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国連事務総長選出プロセスの透明性を求める取り組み

【ニューヨークIDN=ステファニー・フィリオン】

再選を目指すグテーレス氏の対抗馬として女性有力候補をたて、前回史上初めて実現した国連事務総長選出プロセスの透明性と公開性を確保しようと取り組んでいる草の根キャンペーンに焦点を当てた記事。5年前の事務総長選挙では、従来密室(=国連安保理5カ国)で決められてきた慣行への非難が高まった結果、国連総会決議69/321に基づいて国連総会の関与を深め、すべての候補者たちを国連総会に招いて、加盟国および市民社会との「非公式対話」が行われるなど、史上初めて選挙プロセスが公開議論された。しかし、今回は、安保理の支持を得ているとされるグテーレス氏の再選が確実視される中、再び5大国間の利害調整で事務総長が決められる旧来の慣行に戻るのではないかという懸念が広がっている。(原文へ) FBポスト

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岐路に立つ安保理事会:気候の「 安全保障問題化」か、安全保障の「気候問題化」(Securitisation or Climatisation)か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チェザーレ・M・スカルトッツィ】

2021年2月23日、国連安全保障理事会(UNSC)は、気候変動と安全保障の問題に関するハイレベル公開討論を開催した。英国の国連常駐代表により開催されたこの会合は、気候変動が国際安全保障にもたらす脅威に対処するためのUNSCの役割を定義することを目的とする一連の公開討論およびアリア・フォーミュラ会合(非公式会合)の直近回である。10年にわたる議論にもかかわらず、UNSCはいまなお一連の「概念」と「手続き」の問題について意見が割れており、本稿で示すように、気候変動に関するUNSCの役割を定義することができずにいる。(原文へ 

UNSC内での議論から、二つの際立った、しかし重なり合うトレンドが浮かび上がってきた。第1は気候の「安全保障問題化」、つまり、気候変動を社会環境的な問題ではなく国家安全保障上の問題として捉え直すことである。トレンドとしての「安全保障問題化」は地球温暖化を政治問題化し、それを実存的な脅威として描く。その目的は、気候の緊急事態に対処するための通常と異なる行動指針(防衛装置の使用を含む)を正当化することである。もう一つのトレンドは、安全保障の「気候問題化」、つまり、安全保障政策、戦略の策定また実践において、気候変動を主流に位置づけていくことである。ルシール・メルテンス(Lucile Maertens)が2021年にInternational Politics誌で発表した論文において主張したように、UNSCはこの「安全保障問題化」のプロセスから「気候問題化」のプロセスへと移行している最中である。しかし、そうする間も、依然として「安全保障問題化」として提起される事例が発生し、理事国間に分断をもたらしている。

「安全保障問題化」は厄介な問題をはらんでいる。なぜなら、気候変動に関する議論を、UNSCの任務と正当性に異議が申し立てられている分野の議題へと誘導するからである。気候が本当に脅威の増幅要因で、国際平和を損なうのであれば、UNSCは拘束力のある決議を出し、予防措置を講じる任務があるということになる。したがって、英国、米国、フランスといった理事国が地球温暖化を「安全保障上の実存的危機」と表現する場合、彼らは実際には気候変動をUNSCの責任とするための前提条件を作り出しているのである。しかし、このような「安全保障問題化」の推進と対照的な立場を取るのがロシア、中国、インドである。彼らは、気候変動が紛争の主な原因であるという点に異議を唱えており、そのような捉え方をすることは将来的な解決を妨げると主張している。

注目すべきは、紛争と気候変動の結び付きに関する科学的証拠には、いくぶん一貫性がないことである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第5次評価報告書において、「まとめると、研究により温暖化と武力紛争との間に強い正の関連性があるとは結論付けられていない」と評価している。実際、少数の理事国が積極的立場を取っているにもかかわらず、UNSCは全体として、地球温暖化の安全保障上の影響に対処することにかなり慎重である。これまでのところ、可能性の範囲で、気候変動の悪影響と国際平和および安全保障との間に仮説的な関連性があるかもしれないと認めているのみである。また、UNSCはいくつかの文書において、紛争は多面的な現象であり、一つの変数(すなわち、気候)に単純化することはできないと明記している。しかし、UNSCにおけるいつもの政治的論議においては、このようなニュアンスはしばしば影が薄くなり、気候と社会・環境的紛争との間の複雑な関連性を誤まって解釈する、センセーショナルな過度の単純化に押しのけられてしまうのである。

英国の事例が、「安全保障問題化」の危険をよく示している。2月23日の公開討論に先立って英国が配布した意見書は、気候変動、国家の脆弱性、暴力的紛争の間の相関関係に言及することにより、UNSCが予防措置を講じることを主張した。この単純な相関関係はその後の公開討論でさらに単純化され、ボリス・ジョンソン英首相はたとえ話を修辞技法として用いて、気候変動が紛争を引き起こす可能性をさらに劇的に表現した。例えば、ジョンソンは、「ふるさとが砂漠化したために路上生活を強いられ」、その後「なんらかの武装集団に加わり」、「暴力的過激派の良いカモになる」若者について考えるよう促した。あるいは、別の例を挙げ、「干ばつのためにどんどん収穫が減り、より丈夫な作物であるケシに乗り換える」農家について考えるよう主張した。どちらの例も国際安全保障の脅威となると、彼は言った。過激主義もケシも、最終的には「われわれのあらゆる都市の街路」に入り込むからだという。

英国が示した例は心をつかむが、根拠がない。暴力には常に複数の原因があることを無視しているだけでなく、気候変動への適応的対処がポジティブな調整と協調をもたらす場合も多いことを考慮に入れていない。UNSCにおける一部の政治的発言に見られる、気候と安全保障の関連性をあまりにも単純化するこのような姿勢は、最終的には、恐怖心の利用や「安全保障問題化」を非難する人々に格好の材料を提供することになる。このような非難は、ひいてはUNSCの正当性を損ない、安全保障の「気候問題化」という健全なプロセスを弱体化する。

「安全保障問題化」への抵抗として、ロシア、中国など数カ国の理事国が、UNSC以外の場所、恐らく多国間フォーラムのほうが気候変動の問題により有効に対処できるだろうと提案している。もしそうなれば、それは全員にとっての損失となる。平和と安全保障は、環境的要因を考慮に入れて初めて持続可能なものとなり得る。例えば、平和構築は将来志向のプロセスであり、気候変動に目をつぶるわけにはいかない。実際、気候問題に取り組むことへの抵抗があるにもかかわらず、UNSCはすでに、いくつかの決議(決議番号2349240824232429)に気候変動への考慮を盛り込んでおり、関係する各国政府や機関に対して、リスク評価に気候変動を組み込むよう求めている。

しかし、これらの決議が標準というわけではない。例えば、2020年3月の南スーダンに関するUNSC決議には、同国が地球温暖化の悪影響に大いにさらされているにもかかわらず、気候変動への考慮は盛り込まれなかった。UNSCは気候変動に対処するためのベンチマークや基準をいまだに持っていないため、このような不一致は驚くべきことではない。この方向で作業を重ね、ドイツおよび「気候と安全保障を守る有志グループ(Group of Friends of Climate and Security)」は、2020年に気候変動を取り扱うことを可能にするための行動計画を理事会で提案した。この計画では特に、「気候と安全保障に関する特使」の任命、気候変動に関する定期報告、気候に配慮した平和構築が要請された。残念ながら、UNSCはこの行動計画をまだ採択していない。というのも、一部の理事国がこれをUNSCの責任の危険な拡張と見なしているからである。

結論として、UNSCは岐路に立っていると思われる。紛争と気候の関連性に関するハイレベルな政治討論は、何の結論も出せずにいる。それどころか、理事国との関係を悪くし、UNSCの正当性を弱体化させている。その一方で、平和維持と平和構築における現実的かつ具体的な側面への適切な対処が行われていない。したがって、理事国が今後、気候変動の潜在的脅威を憶測するよりも、気候変動による現実的な安全保障上の影響への対処に向けて取り組むことが望まれる。言い換えれば、UNSCは「安全保障問題化」をさらに抑制し、「気候問題化」をさらに促進する必要があると思われる。

チェザーレ・M・スカルトッツィは、東京大学の博士候補生で、気候変動と安全保障について研究している。また、Global Politics Review誌の編集長および、社会科学・研究・イノベーション協会(Association for Social Sciences, Research and Innovation)の理事も務めている。近年の著作一覧はこちら(https://scartozzi.eu/)。

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新START延長も核兵器の近代化競争つづく

【トロント/ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】

米国がロシアとの間で結んでいる新戦略兵器削減条約(新START)を2026年2月4日まで延長することを米国のジョー・バイデン大統領が決めて、軍備管理の専門家らは胸をなでおろしたが、ペンタゴンは「これは核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない」としている。

ペンタゴンは、米国国防総省の本部が入った建物の名称である。ペンタゴンの名称は、米軍の象徴として、国防総省とそのリーダーシップを指すものとして使われている。

The Pentagon, headquarters of the US Department of Defense, taken September 2018/ By Touch Of Light – Own work, CC BY-SA 4.0

米統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は、オンラインで開催された2月26日の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで、ロシアとの新STARTは「核兵器に制限を課し、その履行を検証する手続きがある点で、望ましいものだ。」と語った。

新STARTは、ロナルド・レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ両大統領が開始した、米ロの戦略核戦力を検証可能な形で削減する二国間プロセスを継続するものだ。新STARTは、1994年に発効した第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、米ロ間で初の検証可能な核軍備管理条約となった。

「戦略攻撃兵器のさらなる削減・制限に向けた措置」に関する条約として公式に知られる新STARTは、2011年2月5日に発効した。元々の有効期限は2021年2月5日までの10年間で、双方が合意すれば5年間の延長が可能だった。

ハイテン大将は、米ロ両国ともに2018年2月5日までに条約の定める制限以内に戦略核を削減し、それ以来、制限を順守していると語った。その制限とは以下のようなものである。

・配備済みの大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機の合計を700基機以内。

・配備済みのICBM、SLBM、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機に搭載した戦略核弾頭の合計を1550発以内。各重爆撃機は、この場合、戦略核弾頭1発と換算する。

・配備済みおよび未配備のICBM発射基、SLBM発射基、核兵器搭載可能な重爆撃機の合計を800基機以内。

核兵器を運搬する能力のあるICBM、重爆撃機、潜水艦が、米国の核戦力の三本柱である。

「核の三本柱は、ロシアや中国、また、ある程度までは北朝鮮やイランを抑止して、米国やその同盟国に対して核攻撃をさせないために重要なものだ。」と統合参謀本部副議長のジョン・E・ハイテン空軍大将は語った。

U.S. Air Force, Gen. John E. Hyten, 11th Vice Chairman, Joint Chiefs of Staff, poses for a command portrait in the Army portrait studio at the Pentagon in Arlington, Va., Nov. 27, 2019. (U.S. Army photo by Monica King)

第二次世界大戦中の1942年1月に戦略面の調整強化を図るために創設された統合参謀本部は、以来、米国の軍事計画の中心にあり続けてきた。

しかし、新STARTの延長は「核兵器拡散にさらなる制約を課すためのロシア・中国とのより大きな協議の始まりに過ぎない。」核魚雷や核巡航ミサイル、海上発射弾道ミサイルのような新兵器をロシアは開発しつつあり、米国防総省はこれらを「米国にとっての脅威であり、新STARTの規制を受けないもの」と捉えている。

ハイテン大将は次に中国問題に言及して、「中国は世界で最も急速に軍備強化を進めている核兵器保有国だ。地球上のどの国よりも速いペースで新型核兵器を生産している。新たな運搬プラットフォームも構築しつつある。また、新しい施設や航空機、様々な種類のミサイル、そして我々が防護手段を持たず、かつ核兵器を搭載可能な極超音速兵器を生産しつつある。」と語った。

「そして、中国との間ではいかなる形でも軍備管理協定が存在しておらず、彼らの核ドクトリンがどうなっているのかも窺い知ることはできない。これは非常に難しいところだ。」とハイテン大将は付け加えた。

米国防総省は、ロシアは核兵器の近代化プロセスを完了しつつあり、中国はその最中にあるが、米国は未だに緒に就いたばかりという問題認識を持っている。

米国は、ロシアに対抗するために信頼性の高い海上発射巡航ミサイルを持ち、新STARTによっては規制を受けないままロシアが製造し続けている低出力核兵器と戦術核兵器に対抗するために、潜水艦に搭載できる少数の低出力核兵器を持つ必要がある、とハイテン大将は語った。

Hypersonic Technology Vehicle HTV-2 reentry (artist’s impression)/ By David Neyland, Public Domain

「三本柱への投資を継続し、敵国の能力を注視し続ける必要がある。なぜなら、我々は核の対立と核戦争を避けたいと考えているからだ。それを避ける唯一の方法は、敵方を抑止することだ。」とハイテン大将は語った。

これは「質的な意味での核軍拡競争が進行中」であるとみなしうる明確な証拠であり、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が警告していることである。『ブルームバーグ』のアンドレアス・クルース論説委員は「核の大惨事の危険が迫っている」と警告している。

実際、ペンタゴンは、「ロシアと中国が能力の高いシステムをそれぞれに開発している」という認識の下、近代化計画の中で極超音速兵器に最も力を入れている。

極超音速兵器は、超高層大気(8万~20万フィート)を、音速を遥かに超えるマッハ5以上の速度で飛翔することができ、防衛側が予測不能な形で攻撃を加えることができる。

米国防次官(研究・工学担当)室で極超音速兵器の責任者を務めるマイク・ホワイト氏は「超高度における作戦は、航空防衛と弾道ミサイル防衛との間に空隙を生み出す」とオンライン開催の米空軍協会航空宇宙戦シンポジウムで語った。

この部署は、変革的な戦争遂行能力を開発・実施する極超音速兵器近代化戦略を策定している。ホワイト氏は、この戦略は、戦術的な戦場において、死活的な重要性を持つ海上・沿岸・内陸部の標的を、自らの損害を最小化しつつ、長距離を移動し、極めて短い時間の中で叩く通常型極超音速攻撃兵器を空・陸・海に展開することを要素としていると説明した。(原文へ) 

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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未曽有の危機に直面する世界に希望の光:仏教指導者からの提言

新たな優先順位の設定: EUは国内平和と開発プロジェクトから軍事政策に移行

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

EUの外交・安全保障政策は、不明確な概念、矛盾する利害、加盟国間の激しい論争に苦しんでいる。もっかのところ、軍事的・防衛的役割を強化することに優先順位が置かれている。10年前によく言われた「平和の力」としてのEUは脇へ押しやられ、地政学的野心が最前線に移動した。これは、国際平和と安全保障に逆行するステップであり、特に国連の優位性がすでに揺らぎつつある現在においては残念なことである。(原文へ 

2012年、EUはノーベル平和賞を受賞し、激しい武力紛争によって荒廃した数世紀の後に、休戦のみでなく真の平和を欧州にもたらすために果たした役割を特に称賛された。これは、紛争により分断された他の多くの地域にとって啓発的な模範となった。今日、エマニュエル・マクロン仏大統領は、特に軍事戦略と軍事力という点でEUには「戦略的自律」が必要であるという自説を繰り返している。グローバル戦略や近隣諸国との紛争解決には、時に“ハードパワー”が必要である。おおまかに説明すると、「現在のような対立的な世界秩序において、もはや米国が料理をしてEUが皿洗いをするという場合ではないのでは?」ということである。そしてEU委員会は、より断固とした外交・安全保障・防衛政策を呼び掛けることによって援護している。この考えを裏付けるものとして、米国の撤退がもたらす真空状態をEUが埋めなければならないと見なす地政学的考察がしばしばなされる。一方では、EUが国際危機に際して行動する政治的能力も軍事的能力も不足しているという不満が頻繁に聞かれる。他方では、各国政府は防衛政策における国家主権を慎重に堅持しており、それをEU本部に委ねてはいない。

EUがより強力な軍事的役割を果たすことを重視する考え方は、二つの問題に直面している。第1に、全ての加盟国がこの方向性に同意しているわけではない。第2に、資源不足を考えると、長期的に見れば、この政策はいわゆる「欧州平和ファシリティ」を犠牲にすることになる。ブレグジットが完了する前、英国はEUが強力な防衛的役割を果たすことに反対していた。いまや、防衛政策はEU中核国においておおむね推進されている。より正確に言えば、フランスが強力に推進し、ドイツ政府がそれを補完している。しかし、他の多くのEU加盟国は、脇に追いやられることを喜んではいない。EU拡大に伴って加盟国が増えており、なかでもバルト3国は、実のところEU加盟国以上にNATOの防衛力を当てにしていた。EU加盟27カ国は、シリア、リビア、ウクライナなどにおける紛争解決に関して、それぞれ異なる政策を表明し、追求している。中国のシルクロード構想への対応や自律型兵器の使用について意見の不一致があり、核兵器禁止条約(TPNW)には欧州諸国のほとんどが反対しているが、オーストリアは同条約を推進する原動力であったし、アイルランドは同条約に署名し、批准している。また、フランスの核兵器がEUの安全保障政策において果たす役割は、依然としてタブー視されている問題である。したがって、EUとしての政策に至る道は、明確と言うには程遠い。

より強力な軍事的役割を果たすことを主張する人々でさえ、それをいかに実施するかについては意見が異なる。フランス政府が「レアルポリティークの再発見」について語るとき、彼らは主に軍事的介入を念頭に置いている。そして、フランス政府が考える介入は、圧倒的にテロに対抗することを目的としている。ドイツの立場は、それと異なる。ドイツ国民は、圧倒的多数がドイツ連邦軍による海外での軍事介入に反対しており、被介入国における“安定”の名のもとに関与が必要なのだと常に“レクチャー”されている。かくしてフランス軍は、例えばマリにおいて、そしてリビアではハリファ・ハフタルの国民軍に軍事的支援を行うことによって、陰に陽に戦闘に従事しており、一方ドイツ軍は、アフガニスタン、マリ、イラク、アフリカの角、南スーダン、コソボにおいて治安部隊の訓練と装備提供に専念している。このような姿勢の不一致が、その結果である。ドイツ政府の顧問を務めるウォルフラム・ラッハーは、「マリとリビアの危機的状況におけるドイツとフランスの政策の成果は、嘆かわしいものだ。ドイツの関与はおおむね効果がないものにとどまり、フランスの政策はさらなる不安定化に寄与することが多かった」と結論づけている。また、共通安全保障防衛政策を支援する軍事部隊であり、2007年から存在している欧州連合戦闘群が展開されたことはない。

EUによる過去の軍事介入を振り返ると、2003年に東コンゴでアルテミス作戦を最初に展開して以来、EUは、自ら定めた責任において動きが遅く、かなり自制的である。全体的に見れば、西側の軍事介入はせいぜい功罪相半ばといったところである。アフガニスタン(2001年)からイラク(2003年)、リビア(2011年)、マリ(2013年)に至るまで、軍事的成功の後に不安定な状況が長期にわたって続いた。これらの軍事的関与は全て、いまや面目を保つことができる出口戦略を模索している。バルカン諸国への(NATOの指揮下における)介入は、やはり非常に物議をかもしたものの、比較的良好な結果をもたらし、旧ユーゴスラビア諸国のいくつかは現在EUの加盟国となっている。

文民危機防止と平和促進におけるEUの実践は、それよりはるかに積極的である。その能力と可能性は極めて大きい。興味深いことにEUは、主にアフリカ諸国とバルカン諸国における開発プログラム、文民平和ミッション、民主政策に、軍事介入よりもはるかに多くの資金を費やしている。EUの資料に記された海外ミッションは、現在進行中のものが18件、完了したものが2ダース近く0ある。EUによる海外ミッションの3分の2は文民ミッションであるが、人員数に占める割合はわずか20%である。2021~2027年のEU予算案では、1000億ユーロ近くが近隣政策と開発政策、人道支援、人権、国際協力、安定性に配分されている。これらのプログラムは、EU市民の間では軍事介入よりはるかに人気がある。反軍国主義の潮流、軍事作戦の高いコストへの懸念、過去の悲惨な経験、長びく、あるいは永遠に続くかと思われる海外軍事関与といった複合的要因により、EUの軍事的野心に対する支持は低い。

そのような過去の経験にもかかわらず、EUエリート層の間で交わされる安全保障論議の主な懸念と焦点はいまや軍事介入であり、いずれもEUの世界的役割という名目で論じられている。防衛問題は、数十年にわたり欧州委員会にとって「不可侵」領域だったが、加盟国に防衛協力を促すリスボン条約が2009年に発効するに伴い、変化が訪れた。以降、欧州委員会は拡張的役割を担い、現在のEU予算ではその目的のために財務資源が配分されている。近頃では、防衛問題に関するロビー活動が平和ファシリティにまで入り込むことに成功している。「欧州平和ファシリティ」は、その名称にもかかわらず、軍事介入資金源としても利用することができる。

「欧州平和ファシリティ」は全体的にはポジティブな影響を及ぼしているが、国連とEUのより良い協調努力によって、また、地政学的野心や軍事的野心と関わりを持たないことによって、さらに強化することができるだろう。防衛費をGDPの2%以上とする公約に固執するのではなく、EUは、GDPの0.7%を開発に配分するという長期目標を達成するために努力するべきである。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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ティグレ州における性差に基づく暴力ー犠牲者の証言

【ブリュッセルIDN=EEPA】

依然としてエチオピア政府による厳しい情報封鎖が続く北部ティグレ州(昨年の11月上旬以来、エチオピア連合軍、エリトリア軍が侵攻して占領中)で横行している、ティグレ人やエリトリア人難民の女性・女児をターゲットにした、組織的なレイプや残虐行為の実態について、数少ない診療所に保護されたり国境を越えてスーダンに逃れてきた難民らの証言を報告したEEPA記事。3/8の国際女性デーについてあるティグレ人の少女は、「私たちは沈黙しない、この非道はやめさせなければなりません。」と語った。(原文へ

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女性があらゆる意思決定に参画することで未来はよくなる

【ニューヨークIDN= プムズィレ・ムランボ=ヌクカ 】

今年の国際デーに際して、プムズィレ・ムランボ=ヌクカUN Women事務局長が発表したコラム「The Future Is Better with Women in Every Decision-Making(女性があらゆる意思決定に参画することで未来はよくなる)」(英語、アラビア語、ロシア語、中国語、スペイン語、フランス語で閲覧可能)。コロナ禍で数千万人の女性と女児が一層厳しい苦境(学校閉鎖による退学、家庭内暴力、児童婚、男性よりも高い失業率等)に追い込まれているにも関わらず、彼女たちの声を代弁する仕組みが圧倒的に欠如している今日の世界のの状況を明らかにしている。2020年現在、世界平均で女性が占める割合は企業の最高経営責任者(CEO)の4.4%、役員の16.9%、国会議員の25%、平和交渉担当者の13%。女性が元首又は政府首脳に就任している国は22カ国で、119カ国は依然として女性リーダーを経験したことがない。このままのペースでは世界で男女平等が実現するには2150まで待たなければならないだろうと警鐘を鳴らしている。(原文へFBポスト

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国連経済社会理事会議長、貧困層のコロナとの闘いを支援するよう訴え

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

国連経済社会理事会のムニール・アクラム議長が、新型コロナウィルスの壊滅的な影響を被っている途上国に対して追加資金を提供する早期の行動について世界レベルでの合意を促進すべく「有志連合」の結成を呼びかけた。

アクラム議長はIDNによる電子メール取材に答えて、債務の包括的な一時停止、現在および将来に債務危機に陥る可能性のある国々に対する債務組み換え、5000億ドル相当の特別引出権の新規創設、未使用の特別引出権の途上国への割り当てなどの措置を速やかにとるべきだと語った。

特別引出権とは、国際通貨基金(IMF)が定義し維持している、補完的な外貨準備資産のことである。

Image: Are we really all in this together? ‘Vaccine nationalism’ must be addressed to ensure equitable distribution of a COVID-19 vaccine. Credit: Pixabay.

アクラム議長はまた、国際・地域・国家レベルにおける各種の開発銀行から構成される国際金融機関によるものも含めて、有利な条件での融資、政府開発援助の[対GDP比]0.7%目標の実行、途上国に対する低利融資を提供する流動性・持続可能ファシリティの創設、年間1000億ドル規模の気候関連融資の実施も呼びかけた。

パキスタンの国連大使でもあるアクラム議長は、この有志連合は、G7、G20、パリクラブ、IMF理事会を含むものになると述べた。

他方、世界経済の半分弱を占めるG7諸国は2月19日、新型コロナウィルス感染症のパンデミック対策として「協力を強化」し、世界の貧困国に対するワクチン支援のために75億ドルまで支出を増やすことに同意した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はG7会合後、ワクチンの公正な配分は「公正の根本的な問題」であると述べ、15億ドルの支援を発表した。

新たな報告書は、ワクチンを「持てる国」を捉えている「ワクチン・ナショナリズム」を強く批判した。この報告書は、国際商業会議所研究財団が委託したものである。

この研究によれば、ワクチンの半分が先進国に割り当てられて、途上国がワクチンを利用できないようなことがあれば、世界経済は最大9兆2000億ドルの損失を被る、としている。

同研究は、新型コロナウィルス感染症のワクチン・治療薬・診断の開発・生産・公平なアクセスを加速化させるための国際的な枠組み「ACTアクセラレーター」に投資することには経済的意義があることを明確に示した。

驚くべきことに同研究は、もし先進国が272億米ドル(ACTアクセラレーターとそのワクチン分野の柱を担う「COVAXファシリティ」を十分に機能させるための不足資金)の投資を行えば、投資額の166倍のリターンが得られるとしている。

COVAX Facility

アクラム議長自身もまた、官民パートナーシップによって途上国における持続可能なインフラへの投資を加速するよう訴えている。同氏によれば現在協議が進行しているという。

この枠組みは、世界130カ国以上で開発問題に取り組む機関の広範なネットワークである国連常駐調整官制度を利用するものでもある。

「これらは、実現可能なインフラ構築プロジェクトを把握し、そのプロジェクト実施に当たって事業開始前に実行可能性調査を行う途上国の能力を高めることを可能にする優れた枠組みだ。また、投資の世界においてこれらのプロジェクトへの望ましいパートナーを見つけるための手段でもある」とアクラム議長は語った。

アクラム議長は、「来たる経済社会理事会の会合で途上国の資金調達問題について討議がなされ、先に述べた緊急活動に関して合意が促進されることを期待している。」さらに、「経済社会理事会が今年中にいくつかの会合を招集して、新型コロナ感染拡大に対応し、気候変動に対処し、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための『大胆な決断』を各国が下すことを望んでいる。」と語った。

Franklin Delano Roosevelt, 1933/ Public Domain

そうした会合として、例えば、4月には「開発金融フォーラム」、翌5月に「科学技術イノベーションフォーラム」、そしてその仕上げとして7月に年次の「ハイレベル政治フォーラム」が予定されている。

こうした会合の重要性は、経済社会理事会が、国連システムの中心にあって、経済・社会・環境という持続可能な開発の3つの次元の前進に貢献するというところにある。

国連創設にあたって経済社会理事会を設置するという発想は、安全保障理事会が集団的安全保障を促進し世界の平和を執行する機関として考えられたことと対を成している。経済社会理事会は国際経済協力を通じて平和を促進する機関と目されたのである。

国連の枠組みを作った人物の一人として、フランクリン・デラノ・ルーズベルト米大統領(当時)がいる。当時彼が口にしていた考え方は、経済的不安定は病気のようなものであり、もしある国がその病にかかったならば、他国もその影響を受ける、というものであった。

したがって、国連憲章は明確に、経済社会理事会の目的は「より広範な自由において、生活の水準を向上させる」ことにあると謳っている。

その後経済社会理事会は、討論と革新的な発想を促進し、前に進むための合意と協力を固め、国際的に合意された目標を達成する取り組みを調整する中心的な枠組みとなった。

国連憲章の制定以来、経済・社会・保健・人道・開発問題に関する国際協力の全体的な枠組みは、経済社会理事会の傘の下に創設されることになった。

UNECOSOC chamber in New York City/ By MusikAnimal – Own work, CC BY-SA 4.0

今日、20の国際機関、地域委員会、自律的機関が、経済社会理事会に対して毎年報告をしている。(原文へ

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議会で女性が占める割合が史上最高に

【ジュネーブIDN=ジャムシェド・バルアー】

世界各国の議会・政府で女性が占める割合をモニタリングしている列国議会同盟(IPU)が国際デーを前に発表した最新報告書「Women in Parliament」によると、議会に占める女性の割合は歴代最高の平均25・5%(前年比0.6増)を記録したが、このままのペースでは世界の議会で男女平等が実現するまでなお50年かかると警鐘を鳴らしている。上位3カ国は、大虐殺を経験し社会と法制度の再構築に取り組んできたルワンダ(61・3%)を筆頭に、キューバ(53・5%)、アラブ首長国連邦(50・0%)が占め、既に男女平等を達成している。ちなみに日本は9.9%で主要先進7カ国中最下位(166位)だった。(原文へ

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中国、キリバス、フィジー、そしてバヌアレブ島の村で: 気候変動の多重層的な影響の教科書的事例

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=パウロ・バレイナコロドワ】

2021年2月末、太平洋島嶼国キリバスの政府は、14年にフィジー共和国のバヌアレブ島ナトバツ(Natovatu)に購入した土地を、中国と共同で開発する計画を発表した。中華人民共和国が太平洋島嶼国における影響力拡大の動きを強めていることから、この発表は国際社会に若干の懸念をもって迎えられた。太平洋地域で激化している戦略地政学的パワー競争に関連付けて解釈されたのである。(原文へ 

それが妥当な懸念であることは間違いないが、この計画発表は、気候変動の多重層的な影響の教科書的事例ともなり得るものである。それは、世界の政治・戦略的課題、地域と国家の問題、植民地時代の遺産を、太平洋の島にあるナビアビア村の村人たちの日常生活や彼らの懸念、現地レベルの紛争と結び付ける。端的に言えば、われわれは、この数百万ドル規模の開発によって深刻化すると思われる、複雑で込み入った極めて“厄介な問題”に取り組もうとしているのである。

2014年、キリバス政府は、フィジー共和国で2番目に大きい島であるバヌアレブ島に約5,500エーカーの土地を購入した。当時のキリバス大統領アノテ・トンは、気候変動の最初の被害者である太平洋の諸国民の英雄として国際的に有名になった。キリバスは低地の島々からなる環礁国で、気候変動に起因する海面上昇によって深刻な影響を受けている。遠くない将来、これらの島々が居住不可能になる、あるいは水没さえしかねないという現実の危機がある。そのため、アノテ・トンは「尊厳ある移住」、つまり手遅れになる前に国民の移住を準備することを提唱した。キリバス政府が土地を購入したのは、そのような背景があってのことだった。

当初はその土地に「イ・キリバス」(キリバス人)を再定住させるという案が話し合われたが、その後、海面上昇により大打撃を受けたキリバスの食料安全保障を支えるために、まずは食料生産に活用すべきだと思われるようになった。移住は、後々の一つの選択肢となった。アノテ・トンの後を継いだ新たなキリバス政府は、さらに政策を変更した。レジリエンスの構築にいっそうの重点を置き、移住の選択肢はあまり重視しなくなった。バヌアレブ島に購入した土地を中国と共同開発するつもりであるという近頃の発表は、このような変化と一致する。

キリバス政府は、このバヌア・ナトバツの土地をアングリカン教会から購入した。今日でもフィジーの土地のほとんどは、先住民イ・タウケイのコミュニティーによる慣習的共同所有の下にあるが、問題の土地はいわゆる自由保有地で、植民地時代にフィジーに来た外国人によって占有されていた。元々はカイバラギ(欧州人)が、カカウドロベ州ワイレブ地区のナイカキ村の土地を、元の土地所有者であるナトバツ・ヤブサ(族)を代表する先住民の首長から購入したものである。カイバラギは、その土地をアングリカン教会に譲渡した。

1941年にアングリカン教会は、フィジー全土のソロモン諸島出身者がその土地に定住することを認めた。年季労働者としてフィジーで働くために、19世紀にソロモン諸島から連れてこられた人々の子孫がいたのである。最後にそのような労働者がソロモン諸島からフィジーに来たのは、1905年のことである。年季労働者の子孫はフィジー全土に定住し、最大の島ビチレブ島にある首都スバの周辺にいくつかの居住地を形成していた。そのいくつかがアングリカン教会によってバヌアレブ島の土地に移転させられ、アングリカン教会の信徒にされ、ナビアビア村を形成したのである。

入植者たちの理解では、1957年にアングリカン教会が300エーカーの土地を彼らに分け与えたのであり、彼らが土地の所有権を持っている。しかし、フィジーの原住民イ・タウケイの土地所有者の場合と同様、これは土地所有権を示す正式な書類を伴わない単なる口頭の契約だったようである。ナビアビアの入植者たちは数十年にわたり、この土地と周囲のバヌア・ナトバツの土地を居住地および生計手段として使用してきた。したがって、アングリカン教会がキリバス政府に土地を売却したと知って、彼らは非常に大きなショックを受けた。彼らには何の相談もなかった。事が済んだ後で初めて知らされたのである。

入植者たちがキリバスの移住計画を知ったとき、彼らは大変心配し、「自分たちはこの土地に残れるのか?」「自分たちの生計手段はどうなるのか?」「イ・キリバスが実際に来るのはいつか?」「よそから来る彼らの文化はどういうものか?」「彼らと一緒の生活はどういうものになるのか?」といった、非常に大きな疑問をもった。

ナビアビアの人々は、すでに大変に困難かつ複雑な状況の中で生きている。メラネシアの離散民として、フィジー国民とはなったものの、彼らはいまなお、概して自らをフィジーには帰属していない(メラネシアの)ソロモン諸島出身者と認識している。また、アングリカン教会と元々のイ・タウケイの土地所有者たちとの間には、長年にわたる未解決の問題がある。近隣の村に住むナトバツ族の人々も、その土地の所有権を主張している。これら多くの困難かつ複雑な課題に加えて、キリバス政府が新しい正式な土地所有者となり、さらにフィジー政府はキリバス政府による土地購入を支持した。なぜなら、フィジーの土地を新たな住まいとして提供し、フィジーが気候変動により深刻な影響を受けている太平洋の兄弟姉妹と連帯する国家であることを示したいと考えたからである。

この問題は、中国の関与が発表されたことによっていっそう複雑化している。中国とキリバス政府が“開発”を意図している土地は、すでにそこに住んでいる人々に治安と生計手段をもたらしている土地である。そこを“開発”することは、ナビアビアの人々がすでに経験している現在の困難をさらに悪化させるだろう。幾重にも重なる関係者や利害関係が存在するこの土地で、それが紛争を巻き起こす大きな要因となることは間違いない。

筆者が所属する団体トランセンド・オセアニアは、この2~3年、現地の状況に沿って関係者らと協力を行ってきた。農地としての利用をめぐる不安と緊張は明白かつ現実のものであり、コロナ禍の経済的影響によりいっそう悪化している。当団体がナビアビアの状況を分析し、主要な紛争促進要因と特定したものには、歴史的な強制移住、国をまたがる気候移住、土地の所有権と利用権、関係の緊張、現地政府の能力的限界、開発プロジェクト、コロナ禍や自然災害の経済的影響、度重なる自然災害に起因する食料安全保障の欠如と食料不足、多くの若者が抱えるメンタルヘルスの問題、学校からの早期ドロップアウトと薬物乱用、ソーシャルメディアの無責任な利用、文化的なジェンダー観体系などがある。

これらの紛争促進要因のいくつかに取り組む中で、トランセンド・オセアニアは、入植者たちと周囲のイ・タウケイ村落の代表者たち(首長や主要な権力者)を集め、第1回の対話集会とリーダーシップ・トレーニングを行った。このような環境において紛争変容と平和構築には時間がかかり、長期的な取り組みが必要であることは明白である。中国の関与の発表は懸念を引き起こし、問題をいっそう複雑化させる。

この事例が如実に示すのは、気候変動の多重層的な特性であり、ひいては、気候変動政策に対して多面的なアプローチを採用し、気候変動、安全保障、平和構築の間の関連性に取り組む必要性である。われわれは、各層間の関連性を認識しなければならない。つまり、フィジーの島の村が中国やキリバスの首都政府に及ぼす影響や、その逆の影響である。

パウロ・バレイナコロダワは、フィジーに拠点を置く平和構築と開発の地域機関である「トランセンド・オセアニア」のプログラム・ディレクターである。

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科学分野の男女平等については、一部の富裕国が開発途上国より大きく後れを取っている

【パリIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

SDGsと第4次産業革命に主眼を置いた最新のユネスコサイエンスレポート(4月に全編が公開予定)に収録されてる科学分野における男女差の現状(工学・科学系の学位取得者に占める女性の割合:世界平均33%)を解説した記事。科学分野の男女平等については、一部の富裕国が開発途上国より大きく後れを取っている(フランスとドイツが28%、韓国20%、日本がOECDで最悪の17%)一方、男女平等をほぼ達成している国々の特徴として、一部のアラブ諸国で女性研究者が急増傾向にあること(クウェート53%、アルジェリア47%、エジプト46%)、男女平等を重視した旧ソ連のレガシーがある国々で常に比率が高いこと(カザフスタン53%、アゼルバイジャン59%、キューバ49%)を指摘している。(原文へ

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