崎への原爆投下は私たちに2つの教訓をもたらしました。一つは、私たち人間が地獄をこの世に作り出す能力を手に入れてしまったということ。そしてもう一つは、私たちは、その恐ろしい能力を実際に使ってしまうほど、あまりにも愚かで、信用できない、つまらない存在だということです。」と、森本さんは語った。彼女は1981年にオーストラリアに移住し、今は著名な絵本作家・画家として活躍している。

今年の7月8日は、国際司法裁判所(ICJ)が核兵器の威嚇・使用の合法性に関する画期的な勧告的意見を出してから15周年にあたる。ICJの15人の判事全員一致の見解として、「各国政府は、厳格かつ効果的な国際的管理のもと、あらゆる分野にわたる核軍縮につながる交渉を誠実におこない完了させる義務が存在する。」と述べた。

7月5日、メルボルン市庁舎で核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とオーストラリア赤十字の共催のもと、公開討論会が開催され、「核兵器のない世界」実現を求める人々が、会場を埋め尽くした群集の前で演説を行った。

たんなるオプションではない

この公開討論会に登壇した自由党のマルコム・フレーザー元首相は「核軍縮はたんなるオプションではありません。国際法で義務付けられたものなのです。そしてそれは、核兵器禁止条約-いかなる国家による核兵器保有も禁止し、定められた期間内に全ての核弾頭の廃絶を完了させる法的メカニズムを打ち立てる包括的な条約-の発効を通じて最も望ましい形で実現できるのです。」と語った。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月に発表した世界の軍備動向に関する2011年の年次報告書によると、現在8カ国或いは9カ国の兵器庫に合計20,000発を超える核兵器が保有されている。

米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエルの8カ国は合計で20,500発以上の核兵器を保有している。その内、5,000発以上が実戦配備されており、内約2000発は高度な「即応態勢」に置かれている。 

核兵器廃絶を目指す世界的な運動組織「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」は、向こう10年間に世界で核兵器に費やされる金額は1兆ドルを上回ると予測している。核兵器保有国は今年だけでも核兵器プログラムに総額で約1000億ドルを費やす予定である。

「政治指導者たちは、核兵器がいかなる人の安全にも寄与しないということを理解すべきです。彼らは世界をかえってより危険なものにしているのです。益々多くの国々が核兵器を製造する方法を習得しています。もし核軍縮に向けた努力が今よりもはるかに真剣な形で進められなければ、核兵器の保有を目指す国々は益々増え、故意か事故に関わらず、核戦争が勃発する危険性はより大きなものとなるでしょう。」とフレーザー元首相はIDNの取材に応じて語った。

2010年4月、世界の備蓄核兵器の95パーセントを保有する米国とロシアが、控えめな規模の核軍縮に合意する新戦略兵器削減条約(新START)を締結した。しかし、米露両国とも、現在新たな核兵器運搬手段の配備を進めるか、或いはそのような計画がある旨を発表している。一方、インド、パキスタン両国は、引き続き核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発を続けている。

フレーザー元首相は、こうした兵器を一刻も早く廃絶する重要性を強調して、「核兵器を廃絶するための多国間協議プロセスが、実質的に存在していないという現状を深く憂慮しています。とっくに発効してしかるべき核兵器禁止条約も、未だ実現していません。オーストラリアは、核廃絶に向けた実質的な協議が進められるよう国際的な圧力をかけていくべきです。」と語った。

オーストラリアのジュリア・ギラード首相は、核廃絶を国会決議とするよう、国会に動議を上程する意向を示している。ギラード首相は、この核廃絶決議を超党派のものにしようと、トニー・アボット自由党党首に協力を呼びかけた。

核問題を党派対立から遠ざける
 
「これは政府にとって、核と軍縮の問題を、より党派間対立が少ない非政治的な領域に持っていくことで、むしろ人道的な問題に転換する絶好の機会なのです。」と、ICANオーストラリアのティルマン・ラフ議長はIDNの取材に応じて語った。

オーストラリアは、興味深い立ち位置にある。なぜなら、オーストラリアは国家としては核兵器を保有していないが、同盟間にある米国の核の傘(拡大核抑止)理論に賛成している立場をとっているからである。

「オーストラリアが安全保障を米国の『核の傘』に依存している限り、いかに核軍縮を唱えても説得力に欠けるものがあります。米国の大統領が核軍縮という大義を支持している今こそ、オーストラリアが核兵器に依らない国防体制を採択するとともに、核軍縮に向けた重要な貢献を開始する理想的な時期のように思います。」とフレーザー元首相は語った。

オーストラリアは、ウラン埋蔵量が全世界の約40%を占め、主要なウラン輸出国である。

「我が国のウラン輸出は、確かに軍縮を進める上で一つの障害となっています。たとえオーストラリア産のウランを輸入する国々との保障協定が結ばれていたとしても、それらのウランが軍事用に使われたり、或いはその代わりに国内の備蓄ウランが同様の目的で使われたりするリスクが常にあるのです。」と、ICANオーストラリア核廃絶国際キャンペーンディレクターのティム・ライト氏はIDNの取材に応じて語った。

各国の政府や一般市民は、福島第一原発の危機を見て、発電のための核技術に本来的に備わっている危険性を認識し警戒するようになった。ICANは、放射能は、原子炉からのものであろうが核爆弾由来であろうが、出発物質(化学反応の原料)は同じであり、もたらされる影響も完全に無差別かつ同質のものであると指摘している。

「原発用の原子炉級ウラン濃縮を行えるいかなる国も、実はウランを兵器級まで濃縮するために必要なものをすべて手に入れているのが実情です。すなわち、両者は不可分なのです。現在、ウラン濃縮についても、プルトニウム抽出のための使用済核燃料処理についても、制限が設けられていません。これらの物質は、核兵器の原材料である核分裂性物質の元ですが、各国によるこうした物質へのアクセスを制限する国際規制は現在のところないのです。このような現状は、『核兵器のない世界』の実現或いは維持という理想とは、相矛盾するものです。」とラフ議長は語った。

核不拡散から核廃絶へ

核兵器ゼロの支持者は、ラメッシュ・タクール元国連事務次長補が述べたように、議論の焦点が核不拡散から核廃絶へと移ることを望んでいる。タクール元国連事務次長補は、「私たちには、以下のような優先順位に基づく具体的なステップを踏まえた核廃絶へのロードマップが必要である:①核兵器の保有と使用を分けるより強固な保護システムを導入する、②既存核弾頭の更なる大胆な削減と中期的な計画に基づく核分裂性物質の生産凍結を実現する、③私たちが生存している間に、確固たる検証体制の下で全ての核兵器の破棄を義務付ける核兵器禁止条約(NWC)を発効させる。」と語った。

タクール元事務次長補は、NPTに加盟していない核保有国(インド、パキスタン、イスラエル)が、非核保有国としてNPT加盟を余儀なくされる事態は可能だと考えるのは、現実的ではないと見ている。

核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)によると、今日地球上に存在する核兵器の総破壊力は、広島に投下された原爆の15万倍に相当する。

ラフ議長が言うとおり、世界の核兵器のほんの僅かな量が、比較的小さな地域に使用されたとしても、その影響は、極めて深刻かつ前例のない地球規模のものとなる。米国科学アカデミーは、核爆発の影響を確実に防ぐ方法はないと明確に結論付けている。核兵器と気候変動は、現在生きている人類のみならず、人類の未来や複雑な生態系を支える地球の能力に対しても、かつてない脅威を及ぼす。従って、核兵器をゼロにするまで、一刻も早くもっていくことが緊急に求められているのである。
 
オーストラリア赤十字は、核兵器の違法性を確認するさらなる法律の必要性を訴えるうえで、国際的に指導的な役割を果たしている。

オーストラリア赤十字の国際法、戦略顧問であるヘレン・ダーラム博士は、IDNの取材に応じ「国際法は極めて断片化された体系となっており、すべてを包含した一つの方法を見出してものごとを前進させるというわけにはいかないのが現状です。しかし世界各国の政府は、自国の市民がこの問題について関心を持っているということを理解する必要があると思います。」と語った。

オーストラリア赤十字は、核兵器の使用が人道的にどのような結果をもたらすか、その惨禍について人々が本当に理解できるよう、公共教育キャンペーンを実施する予定である。「私たちは様々なイベントを実施していきます。また11月初旬には、若者の関心を引き寄せる目的でインターネット上の教育プログラムを開始します。これは全ての人々が立ち上がって、このような兵器は決して受け入れられないと声を上げるべき問題なのです。」とダーラム博士は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核兵器の近代化が進む中、さらなる核兵器の脅威にさらされる世界

【国連IDN=タリフ・ディーン

世界で進む核兵器の近代化により、そう遠くない未来に致死的な兵器が増加する恐れがある。

この厳しい予測は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月13日に発表した最新のシプリ年鑑(SIPRI Yearbook 2022)によるものである。

The 53rd edition of the SIPRI Yearbook/ SIPRI
The 53rd edition of the SIPRI Yearbook/ SIPRI

重要な調査結果の一つは、2021年に核弾頭数がわずかに減少したにもかかわらず、今後10年間で核弾頭数が増加すると予想されることだ。

世界の9つの核保有国-米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)-は、核兵器の近代化を続けている、と報告書は述べている。

SIPRIの大量破壊兵器プログラムのディレクターであるウィルフレッド・ワン氏は、「すべての核保有国が核兵器を増やし、改良しており、そのほとんどが核のレトリックを鋭くし、軍事戦略において核兵器が果たす役割を強めています。これは非常に憂慮すべき傾向です。」と語った。

シプリ年鑑によると、2022年初頭の推定12,705個の核弾頭のうち、約9,400個が使用可能な状態で軍に備蓄されていた。そのうち3,732発がミサイルや航空機に搭載され、約2,000発(ほぼすべてがロシアか米国のもの)が厳戒態勢で運用されていると推定される。

Photo: U.S. Air Force Staff performing a simulated missile reduction in accordance with the New Strategic Arms Reduction Treaty on Minot Air Force Base, N.D., 2011. Credit: Flickr/US Air Force
Photo: U.S. Air Force Staff performing a simulated missile reduction in accordance with the New Strategic Arms Reduction Treaty on Minot Air Force Base, N.D., 2011. Credit: Flickr/US Air Force

2021年を通じて、両国の使用可能な軍事備蓄の核弾頭数は比較的安定していた。しかし、両国の戦略核戦力の配備は、二国間の新戦略兵器削減条約(2010年の戦略核兵器の更なる削減と制限のための措置に関する条約、新START)で定められた範囲内であった。また新STARTは、非戦略核弾頭の総保有量を制限していない。

SIPRIの核軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの上級研究員で、米国科学者連盟(FAS)の核情報プロジェクトのディレクターであるハンス・M・クリステンセン氏は、「冷戦終結後、世界の核兵器を特徴づけてきた削減が終了したことを示す明確な兆候がある。」と語った。

タリク・ラウフ国際原子力機関(IAEA)前渉外政策調整部検証安全保障政部長は、IDNの取材に対して、「2021年2月の新START延長と6月のジュネーブにおける米ロ首脳会談を受けて、戦略の安定とさらなる核軍縮のための暫定的な対話が開始されました。しかし、この対話は、ロシアのウクライナ軍事侵攻(昨年2月)を受けて中断し、現在は残念ながらさらなる核軍縮の見通しは立っていません。また、中米間の核軍備管理対話も欠落したままです。」と指摘した。

国連安保理常任理事国でもある現在のNPT上の核兵器国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)は、核軍縮の義務を果たしておらず、他の4つの核保有国も制約を受けないままである。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

「世界は再び核戦争の危険が高まる危険な時代に入り、9つの核保有国すべてで首脳のリーダーシップが欠如しており、改善の見込みはほとんどありません。」とラウフ氏は警告した。

1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)と国連の核兵器禁止条約(TPNW)に携わったアクロニム軍縮外交研究所事務局長のレベッカ・ジョンソン博士は、IDNの取材に対して、「恐ろしいことに、冷戦終結時に政府がすべての核兵器を廃絶できなかったことが、いま悲惨な結果をもたらしています。ウクライナ侵攻後のウラジーミル・プーチン大統領による核の脅威は、いかなる政府にも核兵器を保有させることが人類にとって実存的な危険であることを示しています。」と語った。

また、「もし、このような政治指導者の強欲と近視眼を止められなければ、数十年前に環境破壊をもたらす化石燃料に固執して気候変動に対処できなかった政府や産業のように、世界を破壊してしまうかもしれません。世界の安全保障のために責任ある行動ができないことが明らかな核中毒者とガス中毒者を止めるために、私たち、民衆が一緒に行動することが重要です。」と語った。

ceridwen / Greenham Common women’s protest 1982, gathering around the base / CC BY-SA 2.0

「1980年代に市民社会が立ち上がり、核兵器や核基地が削減され始めたが、その結果、核軍縮ではなく、核管理が行われるようになったのです。」とジョンソン博士は指摘した。同氏は、1982年から87年までグリーナムコモン英空軍基地周辺の「女性平和キャンプ」に滞在し、NATOの中距離核ミサイル配備に反対する運動を展開したため投獄された経験を持つ。

核不拡散条約(NPT)が1995年に無期限延長された後も、核兵器の増強は続けられた。核武装国は5カ国から9カ国に増え、いずれも軍事費を増やし続けている。

「こうした背景があったからこそ、大多数の国や 人々が集まって、2021年にTPNWを発効させることができたのです。あとは国際人道法との兼ね合いで、この条約を機能させなければなりません。」

「優先すべきは、TPNWの法的な禁止事項、規範、要件を強化し、定着させることにあります。さらに、核の脅威を常態化し、戦術兵器と戦略兵器、あるいは第一次利用と第二次利用の区別を殊更に強調することによって、核使用の結果を無視しようとする人々の議論に付随する危険性を認識することが重要です。」

「このような偽りの区別は、報復核攻撃を正当化するのに役立ち、大量殺人、核の冬、世界的な飢餓という恐ろしい結果を伴う核戦争を可能にするのです。核兵器の運搬範囲や弾頭の大きさに関係なく、核兵器の使用は人道に対する罪として告発されなければなりません。」とジョンソン博士は語った。

SIPRIによると、英国は2021年、数十年にわたる漸進的な軍縮政策から一転して、核弾頭の総保有量の上限を引き上げる決定を発表した。中国やロシアの核の透明性の欠如を批判する一方で、英国は今後、同国の運用中の核兵器の備蓄量、配備済み核弾頭やミサイルの数値を公にしないことも発表している。

2021年初頭、フランスは第3世代の原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の開発計画を正式に開始したと指摘した。

インドとパキスタンも核兵器を拡大しているようで、両国は2021年に新型の核運搬システムを導入し、開発を続けている。

核兵器保有を公にしていないイスラエルも、核兵器の近代化を進めているとみられるとSIPRIは指摘した。

一方、北朝鮮は引き続き軍事核計画を国家安全保障戦略の中心的な要素として優先している。北朝鮮は2021年中に核実験爆発や長距離弾道ミサイル実験を行わなかったが、SIPRIの推定では、現在最大20個の弾頭を組み立て、合計45〜55個の弾頭に十分な核分裂性物質を保有していると見られている。

SIPRI大量破壊兵器プログラムのマット・コルダ研究員(FAS核情報プロジェクトの上級研究員)は、「核保有国が軍縮のために直ちに具体的な行動をとらない場合、世界の核弾頭の在庫はまもなく冷戦後初めて増加に転じるかもしれません。」と語った。

さらにジョンソン博士は、「イラク、アフガニスタン、ウクライナでの戦争やその他の世界各地の武力紛争が明らかにしているように、軍国主義、核の脅威、環境破壊は、あらゆる人々に対する暴力、家父長制、産業の連続的な危害の一部に他なりません。」と語った。

核戦争を防ぐには、何百万人もの立派で勇気ある人々が、卑劣な者たちを失脚させ、軍縮と平和のために行動を共にすることが必要である。

Photo: ICAN campaigners protest in Sydney, Australia on 22 January.
Photo: ICAN campaigners protest in Sydney, Australia on 22 January.

「女性は、暴力的な脅威を拒否し、平和的な関係を築き、地球の資源を共有するための持続可能な方法を生み出す最前線にいます。だからこそ私は、核軍縮、気候変動への正義、そして平和のために、執筆、講演、行動を続けているのです。」

United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons
United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons

「私はCOP26に参加するためにグラスゴーに滞在し、6月21日から23日に開かれるTPNW第1回締約国会議に提出するTPNWの履行に関するワーキングペーパーを作成しました。 各国政府は、(核禁条約に加盟して)核兵器の威嚇や使用が許されない環境になれば、私たちのリードに従うでしょう。そして、核兵器の製造や配備に資金を費やすことをやめることになります。」

「私たちは核兵器の使用を止め、すべての核兵器を廃絶することができます。私たちは戦争に反対し、すべての国際条約と協定を軍縮、平和、環境のためにもっと効果的に機能させるために協力しなければなりません。」とジョンソン博士は語った。(原文へ

INPS Japan

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気候変動対策の1000億ドル支援公約、果たされず

【国連IDN=タリフ・ディーン

6月初めにスウェーデンで開催された国際会議「ストックホルム+50」で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、干ばつや洪水、熱波、公害、多様性の喪失などが世界的にもたらしている壊滅的な影響を軽減するための資金提供を富裕国が怠っていることに対して強い不満を表明した。

資金不足は、貧困や飢餓を2030年までに根絶するとした国連の17項目の持続可能な開発目標」(SDGs)の履行にも影を投げかけている。

「私がはっきりと言ってきたのは、先進国は2020年以降、年間1000億ドルを途上国に支援するという公約を実行すべきということです。そして、残念なことにそれは2020年には実行されず、2021年にも実行されていない。これまでのところ、2022年にも実行されるのかどうかはっきりしていません。」とグテーレス事務総長は嘆いた。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

しかし、開始から3年が経過したコロナ禍と、ロシアによる2月以降のウクライナ侵攻がもたらした壊滅的な経済的影響によって、資金提供の公約を果たすことが難しくなっている。

6月2・3両日に開かれた「ストックホルム会議から50年」会議は、1972年の国連人間環境会議から50年の節目に開かれたものだ。同会議は、スウェーデンの首都で開催された史上初めての環境に関する国際会議と言われ、1992年のリオデジャネイロでの歴史的な地球サミットへとつながっていった。

今回の会議では、17項目のSDGsのすべてが健全な地球に依存しているとの見方が示された。「私達は気候変動、公害、生物多様性の喪失という三重の危機による被害を回避する責任があります。地球の自然体系は私達の要求に追いつけません。それは地球だけではなく自分たちをも傷つけているのです。健全な環境が、すべての人々、17項目のSDGsすべてにとって必要なことです。それによって、食料や清潔な水、医療品、気候規制、異常気象からの保護が提供されることになるのです。」とグテーレス事務総長は語った。

スウェーデンが主催した今回の会合は、1972年のストックホルムでの会議に源流を持つ国連環境計画の本拠地でもあるケニアの支援も得ている。

ケニアのケリアコ・トビコ環境大臣は、「この2日間で出てきた様々な声や大胆なメッセージは、この会議の可能性に応え、私たちの唯一の惑星である地球に、私たちの子供や孫のための未来を築きたいという、真の願いを示しています。私達は単に記念するためにここに来たのではありません。1972年以来の歩みを踏まえて、より良い未来を築くために来たのです。」と語った。

Inger Andersen (environmentalist), 2010./By CIAT - Inger3Uploaded by mrjohncummings, CC BY-SA 2.0
Inger Andersen (environmentalist), 2010./By CIAT – Inger3Uploaded by mrjohncummings, CC BY-SA 2.0

「ストックホルムから50年会議」の事務局長であり、国連環境計画の代表でもあるインガー・アンダーセン氏は、「私達は国連人間環境会議から50年の今年、何かを変えねばならないとの思いをもってここに来ました。もし変わることができなければ、気候変動、自然と生物多様性の喪失、公害と汚染という地球の三重の危機が加速されることになるでしょう。このエネルギーと行動への公約を前に押し進めて私達の世界を形成しなくてはなりません。」と語った。

17項目のSDGsの中で、第13項目が気候変動対策を呼びかけている。

国連開発計画によると、気候変動からの大きな影響を受けていない国はひとつとして存在しない。温室効果ガスの排出は1990年より5割以上も増えている。地球温暖化は気候システムに長期的な変化を引き起こし、いま行動しなければ不可逆的な結果がもたらされる危険性がある。

気候変動が原因で起きている災害による経済的損失の年間平均は数千億ドル規模に上る。国連開発計画によれば、これとは別に地球上の災害で気候変動関連が91%もあり、1998年から2017年の間に死者130万人、負傷者440万人を数えている。

SDGsは、気候変動に対応し低CO2排出型の開発に投資する途上国のニーズに応えるために年間1000億ドルが必要との目標を立てている。

グテーレス事務総長は過去を振り返ってこう述べた。「スウェーデンの偉大な故オロフ・パルメ首相が当時述べたことを引用します。『人間―環境の分野では、人間にも国家にもそれぞれ独自の未来などと言うものはない。私たちの未来は共通のものだ。私たちはそれを共有して共に築き上げねばならないのです。』と。」

「気候変動からコロナ禍、ウクライナ戦争に至るまで、私たちが抱えている世界的な問題全体にわたって、故パルメ首相の見方は今でも意義を持っていると信じています。」とグテーレス事務総長は語った。

また、世界のあらゆる部門の指導者に対して、世界を「この混乱から救い出す」よう訴え、G20の諸政府に対して石炭インフラを解体するよう求めた。経済協力開発機構(OECD)の国々に関しては2030年までに、その他の国々に関しては2040年までに石炭利用から脱却するよう訴えている。また、すべての金融関連アクターに対して、化石燃料への投資を止めた代わりに再生可能エネルギーに投資するよう求めた。

会議では4つの全体会が開かれ、世界の政治指導者らが、2030アジェンダと持続可能な開発目標の履行を加速させる大胆な環境関連活動を呼びかけた。

指導者による3つの対話セッション、若者による会合など無数のサイドイベント、ウェビナー、今回の会議に向けた地域レベルでのさまざまな利害関係者による一連の協議によって、世界中の多くの人々が集って議論に参加し、自分たちの見解を披露した。

事前の予測によると、6000人が個人で参加登録をした。そこには、参加146カ国からの10人の国家元首、110人の閣僚も含まれている。

気候変動の帰結に対する警告は、国連総会のアブドラ・シャヒド議長からも寄せられた。議長は、海面の上昇によって絶滅の危機に立たされている島嶼国モルディブの出身である。

Abdulla Shahid giving remarks during a briefing on Climate Change and Security: Human Rights Challenges and Opportunities in Small Island Developing States.
Abdulla Shahid giving remarks during a briefing on Climate Change and Security: Human Rights Challenges and Opportunities in Small Island Developing States.

「今日、私たちは地政学的なものから環境問題まで、相互に関連した多くの地球規模の危機に直面しており、人類の進歩と繁栄が健全な環境と深い相関関係にあることが改めて明らかになりました。こうした危機を解決し、持続可能な開発に向けた2030アジェンダを実行する能力は、現在直面している地球規模の難題に対処する私達の能力にかかっている。」と語った。

またその例として、「パンデミックによる世界経済やサプライチェーンの混乱は、私たちの生活、食料安全保障、福祉に影響を与えています。しかし、気候危機が続き、その規模と深刻さが加速度的に増大するにつれ、その影響に効果的に対処する私たちの能力はさらに低下していくことになります。」と、シャヒド議長語った。

さらに、「私達の世界の食料システムは、気候変動の帰結や生態系の破壊という制約の下で困難に直面しています。干ばつ、土壌の劣化、砂漠化、海洋生物等の生物多様性の喪失、重要な天然資源の減失は、私達が直面している問題の一部に過ぎません。よりよい将来を生み出すために私達は子どもたちや孫たちに対する責任を持っているのです。」と語った。

他方、6月7日に発表された「オックスファム」の調査報告書によると、洪水や干ばつのような異常気象に対応する国連の人道支援は20年前の8倍の規模になっており、ドナーは要請に応えることができていない、という。

国連による気候変動関連支援要請2ドルあたり、ドナー国は1ドルしか支援できていない。

2000年から2002年にかけての異常気象関連人道支援の年間平均要請額は少なくとも16億ドルであり、2019年から2021年にかけてはその819%にあたる平均155億ドルに増えている。

今日の気候変動の原因のほとんどを作った富裕国は、2017年以来、この要請の54%しか満たしておらず、330億ドルが不足している。

異常気象によって頻繁に人道支援要請を繰り返している国としては、アフガニスタン・ブルキナファソ・ブルンジ・チャド・コンゴ民主共和国・ハイチ・ケニア・ニジェール・ソマリア・南スーダン・ジンバブエが挙げられる。

[オックスファムの]報告書『支払いをする(Footing the Bill)』は、気候変動によって異常気象の頻度と激しさが増していることは、すでにして不足している人道支援システムへに対する圧力になっていると指摘している。

Footing the Bill/ Oxfam
Footing the Bill/ Oxfam

嵐や干ばつ、洪水による破壊のコストとは、不平等を加速させることだ。貧困地域や低収入の国々の民衆が最も激しい被害を受けるが、彼らには富裕国が本来は対処すべきシステムや資金が欠けている。

地球上の富裕層上位1%が貧困層の半分の人々の2倍のCO2を排出している。

国連の要請は最も緊急の人道支援に焦点を当てているが、気候変動が国々の経済に与えている損失や損害の表面を僅かになでているだけに過ぎないとオックスファムは述べている。

2021年の異常気象による経済コストだけでも、世界全体で年間3290億ドル(史上3位)に上るのではないかと推定されている。これは、富裕国が途上国にその年提供した援助全体の2倍の額にあたる。

中低所得国に対する損失や損害のコスト、例えば、サイクロン後に住宅や病院を再建したり、シェルターや食料、緊急現金給付を提供するために必要な資金は、2030年までに2900億ドル~5800億ドルに達する可能性がある。これには、人命、文化、生活様式、生物多様性の損失といった非経済的損失は考慮されていない。

国連の要請は、気候災害のコストのうち、特に脆弱な人々にかかるコストの一部に過ぎず、苦しんでいる人々のほんの一部にしか届いていない。

オックスファムの調査は、国連の要請では、2000年以来、異常気象災害によって影響を受けた中低所得の国々の推定39億人のうち僅か4740万人、つまり8人に1人しかカバーできていないと指摘する。

SDGs Goal No. 13

オックスファムのガブリエラ・ブッチャー事務局長は、「人間の活動は産業化以前のレベルより地球の平均温度を1.1度押し上げ、私達は今その影響に苦しんでいます。さらに憂慮すべきことに、現在の予測では『1.5度上昇』というセーフティ・ラインすら上回りかねません。気候破壊のコストは上昇し続け、今排出量を削減しなければ、人類に破滅的な結果をもたらすでしょう。人命や家屋、学校、雇用、文化、土地、先住民族や地域の知恵、生物多様性といった、この背後にある莫大な経済的・非経済的損失と損害を無視することはできません。」と語った。

さらに、「これは私達が長い間警告を続けてきた気候の混沌状態です。気候変動によって最大の被害を受けている多くの国々は、紛争や食料価格の上昇、コロナ禍などの影響を既に受けています。これが、不平等の拡大、強いられた大規模人口移動、飢餓、貧困につながっているのです。」とブッチャー事務局長は警告した。(原文へ

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アルビニズムの人たちに対する恐ろしい攻撃が報じられる

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス

2014年12月18日、国連総会は、アルビニズム(先天性白皮症)の人の権利並びに、拷問や残虐で非人道的な品位を傷つける取扱い、または刑罰の対象とならない、という彼らの権利を保護し守るために、6月13日を「国際アルビニズム啓発デー」と定めた。

今年、ジュネーブの国連人権理事会で、ムルカ・ミティ=ドラモンド弁護士が、アルビニズムの人々(=アルビノとも言う)の権利状況に関する国連独立専門家として最初の報告を行った。

「ほんの数日前、2つの国で、アルビノが攻撃され、誘拐されたという不穏な報告を受けました。いずれの国でも、ほんの数カ月前まではアルビノに対する攻撃はほとんど、或いは全く知られていませんでした。犠牲者の1人は子供で、眼球と臓器を摘出された後、川に遺棄されていたと報じられています。儀式に使われたのは間違いありません。」とミティ=ドラモンド氏は語った。

Muluka-Anne Miti-Drummond, UN Independent Expert on the enjoyment of rights by persons with albinism OHCHR

過去10年間に、国連人権理事会には、アルビノの子どもや大人に対する600件以上の襲撃事件が報告されている。アルビノの体の一部が、それを所有する人に幸運をもたらすと信じる人々がいるため、魔術がこうした襲撃事件の根本原因の1つであると特定されている。

ミティ=ドラモンド氏は、人権理事会で説明した事件のような、アルビノに対する衝撃的な攻撃を、「憎悪犯罪と有害な慣行 」と呼んだ。

アルビニズムは、皮膚、髪、目にほとんど或いは全く色素がない遺伝的疾患である。サハラ以南のアフリカで最も多く、最も深刻なのは眼球アルビニズムで、白い髪、ピンク色の肌、弱視や失明、皮膚癌に罹りやすくなるなどの特徴がある。

アルビニズムは遺伝的に受け継がれるもので、有病率は地域によって異なるが、サハラ以南のアフリカで最も高い割合となっている。セネガルとケニアでは数千人がアルビニズムと共に生きており、タンザニアはアルビニズムと共に生きる人々の数が最も多いと報告されている。カメルーンのアルビノ普及協会は、アルビノの子供が生まれた時に親が放置し、嬰児殺が一般的であることを報告している。

国連人権高等弁務官事務所によると、アルビノハンターは人間の遺体全体を最高7万5千ドルで売り、腕や脚は2千ドル程度の値がつくこともある、という。また、アルビノの墓が掘り返され、体の一部を調達するために荒らされることもよくあることだ。

アルビニズムは、社会的にも医学的にも大きな誤解をされている。アルビノの身体的外観は、しばしば迷信に影響された誤った考え方や 神話の対象となり、彼らに対する排除や社会的疎外を助長している。このことが、さまざまな形の偏見や差別につながっている。

UNIC Tokyo
Salif Keïta in 2015, Festival Internacional Cervantino, Mexico.By ProtoplasmaKid, CC BY-SA 4.0

マリのシンガーソングライターで、古代マリ王国の直系の子孫でもあるサリフ・ケイタ氏は、日頃から自らの著名人としての立場を利用して、アルビニズムに関する啓蒙活動を行ってきた。

自身もアルビノであるケイタ氏は、「アルビノの現状をもっと世界に知らしめなければなりません。非人道的な扱いをする人々を抑止できるように、アルビノを守るためには、あらゆる形でより多くの支援が必要です。私はアルビノとして生まれ、人生は決して楽なものではありませんでした。私はこの現実を意識して生きようと思い、この財団を設立しました。特に子供たち、教育を受けられないアルビノの人々のために何かしようと思ったのです。」と語った。

アフリカのアルビノたちは、さまざまな偏見や社会的スティグマに直面している。彼らはしばしば、他の人種に属しているとか、或いは幽霊や精霊のように見なされている。

今年、マリで5人のアルビノが犠牲になった。選挙期間中は、より深刻な事態になる。「選挙があるときは、最悪の事態を避けるために、彼らの安全を確保するようにしています。」とケイタ氏は言う。「大物政治家がアルビノの生け贄を要求しても、権力者だからと処罰されることはありません。アルビノの生け贄に関わった者を罰することができるよう、世界中の人々にも我々の活動に参加して頂きたい。」とケイタ氏は語った。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ 】

現在、ウクライナ戦争の賛否の理由を論じたり、あるいはこの戦争の惨状を歴史的な論拠で説明するために、歴史になぞらえたアナロジーが非常によく用いられている。そこには、アドルフ・ヒトラーとウラジーミル・プーチンを同一視するなど、まったく当てにならないものがある。また、ウクライナ東部の「ジェノサイド」を主張するプーチン大統領の言動のように荒唐無稽なもの、あるいは「ファシストとネオナチからなるキーウの政権」や非ナチ化の必要性といったプーチン発言のようにプロパガンダを目的とするものもある。また、この残虐な戦争への激しい怒りを考えれば無理もないが、場違いとも言える歴史的比較もある。例えばヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がイスラエル国会で演説した際、ホロコーストを引き合いに出したことである。この比較は、ホロコーストの恐怖を矮小化するものだ。(原文へ 

歴史的アナロジーを用いることは方向付けの枠組みを提供することができる。しかし、歴史に基づく道徳的見解を用いて主張を行うのであれば、一貫性をもって用いるべきである。ロシアの攻撃による国際法違反は非難されて当然あり、爆撃され、包囲されたウクライナの都市で現在行われている戦争犯罪を正当化するものは何もない。そうではあるが、現在西側で主流となっている「諸悪の根源」はクレムリンにあるという言説は、一方的であるのも事実だ。たとえ、チェチェンやシリア内戦でのプーチンのやり方がウクライナ戦争の指針になっていると見なせるとしてもである。国際法違反は、プーチンのような独裁者だけに限ったものではない。1999年にNATOがコソボで行った戦争、2003年に米国が主導したイラク侵攻も、明らかな国際法違反であった。これらの戦争の前、最中、後に強調された理由は、信用できる弁明として認めることはできない。バルカン半島の戦争で、ジェノサイドは避けられるはずだった。イラクでは、大量破壊兵器の存在という虚偽の主張が意図的になされた。

プーチン大統領が現在、ウクライナにおける自身の犯罪を正当化するために、まさしくこれらの歴史的アナロジーを用いているのは驚くべきことではない。民主主義国家が、法の支配、自由、人権という価値観を強く主張し、力説し続けることは重要であり、必要である。しかし、単にプーチンの行動を特異かつ許しがたい国際法違反として批判するだけで、これら民主主義社会による過去の悪行、過ち、罪を無視することは傲慢であるだけでなく、ダブルスタンダードの利用である。長らく米国の「裏庭」と評されてきた南アメリカへの米国の干渉を、誰が国際法違反として数えただろうか? それは過去に限った話ではない。米国は20年間にわたり、そして今も、キューバのグアンタナモ収容所を維持している。現在でも、真っ当な法的手続きを経ることなく囚人たちは抑留されている。その多くは、テロ関与疑惑に関する自白を引き出すための拷問を受けた。

今回のウクライナ戦争では、悲惨な状況の一方でポジティブな面も見られる。例えば、苦しむウクライナ国民に西側諸国が積極的に支援を提供していることだ。しかし、ここにもダブルスタンダードが見られる。ウクライナ国民の約4分の1に相当する1000万人近い人々が国内避難し、あるいはEUとの国境を越えようとしてこれまでにほぼ400万人の難民が生まれているのを見るのは極めて辛いことだ。市民社会や欧州諸国政府の取り組みは、感動的で称賛に値する。難民の融合に関する官僚的手続きは、組織の署名ひとつで速やかに取り除かれた。最初の3カ月間、難民は登録する必要すらなかった。人々は、自宅に難民を迎え入れた。ウクライナ人の移動を円滑にするため、公共交通機関は無料で利用できる。外国の都市に到着してわずか数日後には、ウクライナ人の子どものために学校が開設された。欧州市民として、われわれは誇りを持ってよい。

しかし、EU諸国における難民の扱いというとダブルスタンダードがあることは、白日の下に明らかである。アフガニスタン、シリア、エチオピア、ソマリアからの難民たちにはどうしたのか? 彼らが欧州社会に溶け込むことは、長年にわたり制度的に阻まれてきた。これまでEUは協調的な難民収容政策について頻繁に議論してきたが、成果は出ていない。皮肉なことに、現在ウクライナからの大量の難民を受け入れている国々は、これまでEUの難民収容政策を断固として拒否し、阻止してきた。筆頭はポーランドであるが、バルト諸国、スロベニア、ハンガリー、オーストリア、ルーマニアもそうである。ブリュッセルでは、非常に短期間のうちにウクライナ危機に対応するための財源が用意されたが、ウクライナ戦争の前は、EUの政策は常に論争をもたらし、難民に犠牲を強いるものだった。EU諸国の内務相たちは、各国からの難民の受け入れ割り当てをめぐって押し問答をしていた。一部の国の政府は、一人の難民を受け入れることすら断固として拒んだ。

中東とアフリカ東部の戦闘地帯から逃れてきた難民たちは、冬の間中、ベラルーシとポーランドの国境の間で立ち往生していた。彼らは、いまなおそこで暮らしている。いや、何の展望もなくそこでじっと過ごすことを強いられている。進むことも退くこともない。欧州のわれわれが、ロシアの天然ガスが手に入らなくなったら次の冬は暖房の温度を下げないといけないだろうかと思案している間も、この国境地帯では子どもが凍死している。また、ポーランドが国境のフェンスを乗り越えられないように強化しても、欧州は見て見ぬふりをしている。できるだけ多くの難民を追い払う「要塞ヨーロッパ」が、ウクライナ戦争勃発まで欧州のモットーだったのである。

同様の運命が、ギリシャのレスボス島にも当てはまる。島では多くの難民が、変化を見通せないまま何年間も悲惨な状況に耐え続けている。ドイツの日刊紙「南ドイツ新聞」による最近の報告では、ギリシャの状況が次のように記されている。「カラテペ・ビーチにある現在の『暫定キャンプ』の状況は、2020年9月に焼失したかつてのモリア・キャンプほど非近代的というわけではないかもしれないが、相変わらず、食事は食べられるようなものではないし、シャワーの水は冷たく、仮設トイレは汚れており、ネズミは猫が逃げ出すほど大きい」

いまや世界中で称賛されている「歓迎する文化」(「ヴィルコメンスクルトゥーア」、なんと素晴らしいドイツ語だろう)は、これらの難民には適用されなかった。EUの国境警備機関であるFRONTEXによるいわゆる「押し戻し」は、これまでのところ罰せられていない。FRONTEXは、庇護を求める人々をゴムボートごと海に引きずり戻し、ボートに乗った人々の命を顧みず、運命のなすがままにすることによって、国際人道法に常に繰り返し違反し続けている。一方ではアフガニスタン人、エチオピア人、エリトリア人、シリア人と、他方でウクライナ人との間に、何の違いがあるのか? 宗教か? あるいは肌の色か? ウクライナから脱出したアフリカ人やアジア人の学生たちが国境を越えるのに苦労したという事実も欧州における人種差別の醜い一面を浮き彫りにしている。いまや欧州には、ファーストクラスの難民とセカンドクラスの難民がいるというわけなのである。

確かに、民主主義国はその価値を誇りにしてよい。人間性、自由、言論の自由、人権の重視は不可欠である。しかし、ダブルスタンダードを用いるのはやめにしよう。確かに、戦争犯罪は責任を問われなければならない。しかし、法の支配は普遍的である。そして、まさしく法に基づく国際秩序を力説する人々こそ、自らもそのルールを厳格に守るべきである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。2002年から2007年まで国連開発計画(UNDP)平壌事務所の軍縮問題担当チーフ・テクニカル・アドバイザーを務め、数回にわたり北朝鮮を訪問した。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

古代ギリシャの偉大な学者プラトンは、貧富の差は1対4の比率を越えてはならないと語った。18世紀には、「社会契約」の概念を生み出した著名な作家ジャン=ジャック・ルソーが、私有財産の発明と過度の蓄財が民族間の大きな不和の起源であると主張した。

Portrait of Jean-Jacques Rousseau (1712–1778)/ Public Domain
Portrait of Jean-Jacques Rousseau (1712–1778)/ Public Domain

ルソーはまた、ギリシャ都市国家の衰退とともに失われた民主主義への回帰をいち早く提唱した。彼は、同時代のささやかな改革を「鉄の鎖に沿う花綱」のようにとらえていた。彼はフランス革命の10年前に亡くなったが、フランス革命の指導者たちからは称賛された。

この20年間、私たちは中国とインドを筆頭に、世界各地で貧困が大幅に減少しているのを目の当たりにしてきた。一方、ここ数十年の間に、歴史上類を見ない現象が起きている。上流階級の富裕層が驚くべきスピードで富を獲得し、世界の不平等をさらに拡大させている。今日、一部の億万長者は国家よりも裕福である。

オックスファムによると、世界の富豪のうち8人は、世界の最貧困層の半分と同じ富を所有している。最も裕福な22人の男性は、アフリカ大陸に暮らす全女性よりも多くの富を持っている。新型コロナウイルス感染症が出現して以来、世界の富豪の富は2倍になった。

資本主義システムの中で、強力な個人がこれまで以上に財政的、事業的に自立している今日、状況は不公平なだけでなく、完全に搾取されているように見える。ここ数カ月、ロシアのオリガルヒのメガヨットが差し押さえられるのを見るにつけ、その格差がいかに深刻であるかを思い知らされる。

しかし、彼らは、カリブ海の島々、パナマ、英国のマン島、米国のデラウェア州、スイスやルクセンブルグの銀行に口座を持ち、税務署から財産を隠して逃げているように見える西側諸国の人々を真似しているに過ぎないのだ。

米国の独立宣言は、「生命、自由および幸福」を追求することが私達の存在の自明の理である、と述べている。初期の草案では、富を幸福に置き換えていた。哲学者や心理学者は、「幸せとは何か」についていくらでも議論できるが、常識的に考えて、自分の大きなスーパーヨットを持つことが幸せなのではない。幸せとは、心の平和、やりがいのある仕事、適度な収入、健康で教育水準の高い家庭を持つことである。

多くの国の経済学者らが行った調査によると、一人当たりの所得が7万5千ドル程度までは、貧困から脱出するにつれて幸福度が着実に上昇することが説得力を持って示されている。(これは米国での話であり、欧州を含む他の社会ではもっと低い。また、生活費にも目を向けなければならない。つまり、インドやアフリカでは、ざっと考えても2万ドル程度だろう。)この金額に達すると、幸福感はそれほど速く上昇することはなくなり、むしろ減退する傾向にある。

Photo by Nischal Masand on Unsplash
Photo by Nischal Masand on Unsplash

人間は欲張らないようにつくられている。もし、この内蔵された衝動に逆らうなら、人は刹那を追い求めることになる。もし、この不必要な富の追求が、より貧しい人々を犠牲にして行われるなら、それは悪であり、私たちは大声でそれを糾弾すべきである。

表面的には、世界において平等はあまり進展してこなかったかのように見える。しかしこれは真実の半分に過ぎない。産業革命以来、先進国の貧困層は一歩一歩、十分な栄養、改善された医療、教育、失業手当や育児などの社会的支援を実現してきた。1914年から1980年の間に、西欧諸国では所得と富の不平等が顕著に減少した。この洪水のような潮流が弱まり、実際に逆転したのはここ40年のことである。

第三世界では、貧困層が大幅に減少している。識字率の向上、純度の高い飲料水やワクチンへのアクセスとともに、子供や女性の出産時の寿命は予想を超えて伸びている。これまでに国連の諸目標は何度も超えており、このことは、経済学者や統計学者が目標を低く設定しすぎたことを示唆しているのかもしれない。

第三世界の多くの地域では、一世代以内に幸福感を実感できる生活レベルに到達しそうな勢いである。しかし、厳しい現実として、彼らが裕福になるにつれて、社会の平等性が損なわれていくだろう。そうなれば、大多数の人々が幸福感を達成できるスピードは減速することとなる。

Photo: Poverty in America Documentary 2017 on YouTube
Photo: Poverty in America Documentary 2017 on YouTube

もし、富裕層がもっと責任感を持ち、思いやりのある人間であると信じられるなら、こんなことは問題ではないだろう。ビル&メリンダ・ゲイツやウォーレン・バフェットのように、貧しい人々の状況を改善するためにお金を使うなら、私達は彼らを歓迎するか、少なくとも容認するだろう。しかし、ほとんどの富裕層はそうではないことを私たちは知っている。実際、富裕層は一般的に、つまり大金持ちだけでなく中流階級や上流階級のほとんどが、自分たちが課税されていることに憤り、課税を減らす方法を模索しているのである。米国では、共和党がここ数十年、富裕層への課税を減らすための闘いを続けている。英国では、現在の保守党主導の政府は、貧しい人々への給付を削減し、非常に裕福な有権者をさらに裕福にするために、できる限りのことをしようとしている。

これを変えられるものは何だろうか。激しい社会的闘争か戦争という妨害だけが、産業革命の夜明けから2世紀にわたるメッセージのように思われる。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

ボルシェビキの革命家たちは貴族を打倒し、歴史上初の「プロレタリア国家」を作り上げた。ソビエト国家は、教育、土地分配、公衆衛生においてかなりの進歩を遂げたと、フランスの経済学者であるトマ・ピケティは書いている。しかし、ウラジーミル・レーニンの死後、国家は利己的なヨシフ・スターリンに取り込まれた。スターリンは絶対的な権力を求め、それを恐ろしいほどまでに振りかざした。中国でも彼を模倣した毛沢東が同じような影響を与えた。

ソ連時代と毛沢東時代にほとんどのロシア人と中国人が達成した幸福度の向上は、その価値があったのだろうか。市井の老若男女にとっては、おそらくイエスだろう(ソ連時代の医療サービスは、隣の人と同じ列に並んで同じような治療を受けていた方がどれだけ良かったか、というロシアの友人の話を今でも聞くことがある)。しかし、社会をどのように統治するかについて発言権を持ちたかった人々にとっては、ノーである。

ソビエト連邦崩壊後のロシアが、その短い民主主義の実験を捨て、ウラジーミル・プーチンの準独裁政権に取って代わった今、我々は同じ結論に達するかもしれない。同様に、中国でも習近平国家主席の支配力が強くなり、20年間開放を続けてきたこれまでの自由と表現の自由への動きが抑制されている。それでも、「中国は深刻な貧困を解消した」という習近平の主張は、おそらく事実だろう。

Photo: Women assembling tea. Credit: Kizito Makoye.
Photo: Women assembling tea. Credit: Kizito Makoye.

ボルシェビキ革命の良かった点は、西側民主主義国家に与えた影響である。共産主義が進み、広がることへの恐怖から、保守派も自国の貧困層の窮状を何とかしなければと思うようになった。そして、福祉国家へのゆっくりとした歩みが始まった。財産所有者層は少しずつ、社会保障と累進所得税(後に脱植民地化と黒人やその他の少数民族の市民権)を受け入れていったのである。

不平等への波及を食い止めるために、もう一つの革命や世界大戦が必要なのだろうか。世界大戦は核兵器によるホロコーストを引き起こすだろうから、それは忘れてほしい。革命は多くの流血を引き起こすだろうが、起こる可能性は十分にある。先週、フィナンシャル・タイムズ紙は、米国が保守派とリベラル派の間で新たな激しい内戦に突入していると真剣に主張する3冊の本を紹介した。

もし人々が、中でもプラトン、イエス・キリスト、ムハンマド、仏陀の教えをもっと真剣に受け止めていれば、このような事態は避けられたはずだ。しかし、それは大きな望みである。(原文へ

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助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(4)マリーナ・クリソフ(Studio 3/4共同経営者)

【エルサレムNGE/INPS=ロマン・ヤヌシェフスキー】

*NEG=ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ

ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ
ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ

イスラエルはロシアとウクライナに対して中立を維持しようと懸命に努力してきたが、対ロシアの関係が急激に悪化したのは必然であった。それを助長したのは、「ヒトラーにもユダヤの血が流れていた」を主張したセルゲイ・ラブロフ外相のスキャンダラスなインタビューと、その後の鋭い言葉の応酬であり、最後はウラジーミル・プーチン大統領がイスラエルのナフタリ・ベネット首相に自ら謝罪することになった。

一方、一般のイスラエル人には、政府が直面していたような難しいジレンマはなかった。国民の大多数は、最初から一方的な軍事侵攻にさらされたウクライナを支持していた。

さらにロシアが主張する残忍な「特別軍事作戦」は、イスラエルに新しい現象を生み出した。ロシア語を話す人々だけでなく、多数のイスラエル人が、ウクライナ人の苦しみを目の当たりにして、彼らを助けなければならないと痛感したのである。その結果、多くの公的な取り組みやボランティアプロジェクト、人道的な支援金集めが自然発生的に始動することとなった。中には、それまでボランティア活動をしたことがなかった人々が組織したものも少なくない。ロマン・ヤヌシェフスキーが、こうした支援活動に参画した人々の内、8人に話を聞いた。(今回は4人目の取材内容を掲載します)

ロマン・ヤヌコフスキー:マリーナ・クリソフさんはキーウ出身の38歳。1991年からイスラエルに暮らしており、現在はテルアビブに在住。ノンフォーマル教育の分野で、NGOのプロジェクトをはじめ、コミュニティや危険に晒されている子供達との活動に携わってきました。この12年間は、特別なニーズを持つ子ども達を対象としたインクルーシブ教育の分野で活動しています。テルアビブにある「特別な」子供とその両親のための包括的なクリエイティブスタジオ「Studio 3/4」の共同経営者でもあります。現在従事しているウクライナ人を支援する活動について聞かせてください。

マリーナ・クリソフ:ちょっと怖そうに聞こえますが、私にはこのままでは戦争が起きるという漠然とした予感がありました。進攻が始まる1カ月前にウクライナにいた私は、すべてが悪い方向に向かっているという不安を抱きながらイスラエルに戻りました。2月12日、私はキーウで特別なニーズを持つ子供を抱える知り合いの家族に、街を離れるよう働きかける活動を始めました。彼らに、イスラエルか、或いはツテがあるウクライナ西部のカルパチア山脈のある場所に招待したいと申し出たのです。しかし、反応は遅く18日になると、私はより強く脱出を勧めるようになりました。そして22日からは、連日深夜を過ぎてもウクライナ情勢を伝えるニュースを追いながら返事を待っていました。進攻が始まった日(2月24日)は、朝の4時に寝ましたが、6時半に「是非脱出したい」というキーウから電話で起こされました。

この電話を受けてその日の夜には空路現地入りすることにしました。彼らをキーウからウクライナ西部の国境まで避難させるために、何らかの体制を整えなければならない。私の知人には、特別なニーズを持つ子供を抱えた人たちがたくさんおり、こうした子供達には特別なサポートが必要になるだろうと考えていました。

特別なニーズを持つ子どもたち、特に自閉症の子どもたちについて語る場合、重要なニュアンスがあります。彼らは感覚的に特殊なところがあります。騒音や匂いや 動きに対して敏感すぎる子どもが多いのです。何時間もかけて移動し、キャンプ場では大勢の人と一緒に過ごさざるを得ないので、最初のうちはとりわけ大変です。全員がそれに対応できるわけではありません。またこうした 子供たちは様々な行動をとることがあります。みんなが同じ場所にいる必要があるとき、その子たちにとっては特に恐怖を感じるものです。なかには家から出られない子もいるし、ルートを変えられない子もいます。

戦火を逃れて移動することは誰にとっても大変なことですが、特別なニーズを持つ子供を連れての逃避行は、とりわけ様々な困難を伴うことが想像に難くありませんでした。

当初は明確な計画があったわけではありません。ところがイスラエルを出発する日、私のウクライナ行きを伝えていたイゴール・ベレゴフスキーから突然連絡があり、同じ飛行機で同行してくれると申し出てくれました。また、私の友人で、今では親友となった夫婦が、フェイスブックで「ワルシャワにいるから手伝うよ」と書き込んできたのです。こうして彼らと、避難する家族を支援する具体的なシステム作りを始めました。

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

その結果、個々の家族のニーズに応じて、まずは避難経路、給油地、移動経路の他にできるだけ安全で安心できるように、途中1・2泊できる中継地を確保、さらに国境を超える場合はどの国境を超えるのが最も適切か、越境後に最初に宿泊する場所をどこにするか、その次の具体的なステップはどうするかなど、具体的な避難システムを構築していきました。

一部の家族については知人の紹介でウクライナ国外に移住させました。20家族と共に徐々に西に移動し、ポーランドを経由して、今はドイツ東部のニースキーという街に受け入れて頂いています。ここには約60人が集まっています。現在、ここで特別なニーズを持つ子どもを持つ家族のためのコミュニティセンターを組織しています。全員をきちんとケアする必要があるため、ここには今のところ20家族(60人)しかいません。もちろん、もっと参加したいご家族もあるだろうから、受入体制を整えていきたいと思っています。

また、リモートで問い合わせてくる特別なニーズを持つ子どもがいるご家族に対しても、情報提供とアドバイスを積極的に行っています。

Russian bombing of Mariupol in March 2022/By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0
Russian bombing of Mariupol in March 2022/By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0

ニ―スキーではキャサリン・ウールマン町長には大変お世話になっています。彼女は、言葉だけでなく、町民と共にウクライナ難民を組織的に受入れるうえで、真摯な支援の手を差し伸べてくださっています。これには本当に助かっています。このプロジェクトはいつ終わるか分かりませんが、長くなることを覚悟する必要があります。例えば、マリウポリからの4家族とハルキウからの1家族はロシア軍に家を破壊されており、戦争が終わっても、帰る場所がない家族もいるのです。

このプロジェクトには、イスラエル人のみならず、イギリス人、ドイツ人、ロシア語を話す人々など、様々な国籍のボランティア、団体、個人の方々に協力をいただいています。

この戦争を見ていて思うことは、結局は人々の互いに対する態度が折り重なって様々な出来事が起こっているのだと思います。つまりは組織の問題ではなく、突き詰めれば人と人との関わりの問題だと思います。この活動に従事してきて、多くの素晴らしい人々に出会いました。こうした人々の善意と支援がこのボランティア活動を支える最も大きな強みになっていると確信しています。(原文へ

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2022年3月21日に「Pearls and Irritations」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。(原文へ 

3月14日、ロシアがマレーシア航空MH17便撃墜に関与したとして、国際民間航空機関(ICAO)において、オーストラリアとオランダが法的措置に着手した。航空安全を担当する国連専門機関であるICAOは、国際法に違反した国に制裁を科し、犠牲者遺族への賠償金を支払うよう要求することができる。このタイミングは、当然ながらあえて狙ったものであり、それゆえに残念である。なぜならそれは、国際的な法的措置を地政学的思惑で汚すものだからである。その意味では、真実と正義の公正無私な追求というより、NATO対ロシアの長年にわたる紛争の延長戦といえる。そこには、その時々の強大国や同盟国によって国際機関が武器として使われることにより、公平な仲裁人、調停者、審判者としての信頼性が損なわれるというリスクがある。

2014年7月21日、国連安全保障理事会は、同年7月17日にウクライナのドネツク付近でMH17便が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件を厳しく非難する、オーストラリアが提出した決議案を全会一致で採択した。決議第2166号は、事件に対する「完全かつ詳細な、独立した国際捜査」を呼びかけ、関与した者の責任を問うこと、全ての国が全面的に協力して責任を立証することを求めた。オーストラリアがこの厳しい決議を主導したのは、死亡者298人にオーストラリア国民28人、居住者9人が含まれていたからである。強い表現が用いられた決議は、非常に迅速に採択された。なぜなら、何百万人という一般旅行者も容易に共感できるこの悲劇に対して、悲しみと怒りで世界が団結したからである。われわれには、承認された航空路を飛行する民間航空機が撃墜されないことを期待する権利がある。

しかし、このような事件はこれが初めてではなく、従って、対応は1件の事件に関する1件の決議に留まらず、そのような悲劇が将来繰り返された場合に適応される一式の手順や合意へと発展させるべきであった。そのような悲劇に対し、同盟国、友好国、敵対国、敵国といったレンズを通して反応するのは、自由で開かれた空を支える、ルールに基づいた秩序を構築し強化することにはならない。

1983年9月1日、当時のソビエト連邦がサハリン付近で大韓航空007便を撃墜し、269人を死亡させた。米軍のスパイ機が警告信号を無視して軍事機密性の高いソ連領空に侵入したと誤認したためである。米国のロナルド・レーガン大統領は、これを「虐殺」と呼んだ。2001年10月4日、イスラエルからロシアに向けて黒海上空を飛行していたロシアの旅客機をウクライナ軍が撃墜し、78人を死亡させた。1980年代には、ソ連占領軍と戦うムジャヒディンが米国から供与されたミサイルで民間機を撃墜する事件も複数発生した。

米軍に直接非がある(撃墜した抵抗勢力にロシア軍が殺傷兵器を供与し、間接的に加担したとされるMH17便の事件とは異なり)同様の悲劇として最もよく知られているのは、テヘランからドバイに向かう毎日の定期航路を飛行中のイラン航空IR655便を撃墜した事件である。1988年7月3日、イラン領海内に停泊中の米海軍艦「ヴィンセンス」が2発の地対空ミサイルを発射して、イランの旅客機を撃墜、290人の乗客乗員全員が死亡した。ヴィンセンスの艦長と乗組員は、後に勲章を授与された。1996年に国際司法裁判所で和解に達した際、米国は「事件によって失われた人命に対する深い遺憾の意」を表明し、6,200万米ドル近い賠償金を支払うことに同意した。ワシントンは公式な謝罪を行うことを拒否し、法的責任を受け入れることはなかった。ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領は、「アメリカを代表して謝罪することはない。事実がどうであれ構わない」と言い張った。

これら全ての事件は、正真正銘の事故である。民間機と分かったうえで撃墜した故意の行為であることを示す証拠があった事例は1件もない。したがって、感情の吐露はさておき、それらをテロ行為であるとか、はては殺人である(それには意図がなければならない)とか言うのは間違っているし、何の役にも立たない。1985年6月23日にカナダ在住の「カリスタン」のテロリストが仕掛けた爆弾によってアイルランド上空で墜落したエア・インディア182便や、1988年12月21日にロッカビー上空でテロリストの爆弾によって墜落したパンアメリカン航空103便を考えれば、その違いは容易に理解できるはずだ。民間人を殺害する意図がなくても、それは犯罪であり、故殺であり、責任のある者は罪に問われなければならない。

これら早期の悲惨な事件については、独立した国際捜査が行われなかった。責任のある者が罪を問われたという話を聞くことはない。フレッド・カプランは、当時「ボストン・グローブ」紙の防衛担当記者としてIR655便を取り上げた。MH17便の悲劇が起こった後、彼は、「いくつかの点で二つの災難は類似している」と書いた。例えば、曖昧にし、ごまかし、隠そうとする傾向である。「先週の事件の後、ロシア当局者はさまざまな嘘をついて自分たちの責任をごまかそうとし、ウクライナ政府を非難した。1988年の事件の後、米国当局者は様々な嘘をつき、イラン人パイロットを非難した。」

イランは国連安全保障理事会に米国を非難するよう求めたが、却下された。しかし、2015年、安全保障理事会が「民間機を撃墜した者を罪に問うことから逃げる」とは「ありえない」とオーストラリアのジュリー・ビショップ外相は述べた。西側諸国によるものも含め、そのような全ての行為の犯罪責任を調査する独立した制度を設置することなく、決議案の提出者は何を根拠に、ロシアが自国や同盟国の犯罪行為になるかもしれない事案を審議する特別法廷に協力すると期待したのか理解に苦しむ。また、これに関連して、アムネスティ・インターナショナルがイスラエルに対する英国の武器売却をやめるよう求めたことも注目に値する。それらの武器は、MH17便の悲劇と同時期にガザ地区のパレスチナ人への攻撃に用いられたものである。国際人道法が求める均衡性と戦闘員・文民の区別は、普遍的に適用される。それは、親西側政府か反西側政府かにかかわらない。

(コロナ禍の制約を受ける前は)頻繁に空の旅をしていた者として、私の第1の重要事項は撃墜されないこと、第2は私が乗る民間機が撃墜された場合、願わくは関与した者が法的責任を問われることである。公表されている証拠の重みに応じて判断すると、MH17便を撃墜した人々は、交戦地帯において軍用機を攻撃していると信じていた。ウクライナ軍がロシア軍機と間違えて撃墜したという可能性もあることはあるが、最も可能性が高い説明はやはり、反政府勢力がウクライナ軍機と間違えてロシア製ミサイルで撃ったということになる。

また、その場所が既知の交戦地帯であった点に留意することも重要である。MH17便の悲劇が起こる前にも、高高度軍用機がミサイルにより撃墜されている。ウクライナ当局とマレーシア航空の監督者は、その空域に一切の民間機が入らないようにする注意義務を民間人の乗客に対して負っていた。実際、QANTASなど多くの航空会社は、ウクライナ東部上空を飛行して乗客の安全をリスクにさらすより、コストが高くつく迂回ルートを受け入れていた。その数カ月前に消息を絶ったMH370便の不可解な悲劇(機体はまだ発見されていない)からまだ完全に立ち直っていない時期だけに、マレーシア航空は、回避できるリスクは回避するためにことさら熱心であるべきだった。したがって、真に公平で、独立した、信頼できる国際捜査であれば、攻撃者とミサイル提供者だけでなく、マレーシア航空などの民間航空会社とウクライナ当局にも責任があったと判断するだろう。

最後に一言述べたい。全ての法と規範は、二つの中核的機能を果たす。許可と締め付けである。冷戦の勝利後の覇権の年月で米国が取ってきた行動の歴史は、グローバルな規範を他国に強制するために締め付けを実行する一方で、自身については既存の規範が許可する範囲を一方的に拡大し、どこであろうとお構いなしに介入することを正当化してきた歴史である。オーストラリアや他のアジア太平洋諸国は中国に対し、その覇権国家としての振る舞いについて同じことを気兼ねなく指摘できるだろうか? われわれのうちの無神論者であろうと、パワー移行の停止と反転を祈ったほうが身のためである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

INPS Japan

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SGIが自律型兵器の法規制を訴えるドキュメンタリー映画「インモラル・コード」を支援

兵器システムの自律性に関する新たな国際法を求める声

このプレスリリースは、創価学会インタナショナル(SGI)が2022年5月25日に発表したものであり、同団体の許可を得て再掲載しています。

【東京=共同通信JBN】

人間の生死の決断をどこまで機械に委ねる覚悟があるのか、この重要な問題を提起する23分間のドキュメンタリー映画「インモラル・コード」が、5月24日にオンライン視聴を開始した。

この映画は、人間の意思決定の複雑さと、誰を殺すかを「決定」しうる自律型兵器がもたらす危険性を巧みに問題提起している。

インモラルコードは、市民社会組織の国際ネットワーク「キラーロボット反対(SKR)」が製作したもので、視聴者に、兵器システムにおける自律性を規制する新しい国際法を求める署名活動に協力を要請している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、2018年から「キラーロボット反対(SKR)」の国際メンバーになっている。SGI国連事務所ジュネーブ連絡所の所長で、「キラーロボット反対(SKR)」作業部会の代表であるヘイリー・ラムゼイ=ジョーンズ氏は、表現、人種、ジェンダーに関する問題について映画製作者に助言した。

ラムゼイ=ジョーンズ氏は、「AIは中立ではありません。人種差別は、設計プロセス、生産、実装のあらゆるレベルで作用し、これは有色人種のコミュニティー、特に黒人女性に関して驚くべき割合で誤認識をもたらすことが示されています。」と語った。

映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/ Soka Gakkai
映画の発表会には、国会議員や学者、学生などが参加。上映後、専門家によるパネルディスカッションが行われた(ロンドン市内で)/Seikyo Shimbun

映画「インモラル・コード」の発表会が5月19日にロンドンのレスタースクエアにあるプリンスチャールズシネマで開催され、上映後には専門家パネルが、私たちは誰もが脆弱であることと、国際的に拘束力を持つ法律が緊急に必要であることを強調した。SGIは、アムネスティ・インターナショナル、Article 36、婦人国際平和自由連盟(WILPF)と共に、この発表会を支援した。

専門家パネルに登壇した「キラーロボット反対(SKR)」自動化意思決定調査課長であるキャサリン・コノリー氏は、次のように促した。「この映画を観て、共有してください!各国は、他の兵器システムを禁止し、規制するための国際条約を締結しています。このケースでもできない理由はありません。必要なのは意志です。」

映画「インモラル・コード」は、国連において協議資格を有するNGOとしてのSGIの活動を紹介している最近開設されたウェブサイト「SGI Action for Peace」で紹介されている。

SGIはまた、核兵器を廃絶するための闘いにも取組んできており、新ウェブサイトの関連資料には、広島と長崎の原爆犠牲者自身による証言映像があり、オリジナルの日本語音声と中国語、英語、フランス語、スペイン語の字幕付きで視聴ができる。また、50人の証言を収録した書籍「Hiroshima and Nagasaki: That We Never Forget」も自由に閲覧できる

「キラーロボット反対(SKR)」は、180以上のNGOと学術パートナーからなる世界的なネットワークで、新しい国際法の開発を通じて、武力行使に対する人間の意味のあるコントロールを確保するために活動している。

創価学会インタナショナル(SGI)は、1983年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)において協議資格を有するNGO。創価学会は、平和、文化、教育を推進する1,200万人の多様かつ世界的な仏教コミュニティーである。(原文へ

INPS Japan

Immoral Code – A Film By Stop Killer Robots

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